前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第6章 春休みと、新しい季節

第85話「ワクワクの遊園地」後編

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 お化け屋敷を出たあともしばらく、真白は俺の袖をぎゅっと掴んだままだった。
 顔はまだほんのり赤く、視線は落ち着かない。
 そんな彼女の手を軽く握り返しながら、俺は屋台の並ぶ通りに足を向けた。

「ちょっと甘いものでも食べて落ち着こうか」
「……うん」

 並んで歩くと、わたあめやチュロスの甘い匂いが漂ってくる。
 子供たちの笑い声が響き、風船を抱えた親子連れがすれ違った。
 さっきまでの暗闇とは正反対の、賑やかで明るい景色。

 屋台でチュロスを二本買い、一本を真白に渡す。
「ありがと……あ、熱っ」
 思わず口に運んでから、真白は慌てて息を吹きかけた。
 その仕草がやけに可愛くて、俺は思わず笑みをこぼす。

「笑わないでよ~」
「いや、つい……。ほら、砂糖が口元についてるぞ」
「えっ?」

 真白は慌てて手で拭おうとするが、上手く取れていない。
 俺は思わず指先でそっと口の端を拭った。

「……これで大丈夫」
「~~っ!」
 真白の顔が一気に真っ赤になり、視線を逸らす。

 今度はわたあめを一つ買い、二人でシェアすることにした。
 大きなわたあめをちぎり、真白が「あーん」と差し出してくる。
「食べて」
「……あ、あーんって」
「早くしないと溶けちゃうよ?」

 周囲の子供に混じって、俺も観念して口を開ける。
 口に入った瞬間、ふわっと溶けて甘さが広がった。

「どう?」
「……甘すぎるな」
「わたあめだから当たり前でしょ」

 二人して顔を見合わせて、思わず笑い合った。
 それだけで胸がいっぱいになる。

◇◇◇

 食べ歩きでお腹も心も満たされたあと、園内の中央にそびえる観覧車へと向かった。
 夕暮れ時の空を背景にしたゴンドラは、橙色に染まっていて、特別な一日の締めくくりにぴったりだった。

「最後に……観覧車、乗ってみる?」
「うん。蒼真君と一緒なら、高いところでも平気かも」

 チケットを渡し、ゴンドラに乗り込む。
 カタン、と扉が閉じられ、ゆっくりと地上を離れていく。

 最初はまだ地上が近く、笑顔で下を覗いていた真白。
 けれど高度が上がるにつれて、だんだんと手を強く握ってきた。

「……やっぱりちょっとドキドキするね」
「怖い?」

「ううん、そうじゃなくて……蒼真君が隣にいるから、余計に」

 頬を染めて小さく呟く真白。
 その横顔は夕陽に照らされ、金色に輝いていた。
(……ああ、もう。俺の方が余計にドキドキしてるってのに)

 やがてゴンドラは頂点に達した。
 地上の景色が一望できる高さ。街全体がオレンジ色に染まり、どこまでも広がる光景に息を呑む。

 真白も窓越しに眺め、目を輝かせていた。
「……きれいだね」
「ああ……」

 俺の目には、景色以上に隣の彼女が美しかった。
 思わず言葉が漏れる。
「……真白が一緒だから、もっときれいに見える」

「っ……蒼真君……」
 真白は顔を真っ赤にして、でも視線を逸らさずに俺を見つめ返した。

 頂点からゆっくり下降を始めるゴンドラ。
 その中で、二人の手は自然に恋人繋ぎへと変わっていった。
 言葉はなくても、互いの想いが伝わってくる。

 沈む夕陽に照らされた真白の笑顔は、どんな光景よりも鮮やかだった。


 観覧車を降りてからもしばらく、真白と俺は手を繋いだまま歩いていた。
 園内のイルミネーションが点り始め、人混みのざわめきが遠ざかっていく。
 駅へ向かう帰り道は、どこか静かで、さっきの高揚感が余韻となって胸に残っていた。

「……ほんと、楽しかったね」
 真白が口を開く。
「ジェットコースターも、お化け屋敷も……ぜんぶ、蒼真君と一緒だったから平気だった」

「俺も。真白が隣にいるから、全部楽しかった」
 言葉にすると、彼女が嬉しそうに目を細める。
 その表情を見るだけで、また胸がいっぱいになる。

 電車を乗り継ぎ、やがて真白の家の前に着いた。
 玄関の明かりが温かく灯っていて、ここで一日の終わりを告げられるような気がして、足が止まる。

 真白の家の前。
 玄関灯が柔らかく周囲を照らしていて、それが「今日が終わってしまう」ことを静かに告げているように思えた。

「……もう帰る時間だね」
「ああ」

 言葉にすればたったそれだけなのに、胸の奥が急に重くなる。
 楽しい一日の終わりを認めたくなくて、足が自然と動かない。

 俺も真白も、玄関の前で立ち尽くしていた。
 何かを言おうとして口を開きかけては閉じ、視線だけが交錯する。

 夜風が二人の間を抜けていく。
 だけど、その風すらも「帰れ」と背中を押すようで、余計に心がざわついた。

「……なんか、変だね」
「何が?」
「楽しかった分、帰りたくなくなっちゃって」
「……俺も」

 その一言でまた沈黙。
 言葉を探そうとするたびに、胸の奥が切なくなって、結局何も言えない。

 名残惜しさで空気が張りつめている。
 俺は時計を見ようともしなかった。時間を知ったら、その分早く別れが来るような気がして。

 真白は両手を胸の前で組み、足元を見つめていた。
 けれどすぐに顔を上げて、俺の目をまっすぐに見た。
「……今日は、本当にありがとう」
「こっちこそ。俺のほうが……真白に感謝してる」

 視線が絡んだまま、互いに言葉を継げない。
 けれど、その沈黙すら心地よくて、まだここに留まっていたかった。

「……蒼真君」
 不意に名前を呼ばれ、胸が跳ねる。
 次の瞬間、真白が一歩近づいてきて――

 ふわりと頬に、柔らかなものが触れた。

 あまりにも一瞬のことで、頭がついていかない。
 頬に残る温もりだけが、事実を告げている。

「――っ!?」
 声にならない声が喉から漏れる。

 目の前の真白は、顔を真っ赤にしたまま、視線を逸らさずに小さく笑った。
「……おやすみなさい、蒼真君」

 それだけを告げると、玄関のドアを開けて中へ駆け込んでしまった。

 残された俺は、しばらくその場に立ち尽くした。
 心臓はとんでもない速さで鼓動し、頭の中は真っ白になる。
 頬に残る熱が、何度も「夢じゃない」と訴えかけてくる。

(……やばい。これ、現実か? 本当に、真白が……)

 喜びで叫び出したいような、恥ずかしさで消えてしまいたいような。
 感情がごちゃ混ぜになって、ただ夜風に吹かれながらぼんやりと突っ立つしかできなかった。

 気づけば口元が勝手に緩んでいた。
 止めようとしても止まらない。
 玄関の向こうに消えた真白の姿を想像しながら、俺は顔を覆って深く息を吐いた。

(……もう、どうしようもなく好きだ)

 その思いだけが、胸いっぱいに残っていた。

 これからの高校生活、とんでもなく甘くときめく予感がして止まらなかった。


~第6章 完~

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