前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

文字の大きさ
79 / 101
第6章 春休みと、新しい季節

第79話「水族館デート」

しおりを挟む
 連休二日目。水族館デートの待ち合わせに、俺は予定より二十分も早く駅前に着いていた。
 昨日の映画やカフェの余韻がまだ胸に残っていて、どうにも落ち着かない。

(前の俺は、画面の向こうで“どうしようもなかった”って思うしかなかった。選択肢に抗えなくて、ただ眺めるしかなくて――)

 だから今度は違う。
 俺が先に動いて、彼女の笑顔を作る。

 人混みの中、声をかけられた気がして振り返る。
「蒼真君」

 真白だった。
 今日は涼しげな七分袖のブラウスに、淡いブルーのスカート。昨日とはまた違う雰囲気で、透明感が増して見える。

「……早いね。もう来てたんだ」
「おう。待たせたくなかったから」
「ふふっ。やっぱり優しいね」

 笑顔を見た瞬間、胸の奥が熱くなる。
(……やっぱり、この表情のために俺はここにいるんだ)

 二人並んで歩き、チケットを買って入館する。
 青い光に包まれた大水槽が広がり、巨大なエイや魚の群れが泳ぐ姿に、真白が思わず声を上げた。
「わぁ……すごい。きれい……!」
「迫力あるな」

 俺も見とれたが、すぐに横顔に視線が吸い寄せられる。
 光を受けて目を輝かせる真白の方が、何より美しかった。

 だが、その瞬間。
「ねえ君、良かったら一緒に回らない?」

 突然、二人組の若い男が声をかけてきた。
 軽いノリの笑顔に、真白が一瞬だけ驚いて足を止める。

「え、あの……」
「彼氏いないんでしょ? 俺ら詳しいから、案内してあげるよ」

 軽口混じりの声に、背中の奥がぞわりとした。
 一歩前に出て、真白と男たちの間に立つ。

「悪いけど、こいつは俺と一緒だ。だから他をあたってくれ」

 強くはないが、きっぱりと言い切る。
 男たちは一瞬面食らったように目を見合わせ、「チッ」と小さく舌打ちして去っていった。

 去っていく背中を見送り、俺は小さく息を吐く。
「……大丈夫だったか?」
「うん……ありがと、蒼真君」

 真白は少し緊張が残る顔で、それでもふわっと笑った。
 そして自分から俺の腕にぎゅっと寄り添ってくる。

「やっぱり……蒼真君が一番安心する」

 その言葉に胸が熱くなった。
(どうしようもなかった過去の選択肢は、もう関係ない。今は――俺が守るって決めたんだから)

 青い光の下、繋いだ手を離さないまま、俺たちは水槽の前を歩き出した。


 館内を進むと、ガラス越しにペンギンの群れが泳いでいた。
 真白は思わず前に身を乗り出し、目を輝かせる。
「わぁ、かわいい……! 見て蒼真君、あの子、すごい速い!」
「ほんとだ。……泳ぎのフォーム、俺より綺麗かもな」
「ふふっ、ペンギンに勝とうとしなくてもいいのに」

 笑いながらスマホを取り出し、彼女がペンギンを撮ろうとする。
 だが次の瞬間、カメラをこちらに向けてきた。
「はい、蒼真君、こっち向いて!」
「えっ、俺!?」
「当たり前でしょ。一緒に来てるんだから、思い出残したいの」

 不意を突かれて照れたが、真白があまりに嬉しそうなので素直にピースをする。
 シャッター音が鳴り、画面を覗き込んだ彼女は満足げに頷いた。
「うん、いい顔してる」
「いや……恥ずかしいな」
「大丈夫。私が見たいから撮ってるんだもん」

 さらりと言われ、言葉を失った。
 結局、そのあとも交代で写真を撮り合って、気づけばアルバムが笑顔で埋まっていった。

 出口へ向かう通路に差しかかったとき――

「お、やっぱり会えたな」

 不意に後ろから声をかけられ、背筋が冷たくなった。
 振り返ると、さっきの二人組。
 今度は笑顔というより、獲物を逃すまいとするようないやらしい目つきだった。

「なあ、せっかくの連休だろ? 俺たちと遊びに行こうぜ」
「彼氏って……ほんとにそいつでいいの? もっと楽しくできるのに」

 真白が怯えたように俺の腕を握る。
 その手の震えに、胸の奥が熱くなった。

「――やめろ。もう二度と声をかけるな」
 低い声で告げると、一人が鼻で笑った。
「はぁ? なに、カッコつけちゃって。偉そうにすんなよ」

 次の瞬間、肩を乱暴に押された。
 体勢を崩しかけた俺を見て、二人はククッと笑う。

「なんだよ、根暗そうな顔してんじゃん。こんなのが彼氏? やめとけよ、こんなやつ」
「そうそう。俺らと行った方が絶対楽しいって」

 真白の顔から血の気が引いていくのが分かった。

「……ふざけんな」
 押し返すように一歩踏み出し、二人を睨む。
「真白は俺と一緒に来てる。お前らに付き合う理由なんかない」

 言い切った瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
(前の俺は、どうしようもなかった。画面の向こうで、ただ見ているしかなかった。
 でも今は違う。今度こそ、俺が動く)

 だが、さらに一人が吐き捨てる。
「チッ、ムカつくな。いいから女は俺らに――」

 その手が真白の腕に伸びかけた瞬間、彼女が一歩前に出た。

「やめてください!」
 透き通る声が響く。
 怯えているはずなのに、真白の瞳は揺るがなかった。
「私は蒼真君と一緒にいるの。だから、あなたたちなんかに付いていくつもりはありません!」

 凛とした言葉に、二人組が一瞬気圧される。
 俺も腕を掴まれそうになった真白を抱き寄せ、低く告げた。
「聞いたろ。二度と近づくな」

 さすがに周囲の視線が集まりはじめ、二人は舌打ちしながら踵を返した。
「チッ、面倒くせぇ……」
「やってらんね」

 その背中が完全に消えるまで、俺は真白の手を離さなかった。

 残された静けさの中で、真白が小さく震える声を出す。
「……怖かった。でも……言えた。蒼真君と一緒にいるって」
「よく言ったな。真白、強いよ」
「ううん……蒼真君がいたから、言えたんだよ」

 恋人繋ぎにした手が、互いの鼓動を確かめ合うように強く結ばれる。
 もう二度と、“どうしようもなかった”なんて言わせない。
 そう胸の奥で誓いながら、俺たちは出口の光へ歩き出した。

 水族館を出ると、外はすでに薄暗くなっていた。
 オレンジ色の夕陽が沈みかけ、街灯がひとつ、またひとつと灯っていく。
 昼間の喧騒とは違い、夜に向かう街の空気は落ち着いていて、さっきまでの騒動が嘘のように思えた。

 それでも、俺の手を握る真白の指先は少し冷たい。
「……ごめんね。怖い思い、させた」
「謝らないで。蒼真君がいてくれたから、ちゃんと立ち向かえたんだよ」

 彼女はそう言って、小さく笑う。
 けれど、握る手の強さが彼女の緊張を物語っていた。

「……もし蒼真君がいなかったら、私……きっと何も言えなかった」
「いや、今日の真白は強かった。俺なんかよりずっと」
「そんなことないよ」
 首を振り、彼女は顔を伏せる。
「でも……蒼真君が隣にいてくれるなら、私、何度だって言える。“一緒にいたい”って」

 その一言が胸の奥に深く刺さった。
(ゲームの中じゃ、俺は“どうしようもなかった”って思うしかなかった。
 でも今は違う。真白が言葉にできる強さを持てるのは、俺が隣にいるからだ――そう思わせてくれるなら、もう十分だ)

 歩きながら、ふと彼女が小さく声を落とす。
「……ねえ蒼真君。連休、まだ続くでしょ?」
「ああ」
「明日も……会えるかな」
「もちろん。次は――」

 言いかけて、俺は一呼吸置いた。
「水族館みたいに人が多くなくてもいい。静かにのんびりできる場所に行こうか」
「うん……嬉しい」

 真白はぱっと顔を上げて、夕暮れの中で微笑んだ。
 その笑顔を見た瞬間、心に誓う。

(もう二度と“どうしようもなかった”なんて言わない。俺が動く限り、真白の笑顔は守れる)

 駅前に着いても、二人の手は離れなかった。
 最後に「また明日ね」と小さく囁き合い、それぞれの帰り道へと歩き出す。

 その温もりの余韻が、ずっと指先に残っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...