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第4部 クリスマスとお正月
第50話「支えるということ」
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夕暮れの校門を出たあと、俺と千佳は並んで歩いていた。
真白は部活の用事で先に戻り、二人きりになるのは久しぶりだった。
「……さっきは、ごめんね。変なこと言っちゃって」
千佳が小さな声で切り出す。
「変なことじゃないよ」
俺は即座に返した。
「誰だって不安になるし、比べられて苦しいこともある。俺だって、そういうの山ほど感じてきたから」
千佳は一瞬きょとんとしたあと、くすっと笑った。
「そっか……蒼真君でも、そう思うんだ」
「当たり前だろ。俺だって完璧じゃない。ただ、俺は――真白も、紗和も、千佳も、みんなが笑っててほしい。それだけは本気で思ってる」
足を止め、真っ直ぐに千佳を見る。
街灯がちょうど点いたばかりで、オレンジ色の光が彼女の横顔を照らしていた。
「だから……もしまた怖くなったり、比べられて苦しくなったりしたら、俺に言え。絶対に一人で抱え込むな」
思わず強い口調になった。けれど、それは心からの願いだった。
千佳は驚いたように目を見開き、それから少し潤んだ瞳で笑う。
「……蒼真君、ほんとに頼りになるんだね」
「頼っていいんだよ」
短く言い切ると、千佳は口元を押さえて小さく笑った。
「うん……ありがとう。なんか、肩の力が抜けた気がする」
ふと見せた笑顔は、これまでの無理な明るさとは違って、柔らかく自然だった。
その瞬間、胸の奥に「守りたい」という気持ちが強く芽生える。
◇◇◇
橘千佳は、その一角に飾られている「毛糸のブレスレット体験キット」をじっと見つめていた。
色とりどりの毛糸。細い紐のように編み上げて手首に巻くタイプで、最近クラスの女子の間でも「おそろいで作ろう」という小さなブームになっている。
(……どうしようかな)
千佳は無意識に二色の毛糸を手に取っていた。
深い紺色と、淡いミントグリーン。
(蒼真君には、やっぱり紺色が似合う……。ましろんには、ミントかな)
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
わかっている。蒼真君は、ましろんの大切な人。
自分がその隣に立つことなんてできない。
でも――。
少しでも、二人の毎日の中に自分の気持ちを残したかった。
「友達だから」という言い訳をすれば、それは許されるような気がした。
「……よし」
小さく息を吸い、千佳はキットを手に取る。
指先がかすかに震えていた。
(これは、ふたりに贈るもの。おそろいのブレスレット――。
でも、ほんとは……蒼真君に、一番つけてほしいんだ)
胸の奥にそんな本音を隠しながら、千佳はレジへと歩いていった。
◇◇◇
【side千佳】
冬の朝の空気は冷たくて、吐く息が白く浮かぶ。そのたびに、胸の奥のざわめきまで外に漏れてしまいそうで――私はマフラーをぎゅっと掻き寄せた。
……思い出すのは、クリスマスの夜。
イルミネーションの下で寄り添っていた蒼真君とましろん。
二人が見せていた笑顔は、ほんとうに眩しくて。
――あのとき、私の心臓はどうしてあんなに痛んだんだろう。
ずっと親友だと思ってた。
ましろんの大切な人に、私がときめいたって仕方ないのに。
優しくて、真面目で、でもちょっと抜けてて。
バレエの帰り道、何気なく声をかけてくれる蒼真君の一言が、どうしてこんなに胸に残っちゃうんだろう。
(私……ダメだな。ましろんの彼氏なのに)
そう言い聞かせるたびに、胸の奥がチクチクする。
でも同時に、思うんだ。
「ましろんは幸せでよかった」って。
だって、ましろんはいつも私を助けてくれたから。
今度は私が二人を支えてあげたい――そう思った。
だから私は決めた。
この気持ちを隠したまま、友達として応援するって。
でも、そのまま心に閉じ込めておくのは、なんだか苦しい。
だから形にしたかった。
私は机に置いた細い紐を見つめる。
淡いブルーと、柔らかな白。二人に似合う色を選んだ。
編み込みながら、指先が震える。
(これ……渡したら、どんな顔するかな)
(「おそろいでつけてね」って言えば……ただの友達のプレゼントに見えるよね)
本当は――蒼真君に一番つけてもらいたい。
けれど、それは言えない。絶対に。
紐を結び終え、小さなブレスレットが形になった。
たったこれだけのものでも、私の想いがぎゅっと込められている。
私はそれを両手で包み込み、深呼吸する。
胸の奥の苦しさと、ほんの少しの誇らしさ。
相反する感情が混ざり合って、涙が出そうになる。
(よし……渡そう。ましろんと蒼真君に、私からのプレゼントとして)
そう決意した瞬間、冷たい空気が少しだけ優しく感じられた。
心に抱えた想いは消えない。けれど、それでも私は――親友と、その大切な人を応援する。
◇◇◇
冬休みが終わり、久しぶりの教室はどこか浮き足立っていた。
お土産のお菓子が机の上を飛び交い、友達同士でスキーや初詣の話題が絶えない。
私は、ポケットの中に入れた小さな袋を握りしめながら、胸の奥の鼓動を落ち着けようとしていた。
(……今日、渡すんだ。冬休みの間ずっと迷ったけど……やっぱり、今しかない)
休み時間、私は意を決して二人の元へ歩いていく。
窓際で並んで話している蒼真君とましろん。
あの日のクリスマスから、さらに距離が近づいたみたいで、二人の笑顔は見ているだけで胸が痛い。
「ね、ねえ……蒼真君、ましろん」
「ん? どうしたの千佳」
「橘、珍しいな。そんな真剣な顔」
二人が同時にこちらを向く。私はぎゅっと袋を握りしめ、震える手で差し出した。
「これ……冬休みの間に作ったの。二人にプレゼントしたいの」
「えっ……!」
真白が小さく息を呑み、蒼真君も驚いたように目を丸くする。
「開けてもいい?」
「うん……!」
袋の口を開けると、淡いブルーと白で編み込まれたシンプルなブレスレットが二つ。
並べると対になっていて、まるで「一緒にいること」を象徴するみたいだった。
「わあ……すごく綺麗!」
真白の顔がぱっと輝く。その笑顔を見て、私の胸の奥が温かくなった。
「これ……俺と真白に?」
「う、うん。冬休みの間に、二人のことを考えてて……すごくお似合いだから。おそろいでつけたら、もっと仲良くなれるかなって思って」
本音を隠し、必死に「親友らしい理由」にすり替える。
けれど、こめた気持ちは誤魔化せない。糸の一目一目に、心が滲んでいる。
「千佳……ありがとう。大事にするね」
真白が胸に抱きしめるようにして受け取る。
「蒼真君も……つけてみよ?」
「ああ。今つけようか」
二人はお互いの手首にブレスレットを結び合い、その姿はまるで絵本の中のワンシーンみたいだった。
「似合ってる?」
蒼真君が軽く腕を掲げる。
「うん、すごく!」
真白の瞳がきらきら輝き、その横顔がまぶしくて――私は思わず視線を逸らす。
(……これでいい。私は二人を繋げる役でいいんだ。親友として)
胸の奥が少し痛む。でもその痛みも、自分の選んだ気持ちだと受け入れる。
指先に残る糸の感触を確かめながら、私はそっと笑みを浮かべた。
真白は部活の用事で先に戻り、二人きりになるのは久しぶりだった。
「……さっきは、ごめんね。変なこと言っちゃって」
千佳が小さな声で切り出す。
「変なことじゃないよ」
俺は即座に返した。
「誰だって不安になるし、比べられて苦しいこともある。俺だって、そういうの山ほど感じてきたから」
千佳は一瞬きょとんとしたあと、くすっと笑った。
「そっか……蒼真君でも、そう思うんだ」
「当たり前だろ。俺だって完璧じゃない。ただ、俺は――真白も、紗和も、千佳も、みんなが笑っててほしい。それだけは本気で思ってる」
足を止め、真っ直ぐに千佳を見る。
街灯がちょうど点いたばかりで、オレンジ色の光が彼女の横顔を照らしていた。
「だから……もしまた怖くなったり、比べられて苦しくなったりしたら、俺に言え。絶対に一人で抱え込むな」
思わず強い口調になった。けれど、それは心からの願いだった。
千佳は驚いたように目を見開き、それから少し潤んだ瞳で笑う。
「……蒼真君、ほんとに頼りになるんだね」
「頼っていいんだよ」
短く言い切ると、千佳は口元を押さえて小さく笑った。
「うん……ありがとう。なんか、肩の力が抜けた気がする」
ふと見せた笑顔は、これまでの無理な明るさとは違って、柔らかく自然だった。
その瞬間、胸の奥に「守りたい」という気持ちが強く芽生える。
◇◇◇
橘千佳は、その一角に飾られている「毛糸のブレスレット体験キット」をじっと見つめていた。
色とりどりの毛糸。細い紐のように編み上げて手首に巻くタイプで、最近クラスの女子の間でも「おそろいで作ろう」という小さなブームになっている。
(……どうしようかな)
千佳は無意識に二色の毛糸を手に取っていた。
深い紺色と、淡いミントグリーン。
(蒼真君には、やっぱり紺色が似合う……。ましろんには、ミントかな)
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
わかっている。蒼真君は、ましろんの大切な人。
自分がその隣に立つことなんてできない。
でも――。
少しでも、二人の毎日の中に自分の気持ちを残したかった。
「友達だから」という言い訳をすれば、それは許されるような気がした。
「……よし」
小さく息を吸い、千佳はキットを手に取る。
指先がかすかに震えていた。
(これは、ふたりに贈るもの。おそろいのブレスレット――。
でも、ほんとは……蒼真君に、一番つけてほしいんだ)
胸の奥にそんな本音を隠しながら、千佳はレジへと歩いていった。
◇◇◇
【side千佳】
冬の朝の空気は冷たくて、吐く息が白く浮かぶ。そのたびに、胸の奥のざわめきまで外に漏れてしまいそうで――私はマフラーをぎゅっと掻き寄せた。
……思い出すのは、クリスマスの夜。
イルミネーションの下で寄り添っていた蒼真君とましろん。
二人が見せていた笑顔は、ほんとうに眩しくて。
――あのとき、私の心臓はどうしてあんなに痛んだんだろう。
ずっと親友だと思ってた。
ましろんの大切な人に、私がときめいたって仕方ないのに。
優しくて、真面目で、でもちょっと抜けてて。
バレエの帰り道、何気なく声をかけてくれる蒼真君の一言が、どうしてこんなに胸に残っちゃうんだろう。
(私……ダメだな。ましろんの彼氏なのに)
そう言い聞かせるたびに、胸の奥がチクチクする。
でも同時に、思うんだ。
「ましろんは幸せでよかった」って。
だって、ましろんはいつも私を助けてくれたから。
今度は私が二人を支えてあげたい――そう思った。
だから私は決めた。
この気持ちを隠したまま、友達として応援するって。
でも、そのまま心に閉じ込めておくのは、なんだか苦しい。
だから形にしたかった。
私は机に置いた細い紐を見つめる。
淡いブルーと、柔らかな白。二人に似合う色を選んだ。
編み込みながら、指先が震える。
(これ……渡したら、どんな顔するかな)
(「おそろいでつけてね」って言えば……ただの友達のプレゼントに見えるよね)
本当は――蒼真君に一番つけてもらいたい。
けれど、それは言えない。絶対に。
紐を結び終え、小さなブレスレットが形になった。
たったこれだけのものでも、私の想いがぎゅっと込められている。
私はそれを両手で包み込み、深呼吸する。
胸の奥の苦しさと、ほんの少しの誇らしさ。
相反する感情が混ざり合って、涙が出そうになる。
(よし……渡そう。ましろんと蒼真君に、私からのプレゼントとして)
そう決意した瞬間、冷たい空気が少しだけ優しく感じられた。
心に抱えた想いは消えない。けれど、それでも私は――親友と、その大切な人を応援する。
◇◇◇
冬休みが終わり、久しぶりの教室はどこか浮き足立っていた。
お土産のお菓子が机の上を飛び交い、友達同士でスキーや初詣の話題が絶えない。
私は、ポケットの中に入れた小さな袋を握りしめながら、胸の奥の鼓動を落ち着けようとしていた。
(……今日、渡すんだ。冬休みの間ずっと迷ったけど……やっぱり、今しかない)
休み時間、私は意を決して二人の元へ歩いていく。
窓際で並んで話している蒼真君とましろん。
あの日のクリスマスから、さらに距離が近づいたみたいで、二人の笑顔は見ているだけで胸が痛い。
「ね、ねえ……蒼真君、ましろん」
「ん? どうしたの千佳」
「橘、珍しいな。そんな真剣な顔」
二人が同時にこちらを向く。私はぎゅっと袋を握りしめ、震える手で差し出した。
「これ……冬休みの間に作ったの。二人にプレゼントしたいの」
「えっ……!」
真白が小さく息を呑み、蒼真君も驚いたように目を丸くする。
「開けてもいい?」
「うん……!」
袋の口を開けると、淡いブルーと白で編み込まれたシンプルなブレスレットが二つ。
並べると対になっていて、まるで「一緒にいること」を象徴するみたいだった。
「わあ……すごく綺麗!」
真白の顔がぱっと輝く。その笑顔を見て、私の胸の奥が温かくなった。
「これ……俺と真白に?」
「う、うん。冬休みの間に、二人のことを考えてて……すごくお似合いだから。おそろいでつけたら、もっと仲良くなれるかなって思って」
本音を隠し、必死に「親友らしい理由」にすり替える。
けれど、こめた気持ちは誤魔化せない。糸の一目一目に、心が滲んでいる。
「千佳……ありがとう。大事にするね」
真白が胸に抱きしめるようにして受け取る。
「蒼真君も……つけてみよ?」
「ああ。今つけようか」
二人はお互いの手首にブレスレットを結び合い、その姿はまるで絵本の中のワンシーンみたいだった。
「似合ってる?」
蒼真君が軽く腕を掲げる。
「うん、すごく!」
真白の瞳がきらきら輝き、その横顔がまぶしくて――私は思わず視線を逸らす。
(……これでいい。私は二人を繋げる役でいいんだ。親友として)
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