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第5章 新しい春に向けて
第67話「玲央の自滅」
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放課後の廊下。
神崎玲央は、人だかりの中心にいた。だが、かつてのように羨望の視線を浴びているわけではない。
そこにあるのは、好奇心と軽蔑を入り混ぜた冷たい目線だった。
「見た? もう動画回ってる」
「“カッコつけて空振り男”ってタグついてたぞ」
「うける、再生数バズってるじゃん」
笑いを噛み殺す声が飛び交う。
スマホの画面には、玲央が空振りした場面や、みっともなく怒鳴る姿が切り取られ、何度も繰り返し流されていた。
もはや「人気者」ではなく、ただの笑い者だった。
玲央は必死に笑顔を作ろうとした。
「は? お前らわかってねえな。俺が本気出したら――」
その強がりを遮るように、誰かが言い捨てた。
「結城さんに振られて逆ギレしてただけだろ?」
その瞬間、玲央の目に血が上る。
「テメェ……!」と怒鳴り、拳を振り上げた。
だが相手は軽く身を引いただけで、玲央の腕は宙を切る。
体勢を崩し、よろけた足が階段の縁を踏み外した。
ドン、ガン、と鈍い音。
次の瞬間、玲央は階段を転げ落ちていた。
悲鳴とざわめきが一斉に広がる。
「誰か先生呼べ!」
「ちょ、マジでやばいんじゃね?」
駆け寄った教師が確認すると、幸い大怪我ではなく、打撲と擦り傷で済んだ。
しかし――そのみっともない姿は、動画に撮られていた。
「転げ落ちた神崎玲央」は、翌日にはSNSで拡散され、全国区の晒し者となる。
数日後。松葉杖をついて帰宅した玲央を待っていたのは、父の冷たい視線だった。
「……お前、学校で何をしてるんだ」
低い声がリビングに響く。
父は会社の重役。体裁を何よりも重んじる男だ。
ネットを通じて広まった醜態は、すでに同僚や取引先の耳にも入っていた。
「ふざけるな、家の名前を汚して……!」
怒鳴り声と同時に、リモコンがテーブルに叩きつけられる。
母は涙ながらに「お願いだから大人しくして」と訴えるが、玲央にはもう何も返す言葉がなかった。
学校でも、事態は重く受け止められていた。
教員会議で取り上げられ、担任は深いため息をつく。
「他生徒への暴力未遂、素行不良、風紀を乱す行為……一度や二度ではない。処分は避けられないだろう」
数日後、玲央は呼び出され、停学処分を言い渡される。
それは「一度の転落」ではなく、積み重ねてきた悪行すべてのツケだった。
停学の噂はすぐに広まる。
SNSでは匿名の投稿が飛び交っていた。
《あの神崎って奴、もう終わりじゃん》
《女泣かせのクズがやっとバチ当たったな》
《動画まだ消されてなくて草》
かつて玲央を持ち上げていた同級生でさえ、掌を返すように叩きに回る。
「落ちぶれた元王様」は格好の餌だった。
登校再開の日。
玲央が校門をくぐったとき、誰一人声をかける者はいなかった。
取り巻きも、女子も、見て見ぬふりをするだけ。
ただ冷たい視線と、背後からの嘲笑があるだけだった。
廊下で偶然すれ違った俺は、無言で見送った。
真白がそっと袖をつまみ、不安そうに囁く。
「……大丈夫、蒼真君?」
「ああ。もう、終わっただけだ」
声に力を込める。
玲央は他人に負かされたのではない。
自分自身の傲慢さと浅ましさが積み重なり、ついに崩れ落ちただけ。
その背中は、もう誰の記憶にも「憧れ」として残らないだろう。
◇◇◇
それは真白達女の子3人と共に勉強会をやっている時のことだった。
「なあ聞いたか? 神崎先輩のこと」
「え、何それ」
「停学中に繁華街で飲酒して、警察に補導されかけたって」
別のグループの会話が、耳に飛び込んできた。
俺の背筋がぴくりと反応する。
「マジ? あの人、やばすぎ」
「前から素行悪かったけど、もう庇えないでしょ」
囁き声が広がっていく。
ペンを握る手に力が入った。
胸の奥に、嫌な予感がじわじわと広がっていく。
(……やっぱりな。あいつが大人しくしてるはずがない)
斜め前に座る真白が、不安そうに小さく首を傾げた。
俺と視線が合うと、彼女はかすかに微笑もうとしたけれど――その笑顔の端が震えていた。
(……真白。大丈夫だ。もう何があっても、俺が隣にいる)
自分に言い聞かせるように心の中で呟き、俺は視線を机に落とした。
だが胸の奥では、消えないざわめきが渦を巻いていた。
放課後の勉強会を終えて帰り支度をしていると、廊下の方がざわつき始めた。
誰かが職員室から出てきたらしい。教師同士が声を潜めながら話しているのが聞こえる。
「神崎の件、もう庇いきれないだろう」
「停学中にまた問題を起こすなんて、前代未聞だよ」
「保護者も呼び出されてるらしいぞ」
その断片的な会話が耳に入るだけで、空気が一気に重たくなる。
「……ねえ、新堂君」
隣にいた紗和が、不安げに声をかけてきた。
「今の、やっぱり……神崎先輩のこと、だよね」
「ああ。間違いない」
小さく頷くと、千佳も眉をひそめた。
「やっぱり噂、本当なんだ……。でも停学中にそんなことしたら、どうなるの?」
「普通なら……退学だろうな」
俺は低く答えた。
実際、教師の口ぶりからしても、それが現実味を帯びているのは明らかだった。
ふと真白を見ると、彼女は唇を噛みしめていた。
無理に笑おうとしているけど、その目は怯えの色を隠せていない。
(……まだ、玲央の影に怯えてるんだな)
心臓がずしりと重くなる。
何度も守ってきたつもりだった。
それでも、完全には振り払えていないのか――そう思うと、怒りと焦りが同時に込み上げてくる。
「大丈夫だ、真白」
俺は小さな声で言った。
「どんな結果になろうと、あいつがお前に手を伸ばすことはもう二度とない」
真白は驚いたように目を瞬かせ、それからかすかに頷いた。
「……うん。信じてるよ」
その微笑みはまだ少し震えていた。
だけど俺にとっては、それだけで十分だった。
(待ってろよ、玲央。今度こそ完全に終わらせてやる)
胸の奥で静かに炎が燃え上がるのを感じながら、俺は固く拳を握りしめた。
その日の放課後、真白たちを先に帰らせて、俺は教室に残ってノートを片付けていた。
ふと廊下の方から、怒鳴り声が聞こえてくる。
「――ふざけんなッ!! 俺が退学だと!? 冗談じゃねぇ!!」
低く荒れた声。
聞き間違えようがない。神崎玲央の声だった。
胸の奥がざわつき、思わず廊下に出る。
職員室の前には、数人の教師が立ちふさがり、玲央を必死に制止していた。
「神崎、お前はもう限界だ! 何度問題を起こせば気が済むんだ!」
「うるせぇ!! 俺が何したってんだよ!? 飲んだくらいで大げさなんだよ!」
「停学中に問題を起こす生徒なんて前代未聞だ! 学校を舐めるな!」
教師の一人が声を荒げると、玲央は机を蹴り飛ばした。
バンッ! と乾いた音が廊下に響く。
「俺を退学にしたら、この学校の評判だって地に落ちるんだぞ!?」
顔を真っ赤にし、唾を飛ばしながら喚き散らす玲央。
その目は焦りと狂気が混ざり合い、蛇のようにぎらついていた。
周囲には生徒たちも集まり始め、遠巻きにざわついている。
「やば……ほんとに暴れてる」
「これ、もう終わりじゃん……」
そんな囁きがあちこちから聞こえる。
「退学なんて許さねぇ!! 俺を舐めるなあああ!!」
次の瞬間、玲央は教師の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。
止めようとした別の教師が腕を掴む。
そのもみ合いの中で――
「うわっ!」
玲央の体が大きく傾いた。
そして、まるでスローモーションのように階段へと倒れ込む。
ドンッ! ゴロゴロッ!!
階段を転げ落ちる鈍い音。
生徒たちの悲鳴が響いた。
「神崎ッ!!」
教師たちが慌てて駆け寄る。
幸い、大怪我には至らなかったようで、玲央は呻き声を上げながら立ち上がった。
だがその姿は、プライドも威厳もかなぐり捨てた、ただの滑稽な男だった。
「て、てめぇら……俺をコケにしやがって……!」
髪は乱れ、制服は汚れ、血走った目で周囲を睨みつける。
だが、その視線に怯む者はいない。
「……もう終わりだな」
誰かが冷ややかに呟いた。
俺もまた、拳を握りしめながら心の中で言葉を吐き捨てていた。
(そうだ……これで終わりだ。神崎玲央、お前はもう二度と真白を脅かせない)
騒然とした廊下の中で、俺はただその結末を静かに見届けていた。
神崎玲央は、人だかりの中心にいた。だが、かつてのように羨望の視線を浴びているわけではない。
そこにあるのは、好奇心と軽蔑を入り混ぜた冷たい目線だった。
「見た? もう動画回ってる」
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「うける、再生数バズってるじゃん」
笑いを噛み殺す声が飛び交う。
スマホの画面には、玲央が空振りした場面や、みっともなく怒鳴る姿が切り取られ、何度も繰り返し流されていた。
もはや「人気者」ではなく、ただの笑い者だった。
玲央は必死に笑顔を作ろうとした。
「は? お前らわかってねえな。俺が本気出したら――」
その強がりを遮るように、誰かが言い捨てた。
「結城さんに振られて逆ギレしてただけだろ?」
その瞬間、玲央の目に血が上る。
「テメェ……!」と怒鳴り、拳を振り上げた。
だが相手は軽く身を引いただけで、玲央の腕は宙を切る。
体勢を崩し、よろけた足が階段の縁を踏み外した。
ドン、ガン、と鈍い音。
次の瞬間、玲央は階段を転げ落ちていた。
悲鳴とざわめきが一斉に広がる。
「誰か先生呼べ!」
「ちょ、マジでやばいんじゃね?」
駆け寄った教師が確認すると、幸い大怪我ではなく、打撲と擦り傷で済んだ。
しかし――そのみっともない姿は、動画に撮られていた。
「転げ落ちた神崎玲央」は、翌日にはSNSで拡散され、全国区の晒し者となる。
数日後。松葉杖をついて帰宅した玲央を待っていたのは、父の冷たい視線だった。
「……お前、学校で何をしてるんだ」
低い声がリビングに響く。
父は会社の重役。体裁を何よりも重んじる男だ。
ネットを通じて広まった醜態は、すでに同僚や取引先の耳にも入っていた。
「ふざけるな、家の名前を汚して……!」
怒鳴り声と同時に、リモコンがテーブルに叩きつけられる。
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「他生徒への暴力未遂、素行不良、風紀を乱す行為……一度や二度ではない。処分は避けられないだろう」
数日後、玲央は呼び出され、停学処分を言い渡される。
それは「一度の転落」ではなく、積み重ねてきた悪行すべてのツケだった。
停学の噂はすぐに広まる。
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玲央が校門をくぐったとき、誰一人声をかける者はいなかった。
取り巻きも、女子も、見て見ぬふりをするだけ。
ただ冷たい視線と、背後からの嘲笑があるだけだった。
廊下で偶然すれ違った俺は、無言で見送った。
真白がそっと袖をつまみ、不安そうに囁く。
「……大丈夫、蒼真君?」
「ああ。もう、終わっただけだ」
声に力を込める。
玲央は他人に負かされたのではない。
自分自身の傲慢さと浅ましさが積み重なり、ついに崩れ落ちただけ。
その背中は、もう誰の記憶にも「憧れ」として残らないだろう。
◇◇◇
それは真白達女の子3人と共に勉強会をやっている時のことだった。
「なあ聞いたか? 神崎先輩のこと」
「え、何それ」
「停学中に繁華街で飲酒して、警察に補導されかけたって」
別のグループの会話が、耳に飛び込んできた。
俺の背筋がぴくりと反応する。
「マジ? あの人、やばすぎ」
「前から素行悪かったけど、もう庇えないでしょ」
囁き声が広がっていく。
ペンを握る手に力が入った。
胸の奥に、嫌な予感がじわじわと広がっていく。
(……やっぱりな。あいつが大人しくしてるはずがない)
斜め前に座る真白が、不安そうに小さく首を傾げた。
俺と視線が合うと、彼女はかすかに微笑もうとしたけれど――その笑顔の端が震えていた。
(……真白。大丈夫だ。もう何があっても、俺が隣にいる)
自分に言い聞かせるように心の中で呟き、俺は視線を机に落とした。
だが胸の奥では、消えないざわめきが渦を巻いていた。
放課後の勉強会を終えて帰り支度をしていると、廊下の方がざわつき始めた。
誰かが職員室から出てきたらしい。教師同士が声を潜めながら話しているのが聞こえる。
「神崎の件、もう庇いきれないだろう」
「停学中にまた問題を起こすなんて、前代未聞だよ」
「保護者も呼び出されてるらしいぞ」
その断片的な会話が耳に入るだけで、空気が一気に重たくなる。
「……ねえ、新堂君」
隣にいた紗和が、不安げに声をかけてきた。
「今の、やっぱり……神崎先輩のこと、だよね」
「ああ。間違いない」
小さく頷くと、千佳も眉をひそめた。
「やっぱり噂、本当なんだ……。でも停学中にそんなことしたら、どうなるの?」
「普通なら……退学だろうな」
俺は低く答えた。
実際、教師の口ぶりからしても、それが現実味を帯びているのは明らかだった。
ふと真白を見ると、彼女は唇を噛みしめていた。
無理に笑おうとしているけど、その目は怯えの色を隠せていない。
(……まだ、玲央の影に怯えてるんだな)
心臓がずしりと重くなる。
何度も守ってきたつもりだった。
それでも、完全には振り払えていないのか――そう思うと、怒りと焦りが同時に込み上げてくる。
「大丈夫だ、真白」
俺は小さな声で言った。
「どんな結果になろうと、あいつがお前に手を伸ばすことはもう二度とない」
真白は驚いたように目を瞬かせ、それからかすかに頷いた。
「……うん。信じてるよ」
その微笑みはまだ少し震えていた。
だけど俺にとっては、それだけで十分だった。
(待ってろよ、玲央。今度こそ完全に終わらせてやる)
胸の奥で静かに炎が燃え上がるのを感じながら、俺は固く拳を握りしめた。
その日の放課後、真白たちを先に帰らせて、俺は教室に残ってノートを片付けていた。
ふと廊下の方から、怒鳴り声が聞こえてくる。
「――ふざけんなッ!! 俺が退学だと!? 冗談じゃねぇ!!」
低く荒れた声。
聞き間違えようがない。神崎玲央の声だった。
胸の奥がざわつき、思わず廊下に出る。
職員室の前には、数人の教師が立ちふさがり、玲央を必死に制止していた。
「神崎、お前はもう限界だ! 何度問題を起こせば気が済むんだ!」
「うるせぇ!! 俺が何したってんだよ!? 飲んだくらいで大げさなんだよ!」
「停学中に問題を起こす生徒なんて前代未聞だ! 学校を舐めるな!」
教師の一人が声を荒げると、玲央は机を蹴り飛ばした。
バンッ! と乾いた音が廊下に響く。
「俺を退学にしたら、この学校の評判だって地に落ちるんだぞ!?」
顔を真っ赤にし、唾を飛ばしながら喚き散らす玲央。
その目は焦りと狂気が混ざり合い、蛇のようにぎらついていた。
周囲には生徒たちも集まり始め、遠巻きにざわついている。
「やば……ほんとに暴れてる」
「これ、もう終わりじゃん……」
そんな囁きがあちこちから聞こえる。
「退学なんて許さねぇ!! 俺を舐めるなあああ!!」
次の瞬間、玲央は教師の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。
止めようとした別の教師が腕を掴む。
そのもみ合いの中で――
「うわっ!」
玲央の体が大きく傾いた。
そして、まるでスローモーションのように階段へと倒れ込む。
ドンッ! ゴロゴロッ!!
階段を転げ落ちる鈍い音。
生徒たちの悲鳴が響いた。
「神崎ッ!!」
教師たちが慌てて駆け寄る。
幸い、大怪我には至らなかったようで、玲央は呻き声を上げながら立ち上がった。
だがその姿は、プライドも威厳もかなぐり捨てた、ただの滑稽な男だった。
「て、てめぇら……俺をコケにしやがって……!」
髪は乱れ、制服は汚れ、血走った目で周囲を睨みつける。
だが、その視線に怯む者はいない。
「……もう終わりだな」
誰かが冷ややかに呟いた。
俺もまた、拳を握りしめながら心の中で言葉を吐き捨てていた。
(そうだ……これで終わりだ。神崎玲央、お前はもう二度と真白を脅かせない)
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