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30 最初から話あっておけば、こんなにこじれなかったですねえ
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彼はお茶を机に置き終えた途端に、逃がさないとばかりに俺の手を素早く握った。こわ。
「ツカサ、手取り足取り腰とりじっくりと話を聞かせてください。一体全体どうして僕と別れようなんて考えに至ったんです?」
「腰はやめてくれカリオスさんよ……その前に聞かせてほしいんだけど、なんで姫様との婚約話はダメになっちゃったの?」
あんなに囲い込みを受けてたのに、なぜに百八十度意見を変えられちゃったのか。わけがわからず納得できない。
そこんとこハッキリさせておかないと、他の相手がいるかもしれない人とおつきあいなんて無理と告げると、カリオスは愉快そうに笑いながら教えてくれた。
「では順を追って話しましょう。僕はどうにもならない強固なツカサの結界を前にして、ダークレイの居場所を突き止め相談しに行きました。ツカサは頑固だから諦めろと追い払う彼に十日間、昼も夜も場所も関係なく追いすがりました。彼は緊急時にツカサに繋がる物を持っていたようですからね」
そういやそんな話をカリオスの前でした覚えがある。そしてダークレイよ、すまんかった……俺のせいでとばっちり食ったってことだよな?
半分以上は手段を選ばないカリオスのせいかもしれないけど、結果的に彼には多大なる迷惑をかけてしまった。後でお詫びしにいこう。
「先程僕は場所も考えずにダークレイを追い回したと言いましたね。戦場は王都付近にも及びました」
「それ、王都は大丈夫だったのか?」
「建物も人も無事ですよ。街道は木っ端微塵に粉砕してしまいましたし、外壁も少々破損しましたが。王都の側では三日三晩暴れたので、トラウマを植えつけられた人はいるかもしれません」
三日三晩ドラゴンの咆哮と攻撃の余波にさらされそうになるってそれ、どんな悪夢よ。街の人確実に安眠できてないよね。
商人も商売あがったりだろうし、兵士もいつ攻撃がここまで飛んでくるかと生きた心地がしなかっただろうな。やばいねカリオス君……
「最終的にダークレイは僕の熱意に根負けし、説得することができました。あの高慢女は人間離れした能力を持つ血まみれの僕を見て、恐怖していましたね」
「そんなの見たら俺でも引く自信あるわ」
「王家はドラゴンを手懐けた……実際には手懐けたのではなく、根負けしてお願いを聞いてくれたダークレイと、僕を恐れました。魔王の再来だと認定され、僕は王都を追放されました。もはや人間の世に僕の居場所はありません。匿ってください」
「えー……マジでか」
なにやらかしちゃってんの、カリオスさんよ……俺が涙を飲んで決意してまで守ろうとしたものが、全部パアじゃん!
いやでもこれ、周り回って俺のせいなんかな? なにそれへこむわ……
それに、あっけらかんと匿ってほしいとのたまうカリオスだが、本当にそれでいいのかお前さんは。
「カリオスの家族は大丈夫なのか? 魔王の仲間だと思われて処刑されたりとか」
「心配には及びませんよ。モエストロ家は辺境に接していて、国防も担っている上に王家に対して忠誠心が高く、失くすには惜しい人材が揃っています。僕もかつては親から薦められてあの女に憧れたこともありました……今思えばあの時の僕の趣味は最悪でしたね」
自分のかつての女の趣味を嘆くフリをして、スカーレット姫をコケ下ろすカリオス。本当に姫のことが嫌いなんだな……なんであの時の俺は、カリオスは姫と結婚する方がいいって思い詰めちゃったんだろ。
ショックを受けてる時に大事な決断をしちゃダメってことだよな。何千年も生きてるのに、はじめての恋に浮かれて悲劇のヒロインぶってしまったような気がする。
なんて恥ずかしいヤツなんだ俺は。穴に埋まって窒息死したい……が、カリオスは俺の手を握りしめて離してくれそうにない。
「父も性根は腐ってますが能力は確かですし、息子を魔王に乗っ取られたと悲しんだフリをしながら、同情を買いつつ上手く立ち回るでしょう」
カリオスは皮肉げに口元を歪めた。
「それにこの十年、僕がいない前提で伯爵家は上手く成り立ってきたんです。妹と弟の話をナタリーから聞いたようですが、彼らももはや僕の力を必要としない立派な大人に成長していますから。僕としても遠くで活躍してくれていれば、それでかまいません」
カリオスは一通り語り終えると、ずいっと俺に顔を寄せた。
「さあ、次は貴方が話す番ですよツカサ。この僕を追いだそうとしたんです、きちっと話をしてくれないと納得しませんから」
「埋まりたい」
「は? なんですって?」
おっと、本音が口から滑りでてしまった。あーもうこれ、完全に俺が空回ってそのせいでカリオスを暴走させたようなもんじゃん? 引きこもらなきゃよかったわ。
うん、埋まってる場合じゃないな。ちゃんと理性ある生き物らしく、会話をするとしよう。
「……俺はカリオスが人間社会で、姫様と結婚して兄弟仲良く過ごした方がいいと思ってだな」
「人が望んでもいない幸せを押しつけないでくださいね。それで、本音は?」
カリオスは容赦しない。相変わらずぐいぐい来る。目が血走ってるよー怖いよー助けてー。目を逸らしてもカリオスが顔をのぞきこんでくる。
「よそ見しないでくださいね? 体に聞いてもいいんですよ?」
「待って、それつまりなんも聞けないのと一緒だから」
「さあほら話してください。僕から逃げようったってそうは行きませんよ。地の果てまで逃げても追いかけますからね」
カリオスなら本当にやり遂げるだろう。俺もいい加減逃げるのはやめにして、自分の弱さと向きあう時がきたようだ。
「ツカサ、手取り足取り腰とりじっくりと話を聞かせてください。一体全体どうして僕と別れようなんて考えに至ったんです?」
「腰はやめてくれカリオスさんよ……その前に聞かせてほしいんだけど、なんで姫様との婚約話はダメになっちゃったの?」
あんなに囲い込みを受けてたのに、なぜに百八十度意見を変えられちゃったのか。わけがわからず納得できない。
そこんとこハッキリさせておかないと、他の相手がいるかもしれない人とおつきあいなんて無理と告げると、カリオスは愉快そうに笑いながら教えてくれた。
「では順を追って話しましょう。僕はどうにもならない強固なツカサの結界を前にして、ダークレイの居場所を突き止め相談しに行きました。ツカサは頑固だから諦めろと追い払う彼に十日間、昼も夜も場所も関係なく追いすがりました。彼は緊急時にツカサに繋がる物を持っていたようですからね」
そういやそんな話をカリオスの前でした覚えがある。そしてダークレイよ、すまんかった……俺のせいでとばっちり食ったってことだよな?
半分以上は手段を選ばないカリオスのせいかもしれないけど、結果的に彼には多大なる迷惑をかけてしまった。後でお詫びしにいこう。
「先程僕は場所も考えずにダークレイを追い回したと言いましたね。戦場は王都付近にも及びました」
「それ、王都は大丈夫だったのか?」
「建物も人も無事ですよ。街道は木っ端微塵に粉砕してしまいましたし、外壁も少々破損しましたが。王都の側では三日三晩暴れたので、トラウマを植えつけられた人はいるかもしれません」
三日三晩ドラゴンの咆哮と攻撃の余波にさらされそうになるってそれ、どんな悪夢よ。街の人確実に安眠できてないよね。
商人も商売あがったりだろうし、兵士もいつ攻撃がここまで飛んでくるかと生きた心地がしなかっただろうな。やばいねカリオス君……
「最終的にダークレイは僕の熱意に根負けし、説得することができました。あの高慢女は人間離れした能力を持つ血まみれの僕を見て、恐怖していましたね」
「そんなの見たら俺でも引く自信あるわ」
「王家はドラゴンを手懐けた……実際には手懐けたのではなく、根負けしてお願いを聞いてくれたダークレイと、僕を恐れました。魔王の再来だと認定され、僕は王都を追放されました。もはや人間の世に僕の居場所はありません。匿ってください」
「えー……マジでか」
なにやらかしちゃってんの、カリオスさんよ……俺が涙を飲んで決意してまで守ろうとしたものが、全部パアじゃん!
いやでもこれ、周り回って俺のせいなんかな? なにそれへこむわ……
それに、あっけらかんと匿ってほしいとのたまうカリオスだが、本当にそれでいいのかお前さんは。
「カリオスの家族は大丈夫なのか? 魔王の仲間だと思われて処刑されたりとか」
「心配には及びませんよ。モエストロ家は辺境に接していて、国防も担っている上に王家に対して忠誠心が高く、失くすには惜しい人材が揃っています。僕もかつては親から薦められてあの女に憧れたこともありました……今思えばあの時の僕の趣味は最悪でしたね」
自分のかつての女の趣味を嘆くフリをして、スカーレット姫をコケ下ろすカリオス。本当に姫のことが嫌いなんだな……なんであの時の俺は、カリオスは姫と結婚する方がいいって思い詰めちゃったんだろ。
ショックを受けてる時に大事な決断をしちゃダメってことだよな。何千年も生きてるのに、はじめての恋に浮かれて悲劇のヒロインぶってしまったような気がする。
なんて恥ずかしいヤツなんだ俺は。穴に埋まって窒息死したい……が、カリオスは俺の手を握りしめて離してくれそうにない。
「父も性根は腐ってますが能力は確かですし、息子を魔王に乗っ取られたと悲しんだフリをしながら、同情を買いつつ上手く立ち回るでしょう」
カリオスは皮肉げに口元を歪めた。
「それにこの十年、僕がいない前提で伯爵家は上手く成り立ってきたんです。妹と弟の話をナタリーから聞いたようですが、彼らももはや僕の力を必要としない立派な大人に成長していますから。僕としても遠くで活躍してくれていれば、それでかまいません」
カリオスは一通り語り終えると、ずいっと俺に顔を寄せた。
「さあ、次は貴方が話す番ですよツカサ。この僕を追いだそうとしたんです、きちっと話をしてくれないと納得しませんから」
「埋まりたい」
「は? なんですって?」
おっと、本音が口から滑りでてしまった。あーもうこれ、完全に俺が空回ってそのせいでカリオスを暴走させたようなもんじゃん? 引きこもらなきゃよかったわ。
うん、埋まってる場合じゃないな。ちゃんと理性ある生き物らしく、会話をするとしよう。
「……俺はカリオスが人間社会で、姫様と結婚して兄弟仲良く過ごした方がいいと思ってだな」
「人が望んでもいない幸せを押しつけないでくださいね。それで、本音は?」
カリオスは容赦しない。相変わらずぐいぐい来る。目が血走ってるよー怖いよー助けてー。目を逸らしてもカリオスが顔をのぞきこんでくる。
「よそ見しないでくださいね? 体に聞いてもいいんですよ?」
「待って、それつまりなんも聞けないのと一緒だから」
「さあほら話してください。僕から逃げようったってそうは行きませんよ。地の果てまで逃げても追いかけますからね」
カリオスなら本当にやり遂げるだろう。俺もいい加減逃げるのはやめにして、自分の弱さと向きあう時がきたようだ。
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