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10 予想外の展開でした
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ディミエルはなんとなく寂しい気分で、のろのろと調合道具を片付けていく。
ライシスの笑った顔や真剣な表情、色気漂う微笑みを思い出してしまって、パタパタと手で宙を扇ぐ。
(な、なんだか暑い日ね! 帰ってきたら最後に、お茶くらいは恵んであげてもいいかな)
なぜ顔に血が昇っているのか、深く考えることはせずに、作業を継続する。
「……ん? なんの音?」
ガサガサと茂みをかきわける音が、だんだんとこちらに近づいてくる。
耳を澄まそうとしたところで再び雨が降り出して、茂みが揺れる音はかき消されてしまう。
ディミエルは、固唾を呑んで茂みを見つめた。
すると見覚えのある銀の髪が、木々の隙間からひょっこりと現れた。
右手に花、左手にジョウロを持ったライナスは、右手の花をディミエルの目の前に差し出す。
「ディミーちゃん! この花であってるだろ!? 採ってきたよ!!」
まるで子どものように曇りのない笑顔が、雨の森の中で陽光のように輝いてみえた。
ディミエルは呆然としながら、雨に濡れることしかできない。
手の中のローリネア草は、しとどに雨露を浴びて、誇らしげに紫色の花弁を大きく開いている。
固まって動かないディミエルを見て、ライシスは自分のマントを彼女の肩にかけようとしたが、既にぐっしょり濡れてしまって貸せる状態ではなかった。
「ディミーちゃん、濡れてしまうよ。早く家の中に入った方がいい」
「……っ! そんな場合じゃない! 今すぐ道具を用意するから、そのまま待っていて!」
ディミエルはハッと我に返り、急いで先ほど片付けた道具を設置し直した。
雨の中二人してびしょ濡れになりながら、雨除けの下に台所から火種を持ち込んで、お湯を沸かす。
沸かしたお湯の中にそのままローリネア草を放りこむと、花弁はやがて桃色へ変化した。
花びらだけをすり鉢の中に混ぜ入れ、夢中ですり潰していると、ライシスが手助けを申しでた。
「手伝うよ」
ライシスがすり潰しはじめると、花弁はみるみるうちに輪郭を失い、泥状に溶けていく。
(男の人ってすごい、助かるわ)
「貴重なものだから、けして鉢の外にこぼさないように慎重に混ぜてね。色が均等になるまでひたすら繰り返して」
「わかった」
ディミエルは感心しながらも、的確な指示を飛ばす。
二人の共同作業により出来上がった薬は、過去類を見ないほどに質の良いものだった。
ディミエルは桃色に透き通った薬液を瓶に入れて蓋をして、空にかざしてみる。
「これで万能回復薬の完成だよ」
「そうか……綺麗だな。ディミーちゃんの髪色にそっくりだ」
「私? 似てるかな」
「そう思うよ。ディミーちゃんが頑張ったお陰で綺麗にできたんだ」
「ライシスの手際も、すごくよかったよ」
二人はお互いの顔を見あって、柔らかく笑いあう。
雨はいつの間にか止んで、森の木々から差し込む光が、まるで祝福するかのようにキラキラと薬瓶を照らしていた。
ライシスの笑った顔や真剣な表情、色気漂う微笑みを思い出してしまって、パタパタと手で宙を扇ぐ。
(な、なんだか暑い日ね! 帰ってきたら最後に、お茶くらいは恵んであげてもいいかな)
なぜ顔に血が昇っているのか、深く考えることはせずに、作業を継続する。
「……ん? なんの音?」
ガサガサと茂みをかきわける音が、だんだんとこちらに近づいてくる。
耳を澄まそうとしたところで再び雨が降り出して、茂みが揺れる音はかき消されてしまう。
ディミエルは、固唾を呑んで茂みを見つめた。
すると見覚えのある銀の髪が、木々の隙間からひょっこりと現れた。
右手に花、左手にジョウロを持ったライナスは、右手の花をディミエルの目の前に差し出す。
「ディミーちゃん! この花であってるだろ!? 採ってきたよ!!」
まるで子どものように曇りのない笑顔が、雨の森の中で陽光のように輝いてみえた。
ディミエルは呆然としながら、雨に濡れることしかできない。
手の中のローリネア草は、しとどに雨露を浴びて、誇らしげに紫色の花弁を大きく開いている。
固まって動かないディミエルを見て、ライシスは自分のマントを彼女の肩にかけようとしたが、既にぐっしょり濡れてしまって貸せる状態ではなかった。
「ディミーちゃん、濡れてしまうよ。早く家の中に入った方がいい」
「……っ! そんな場合じゃない! 今すぐ道具を用意するから、そのまま待っていて!」
ディミエルはハッと我に返り、急いで先ほど片付けた道具を設置し直した。
雨の中二人してびしょ濡れになりながら、雨除けの下に台所から火種を持ち込んで、お湯を沸かす。
沸かしたお湯の中にそのままローリネア草を放りこむと、花弁はやがて桃色へ変化した。
花びらだけをすり鉢の中に混ぜ入れ、夢中ですり潰していると、ライシスが手助けを申しでた。
「手伝うよ」
ライシスがすり潰しはじめると、花弁はみるみるうちに輪郭を失い、泥状に溶けていく。
(男の人ってすごい、助かるわ)
「貴重なものだから、けして鉢の外にこぼさないように慎重に混ぜてね。色が均等になるまでひたすら繰り返して」
「わかった」
ディミエルは感心しながらも、的確な指示を飛ばす。
二人の共同作業により出来上がった薬は、過去類を見ないほどに質の良いものだった。
ディミエルは桃色に透き通った薬液を瓶に入れて蓋をして、空にかざしてみる。
「これで万能回復薬の完成だよ」
「そうか……綺麗だな。ディミーちゃんの髪色にそっくりだ」
「私? 似てるかな」
「そう思うよ。ディミーちゃんが頑張ったお陰で綺麗にできたんだ」
「ライシスの手際も、すごくよかったよ」
二人はお互いの顔を見あって、柔らかく笑いあう。
雨はいつの間にか止んで、森の木々から差し込む光が、まるで祝福するかのようにキラキラと薬瓶を照らしていた。
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