ツイノベ倉庫〜1000文字程度の短編集

兎騎かなで

文字の大きさ
103 / 126

103ハイスペアルファ×平凡オメガ

しおりを挟む
僕は平凡なベータなのに、なぜかアルファの彼からめちゃくちゃに惚れられている。

「一生涯君だけを愛するよ。例え運命の番が現れたって、君のことを選ぶから」

最初は冗談だと思って流していたけれど、毎日のように口説かれてそれが何年も続くと、本気なのかなとソワソワしてくる。

「なんでそんなに俺のことを好きでいてくれるんだ?」
「僕はね、君の平凡すぎるほど平凡なところが気に入っているんだ。安心できるし癒されるから」

彼の周囲は、オメガやアルファの御曹司でいっぱいだ。

ベータのような雰囲気の人間が、珍しいというのはわかる。

でもそれだけで惚れられるなんてと、ずっと疑問に思い警戒していた。

なのに彼はそれを飛び越えるほどに魅力的で、いつしか熱意に押されてつきあうことになってしまった。

つきあってからも彼は変わらず、愛情深くベータのことを大切にしてくれる。

けれど彼ほどに素敵な人が、ずっと側にいてくれるわけがない。

ベータは一時の夢を見ているんだと自分に言い聞かせ、ビクビクしながら彼の愛情に怯えていた。

いつか終わるだろう、そのうちに飽きられる。

そう思って、すでに五年が経った。

もしかしたら、本当に一生彼は自分のことを愛し続けるのかもしれない。

臆病なベータもついに観念する。

今までビクビクと失礼な態度をとっていたけど、これからは心を入れ替えて、彼に素直に好きだと伝えようと決めた。

今日はつきあってからちょうど五年目になる。

お祝いをしようと思い立った。

彼の大好きなローストビーフ、欲しがっていた時計、華やかな飾りを施したところで、デザートを買い忘れたことに気づく。

顔に似合わず甘い物が好きなのに、一人では買えないシャイなところがあるから、どうしても用意してあげたい。

夕暮れの町に出てケーキ屋へと走った。

すると、ケーキ屋には女性と仲よさそうにケーキを選ぶ彼の姿があった。

「え」

浮気? まさか、そんなはずは。彼に限って信じられない。

頭が真っ白になって、ふらふらと家に帰った。

呆然とリビングの床にうずくまっていると、アルファが帰っくる。

「ただいま……どうしたんだ? 体調でも悪いのかっ?」
「アルファ……」

見上げた彼の手にはケーキの箱が抱えられている。

「ああ、これか? 君と一緒に食べたくて、美味しいのを同僚に選んでもらったんだ」
「同僚……」

早とちりして恥ずかしいと、ますます顔が上げられない。

いや、本当に早とちりなのか?

同僚なんて言ってるけどとっくに愛想をつかされて、彼女とつきあっているとしたら。

「なんで涙目なんだ、かわいいなあ。ほら、ご飯用意してくれたんだろ? 一緒に食べよう」

彼のにへらと笑った顔は、出会った頃と変わらずベータが好きなことが滲み出ていて。

心底安堵した。こんな臆病な自分を愛してくれているなんて、幸せだなあと胸がほっこり温かくなる。

(ああ、好きだな)

いつもは思うだけで、態度で表していた気持ちを、がんばって声に乗せてみた。

「……好き」
「え……えっ⁉︎ べべべ、ベータ? 今好きって」
「うん」
「僕もだ! 世界で一番君を愛してる!」

背がしなるほど抱きしめられて、戸惑いながらも抱き返した。

(こんなに喜んでくれるのなら、もっと早く伝えればよかった)

「好きだよ」
「くうう! かわいい!」

その日食べたご馳走は、格別に美味しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...