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私には想い人がいる。私が押しかける形で同棲していて、現在彼とはおつきあいをしている。いわゆる恋人同士だ。
彼の名はエイダン。命知らずなダンジョン探索者で、見上げるような体躯に、気の抜けた表情が間抜けな熊獣人だ。
放っておくとしょっちゅう髭もじゃになっているから、身なりを整えるよう逐一言ってやらないといけない。
私のこの隙のないジャケット姿や、知的な眼鏡を見習えばいいと、いつも手本を示しているが、彼はあははと流すばかり。
「いつもそんなカッチリした格好なんてしてるの、セルジュくらいだよ。他の職員の人はもっとカジュアルな格好してるよ?」
私の自慢の黒い猫耳が、ピンと尖るのが自覚できた。ギルドのカウンター前で、職員である私に舐めた口を聞く彼を、懲らしめてやりたくなる。
「お黙りなさい。私がいないと髭も剃らずにだらしない格好をしている貴方が、何を言っているんですか」
「うーん、僕はダンジョン探索してるから、仕方がないと思うんだよね」
「ダンジョン探索で何日も潜って、身形が汚くなるのはわかりますよ。だがせめて、髭くらい剃れと言っているんです」
かれこれ一ヶ月ぶりに会うダンジョン帰りの彼に、私が小言を連ねていると、カウンターの奥でヒソヒソと私達を噂する声を、鋭敏な聴覚をもつ猫耳が捉えた。
「まーたやってるよ、セルジュとエイダン様」
「仲いいよね」
「セルジュは猫獣人なのに、お風呂好きの綺麗好きで、ちょっと潔癖すぎるんだよな」
「エイダン様みたいなのが、探索者じゃ普通だよね」
「貴方達、何を噂しているんですか?」
くるりと振り向いて半眼で睨むと、彼らはアハハと悪びれもせずに笑った。
「真面目だよねー、セルジュは」
「本当に真面目だ、今時珍しいくらい」
「違いますよ、私は普通です。至って常識的に物事を考えています。あなた方がちゃらんぽらんすぎるだけです」
まったくもう。肩を怒らせながらエイダンに視線を戻すと、彼は戦利品の魔石を無造作にゴロゴロと、カウンターの上に取りだしていた。
「ああっ!? 貴方、何をしているんですか! またこんな大量に出して! ここじゃ収まらないから、買取カウンターで出せといつも言っているでしょう!」
「あ、ごめんね」
「ごめんじゃないですよ! ほら、こっちに来てください」
エイダンを促し買い取り専用カウンターに移動する間にも、微笑ましいと見守る視線を背後から感じる。
キッと後ろを振り向くと、ああ怖いと震えるフリをしながら、同僚達は笑っていた。私はわざとらしくため息を吐いた。
「みんな適当すぎですよ。エイダン様も、もっとしゃんとしてください」
「僕もセルジュは生真面目だと思うけど、でもそんなセルジュのひたむきさは素敵だと思うよ」
内心ドキッと胸が高鳴った。しかしそんなことはおくびにも出さず、不機嫌な顔を作って会話を続ける。
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