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第4部 クリスマスとお正月
第48話「カウントダウンの瞬間」
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境内は人でごった返していた。
屋台から漂う甘い匂い、どこか遠くで聞こえる除夜の鐘、吐く息の白さ。
冬の夜空の下、まるで街全体が一つの祭り会場になったようだった。
真白と並んで歩くたび、袖が何度も触れ合う。
彼女は人の多さに少し不安げに周囲を見回していたが、そのたびに小さく俺の腕を掴んでくる。
「……ごめんね、蒼真君。人混み、ちょっと苦手で」
「大丈夫。俺がいるから」
そう言って手を差し出すと、真白は一瞬ためらった後、ぎゅっと握り返してきた。
その温もりに、心臓の鼓動が跳ねる。
やがて、境内に大きな声が響き渡った。
「まもなく年越しです! 十秒前からカウントダウンを行います!」
わっと歓声が広がり、場の空気が一気に高揚する。
「十!」
「九!」
人々の声が重なり合う。
俺と真白も自然と声を合わせていた。
「……三!」
「二!」
「一!」
「――あけましておめでとう!」
大きな歓声と同時に、鐘の音が深く響く。
冬の夜空に祝福の音が広がっていくのを聞きながら、俺は隣の真白を見た。
真白もこちらを見ていた。
瞳が揺れて、頬が赤く染まっている。
「……蒼真君。今年も、よろしくね」
「ああ。今年も一緒に」
そう言って握る手に力を込めると、真白は小さく微笑んだ。
人混みのざわめきが遠のいていくような気がした。
周囲にどれだけ人がいても、この瞬間だけは二人だけの世界。
新しい年が始まった。
真白と迎える初めての年明け――この一瞬は、永遠に忘れられない思い出になるだろう。
◇◇◇
元日の朝。冷たい空気に頬を刺されながら、俺は神社へと続く石段を登っていた。
参拝客で賑わう境内は、甘酒の香りや屋台の声が混じり合い、まさに正月の雰囲気に満ちている。
「……遅れてないよな」
約束の時間を気にして、スマホを確認する。
ふと、人混みの向こうで鮮やかな色彩が視界をさらった。
赤と白、そして金の織り込み。光を受けて揺れる髪飾り。
――真白だった。
普段の制服姿や私服とは、まるで別人のように見えた。
朱色を基調にした華やかな振り袖に、白地の花模様が咲き誇っている。帯は金糸がきらめき、彼女の細い腰をしっかりと締めていた。
長い黒髪はまとめられ、髪飾りから下がる小花の簪が、彼女の一歩ごとにしゃらりと揺れる。
まるで絵巻から抜け出してきた姫君――そんな言葉しか思いつかないほど、美しかった。
(……やばい、見惚れて声が出ねぇ)
石段を降りてくる彼女に気づかれ、慌てて背筋を伸ばす。
真白は少し恥ずかしそうに、裾を気にしながら歩み寄ってきた。
「ごめん、待たせちゃったかな……?」
普段と変わらない柔らかな声。けれど振り袖姿と相まって、その一言すら特別に聞こえる。
「……いや、全然。むしろ、待たされた方がありがたいかも」
「えっ?」
「……あまりに綺麗で、心の準備がいる」
言葉にしてから、自分でも驚いた。
だが、それほどまでに圧倒されていた。
真白は頬を染め、視線を揺らした。
「そ、そんなに……? 私なんかが振り袖なんて、似合わないと思ってたけど……」
「似合わないどころじゃない。……綺麗すぎて、胸が苦しい」
息を呑むように告げると、彼女は一瞬きょとんとした後、耳まで真っ赤に染まって俯いた。
袖を少しだけ揺らしながら、控えめに笑う。
「……そんなふうに言ってくれるの、蒼真君だけだよ」
俺の鼓動は、彼女の下駄の足音に合わせるように高鳴っていた。
この人は俺の幼馴染で、今は恋人で――でも、そのすべてを超えて、今ここで見ている姿は奇跡のようだった。
(……守りたい。誰にも触れさせず、この時間を大事にしていきたい)
賑やかな境内の中で、世界は二人だけのものに思えた。
◇◇◇
人混みを縫いながら、俺と真白は参道へと並んで歩いた。
彼女は振り袖の袖を胸元でそっと押さえ、裾を気にしながら一歩ずつ進んでいく。
「歩きにくくないか?」
「うん、大丈夫……でも、ちょっと下駄が慣れなくて」
わずかに身体が傾いた瞬間、俺は反射的に手を差し伸べた。
真白ははっとして、けれど嬉しそうにその手を握る。
「ありがとう……蒼真君が隣にいると、安心する」
その一言だけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。
やがて本殿前に到着し、俺たちは並んで鈴の前に立った。
真白は大きな袖が邪魔にならないよう、両手を丁寧に重ねて持ち上げる。
その仕草は、まるで古い絵巻の中の一場面のようだった。
鈴を鳴らし、二人で柏手を打つ。
ぱん、ぱん――冬の澄んだ空気に響く音。
祈る真白の横顔は真剣で、頬の赤みが凛とした表情に溶け込んでいた。
(……この人と一緒に新しい年を迎えられる。それだけで十分だ)
祈りを終えて振り返ると、境内は甘酒の香りで満ちていた。
俺たちは屋台に並び、紙コップを受け取る。
「熱いから気をつけてね」
真白は袖を気にしながら、両手でおずおずとカップを持つ。
湯気に頬を染め、ふうっと慎ましく息を吹きかける姿は――どうしても目を奪われる。
「ん……あったかい」
ひと口含んだ真白は、嬉しそうに目を細めた。
「蒼真君も飲んで。……ほら」
差し出された甘酒のカップ。俺が受け取ろうとした時、彼女の指先が少し触れた。
「……っ」
小さな驚きの声と、頬に広がる赤。
振り袖の袖口からのぞく手首まで、ほんのり色づいて見えた。
「す、すごく美味しいよ」
慌てて口にしてみれば、優しい甘さと温かさが胸まで染みていく。
でも――それ以上に、隣の真白の存在が俺を熱くさせていた。
「今年も……こうして一緒に過ごせて嬉しい」
真白がぽつりとつぶやく。
「来年も、その次も……ずっと一緒にいたいな」
振り袖に包まれた彼女の言葉は、神社のざわめきをすべて遮るほど強く響いた。
俺は小さく頷き、彼女の手をもう一度そっと握った。
(願うまでもない。俺は必ず、真白を守り続ける)
冬空の下、二人の手の温もりだけが、永遠に続くように感じられた。
◇◇◇
甘酒で身体を温めたあと、真白が少し照れくさそうに提案した。
「ねえ……おみくじ、引いてみない?」
「いいな。せっかくだし」
並んで木箱を振り、小さな棒を取り出す。
真白の札には――「中吉」。
「わぁ……まあまあ、だね」
けれど彼女は嬉しそうに笑って、札を胸元にしまった。
一方、俺は――「大吉」。
「えっ、蒼真君すごい! さすがだね」
「いやいや……でも真白が隣にいるなら、どんな結果でも“最高”だよ」
さらりと言ったつもりだった。けれど真白は固まったように俯き、耳まで真っ赤に染まる。
「も、もう……急にそういうこと言わないで……」
その小さな声に、俺の胸も甘く締めつけられる。
境内を出て、家路に向かう。
夜空には星が瞬き、吐く息は白く溶けていく。
振り袖の裾を気にしながら歩く真白は、少しだけ歩幅が狭い。
自然と俺は、彼女の歩調に合わせた。
「寒くないか?」
「……うん。蒼真君が隣にいるから、あったかいよ」
そう言って、彼女は袖に隠れた手を、そっと俺のコートの裾に触れさせる。
まるで「つないでほしい」と言わんばかりの仕草だった。
俺は迷わず、その手を取った。
小さな温もりが指先から広がっていく。
振り返れば、神社の提灯の明かりが遠ざかり、新しい年の始まりを告げる鐘の音が夜空に響いていた。
(――真白となら、この一年も、きっと乗り越えていける)
心の底からそう思えた。
屋台から漂う甘い匂い、どこか遠くで聞こえる除夜の鐘、吐く息の白さ。
冬の夜空の下、まるで街全体が一つの祭り会場になったようだった。
真白と並んで歩くたび、袖が何度も触れ合う。
彼女は人の多さに少し不安げに周囲を見回していたが、そのたびに小さく俺の腕を掴んでくる。
「……ごめんね、蒼真君。人混み、ちょっと苦手で」
「大丈夫。俺がいるから」
そう言って手を差し出すと、真白は一瞬ためらった後、ぎゅっと握り返してきた。
その温もりに、心臓の鼓動が跳ねる。
やがて、境内に大きな声が響き渡った。
「まもなく年越しです! 十秒前からカウントダウンを行います!」
わっと歓声が広がり、場の空気が一気に高揚する。
「十!」
「九!」
人々の声が重なり合う。
俺と真白も自然と声を合わせていた。
「……三!」
「二!」
「一!」
「――あけましておめでとう!」
大きな歓声と同時に、鐘の音が深く響く。
冬の夜空に祝福の音が広がっていくのを聞きながら、俺は隣の真白を見た。
真白もこちらを見ていた。
瞳が揺れて、頬が赤く染まっている。
「……蒼真君。今年も、よろしくね」
「ああ。今年も一緒に」
そう言って握る手に力を込めると、真白は小さく微笑んだ。
人混みのざわめきが遠のいていくような気がした。
周囲にどれだけ人がいても、この瞬間だけは二人だけの世界。
新しい年が始まった。
真白と迎える初めての年明け――この一瞬は、永遠に忘れられない思い出になるだろう。
◇◇◇
元日の朝。冷たい空気に頬を刺されながら、俺は神社へと続く石段を登っていた。
参拝客で賑わう境内は、甘酒の香りや屋台の声が混じり合い、まさに正月の雰囲気に満ちている。
「……遅れてないよな」
約束の時間を気にして、スマホを確認する。
ふと、人混みの向こうで鮮やかな色彩が視界をさらった。
赤と白、そして金の織り込み。光を受けて揺れる髪飾り。
――真白だった。
普段の制服姿や私服とは、まるで別人のように見えた。
朱色を基調にした華やかな振り袖に、白地の花模様が咲き誇っている。帯は金糸がきらめき、彼女の細い腰をしっかりと締めていた。
長い黒髪はまとめられ、髪飾りから下がる小花の簪が、彼女の一歩ごとにしゃらりと揺れる。
まるで絵巻から抜け出してきた姫君――そんな言葉しか思いつかないほど、美しかった。
(……やばい、見惚れて声が出ねぇ)
石段を降りてくる彼女に気づかれ、慌てて背筋を伸ばす。
真白は少し恥ずかしそうに、裾を気にしながら歩み寄ってきた。
「ごめん、待たせちゃったかな……?」
普段と変わらない柔らかな声。けれど振り袖姿と相まって、その一言すら特別に聞こえる。
「……いや、全然。むしろ、待たされた方がありがたいかも」
「えっ?」
「……あまりに綺麗で、心の準備がいる」
言葉にしてから、自分でも驚いた。
だが、それほどまでに圧倒されていた。
真白は頬を染め、視線を揺らした。
「そ、そんなに……? 私なんかが振り袖なんて、似合わないと思ってたけど……」
「似合わないどころじゃない。……綺麗すぎて、胸が苦しい」
息を呑むように告げると、彼女は一瞬きょとんとした後、耳まで真っ赤に染まって俯いた。
袖を少しだけ揺らしながら、控えめに笑う。
「……そんなふうに言ってくれるの、蒼真君だけだよ」
俺の鼓動は、彼女の下駄の足音に合わせるように高鳴っていた。
この人は俺の幼馴染で、今は恋人で――でも、そのすべてを超えて、今ここで見ている姿は奇跡のようだった。
(……守りたい。誰にも触れさせず、この時間を大事にしていきたい)
賑やかな境内の中で、世界は二人だけのものに思えた。
◇◇◇
人混みを縫いながら、俺と真白は参道へと並んで歩いた。
彼女は振り袖の袖を胸元でそっと押さえ、裾を気にしながら一歩ずつ進んでいく。
「歩きにくくないか?」
「うん、大丈夫……でも、ちょっと下駄が慣れなくて」
わずかに身体が傾いた瞬間、俺は反射的に手を差し伸べた。
真白ははっとして、けれど嬉しそうにその手を握る。
「ありがとう……蒼真君が隣にいると、安心する」
その一言だけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。
やがて本殿前に到着し、俺たちは並んで鈴の前に立った。
真白は大きな袖が邪魔にならないよう、両手を丁寧に重ねて持ち上げる。
その仕草は、まるで古い絵巻の中の一場面のようだった。
鈴を鳴らし、二人で柏手を打つ。
ぱん、ぱん――冬の澄んだ空気に響く音。
祈る真白の横顔は真剣で、頬の赤みが凛とした表情に溶け込んでいた。
(……この人と一緒に新しい年を迎えられる。それだけで十分だ)
祈りを終えて振り返ると、境内は甘酒の香りで満ちていた。
俺たちは屋台に並び、紙コップを受け取る。
「熱いから気をつけてね」
真白は袖を気にしながら、両手でおずおずとカップを持つ。
湯気に頬を染め、ふうっと慎ましく息を吹きかける姿は――どうしても目を奪われる。
「ん……あったかい」
ひと口含んだ真白は、嬉しそうに目を細めた。
「蒼真君も飲んで。……ほら」
差し出された甘酒のカップ。俺が受け取ろうとした時、彼女の指先が少し触れた。
「……っ」
小さな驚きの声と、頬に広がる赤。
振り袖の袖口からのぞく手首まで、ほんのり色づいて見えた。
「す、すごく美味しいよ」
慌てて口にしてみれば、優しい甘さと温かさが胸まで染みていく。
でも――それ以上に、隣の真白の存在が俺を熱くさせていた。
「今年も……こうして一緒に過ごせて嬉しい」
真白がぽつりとつぶやく。
「来年も、その次も……ずっと一緒にいたいな」
振り袖に包まれた彼女の言葉は、神社のざわめきをすべて遮るほど強く響いた。
俺は小さく頷き、彼女の手をもう一度そっと握った。
(願うまでもない。俺は必ず、真白を守り続ける)
冬空の下、二人の手の温もりだけが、永遠に続くように感じられた。
◇◇◇
甘酒で身体を温めたあと、真白が少し照れくさそうに提案した。
「ねえ……おみくじ、引いてみない?」
「いいな。せっかくだし」
並んで木箱を振り、小さな棒を取り出す。
真白の札には――「中吉」。
「わぁ……まあまあ、だね」
けれど彼女は嬉しそうに笑って、札を胸元にしまった。
一方、俺は――「大吉」。
「えっ、蒼真君すごい! さすがだね」
「いやいや……でも真白が隣にいるなら、どんな結果でも“最高”だよ」
さらりと言ったつもりだった。けれど真白は固まったように俯き、耳まで真っ赤に染まる。
「も、もう……急にそういうこと言わないで……」
その小さな声に、俺の胸も甘く締めつけられる。
境内を出て、家路に向かう。
夜空には星が瞬き、吐く息は白く溶けていく。
振り袖の裾を気にしながら歩く真白は、少しだけ歩幅が狭い。
自然と俺は、彼女の歩調に合わせた。
「寒くないか?」
「……うん。蒼真君が隣にいるから、あったかいよ」
そう言って、彼女は袖に隠れた手を、そっと俺のコートの裾に触れさせる。
まるで「つないでほしい」と言わんばかりの仕草だった。
俺は迷わず、その手を取った。
小さな温もりが指先から広がっていく。
振り返れば、神社の提灯の明かりが遠ざかり、新しい年の始まりを告げる鐘の音が夜空に響いていた。
(――真白となら、この一年も、きっと乗り越えていける)
心の底からそう思えた。
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