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第4部 クリスマスとお正月
第46話「糸に込めた想い」
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ツリーの反対側、雑踏の少し外れた場所。
そこに立っていたのは、同じクラスの白石紗和だった。
彼女は手にした紙袋を抱きしめたまま、ふとこちらに視線を向ける。
煌めくイルミネーションに照らされ、蒼真と真白が並んで笑っている姿がはっきりと目に映った。
「……そっか」
吐息のような声が、夜気に紛れる。
視線を逸らすことはできなかった。
けれど、表情は静かだ。寂しさと、どこか安堵が入り混じったような複雑な笑みを浮かべていた。
(……本当にお似合いだよね、二人は)
(わたしなんて入り込む余地、最初からなかったんだ……)
胸の奥が、じんわりと痛む。
それでも同時に、彼が幸せそうに笑っている姿を見て、ほんの少しだけ心が救われる。
(蒼真君……あの日、わたしに優しくしてくれたこと、忘れないよ)
(わたしは――後ろから見ているだけでいいから)
そう心の中で呟き、小さく首を振る。
踵を返すその瞳には、未練と覚悟が入り混じっていた。
人混みに紛れていく背中は、誰にも気づかれることなく闇に溶け込んでいった。
◇◇◇
一方の俺と真白は、そんな気配に気づくことなく――
クリスマスの光に包まれながら、互いに手を温め合っていた。
夜の街は、昼間とは別世界のように光で満ちていた。
イルミネーションを見終えた俺と真白は、並んで帰り道を歩いていた。人通りはさっきよりも少なく、二人の吐く白い息だけが静かに夜気に溶けていく。
「……ちょっと寒いね」
「だな。けど、手はあったかい」
俺が握っている真白の手は、少し冷えているはずなのに、不思議と心まで温まるようだった。
しばらく歩いたところで、俺は立ち止まり、カバンの中から包みを取り出した。
「実は……プレゼント、用意してた」
「えっ……!?」
差し出した小箱を真白が受け取る。中には、シンプルだけど品のあるペンダント。真白の清楚な雰囲気に似合うと思って選んだ。
「……蒼真君……すごく、綺麗……!」
真白は瞳を潤ませ、ペンダントを胸元に当てる。
「ありがとう……こんなに大切にしてもらって、私……」
言葉の途中で声が震えた。
そんな彼女が、今度は少し照れながらカバンから何かを取り出す。
「わ、私も……作ったの。下手かもしれないけど……」
差し出されたのは、赤と白の糸で丁寧に編まれたマフラーだった。
「これ……俺に?」
「うん。ずっと前から……蒼真君に渡したいって思ってて。夜遅くまで編んだの……」
俺は言葉を失った。ぎこちないところもあるけれど、一目でわかる。彼女が時間をかけて、心を込めて作ったものだということが。
「……嬉しいよ、真白。こんなに大事なものを」
その場でマフラーを首に巻いてみせると、真白はぱぁっと表情を輝かせた。
「似合ってる……! よかった……」
次の瞬間、彼女の目尻に涙が浮かんでいた。
「私……蒼真君が彼氏で、本当に良かった……」
か細い声。けれど、その一言に彼女の想いが全部詰まっていた。
胸が熱くなり、俺は彼女の手を強く握った。
「俺も同じだ。真白がいてくれて、本当に幸せだ」
遠くで流れるクリスマスソングが、二人を包み込むように響く。
プレゼントは物じゃない。こうして「心を渡し合えた」ことこそが、一番の贈り物だと、俺は強く思った。
(来年も……再来年も、その先も。ずっと真白と一緒に――)
冷たい夜風の中、俺たちはただ互いの温もりを確かめ合いながら歩き続けた。
◇◇◇
【side真白】
編み針を握るのは、いつぶりだろう。
小学校の家庭科以来かもしれない。
あのときはただ「難しいなぁ」と思いながら編んでいたけれど、今は違う。
ひと目、ひと目。
赤い毛糸をすくっては、丁寧に形を作っていく。
手元を見つめるたびに、胸の奥がふわっと熱くなる。
(蒼真君……これ、喜んでくれるかな)
自然と、彼の笑顔が浮かぶ。
初めて「彼女になってほしい」と言ってくれた日のこと。
体育祭で手を引いてくれたこと。
放課後の廊下で、そっと手を重ねてくれたこと。
全部が大切で、思い出すたびに涙が出そうになる。
不器用に毛糸を通すたび、少し目が揃わなかったり、緩んでしまったり。
「上手にできない……」と弱気になりかける瞬間もある。
でも――そのたびに心の中で強く思う。
(完璧じゃなくていい。世界でひとつだけ、蒼真君のために編んでるんだから)
そう思うと、不思議と針が軽く動く。
何度もやり直しながら、夜が更けていく。
時計の針が12を過ぎても、灯りを消せなかった。
窓の外は真冬の冷たい夜。けれど、私の胸の中はずっとあたたかい。
「……よし、できた」
完成したマフラーを胸に抱きしめる。
ふわっと毛糸の柔らかさが頬に触れて、心臓がドキンと鳴った。
(早く渡したいな……蒼真君に巻いてあげたい)
きっと照れる。
でも、笑ってくれる。
その笑顔を思い浮かべるだけで、眠気なんて吹き飛んでしまう。
この夜、私はひとりで小さく笑った。
恋をすると、こんなにも頑張れるんだ――そう思いながら。
◇◇◇
クリスマスの夜。
イルミネーションを見たあと、蒼真君と並んで歩いているだけで胸がいっぱいだった。
でも、私のカバンの中には……どうしても渡したいものがある。
(今かな……? でも、変じゃないかな……?)
歩くたびにカバンの中で小さな包みが揺れる。
そのたびに心臓がきゅっと締め付けられるように高鳴った。
蒼真君がペンダントをくれた瞬間、もう涙が出そうになった。
綺麗で、嬉しくて、胸が熱くなって。
――だからこそ、私もちゃんと応えたい。
「わ、私も……作ったの」
勇気を振り絞って取り出したマフラー。
両手が震えて、声が少し裏返った。
「下手かもしれないけど……ずっと蒼真君のことを考えて、編んだの」
その一言を言い切るまで、心臓が破裂しそうだった。
夜中に何度もやり直して、目が揃わなくて泣きたくなって――
でも、完成した時に胸に抱きしめたあの温もりを思い出して、勇気を出せた。
蒼真君がマフラーを手に取って、首に巻いてくれた瞬間。
頬が熱くなるのと同時に、胸がじんわりあたたかくなって。
「似合ってる……!」
自然に声がこぼれた。
その顔が嬉しそうにほころんで、もう我慢できなかった。
「私……蒼真君が彼氏で、本当に幸せだよ……」
言ったあと、涙が溢れてしまった。
でも、蒼真君は手を握り返してくれて、「俺もだ」って言ってくれた。
その瞬間、全部報われた気がした。
徹夜で編んだ時間も、不安で胸が苦しくなった夜も、全部が「幸せ」って言葉に変わった。
(ああ……やっぱり渡してよかった)
夜空に瞬く光よりも、彼が笑ってくれる顔の方が、ずっとずっと大切。
そのことを、私は強く胸に刻んだ。
◇◇◇
家の近くまで戻ってくると、街のイルミネーションもだいぶ遠ざかって、辺りは静かな住宅街の明かりに変わっていた。
遠くで聞こえるのは、誰かの笑い声や食器の音。クリスマスの夜らしい幸せな音色が、淡く空気に溶け込んでいた。
「……もうすぐ着いちゃうね」
真白がつぶやいた。
その声には少し名残惜しさが滲んでいる。
「そうだな。なんか……今日一日が、あっという間だった」
「うん……夢みたい」
俺たちは歩みをゆるめ、並んだまま同じ夜空を見上げた。
冬の星は澄んでいて、吐く息がその光に溶け込んでいくようだった。
首に巻いたマフラーを軽く握る。
ふわふわとした毛糸の感触から、真白の温もりが伝わってくる気がした。
ただの布切れじゃない。彼女が夜を越えて紡いだ時間と想いが詰まっている。
「蒼真君……」
「ん?」
「そのマフラー、あったかい?」
「めちゃくちゃあったかい。……心まで、な」
少し気恥ずかしい言葉だったけど、本心だった。
真白は顔を赤くしながら、でも嬉しそうに笑った。
「よかった……本当に、よかった」
その笑顔を見ていると、胸の奥がまた熱くなる。
俺は思わず真白の手を取った。
寒さで少し冷えていたけど、すぐに温もりがじんわり広がっていく。
「これからも、こうして一緒に歩いていけたらいいな」
気づけば、そんな言葉が自然とこぼれていた。
真白は目を丸くして、それからゆっくり頷いた。
「うん……私も。ずっと……」
言葉は最後まで聞こえなかった。
でも、彼女の瞳と微笑みが、それ以上の答えを伝えてくれていた。
静かな夜道。
足音と白い吐息だけが並んで続いていく。
その何気ない時間さえ、俺にとっては宝物だった。
そこに立っていたのは、同じクラスの白石紗和だった。
彼女は手にした紙袋を抱きしめたまま、ふとこちらに視線を向ける。
煌めくイルミネーションに照らされ、蒼真と真白が並んで笑っている姿がはっきりと目に映った。
「……そっか」
吐息のような声が、夜気に紛れる。
視線を逸らすことはできなかった。
けれど、表情は静かだ。寂しさと、どこか安堵が入り混じったような複雑な笑みを浮かべていた。
(……本当にお似合いだよね、二人は)
(わたしなんて入り込む余地、最初からなかったんだ……)
胸の奥が、じんわりと痛む。
それでも同時に、彼が幸せそうに笑っている姿を見て、ほんの少しだけ心が救われる。
(蒼真君……あの日、わたしに優しくしてくれたこと、忘れないよ)
(わたしは――後ろから見ているだけでいいから)
そう心の中で呟き、小さく首を振る。
踵を返すその瞳には、未練と覚悟が入り混じっていた。
人混みに紛れていく背中は、誰にも気づかれることなく闇に溶け込んでいった。
◇◇◇
一方の俺と真白は、そんな気配に気づくことなく――
クリスマスの光に包まれながら、互いに手を温め合っていた。
夜の街は、昼間とは別世界のように光で満ちていた。
イルミネーションを見終えた俺と真白は、並んで帰り道を歩いていた。人通りはさっきよりも少なく、二人の吐く白い息だけが静かに夜気に溶けていく。
「……ちょっと寒いね」
「だな。けど、手はあったかい」
俺が握っている真白の手は、少し冷えているはずなのに、不思議と心まで温まるようだった。
しばらく歩いたところで、俺は立ち止まり、カバンの中から包みを取り出した。
「実は……プレゼント、用意してた」
「えっ……!?」
差し出した小箱を真白が受け取る。中には、シンプルだけど品のあるペンダント。真白の清楚な雰囲気に似合うと思って選んだ。
「……蒼真君……すごく、綺麗……!」
真白は瞳を潤ませ、ペンダントを胸元に当てる。
「ありがとう……こんなに大切にしてもらって、私……」
言葉の途中で声が震えた。
そんな彼女が、今度は少し照れながらカバンから何かを取り出す。
「わ、私も……作ったの。下手かもしれないけど……」
差し出されたのは、赤と白の糸で丁寧に編まれたマフラーだった。
「これ……俺に?」
「うん。ずっと前から……蒼真君に渡したいって思ってて。夜遅くまで編んだの……」
俺は言葉を失った。ぎこちないところもあるけれど、一目でわかる。彼女が時間をかけて、心を込めて作ったものだということが。
「……嬉しいよ、真白。こんなに大事なものを」
その場でマフラーを首に巻いてみせると、真白はぱぁっと表情を輝かせた。
「似合ってる……! よかった……」
次の瞬間、彼女の目尻に涙が浮かんでいた。
「私……蒼真君が彼氏で、本当に良かった……」
か細い声。けれど、その一言に彼女の想いが全部詰まっていた。
胸が熱くなり、俺は彼女の手を強く握った。
「俺も同じだ。真白がいてくれて、本当に幸せだ」
遠くで流れるクリスマスソングが、二人を包み込むように響く。
プレゼントは物じゃない。こうして「心を渡し合えた」ことこそが、一番の贈り物だと、俺は強く思った。
(来年も……再来年も、その先も。ずっと真白と一緒に――)
冷たい夜風の中、俺たちはただ互いの温もりを確かめ合いながら歩き続けた。
◇◇◇
【side真白】
編み針を握るのは、いつぶりだろう。
小学校の家庭科以来かもしれない。
あのときはただ「難しいなぁ」と思いながら編んでいたけれど、今は違う。
ひと目、ひと目。
赤い毛糸をすくっては、丁寧に形を作っていく。
手元を見つめるたびに、胸の奥がふわっと熱くなる。
(蒼真君……これ、喜んでくれるかな)
自然と、彼の笑顔が浮かぶ。
初めて「彼女になってほしい」と言ってくれた日のこと。
体育祭で手を引いてくれたこと。
放課後の廊下で、そっと手を重ねてくれたこと。
全部が大切で、思い出すたびに涙が出そうになる。
不器用に毛糸を通すたび、少し目が揃わなかったり、緩んでしまったり。
「上手にできない……」と弱気になりかける瞬間もある。
でも――そのたびに心の中で強く思う。
(完璧じゃなくていい。世界でひとつだけ、蒼真君のために編んでるんだから)
そう思うと、不思議と針が軽く動く。
何度もやり直しながら、夜が更けていく。
時計の針が12を過ぎても、灯りを消せなかった。
窓の外は真冬の冷たい夜。けれど、私の胸の中はずっとあたたかい。
「……よし、できた」
完成したマフラーを胸に抱きしめる。
ふわっと毛糸の柔らかさが頬に触れて、心臓がドキンと鳴った。
(早く渡したいな……蒼真君に巻いてあげたい)
きっと照れる。
でも、笑ってくれる。
その笑顔を思い浮かべるだけで、眠気なんて吹き飛んでしまう。
この夜、私はひとりで小さく笑った。
恋をすると、こんなにも頑張れるんだ――そう思いながら。
◇◇◇
クリスマスの夜。
イルミネーションを見たあと、蒼真君と並んで歩いているだけで胸がいっぱいだった。
でも、私のカバンの中には……どうしても渡したいものがある。
(今かな……? でも、変じゃないかな……?)
歩くたびにカバンの中で小さな包みが揺れる。
そのたびに心臓がきゅっと締め付けられるように高鳴った。
蒼真君がペンダントをくれた瞬間、もう涙が出そうになった。
綺麗で、嬉しくて、胸が熱くなって。
――だからこそ、私もちゃんと応えたい。
「わ、私も……作ったの」
勇気を振り絞って取り出したマフラー。
両手が震えて、声が少し裏返った。
「下手かもしれないけど……ずっと蒼真君のことを考えて、編んだの」
その一言を言い切るまで、心臓が破裂しそうだった。
夜中に何度もやり直して、目が揃わなくて泣きたくなって――
でも、完成した時に胸に抱きしめたあの温もりを思い出して、勇気を出せた。
蒼真君がマフラーを手に取って、首に巻いてくれた瞬間。
頬が熱くなるのと同時に、胸がじんわりあたたかくなって。
「似合ってる……!」
自然に声がこぼれた。
その顔が嬉しそうにほころんで、もう我慢できなかった。
「私……蒼真君が彼氏で、本当に幸せだよ……」
言ったあと、涙が溢れてしまった。
でも、蒼真君は手を握り返してくれて、「俺もだ」って言ってくれた。
その瞬間、全部報われた気がした。
徹夜で編んだ時間も、不安で胸が苦しくなった夜も、全部が「幸せ」って言葉に変わった。
(ああ……やっぱり渡してよかった)
夜空に瞬く光よりも、彼が笑ってくれる顔の方が、ずっとずっと大切。
そのことを、私は強く胸に刻んだ。
◇◇◇
家の近くまで戻ってくると、街のイルミネーションもだいぶ遠ざかって、辺りは静かな住宅街の明かりに変わっていた。
遠くで聞こえるのは、誰かの笑い声や食器の音。クリスマスの夜らしい幸せな音色が、淡く空気に溶け込んでいた。
「……もうすぐ着いちゃうね」
真白がつぶやいた。
その声には少し名残惜しさが滲んでいる。
「そうだな。なんか……今日一日が、あっという間だった」
「うん……夢みたい」
俺たちは歩みをゆるめ、並んだまま同じ夜空を見上げた。
冬の星は澄んでいて、吐く息がその光に溶け込んでいくようだった。
首に巻いたマフラーを軽く握る。
ふわふわとした毛糸の感触から、真白の温もりが伝わってくる気がした。
ただの布切れじゃない。彼女が夜を越えて紡いだ時間と想いが詰まっている。
「蒼真君……」
「ん?」
「そのマフラー、あったかい?」
「めちゃくちゃあったかい。……心まで、な」
少し気恥ずかしい言葉だったけど、本心だった。
真白は顔を赤くしながら、でも嬉しそうに笑った。
「よかった……本当に、よかった」
その笑顔を見ていると、胸の奥がまた熱くなる。
俺は思わず真白の手を取った。
寒さで少し冷えていたけど、すぐに温もりがじんわり広がっていく。
「これからも、こうして一緒に歩いていけたらいいな」
気づけば、そんな言葉が自然とこぼれていた。
真白は目を丸くして、それからゆっくり頷いた。
「うん……私も。ずっと……」
言葉は最後まで聞こえなかった。
でも、彼女の瞳と微笑みが、それ以上の答えを伝えてくれていた。
静かな夜道。
足音と白い吐息だけが並んで続いていく。
その何気ない時間さえ、俺にとっては宝物だった。
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