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37 どうしても一緒にいたいんです
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あらかた自分の事情を話し終えたディミエルは、身を乗り出して気になっていたことを尋ねる。
「ねえ、ライシスは王子様なんだよね? どうして冒険者をしていたの?」
「やる必要があると思ったからかな。王族として国政に携わるよりも、冒険者が向いてそうだとも思ったし」
「そうなんだ……冒険者をしていても、貴族の方とおつきあいがあるんだよね。さっきのお姫様は、妹さんなの?」
「ああ、そうだよ。騎士の格好をして討伐に参加するなんて、型破りだろう? 好奇心旺盛なじゃじゃ馬で城でも手を焼いてるみたいで、俺のところに寄越されたんだ。町にいる時はあれでも淑女ぶってドレスを着て過ごしてくれていたのに、ここにきてものすごく自由に振る舞っているな」
ライシスはしょうがないやつだよなと口では言いながらも、朗らかに笑った。妹と仲が良さそうだ。町でドレスを着ていたと聞いて、ディミエルの頭に閃く物があった。
「もしかして、町でエスコートしていた女性は妹さん?」
「え、ディミエルにも見られていたのか。そうそう、ちゃんと注文通りドレスを着ていくから、エスコートしろって言われちゃってさ。おかげで冒険者仲間にもずいぶん詮索されたし、散々だったよ」
(そうだったんだ、私ったら勘違いしちゃって恥ずかしいな)
ライシスは心変わりして女の人と遊んでいたわけじゃなかった。自分の早とちりに頭を抱えてしまう。
「そう、それでギルド長にも俺が王子ってことがバレて、そしたら討伐に参加させてくれないって話になってさ。万が一何かあったら怖いってことで。今まで散々こき使ってた癖になー」
ライシスはカラッと笑いながら、森の方に視線を飛ばした。
「でも俺は、どうしても気になっちゃってさ。前に辺境の森に来てた時、魔女の集落がこの辺にあるって知ってたし。ディミエルもこのあたりに住んでるんだろうなって思ったら、いてもたってもいられなくなって。だから王子として兵を引き連れて、討伐隊を結成してここまで来たんだ」
「私のために来たの?」
チラリとディミエルの方を見たライシスは、気まずげに頬を指先でかきながら視線を逸らした。
「ああ、うん……本当はそんな不純な動機で参戦したら駄目なんだろうけど、やっぱり忘れられなくて。だから天幕のそばでディミエルを見かけた時は、俺の願望が幻でも見せたのかって驚いたよ」
「……私は、追いかけて来てくれて嬉しかったよ」
「!」
ライシスがばっとディミエルに振り返る。頬を桃色に染めて、瞳を輝かせた。
「これからも一緒にいてくれるか? ディミーさえ嫌じゃなければ、城に薬草園を用意するからそこで暮らさないか」
「薬草園? ライシスは城に戻って、これからは王子様として暮らすってこと?」
彼は困ったように眉根を寄せて頷いた。
「そうだ。冒険者としての活動は、制限されてしまいそうだからね。そろそろ帰ってこいと父からの伝言をもらっているし、一度帰らないと駄目そうだ。だけど」
ライシスはディミエルの肩に手をかけて、そっと抱き寄せた。
「君と離れたくないんだ……ディミーは森で暮らしたいだろうから、俺が休みをとれる日は森に連れていけるようにするし、薬草園や温室もディミー専用に作ろうと思うんだ。だから、一緒に城に来てくれないか?」
ライシスの視線が真っ直ぐにディミエルに注がれる。ディミエルの瞳は不安で揺れた。
(ライシスと一緒にいたい……けれど、お城で生活なんて私にできるのかな?)
「私が行ってもいいのかな……マナーとかわからないし、ドレスも持っていないから、貴族のお嬢様みたいにはできないよ」
「大丈夫だ、ドレスもマナー教師も手配する」
「ライシスのお相手が森の魔女だなんて、王様やお妃様はどう思うかしら」
「俺がディミーのことを守るよ。誰にも文句なんて言わせない」
力強く宣言されて、ディミエルの心もぐらぐらと揺れた。
(色々と気がかりなことはあるけれど、ライシスともう離れたくない。私、やってみせるわ。彼の隣に立つためにがんばるって決めたもの)
顔を上げて美しい顔を見上げた。ゴクリと唾を飲みこんで、ディミエルは口を開いた。
「私もライシスと一緒にお城で暮らすわ。連れていって」
「ねえ、ライシスは王子様なんだよね? どうして冒険者をしていたの?」
「やる必要があると思ったからかな。王族として国政に携わるよりも、冒険者が向いてそうだとも思ったし」
「そうなんだ……冒険者をしていても、貴族の方とおつきあいがあるんだよね。さっきのお姫様は、妹さんなの?」
「ああ、そうだよ。騎士の格好をして討伐に参加するなんて、型破りだろう? 好奇心旺盛なじゃじゃ馬で城でも手を焼いてるみたいで、俺のところに寄越されたんだ。町にいる時はあれでも淑女ぶってドレスを着て過ごしてくれていたのに、ここにきてものすごく自由に振る舞っているな」
ライシスはしょうがないやつだよなと口では言いながらも、朗らかに笑った。妹と仲が良さそうだ。町でドレスを着ていたと聞いて、ディミエルの頭に閃く物があった。
「もしかして、町でエスコートしていた女性は妹さん?」
「え、ディミエルにも見られていたのか。そうそう、ちゃんと注文通りドレスを着ていくから、エスコートしろって言われちゃってさ。おかげで冒険者仲間にもずいぶん詮索されたし、散々だったよ」
(そうだったんだ、私ったら勘違いしちゃって恥ずかしいな)
ライシスは心変わりして女の人と遊んでいたわけじゃなかった。自分の早とちりに頭を抱えてしまう。
「そう、それでギルド長にも俺が王子ってことがバレて、そしたら討伐に参加させてくれないって話になってさ。万が一何かあったら怖いってことで。今まで散々こき使ってた癖になー」
ライシスはカラッと笑いながら、森の方に視線を飛ばした。
「でも俺は、どうしても気になっちゃってさ。前に辺境の森に来てた時、魔女の集落がこの辺にあるって知ってたし。ディミエルもこのあたりに住んでるんだろうなって思ったら、いてもたってもいられなくなって。だから王子として兵を引き連れて、討伐隊を結成してここまで来たんだ」
「私のために来たの?」
チラリとディミエルの方を見たライシスは、気まずげに頬を指先でかきながら視線を逸らした。
「ああ、うん……本当はそんな不純な動機で参戦したら駄目なんだろうけど、やっぱり忘れられなくて。だから天幕のそばでディミエルを見かけた時は、俺の願望が幻でも見せたのかって驚いたよ」
「……私は、追いかけて来てくれて嬉しかったよ」
「!」
ライシスがばっとディミエルに振り返る。頬を桃色に染めて、瞳を輝かせた。
「これからも一緒にいてくれるか? ディミーさえ嫌じゃなければ、城に薬草園を用意するからそこで暮らさないか」
「薬草園? ライシスは城に戻って、これからは王子様として暮らすってこと?」
彼は困ったように眉根を寄せて頷いた。
「そうだ。冒険者としての活動は、制限されてしまいそうだからね。そろそろ帰ってこいと父からの伝言をもらっているし、一度帰らないと駄目そうだ。だけど」
ライシスはディミエルの肩に手をかけて、そっと抱き寄せた。
「君と離れたくないんだ……ディミーは森で暮らしたいだろうから、俺が休みをとれる日は森に連れていけるようにするし、薬草園や温室もディミー専用に作ろうと思うんだ。だから、一緒に城に来てくれないか?」
ライシスの視線が真っ直ぐにディミエルに注がれる。ディミエルの瞳は不安で揺れた。
(ライシスと一緒にいたい……けれど、お城で生活なんて私にできるのかな?)
「私が行ってもいいのかな……マナーとかわからないし、ドレスも持っていないから、貴族のお嬢様みたいにはできないよ」
「大丈夫だ、ドレスもマナー教師も手配する」
「ライシスのお相手が森の魔女だなんて、王様やお妃様はどう思うかしら」
「俺がディミーのことを守るよ。誰にも文句なんて言わせない」
力強く宣言されて、ディミエルの心もぐらぐらと揺れた。
(色々と気がかりなことはあるけれど、ライシスともう離れたくない。私、やってみせるわ。彼の隣に立つためにがんばるって決めたもの)
顔を上げて美しい顔を見上げた。ゴクリと唾を飲みこんで、ディミエルは口を開いた。
「私もライシスと一緒にお城で暮らすわ。連れていって」
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