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36 とっても嬉しいです
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ライシスはディミエルの手を引いて、キャンプ地から離れていく。
「抜け出して大丈夫なの?」
「先程、残党狩りが終わったという報告があったんだ。部下に方針も示してきたし、必要なことは大体終わった。少しの間なら大丈夫さ」
安心させるようにぎゅっと手を握られて、自分より一回り大きな手のひらに包まれていることを実感する。ディミエルはまた、とくりと心臓を高鳴らせた。
「そ、そっか……あの、どこに行くの?」
「落ち着ける場所で話したいと思ってるんだ。そろそろ着くよ」
ライシスは森から離れて丘を登っていく。白い可憐な花が咲いている見晴らしのいい場所まで来ると、彼は足を止めた。
一本だけ生えている大きな木の影まで歩き、懐から白いハンカチを取り出して草の上に広げた。
「どうぞ、座って」
「いいの? 土がついちゃうよ」
「ディミーが汚れなければそれでいいんだって。ほら、風で飛んじゃうから早く」
促されて、ディミエルは遠慮がちにハンカチの上に座った。すぐ隣にライシスが腰かける。
風の吹き抜ける丘と、遠くに見える森を二人で見つめる。夏の日差しを浴びて、草花は輝いて見えた。
「綺麗ね」
「本当だな、いい景色だ。ディミエルの故郷って、あの森の中にあるんだよな?」
「うん。ちょうどお昼時だから、火を使ってるのが見えるね。あそこだよ」
「ああ、あれか」
空に立ち昇る煙を視界の端に捉えて指差すと、ライシスも目を眇めて眺めていた。ディミエルは彼の端正な横顔を見つめる。
(はあ、冒険者をしていた時よりも素敵な騎士服を着ていて、すごくかっこよく見えちゃうな……)
次に会ったら気持ちを伝えようと思っていたのに、今になって決意が鈍る。王子様だし、こんなにもかっこいい人相手に、自分は釣りあうのだろうかと不安になる。
不意にライシスが振り向き、視線が絡みあう。焦がれるような瞳に見つめられて、心臓がとくんと音を立てた。
「君と離れていた間、ずっと考えていたんだ」
「……何を?」
銀の髪が風になぶられて、綺麗だなと見惚れた瞬間に、唇が動いた。
「好きだよ、ディミー」
さあっと風が強く吹いて、ディミエルの三つ編みがローブの中から溢れていった。目を見開いたまま、彼から目が離せない。
「君が俺のことを好きじゃなくても、離れてどこかへ行ってしまっても、変わらず君のことを想っていた」
フードが外れて、桃色の髪が露わになる。そっと手を握られた。
「……拒絶しないってことは、まだ希望があるって考えていいのかな」
繋いだままの手から、じわりと熱が伝わってくる。フードを手で押さえることも忘れて、海色の瞳を見つめ続けた。じわりと空色の瞳が潤みだす。
(う、嬉しい……失礼な別れ方をしちゃったのに、まだ好きでいてくれたなんて)
涙が溢れだしそうな瞳をしっかりと上げて、彼を見返した。
「私……私もライシスのことを、好きでいてもいい?」
彼のくっきりとした瞳が驚きで見開かれ、じわじわと顔中に喜びが溢れていく。
「……っもちろん! 全力で歓迎する!」
ガバッと背がしなるほど抱きしめられる。勢い余って膝の上に乗せられた。
「ひゃあ!?」
「ははっ、ディミー、本当に? やった……! 俺、ディミーと両思いってことで、いいんだよな!?」
「あ、うん……そうだよ」
ぽぽぽと顔を赤らめると、頬を紅潮させたライシスは満面の笑みになる。
「そうだよな! 嬉しい……っ! 大切にする!」
「わ、私も……ライシスに釣りあうような、素敵な人になるね」
「ディミーはもう十分に素敵だって。俺が保証する」
「そうかな?」
「そうだよ!」
ディミエルを抱えたまま立ち上がったライシスは、くるくると彼女を腕に抱えて回った。急に振り回されて、ディミエルは悲鳴を上げる。
「ちょっと、やだ……! 突然何するの!」
「ごめん、嬉しすぎてさ!」
浮かれているライシスは、幸せそうな笑顔を浮かべていて、ディミエルも釣られて笑ってしまった。
「っふ、あはは!」
「ディミー、かわいい、かわいいなあ!」
「わっ、落ちる!」
「落とさないよ! しっかり捕まえてるから!」
「きゃああ!」
目が回る寸前まで喜びの舞を披露したライシスは、やっとディミエルを解放した。ふらりと足がもつれて、そのまま彼の胸に飛び込む。
「……もう、俺から離れていかないでくれよ? ディミーと会えなくて、すごく寂しかった」
「うん……っ、私も、ライシスに会いたくてたまらなかったよ」
「ディミー……大好きだ」
「私も、ライシスのことが大好き」
二人はしばらくの間抱きあって、お互いの鼓動を感じた。ライシスの爽やかな香りがして、胸いっぱいに吸い込んだ。
やっと落ち着いたらしいライシスは、危なげなくディミエルを抱きとめて座り直した。腕の中にディミエルを抱えたまま、甘い笑みを見せる。
「なあ、別れてた間のことを聞かせてくれよ」
「いいよ。ライシスの話も聞きたいな」
二人は離れていた時間を埋めるように、お互いのことを伝えあった。穏やかな風は二人を包み込むようにして、時折彼らの髪を揺らしていった。
「抜け出して大丈夫なの?」
「先程、残党狩りが終わったという報告があったんだ。部下に方針も示してきたし、必要なことは大体終わった。少しの間なら大丈夫さ」
安心させるようにぎゅっと手を握られて、自分より一回り大きな手のひらに包まれていることを実感する。ディミエルはまた、とくりと心臓を高鳴らせた。
「そ、そっか……あの、どこに行くの?」
「落ち着ける場所で話したいと思ってるんだ。そろそろ着くよ」
ライシスは森から離れて丘を登っていく。白い可憐な花が咲いている見晴らしのいい場所まで来ると、彼は足を止めた。
一本だけ生えている大きな木の影まで歩き、懐から白いハンカチを取り出して草の上に広げた。
「どうぞ、座って」
「いいの? 土がついちゃうよ」
「ディミーが汚れなければそれでいいんだって。ほら、風で飛んじゃうから早く」
促されて、ディミエルは遠慮がちにハンカチの上に座った。すぐ隣にライシスが腰かける。
風の吹き抜ける丘と、遠くに見える森を二人で見つめる。夏の日差しを浴びて、草花は輝いて見えた。
「綺麗ね」
「本当だな、いい景色だ。ディミエルの故郷って、あの森の中にあるんだよな?」
「うん。ちょうどお昼時だから、火を使ってるのが見えるね。あそこだよ」
「ああ、あれか」
空に立ち昇る煙を視界の端に捉えて指差すと、ライシスも目を眇めて眺めていた。ディミエルは彼の端正な横顔を見つめる。
(はあ、冒険者をしていた時よりも素敵な騎士服を着ていて、すごくかっこよく見えちゃうな……)
次に会ったら気持ちを伝えようと思っていたのに、今になって決意が鈍る。王子様だし、こんなにもかっこいい人相手に、自分は釣りあうのだろうかと不安になる。
不意にライシスが振り向き、視線が絡みあう。焦がれるような瞳に見つめられて、心臓がとくんと音を立てた。
「君と離れていた間、ずっと考えていたんだ」
「……何を?」
銀の髪が風になぶられて、綺麗だなと見惚れた瞬間に、唇が動いた。
「好きだよ、ディミー」
さあっと風が強く吹いて、ディミエルの三つ編みがローブの中から溢れていった。目を見開いたまま、彼から目が離せない。
「君が俺のことを好きじゃなくても、離れてどこかへ行ってしまっても、変わらず君のことを想っていた」
フードが外れて、桃色の髪が露わになる。そっと手を握られた。
「……拒絶しないってことは、まだ希望があるって考えていいのかな」
繋いだままの手から、じわりと熱が伝わってくる。フードを手で押さえることも忘れて、海色の瞳を見つめ続けた。じわりと空色の瞳が潤みだす。
(う、嬉しい……失礼な別れ方をしちゃったのに、まだ好きでいてくれたなんて)
涙が溢れだしそうな瞳をしっかりと上げて、彼を見返した。
「私……私もライシスのことを、好きでいてもいい?」
彼のくっきりとした瞳が驚きで見開かれ、じわじわと顔中に喜びが溢れていく。
「……っもちろん! 全力で歓迎する!」
ガバッと背がしなるほど抱きしめられる。勢い余って膝の上に乗せられた。
「ひゃあ!?」
「ははっ、ディミー、本当に? やった……! 俺、ディミーと両思いってことで、いいんだよな!?」
「あ、うん……そうだよ」
ぽぽぽと顔を赤らめると、頬を紅潮させたライシスは満面の笑みになる。
「そうだよな! 嬉しい……っ! 大切にする!」
「わ、私も……ライシスに釣りあうような、素敵な人になるね」
「ディミーはもう十分に素敵だって。俺が保証する」
「そうかな?」
「そうだよ!」
ディミエルを抱えたまま立ち上がったライシスは、くるくると彼女を腕に抱えて回った。急に振り回されて、ディミエルは悲鳴を上げる。
「ちょっと、やだ……! 突然何するの!」
「ごめん、嬉しすぎてさ!」
浮かれているライシスは、幸せそうな笑顔を浮かべていて、ディミエルも釣られて笑ってしまった。
「っふ、あはは!」
「ディミー、かわいい、かわいいなあ!」
「わっ、落ちる!」
「落とさないよ! しっかり捕まえてるから!」
「きゃああ!」
目が回る寸前まで喜びの舞を披露したライシスは、やっとディミエルを解放した。ふらりと足がもつれて、そのまま彼の胸に飛び込む。
「……もう、俺から離れていかないでくれよ? ディミーと会えなくて、すごく寂しかった」
「うん……っ、私も、ライシスに会いたくてたまらなかったよ」
「ディミー……大好きだ」
「私も、ライシスのことが大好き」
二人はしばらくの間抱きあって、お互いの鼓動を感じた。ライシスの爽やかな香りがして、胸いっぱいに吸い込んだ。
やっと落ち着いたらしいライシスは、危なげなくディミエルを抱きとめて座り直した。腕の中にディミエルを抱えたまま、甘い笑みを見せる。
「なあ、別れてた間のことを聞かせてくれよ」
「いいよ。ライシスの話も聞きたいな」
二人は離れていた時間を埋めるように、お互いのことを伝えあった。穏やかな風は二人を包み込むようにして、時折彼らの髪を揺らしていった。
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