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第四章 ダンジョン騒動編
17 ドラゴン、じゃない……?
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「おい、なんだこいつは」
俺は魔物の姿を上から下まで見渡した。
俺の背丈のゆうに五倍はありそうな巨体は、丸い頭と短い手足を持っていて、まるでサンショウウオに羽が生えたような姿をしている。
「ドラゴンじゃねえな」
どこもかしこも丸っこいフォルムは、ドラゴンらしい威厳のいの字も感じられない。
巨大じゃなけりゃ、マスコットにでもなっていそうな間抜けなツラをしている。
サンショウウオもどきは大きな声で鳴くと、バッサバッサと羽を広げて飛び上がる。巨体が宙に浮いている、すごい迫力だ。
「こっちに向かってくるぞ」
「応戦する」
カイルはインベントリからヒヒイロカネの長剣を取り出すと、鞘から出して空中で剣を構える。
俺はカイルから離れて敵の挙動を観察した。隙を見て遠方から魔法を叩きこんでやるつもりだ。
「ギュルオォォォォ!」
「図体がでかい分、動きは遅いようだ」
サンショウウオもどきが腕を振るうが、カイルは余裕で避けて腕のつけ根に反撃をくらわせる。魔物は悲痛に叫んだ。
「ギャピイィィ!」
うわ、声がデカ過ぎてうるさい。垂れ耳のつけ根を手で塞ぐ。
ぐるんと空中で一回転したサンショウウオもどきは、カイルのほうに顔を向けて勢いよく水を吐き出した。
なんなく避けるが、水が空中で弧を描いてカイルを追尾しはじめる。カイルの飛ぶ速度より速い。魔物は続け様に何本もの水筋を吐き出し、カイルへと迫っていく。
「チッ」
「そこだ!」
攻撃に夢中になっている魔物の横っ腹に向かって、電撃魔法を発射する。魔物は当たる直前で気づき、体をぐりんと捻って回避した。
「お、こっちに来る」
俺の攻撃を脅威とみなしたのか、サンショウウオもどきは俺に狙いを定めて突進してくる。
水魔法の追撃をすべてかわしたカイルが、魔物の背中に思いきり剣を突き刺した。
「ギュオオオオ!」
じったんばったんと空中で暴れ回る魔物の背に、カイルは剣を突き立てたまま傷口をえぐった。
悲痛な声で鳴く魔物は震えたまま、ろくに反撃できていない。チャンスだ!
「カイル、下がってろ!」
俺が電撃を打ち出すのと同時に、カイルは魔物から離れた。サンショウウオもどきはまともに電撃を浴びて、一瞬動きを止めてから地面へと落ちていく。
ズズン、と地響きがして大きな音が立つ。まだもがいている魔物に向かって、カイルがとどめの一撃を加えた。
首を刺されたサンショウウオモドキは、今度こそ全身から力を抜き地に伏せた。
「やったか?」
「終わりでいいんじゃねえかな」
魔物はピクリとも動かない。地面に降りて様子を確認するが、すでに息絶えていた。
「ダンジョン五十階層にはこんな魔物がゴロゴロいたのか、すげえ」
「それも今となっては過去の話だが」
そりゃそうだ、俺がダンジョンを閉鎖させたんだもんな。ダンジョンの中でこんなのと出会っていたら、驚いただろうなあ。
もう二度とカイルと一緒にダンジョンを冒険することはできないんだな。なんとなく侘しい気分になって、カイルの側に向かう。
「どうした」
「ん、なんでもない。温泉を探そうぜ」
間近で見た魔物はヌメヌメしていた。近くに水場がありそうだ。
「この奥から来たんだよな」
針葉樹がところどころに生える岩場を、雪を踏み締めながら歩いていく。
「ん? あれは……」
白く湯気のようなものが立ちのぼっている場所を見つけて近づいていく。
大きな岩の向こう側をのぞくと、そこにはエメラルドグリーンの泉が湧き出ていた。歯の根が震えるくらいの寒さの中、ほかほかと湯気を立てている。
どことなく濁っている泉に清潔魔法を注ぎこむ。水が透き通り、泉は透明度を増してきた。
すると、底の方に青っぽい光を反射する岩があることに気づく。あの鉱石の色と、針葉樹の緑があわさって、青緑色に濁って見えていたようだ。
「そろそろいいかな」
ほとんど透明になったところで、 『魔力の支配」を使って水質を確認してみた。
人体に有害な成分は含まれていないようだ。青い鉱石はミスリルの原石だとわかった。
「なかなかよさそうな温泉じゃねえか」
「水の色が青く染まっているが、毒ではないのか?」
「毒じゃないな、ただミスリルの成分が溶けだしてるだけみたいだ」
指先を泉に浸してみた。一瞬熱すぎると感じたが、お湯の温度に指先が馴染むとちょうどよくなってくる。
カイルも俺の様子を見ながら、青の光が溢れる泉に手を突っ込む。
「……風呂のような温度だ」
「だろ? せっかくだから入っていかないか?」
周囲に魔物や動物の気配もしないし、二人じめできるぞ。俺の提案を聞いて、カイルは片眉を釣りあげる。
「一緒に風呂に入るのは、恥ずかしいのだろう?」
「まあそんなんだけど、温泉は別だ。タオル巻いて入ろうぜ」
せっかく温泉に入れるチャンスなんだから、みすみす逃したくない。
と思ったものの、マフラーを解いただけでも冷気が首周りを包んで、とても全裸になる気になれなかった。
「さっぶ! ちょっくら魔力の無駄遣いでもするか」
魔力をガンガン使って、周囲の空気を一時的に暖める。
最近のカイルは、俺からだけ魔力を摂取するわけじゃねえから、気軽に魔力を大量消費できるようになった。
「よし、あったまったな。カイル、こっちに寄れよ」
「相変わらず規格外なことをする」
カイルは呆れながらも大人しく俺の側まで寄ってくる。円形に雪が溶けて濡れた岩の上で、服を脱ぎ去った。
「はいこれタオル」
「腰に巻けばいいのか」
「そうそう。あんまこっち見んなよ」
「もうどこもかしこも、余すところなく見ているのに」
それでも恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ。俺はカッコいい体のアンタと違って、痩せすぎなんだから。
もっと食べて鍛えればいいのか? だけど実験してる方が楽しいしなあ。
ダンジョンに潜ってた頃より痩せちまった気がするし、なんとかしなきゃな。
悩みながらも足を動かし、湯の中に指先をつける。ざぷざぷと歩いて肩まで浸かって、ホッと息をついた。
俺は魔物の姿を上から下まで見渡した。
俺の背丈のゆうに五倍はありそうな巨体は、丸い頭と短い手足を持っていて、まるでサンショウウオに羽が生えたような姿をしている。
「ドラゴンじゃねえな」
どこもかしこも丸っこいフォルムは、ドラゴンらしい威厳のいの字も感じられない。
巨大じゃなけりゃ、マスコットにでもなっていそうな間抜けなツラをしている。
サンショウウオもどきは大きな声で鳴くと、バッサバッサと羽を広げて飛び上がる。巨体が宙に浮いている、すごい迫力だ。
「こっちに向かってくるぞ」
「応戦する」
カイルはインベントリからヒヒイロカネの長剣を取り出すと、鞘から出して空中で剣を構える。
俺はカイルから離れて敵の挙動を観察した。隙を見て遠方から魔法を叩きこんでやるつもりだ。
「ギュルオォォォォ!」
「図体がでかい分、動きは遅いようだ」
サンショウウオもどきが腕を振るうが、カイルは余裕で避けて腕のつけ根に反撃をくらわせる。魔物は悲痛に叫んだ。
「ギャピイィィ!」
うわ、声がデカ過ぎてうるさい。垂れ耳のつけ根を手で塞ぐ。
ぐるんと空中で一回転したサンショウウオもどきは、カイルのほうに顔を向けて勢いよく水を吐き出した。
なんなく避けるが、水が空中で弧を描いてカイルを追尾しはじめる。カイルの飛ぶ速度より速い。魔物は続け様に何本もの水筋を吐き出し、カイルへと迫っていく。
「チッ」
「そこだ!」
攻撃に夢中になっている魔物の横っ腹に向かって、電撃魔法を発射する。魔物は当たる直前で気づき、体をぐりんと捻って回避した。
「お、こっちに来る」
俺の攻撃を脅威とみなしたのか、サンショウウオもどきは俺に狙いを定めて突進してくる。
水魔法の追撃をすべてかわしたカイルが、魔物の背中に思いきり剣を突き刺した。
「ギュオオオオ!」
じったんばったんと空中で暴れ回る魔物の背に、カイルは剣を突き立てたまま傷口をえぐった。
悲痛な声で鳴く魔物は震えたまま、ろくに反撃できていない。チャンスだ!
「カイル、下がってろ!」
俺が電撃を打ち出すのと同時に、カイルは魔物から離れた。サンショウウオもどきはまともに電撃を浴びて、一瞬動きを止めてから地面へと落ちていく。
ズズン、と地響きがして大きな音が立つ。まだもがいている魔物に向かって、カイルがとどめの一撃を加えた。
首を刺されたサンショウウオモドキは、今度こそ全身から力を抜き地に伏せた。
「やったか?」
「終わりでいいんじゃねえかな」
魔物はピクリとも動かない。地面に降りて様子を確認するが、すでに息絶えていた。
「ダンジョン五十階層にはこんな魔物がゴロゴロいたのか、すげえ」
「それも今となっては過去の話だが」
そりゃそうだ、俺がダンジョンを閉鎖させたんだもんな。ダンジョンの中でこんなのと出会っていたら、驚いただろうなあ。
もう二度とカイルと一緒にダンジョンを冒険することはできないんだな。なんとなく侘しい気分になって、カイルの側に向かう。
「どうした」
「ん、なんでもない。温泉を探そうぜ」
間近で見た魔物はヌメヌメしていた。近くに水場がありそうだ。
「この奥から来たんだよな」
針葉樹がところどころに生える岩場を、雪を踏み締めながら歩いていく。
「ん? あれは……」
白く湯気のようなものが立ちのぼっている場所を見つけて近づいていく。
大きな岩の向こう側をのぞくと、そこにはエメラルドグリーンの泉が湧き出ていた。歯の根が震えるくらいの寒さの中、ほかほかと湯気を立てている。
どことなく濁っている泉に清潔魔法を注ぎこむ。水が透き通り、泉は透明度を増してきた。
すると、底の方に青っぽい光を反射する岩があることに気づく。あの鉱石の色と、針葉樹の緑があわさって、青緑色に濁って見えていたようだ。
「そろそろいいかな」
ほとんど透明になったところで、 『魔力の支配」を使って水質を確認してみた。
人体に有害な成分は含まれていないようだ。青い鉱石はミスリルの原石だとわかった。
「なかなかよさそうな温泉じゃねえか」
「水の色が青く染まっているが、毒ではないのか?」
「毒じゃないな、ただミスリルの成分が溶けだしてるだけみたいだ」
指先を泉に浸してみた。一瞬熱すぎると感じたが、お湯の温度に指先が馴染むとちょうどよくなってくる。
カイルも俺の様子を見ながら、青の光が溢れる泉に手を突っ込む。
「……風呂のような温度だ」
「だろ? せっかくだから入っていかないか?」
周囲に魔物や動物の気配もしないし、二人じめできるぞ。俺の提案を聞いて、カイルは片眉を釣りあげる。
「一緒に風呂に入るのは、恥ずかしいのだろう?」
「まあそんなんだけど、温泉は別だ。タオル巻いて入ろうぜ」
せっかく温泉に入れるチャンスなんだから、みすみす逃したくない。
と思ったものの、マフラーを解いただけでも冷気が首周りを包んで、とても全裸になる気になれなかった。
「さっぶ! ちょっくら魔力の無駄遣いでもするか」
魔力をガンガン使って、周囲の空気を一時的に暖める。
最近のカイルは、俺からだけ魔力を摂取するわけじゃねえから、気軽に魔力を大量消費できるようになった。
「よし、あったまったな。カイル、こっちに寄れよ」
「相変わらず規格外なことをする」
カイルは呆れながらも大人しく俺の側まで寄ってくる。円形に雪が溶けて濡れた岩の上で、服を脱ぎ去った。
「はいこれタオル」
「腰に巻けばいいのか」
「そうそう。あんまこっち見んなよ」
「もうどこもかしこも、余すところなく見ているのに」
それでも恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ。俺はカッコいい体のアンタと違って、痩せすぎなんだから。
もっと食べて鍛えればいいのか? だけど実験してる方が楽しいしなあ。
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