20 / 40
19 半ズボンは却下で
しおりを挟む
手を握られたまま店を冷やかして回る。軽く手を引っ張って抗議してみたものの、カリオスはニコリと笑うばかりで俺の手を離そうとはしなかった。
……まあいいか、ちょっとばかし恥ずかしいんだが、嫌ってほどでもないし……
気もそぞろにカリオスに着いていくと、気になる店を見つけた。とても見覚えのある金髪翠目のイケメンさんの肖像画が置いてある。
「なあ、あれ」
「なんですか?」
「勇者カリオス様のグッズ発売中! だって。お前大人気じゃん」
「はあ」
興味のなさそうなカリオスを尻目に、俺は熱心に商品を眺めた。デフォルメされた勇者人形とか結構かわいい。いいなー。
「これ買いたい」
「目の前に本物がいるのに買う意味あります? それよりも、あのジェットなんてどうです? ミステリアスな黒い琥珀……貴方のイメージにぴったりですよ」
隣の宝飾店のディスプレイを指差すカリオスだが、宝石なんてもらっても身につけないしそれこそ意味ないって。
「そうかあ? それよりこの人形がいいな。部屋に飾ったら、カリオスとずっと一緒にいるみたいな気分になれそう」
「買いましょう」
「あ、でも待って、俺この国の貨幣持ってない。金とか宝石なら山ほどあるんだけど」
「では僕が出しますよ」
「んー……じゃあお言葉に甘えて、これだけ買ってもらうかな。他の買い物は両替してからすることにしよ」
人形をプレゼントしてもらってほくほく顔で歩いていくと、とある店の前でカリオスは足を止めた。
「ツカサ、ここに寄っていきましょう」
店の手前にはテールコートやらフリルシャツやら、お高そうでカッチリとした服が飾られている。なんだ、カリオスのやつパーティにでも出席するつもりか?
大人しく着いていくと、店員がうやうやしくカリオスを出迎える。んー、こういうセレブな雰囲気久しぶりだわ。
「いらっしゃいませ、本日はどのような物をお求めでいらっしゃいますか」
店員が声をかけると、カリオスは繋いだ手を離して、エスコートするかのように俺の腰に手を置いた。
「今日は彼の服を見せてもらいたくてね。採寸を頼む」
「かしこまりました」
店員は有名人であろうカリオスに気づいていないのか、店の奥へと採寸道具を取りにいった。
やっぱ髪の色変えただけでも印象かなり変わるからな……てか今、俺の服って言った?
こそこそと店員に聞こえないよう耳打ちする。
「ちょっとちょっと、カリオスさんや? なして勝手に人に服を買い与えようとしてるんだね?」
「着飾った貴方を一目見てみたくて。ダメですか?」
「着飾ってほしいなら、家にいくらでも衣装が埋もれてるんだけど」
高価な服はいつか使うかもと思って時間止めてるから、まだまだ着れるしそれでよくない?
もう三百年経ってることを考えると、流行りとかそういうのは外しているだろうけど。
カリオスはわかってないなと言いたげにフッと笑った。
「僕が贈った服を貴方に着せることに意味があるんです」
「ああ、そなの? そういうことなら一着だけなら受け取るよ。延々と着せ替え人形にされるのは勘弁だから」
一着だけと聞いて、カリオスは真剣な表情で店頭の品やカタログを吟味しはじめた。俺はその間に店員の手によって採寸される。
王様時代に何度か測られたことがあるから、なんら緊張などするわけもなくポケーっとカリオスを見つめているうちに、採寸が終わってた。
「なあなあ、決まった?」
「ツカサの意見も聞かせてください、こちらとこちらなら、どちらの方が好みですか?」
一つは黒を基調に金の刺繍が控えめに入ったモーニングコート、それにフリルシャツをあわせている。胸元には緑のリボンが飾られていて、ご丁寧に宝石まで飾られている。
もう一つは若草色のジレに枯れ草色のレースシャツの組み合わせだ。そしてまさかの半ズボン。
「一個目で」
「わかりました」
半ズボンはないって……ネメシアオンラインは男女問わず甲冑やドレスが着れるが、半ズボンは大体女性キャラかショタキャラユーザーが好んで愛用していた代物だ。
ジャージとか現代服なら全然着るけどさ、お坊ちゃま風半ズボンは着る人を選ぶと個人的に思っている。
俺はさすがにショタには見えないはずだ……カリオスにもそう見えてないよね? さすがのドM戦闘狂でも、ショタを口説くほど変態じゃないよね?
カリオスの変態疑惑に更に磨きがかかりそうになった訳だが、俺の選択に上機嫌なヤツを見て思いなおした。
待てよ、そもそも俺にフリフリシャツを抵抗なく着せるための罠だったのか!? この策士め、やりおる……
「なぜそんな親のカタキを見るような目をしているんですか? やはり気に入らないのであれば、別のカタログにも目を通しますが」
「……いや、いいよ。これで」
真剣に考察するのが馬鹿らしくなってきたので思考を切り上げる。カリオスがいることで毎日楽しいし、これがカリオスのお願いだというのなら変に邪推せず、素直に聞いてあげようと思った。
「なあなあ、よかったら俺もお前の服選んでいい?」
「ツカサが選んでくれるのですか? ぜひ」
カリオスは嬉しそうに頷いた。さて、せっかくだから最高に似合いそうなやつをコーディネートしたいよなー、どれがいいかなー?
「カリオスの好きな色って何色?」
「黒ですね」
「へー、意外だわ。勇者の時の鎧は白銀だったし、白とかグレーも似合いそうなんだけど」
「黒がいいです」
顔ちかっ、そんなに寄ったら俺の黒い瞳に、真剣な表情のカリオスがバッチリ写りこんでいることだろう。
「わかった、なら黒系統の中から選ぶよ」
別にカリオスの私服にそんなに黒が多かった印象はないんだが、正装は黒でカッチリ決めたいとかそういうこだわりがあんのかな?
黒は正装としてよくある色だからデザインは豊富だった。どれが似合うんだ……イケメンだから奇抜なデザインでもさらりと着こなしそう。
チラリと顔を上げると、期待に満ちた瞳が俺を見つめ返す。そ、そんなに見ないでくれますー?
「店員さーん、ちょっと質問」
最近の流行りやらなんやらを聞いてみたが、ドレスコードは三百年前とそこまで違いがないようだった。若干カジュアルになって、ネクタイとか必須じゃなくなってる。
ま、元がネメシアオンラインの世界だし、ロリータウサミミが正装でも許される世界観だったので、ドレスやスーツ系と見なされればなんでもよさそうだ。
「うーん……よし、君に決めた!」
俺は一つの服に目を留めると、ビシッと指差した。
……まあいいか、ちょっとばかし恥ずかしいんだが、嫌ってほどでもないし……
気もそぞろにカリオスに着いていくと、気になる店を見つけた。とても見覚えのある金髪翠目のイケメンさんの肖像画が置いてある。
「なあ、あれ」
「なんですか?」
「勇者カリオス様のグッズ発売中! だって。お前大人気じゃん」
「はあ」
興味のなさそうなカリオスを尻目に、俺は熱心に商品を眺めた。デフォルメされた勇者人形とか結構かわいい。いいなー。
「これ買いたい」
「目の前に本物がいるのに買う意味あります? それよりも、あのジェットなんてどうです? ミステリアスな黒い琥珀……貴方のイメージにぴったりですよ」
隣の宝飾店のディスプレイを指差すカリオスだが、宝石なんてもらっても身につけないしそれこそ意味ないって。
「そうかあ? それよりこの人形がいいな。部屋に飾ったら、カリオスとずっと一緒にいるみたいな気分になれそう」
「買いましょう」
「あ、でも待って、俺この国の貨幣持ってない。金とか宝石なら山ほどあるんだけど」
「では僕が出しますよ」
「んー……じゃあお言葉に甘えて、これだけ買ってもらうかな。他の買い物は両替してからすることにしよ」
人形をプレゼントしてもらってほくほく顔で歩いていくと、とある店の前でカリオスは足を止めた。
「ツカサ、ここに寄っていきましょう」
店の手前にはテールコートやらフリルシャツやら、お高そうでカッチリとした服が飾られている。なんだ、カリオスのやつパーティにでも出席するつもりか?
大人しく着いていくと、店員がうやうやしくカリオスを出迎える。んー、こういうセレブな雰囲気久しぶりだわ。
「いらっしゃいませ、本日はどのような物をお求めでいらっしゃいますか」
店員が声をかけると、カリオスは繋いだ手を離して、エスコートするかのように俺の腰に手を置いた。
「今日は彼の服を見せてもらいたくてね。採寸を頼む」
「かしこまりました」
店員は有名人であろうカリオスに気づいていないのか、店の奥へと採寸道具を取りにいった。
やっぱ髪の色変えただけでも印象かなり変わるからな……てか今、俺の服って言った?
こそこそと店員に聞こえないよう耳打ちする。
「ちょっとちょっと、カリオスさんや? なして勝手に人に服を買い与えようとしてるんだね?」
「着飾った貴方を一目見てみたくて。ダメですか?」
「着飾ってほしいなら、家にいくらでも衣装が埋もれてるんだけど」
高価な服はいつか使うかもと思って時間止めてるから、まだまだ着れるしそれでよくない?
もう三百年経ってることを考えると、流行りとかそういうのは外しているだろうけど。
カリオスはわかってないなと言いたげにフッと笑った。
「僕が贈った服を貴方に着せることに意味があるんです」
「ああ、そなの? そういうことなら一着だけなら受け取るよ。延々と着せ替え人形にされるのは勘弁だから」
一着だけと聞いて、カリオスは真剣な表情で店頭の品やカタログを吟味しはじめた。俺はその間に店員の手によって採寸される。
王様時代に何度か測られたことがあるから、なんら緊張などするわけもなくポケーっとカリオスを見つめているうちに、採寸が終わってた。
「なあなあ、決まった?」
「ツカサの意見も聞かせてください、こちらとこちらなら、どちらの方が好みですか?」
一つは黒を基調に金の刺繍が控えめに入ったモーニングコート、それにフリルシャツをあわせている。胸元には緑のリボンが飾られていて、ご丁寧に宝石まで飾られている。
もう一つは若草色のジレに枯れ草色のレースシャツの組み合わせだ。そしてまさかの半ズボン。
「一個目で」
「わかりました」
半ズボンはないって……ネメシアオンラインは男女問わず甲冑やドレスが着れるが、半ズボンは大体女性キャラかショタキャラユーザーが好んで愛用していた代物だ。
ジャージとか現代服なら全然着るけどさ、お坊ちゃま風半ズボンは着る人を選ぶと個人的に思っている。
俺はさすがにショタには見えないはずだ……カリオスにもそう見えてないよね? さすがのドM戦闘狂でも、ショタを口説くほど変態じゃないよね?
カリオスの変態疑惑に更に磨きがかかりそうになった訳だが、俺の選択に上機嫌なヤツを見て思いなおした。
待てよ、そもそも俺にフリフリシャツを抵抗なく着せるための罠だったのか!? この策士め、やりおる……
「なぜそんな親のカタキを見るような目をしているんですか? やはり気に入らないのであれば、別のカタログにも目を通しますが」
「……いや、いいよ。これで」
真剣に考察するのが馬鹿らしくなってきたので思考を切り上げる。カリオスがいることで毎日楽しいし、これがカリオスのお願いだというのなら変に邪推せず、素直に聞いてあげようと思った。
「なあなあ、よかったら俺もお前の服選んでいい?」
「ツカサが選んでくれるのですか? ぜひ」
カリオスは嬉しそうに頷いた。さて、せっかくだから最高に似合いそうなやつをコーディネートしたいよなー、どれがいいかなー?
「カリオスの好きな色って何色?」
「黒ですね」
「へー、意外だわ。勇者の時の鎧は白銀だったし、白とかグレーも似合いそうなんだけど」
「黒がいいです」
顔ちかっ、そんなに寄ったら俺の黒い瞳に、真剣な表情のカリオスがバッチリ写りこんでいることだろう。
「わかった、なら黒系統の中から選ぶよ」
別にカリオスの私服にそんなに黒が多かった印象はないんだが、正装は黒でカッチリ決めたいとかそういうこだわりがあんのかな?
黒は正装としてよくある色だからデザインは豊富だった。どれが似合うんだ……イケメンだから奇抜なデザインでもさらりと着こなしそう。
チラリと顔を上げると、期待に満ちた瞳が俺を見つめ返す。そ、そんなに見ないでくれますー?
「店員さーん、ちょっと質問」
最近の流行りやらなんやらを聞いてみたが、ドレスコードは三百年前とそこまで違いがないようだった。若干カジュアルになって、ネクタイとか必須じゃなくなってる。
ま、元がネメシアオンラインの世界だし、ロリータウサミミが正装でも許される世界観だったので、ドレスやスーツ系と見なされればなんでもよさそうだ。
「うーん……よし、君に決めた!」
俺は一つの服に目を留めると、ビシッと指差した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
385
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる