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第6章 春休みと、新しい季節
第80話「公園デート」
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ゴールデンウィーク三日目。
駅前に向かう足取りは、昨日までとは少し違っていた。
水族館での出来事が頭に残っていて、真白に怖い思いをさせてしまったことを、どうしても気にしていたからだ。
(……だから今日は、人混みじゃない場所にしようって決めた。真白に、安心して笑ってほしいから)
そう考えて、俺は待ち合わせ場所に少し早めに到着した。
昨日も一昨日もそうだったが、自然と早く来てしまう。待たせたくない気持ちと、会える時間を少しでも増やしたい気持ち――両方だ。
十分ほど経ったとき。
「蒼真君」
聞き慣れた声に顔を上げると、真白が小走りでやってきた。
今日は落ち着いた色合いのカーディガンに、淡いベージュのスカート。華やかさよりも柔らかさを引き立てる格好で、昨日よりもリラックスして見える。
「おはよう」
「おはよう。……やっぱりもう来てたんだ」
「まあな。早く会いたくて」
「……っ、もう。朝からそういうこと言うんだから」
真白は頬を染め、カーディガンの裾をいじった。
その仕草が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
「今日はね、公園に行こうと思って」
「公園?」
「ああ。人も少ないし、のんびりできるだろ。昨日は色々あったし……落ち着いた場所の方がいいかなって」
「……蒼真君」
真白の瞳が少し揺れた。
けれどすぐに笑顔になって、コクリと頷く。
「うん。すごく嬉しい。私、そういう時間……大好きだから」
その言葉に、胸の奥が温かく満たされる。
(前は“どうしようもなかった”なんて思うしかなかった。だけど今は違う。自分から動いて、彼女の笑顔をつくるんだ)
そう決意を噛み締めながら、俺たちは並んで歩き出した。
春風に揺れる木々の方へ――新しい一日のために。
駅から歩いて二十分ほど。
大きな公園にたどり着くと、街中の喧騒とは違う静けさが広がっていた。
新緑の木々が風に揺れ、鳥の声が遠くから聞こえてくる。小さな子どもを連れた家族やジョギングする人はちらほらいたが、広い園内はのんびりした空気に包まれていた。
「わぁ……いいところだね」
「だろ? 今日はこういう場所でのんびりした方がいいと思って」
「……ふふ。蒼真君が選んでくれて嬉しい」
真白は顔をほころばせ、芝生の道を歩きながら時折スカートの裾を押さえた。
春風が頬を撫でるたび、彼女の髪が揺れて光を受け、自然と目を奪われる。
園内を少し歩き、木陰のベンチに腰を下ろした。
真白はバッグから小さなお菓子の袋を取り出す。
「これ、昨日買ったの。……一緒に食べよ?」
「おう。……なんかピクニックみたいだな」
「そうだね。特別な場所じゃなくても、こうして一緒にいられるだけで十分だよ」
にこっと笑う彼女を見て、胸が温かくなる。
(ゲームじゃ、こんな“普通の幸せ”はなかった。俺が積み重ねたいのは――こういう日々だ)
ふと、風が強く吹いた。
真白がベンチに置いていたハンカチが、ふわりと舞い上がり、芝生の上を転がっていく。
「あっ!」
「取ってくる!」
二人同時に立ち上がり、飛んでいくハンカチを追いかける。
真白のスカートがひらりと揺れ、俺も思わず走り出した。
芝生を抜けた先で、ようやく木の根元に引っかかったハンカチをキャッチする。
「……っと。危なかったな」
「蒼真君、ありがとう!」
駆け寄ってきた真白が、ほっと胸を撫で下ろす。
額には薄く汗が浮かんでいて、それを見て思わず笑ってしまった。
「そんな必死にならなくても、また買えばいいだろ」
「だめだよ。だってこれ……蒼真君とお揃いで買ったやつだもん」
「……っ」
その一言に、胸がじんわり熱くなる。
彼女にとっては、たかがハンカチでも大切な思い出なんだ。
「……そうか。じゃあ、無事でよかった」
「うん。蒼真君が守ってくれたから」
ハンカチを胸に抱えながら微笑む真白に、また心を奪われる。
二人で笑い合いながらベンチへ戻ると、風景がさっきよりも鮮やかに見えた。
春風に吹かれながら並んで座る――それだけのことが、こんなにも幸せなんだと実感する。
木陰のベンチに戻り、二人で肩を並べる。
芝生の上を駆け回る子どもたちの声や、遠くの噴水の音が心地よいBGMのように響いていた。
風は柔らかく、午後の日差しはどこか眠気を誘う。
「……ねえ、蒼真君」
「ん?」
「ゴールデンウィークが終わったら、また普通の学校生活に戻るんだよね」
真白がぽつりと呟く。その横顔は少し寂しげで、手元のハンカチを指先でなぞっていた。
「文化祭とか体育祭とか、テストとか……行事はいっぱいあるけど。
でも、こうしてのんびりできる時間って、あんまりなくなっちゃうのかなって思ったら……ちょっとだけ、寂しい」
その言葉を聞いて、胸の奥がじわりと熱くなる。
(……ゲームでは、こんな“普通の悩み”すら許されなかった。いつもイベントに流されて、悲しいルートしか残されていなかった。俺はただ“どうしようもなかった”って思うしかなくて――)
だからこそ、今の自分が何を返すべきかは分かっている。
「……普通の日々が戻るのは、悪いことじゃないさ」
「え?」
「行事も、授業も、退屈な日も……全部ひっくるめて、俺たちが積み重ねていく毎日なんだろ。
だったら――俺はその“普通”を、真白と一緒に積み重ねたい」
言葉にした瞬間、真白の瞳が大きく見開かれる。
そして、頬をほんのり染めて、ゆっくりと笑った。
「……ずるいなぁ。そんな風に言われたら、私……もっと欲張りになっちゃう」
「欲張り?」
「うん。これから先も、ずっと隣にいてほしいって思っちゃう」
その声は小さく、けれど真剣だった。
指先が俺の手を探し、またしっかりと絡んでくる。
「……俺もだよ。真白となら、どんな日でも大事にできる」
静かな公園の空気の中、会話が途切れても居心地の悪さはなかった。
肩と肩が自然に触れ合い、同じ方向を見ているだけで十分だった。
(昨日は“守る”と誓った。
今日は“積み重ねる”と決めた。
この日常こそが、俺の選び直した未来だ)
その想いを胸に刻みながら、俺は隣の真白の温もりを強く確かめた。
駅前に向かう足取りは、昨日までとは少し違っていた。
水族館での出来事が頭に残っていて、真白に怖い思いをさせてしまったことを、どうしても気にしていたからだ。
(……だから今日は、人混みじゃない場所にしようって決めた。真白に、安心して笑ってほしいから)
そう考えて、俺は待ち合わせ場所に少し早めに到着した。
昨日も一昨日もそうだったが、自然と早く来てしまう。待たせたくない気持ちと、会える時間を少しでも増やしたい気持ち――両方だ。
十分ほど経ったとき。
「蒼真君」
聞き慣れた声に顔を上げると、真白が小走りでやってきた。
今日は落ち着いた色合いのカーディガンに、淡いベージュのスカート。華やかさよりも柔らかさを引き立てる格好で、昨日よりもリラックスして見える。
「おはよう」
「おはよう。……やっぱりもう来てたんだ」
「まあな。早く会いたくて」
「……っ、もう。朝からそういうこと言うんだから」
真白は頬を染め、カーディガンの裾をいじった。
その仕草が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
「今日はね、公園に行こうと思って」
「公園?」
「ああ。人も少ないし、のんびりできるだろ。昨日は色々あったし……落ち着いた場所の方がいいかなって」
「……蒼真君」
真白の瞳が少し揺れた。
けれどすぐに笑顔になって、コクリと頷く。
「うん。すごく嬉しい。私、そういう時間……大好きだから」
その言葉に、胸の奥が温かく満たされる。
(前は“どうしようもなかった”なんて思うしかなかった。だけど今は違う。自分から動いて、彼女の笑顔をつくるんだ)
そう決意を噛み締めながら、俺たちは並んで歩き出した。
春風に揺れる木々の方へ――新しい一日のために。
駅から歩いて二十分ほど。
大きな公園にたどり着くと、街中の喧騒とは違う静けさが広がっていた。
新緑の木々が風に揺れ、鳥の声が遠くから聞こえてくる。小さな子どもを連れた家族やジョギングする人はちらほらいたが、広い園内はのんびりした空気に包まれていた。
「わぁ……いいところだね」
「だろ? 今日はこういう場所でのんびりした方がいいと思って」
「……ふふ。蒼真君が選んでくれて嬉しい」
真白は顔をほころばせ、芝生の道を歩きながら時折スカートの裾を押さえた。
春風が頬を撫でるたび、彼女の髪が揺れて光を受け、自然と目を奪われる。
園内を少し歩き、木陰のベンチに腰を下ろした。
真白はバッグから小さなお菓子の袋を取り出す。
「これ、昨日買ったの。……一緒に食べよ?」
「おう。……なんかピクニックみたいだな」
「そうだね。特別な場所じゃなくても、こうして一緒にいられるだけで十分だよ」
にこっと笑う彼女を見て、胸が温かくなる。
(ゲームじゃ、こんな“普通の幸せ”はなかった。俺が積み重ねたいのは――こういう日々だ)
ふと、風が強く吹いた。
真白がベンチに置いていたハンカチが、ふわりと舞い上がり、芝生の上を転がっていく。
「あっ!」
「取ってくる!」
二人同時に立ち上がり、飛んでいくハンカチを追いかける。
真白のスカートがひらりと揺れ、俺も思わず走り出した。
芝生を抜けた先で、ようやく木の根元に引っかかったハンカチをキャッチする。
「……っと。危なかったな」
「蒼真君、ありがとう!」
駆け寄ってきた真白が、ほっと胸を撫で下ろす。
額には薄く汗が浮かんでいて、それを見て思わず笑ってしまった。
「そんな必死にならなくても、また買えばいいだろ」
「だめだよ。だってこれ……蒼真君とお揃いで買ったやつだもん」
「……っ」
その一言に、胸がじんわり熱くなる。
彼女にとっては、たかがハンカチでも大切な思い出なんだ。
「……そうか。じゃあ、無事でよかった」
「うん。蒼真君が守ってくれたから」
ハンカチを胸に抱えながら微笑む真白に、また心を奪われる。
二人で笑い合いながらベンチへ戻ると、風景がさっきよりも鮮やかに見えた。
春風に吹かれながら並んで座る――それだけのことが、こんなにも幸せなんだと実感する。
木陰のベンチに戻り、二人で肩を並べる。
芝生の上を駆け回る子どもたちの声や、遠くの噴水の音が心地よいBGMのように響いていた。
風は柔らかく、午後の日差しはどこか眠気を誘う。
「……ねえ、蒼真君」
「ん?」
「ゴールデンウィークが終わったら、また普通の学校生活に戻るんだよね」
真白がぽつりと呟く。その横顔は少し寂しげで、手元のハンカチを指先でなぞっていた。
「文化祭とか体育祭とか、テストとか……行事はいっぱいあるけど。
でも、こうしてのんびりできる時間って、あんまりなくなっちゃうのかなって思ったら……ちょっとだけ、寂しい」
その言葉を聞いて、胸の奥がじわりと熱くなる。
(……ゲームでは、こんな“普通の悩み”すら許されなかった。いつもイベントに流されて、悲しいルートしか残されていなかった。俺はただ“どうしようもなかった”って思うしかなくて――)
だからこそ、今の自分が何を返すべきかは分かっている。
「……普通の日々が戻るのは、悪いことじゃないさ」
「え?」
「行事も、授業も、退屈な日も……全部ひっくるめて、俺たちが積み重ねていく毎日なんだろ。
だったら――俺はその“普通”を、真白と一緒に積み重ねたい」
言葉にした瞬間、真白の瞳が大きく見開かれる。
そして、頬をほんのり染めて、ゆっくりと笑った。
「……ずるいなぁ。そんな風に言われたら、私……もっと欲張りになっちゃう」
「欲張り?」
「うん。これから先も、ずっと隣にいてほしいって思っちゃう」
その声は小さく、けれど真剣だった。
指先が俺の手を探し、またしっかりと絡んでくる。
「……俺もだよ。真白となら、どんな日でも大事にできる」
静かな公園の空気の中、会話が途切れても居心地の悪さはなかった。
肩と肩が自然に触れ合い、同じ方向を見ているだけで十分だった。
(昨日は“守る”と誓った。
今日は“積み重ねる”と決めた。
この日常こそが、俺の選び直した未来だ)
その想いを胸に刻みながら、俺は隣の真白の温もりを強く確かめた。
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