前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第4部 クリスマスとお正月

第49話「千佳のもう一つの顔」

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 放課後の昇降口は、人の出入りでいつも以上にざわついていた。
 真白と肩を並べ、靴を履き替えて外に出ると、冬の空気が頬に冷たく触れる。

「蒼真君、今日は一緒に帰ろ?」
「もちろん」

 自然に交わすやりとりに、胸が温かくなる。
 その時、前方から明るい声が響いた。

「ましろーん!」

 振り向くと、バレエバッグを抱えた橘千佳が小走りで駆けてきた。
 頬を赤く染めて息を弾ませながら、真白に勢いよく抱きつく。

「千佳ちゃん! 今日も練習帰り?」
「うん、クタクタ~。でも、ましろんに会えたから元気出た!」

 その無邪気な笑顔に、俺も自然と口元が緩んだ。
 けれど――一瞬だけ、千佳の笑顔の裏に小さな影が見えた気がした。



「お、蒼真君も一緒か!」
 千佳は俺に向き直り、にこっと笑う。
「相変わらず仲良しだね~、二人とも!」
「……まぁな」
 軽く返すが、胸の奥のざらつきは消えない。

 歩きながらふと横目で千佳を見やると、彼女はバレエバッグの紐を持つ手をぎゅっと強く握っていた。
 指先は少し震えている。

「千佳ちゃん、寒い?」
 真白が心配そうに覗き込むと、千佳は大げさに手を振った。
「ちがうちがう! ただね、最近練習がすっごく大変でさ~」
「練習が?」
「うん……発表会が近いから、先生がすごい熱入ってて。毎日プレッシャーでクタクタなんだよね」

 軽く笑い飛ばすように言ったけれど、その笑顔の奥には確かに疲れが滲んでいた。

「でも……みんなの前で弱音吐くのはイヤなんだ」

「千佳ちゃん……」
「だから、ここで言えただけでもスッキリしたかも!」
 明るい声に戻る千佳。けれど、俺の胸には重く引っかかるものが残った。

(……やっぱり。ゲームでも同じだった。千佳は無理して笑って、その隙を玲央に突かれたんだ)
(絶対に――あの未来は繰り返させない)

 唇を噛みしめながら、俺は心の中で誓い直す。

「ね、蒼真君」
「ん?」
 千佳がこちらに向き直る。その表情はどこか遠慮がちだった。
「今度の発表会……観に来てくれる? ましろんも一緒に」
「……もちろん」
 俺が答えるより早く、真白が力強く頷いた。
「絶対行くよ。千佳ちゃんが頑張ってる姿、ちゃんと見たいから」

 その言葉に、千佳の顔がふわっと明るくなる。
「ありがと! 二人が来てくれるなら、きっと頑張れる!」

 笑顔は無邪気でまぶしい。
 けれど――俺は知っている。この裏に、千佳の本当の苦しみが隠されていることを。

(次は――俺たちが支える番だ)

 そう心に刻みながら、冬空の下を三人で歩いていった。


◇◇◇

 夕暮れの街に、冷たい風が吹き抜けていく。
 俺と真白は、バレエ教室の前に立っていた。

「ここが千佳ちゃんの教室なんだね」
 真白が看板を見上げながら、少し緊張したように息をつく。
「うん。俺も中を見るのは初めてだ」

 窓越しに見える室内は、暖かな灯りに包まれている。
 鏡張りの壁、磨き上げられた床。
 その中央で、千佳が真剣な表情で踊っていた。

 軽やかな回転、しなやかな腕の動き。
 普段の明るい笑顔とは違う、研ぎ澄まされた姿に思わず息をのむ。

「……すごいね、千佳ちゃん」
 真白が小さくつぶやく。
 俺も同じ気持ちだった。
(こんなに一生懸命だったんだ……)

 だが、次の瞬間。
 千佳の足がもつれ、床に膝をついた。

「っ……!」
 苦悶の表情。
 すぐに立ち上がろうとするが、少し足を引きずっている。

「千佳!」
 思わず声を上げて、俺たちは教室へ駆け込んだ。

「蒼真君!? ましろんも……!?」
 驚いた顔を見せながらも、千佳はすぐに笑顔を作った。
「だ、大丈夫! ちょっとバランス崩しただけだから!」

 だが、その手は微かに震えていた。
 真白が心配そうに駆け寄る。
「千佳ちゃん、無理してない?」
「……してないよ。だって、やらなきゃ上手くならないし」

 言葉は強がっているのに、その瞳は不安で揺れていた。

「千佳」
 俺は真っ直ぐに彼女を見た。
「頑張るのはすごい。でも、自分を壊すほど頑張ったら意味がないだろ」

 その一言に、千佳の笑顔がかすかに揺らぐ。
 けれど、すぐに唇を噛んで首を振った。
「……だって、私、真白みたいに何でもできるわけじゃないから。がんばらなきゃ、追いつけないんだよ」

 初めて吐き出された本音。
 真白は驚いたように目を見開き、そっと千佳の手を握った。
「千佳ちゃん……私、そんなふうに思わせてたんだね」

 千佳は目を伏せたまま、絞り出すように言った。
「……ごめん。でも、ほんとは――誰かに見ててほしかったのかも」

 その言葉に、胸が強く締め付けられる。

(ゲームでは……この弱さを玲央に付け込まれたんだ)


「千佳。これからは、俺たちがちゃんと見てる。だから無理はするな」
「……蒼真君……」

 千佳はしばらく黙っていたが、やがて小さく微笑んだ。
「……ありがと。二人がそう言ってくれるだけで、少し楽になった気がする」

 練習場の灯りが、その笑顔を優しく照らしていた。

 練習場の片隅、冷たい空気を吸い込むようにして、千佳は肩を上下させていた。
 表情は笑っているけれど、その笑みがどこか脆いことに、俺も真白も気づいていた。

「千佳ちゃん」
 真白がそっと声をかけ、隣に腰を下ろした。
「……無理してるよね」

「え、別に……」
 千佳はいつもの調子で軽く笑い飛ばそうとする。
 けれど、真白はそれ以上の言葉を挟ませなかった。

「私ね、千佳ちゃんの踊り、すごく綺麗だと思う」
「……へ?」
「上手いとか下手じゃなくて、心がこもってるっていうのかな。見てると、私まで前を向けるんだよ」

 まっすぐな眼差しに、千佳は戸惑ったように瞬きを繰り返す。

「……ましろん、それ……本気で言ってる?」
「うん。本気。だって千佳ちゃん、ずっと頑張ってきたの、私知ってるもん」

 そう言いながら、真白は千佳の手を取った。
 細い指先が触れ合う瞬間、千佳の表情がぐっと揺らぐ。

「……私、ましろんと比べられるの、ちょっと怖かったんだ。
 頭も良くて、綺麗で、みんなに好かれて……そんなましろんと一緒にいると、私なんかって思っちゃって」

 ぽろりと漏れた言葉に、真白は目を伏せた。
 けれどすぐに、やさしく笑った。

「千佳ちゃんは千佳ちゃんだよ。私にできないこと、いっぱいできるでしょ? 笑顔だって、元気だって、誰かを励ます力だって……。それって、とってもすごいことだよ」

「……でも……」
「それにね、私も千佳ちゃんに助けられてきたんだよ。たくさん」

 真白の言葉が、ゆっくりと千佳の胸に染み込んでいく。
 抑えていた感情が溶けて、千佳は小さく肩を震わせた。

「……私、ほんとは、誰かに必要だって言ってもらいたかったのかもしれない」

 その吐息混じりの声に、真白はぎゅっと手を握る。
「私はずっと必要としてるよ。だから一緒に頑張ろ?」

 沈黙のあと、千佳は小さく笑った。
「……やっぱりましろんってずるい。そんなこと言われたら、泣いちゃうじゃん」

 その目元には光るものが滲んでいた。

 俺は黙って二人を見守りながら、胸の奥で思った。





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