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104離婚から幸せになる話
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「別れてくれ」
「は? 待って、この前僕ら結婚したばかりで」
「うるさいな、すぐに離婚届にサインをしろ。チッ、顔のよさで選ぶんじゃなかった。お前の能面みたいな無表情を見てると、馬鹿にされてるみたいでイラつく。早く俺の前から消えてくれ」
オメガはアルファに浮気をされて捨てられた。
幸い頸は噛まれる前だったけれど、婚姻届は出してしまった後だ。
バツがついたオメガなんて、きっと誰も欲しがらないと絶望した。
アルファの浮気相手のベータは自分と違い、よく笑うし優し気な印象だ。
美人だけど表情に乏しく、冷たい雰囲気の自分は、アルファの理想からほど遠かったのだろう。
愛してもらえないんじゃ結婚生活を続ける意味がないと、涙を飲んで離婚届にサインをした。
一度は失敗したけれど、オメガは幸せな結婚に憧れていた。
このままの自分では誰にも愛されない。
どうにか自分を変えようと決意した。
なるべく人あたりよくにこやかに、嫌なことがあっても顔に出さないように暮らしていた。
「ああ、疲れた……」
仕事帰り、酷使した表情筋を労りながら電車に乗る。
車窓に映った自分の顔は、目の下に隈が出ていて蒼白だ。
無表情でいると余計に近づき難く見えるだろうが、もう気力は限界だ。
暗い顔のままため息をついて電車から降りる。後ろから押された拍子に、鞄の中からハンカチが転がり落ちた。
目の前で誰かの手が伸びてきて、ハンカチを拾ってくれる。
「はいこれ、落ちました……よ……」
言葉が不自然に途切れるのを訝しみ顔を上げると、ポカンと口を開けた癖毛の青年がオメガを凝視していた。
目の前の人の頬がみるみるうちに赤くなっていく。
「あっ、あの!」
「はい?」
彼はハンカチごとオメガの手を握る。
「一目惚れしました! つきあってください!」
「え、なんでですか、今の僕最高に不細工だったでしょ」
「いいえ! 綺麗です! 今まで出会った人の中で一番、綺麗です」
飾り気のない必死な言葉に、ぎゅんと心臓が反応する。
勢いに押されて連絡先を交換することに。
彼はベータらしいから、結婚相手としては見れないし、静かにフェードアウトしようと思っていた。
なのにものすごく情熱的に愛を告げられ、バツイチでも気にしないと言い張り、素の自分の素っ気なさを見せても、クールで素敵だと褒めちぎられる。
本当に? 信じられなかった。
いくら愛の言葉を囁かれても、元夫との別れが脳裏に過ぎって前に踏み出せない。
それにどうせ、顔で好かれているんだろうし……告白される度にグラグラ揺れながらも、気持ちを受け入れられずにいた。
そんなある日、オメガはベータに誘われてバーで飲んでいた時に、元夫と浮気相手に再会する。
「うわ、やなヤツに出会っちゃった。よ、顔だけオメガ」
浮気相手もオメガを見下ろす。
「すごく綺麗な人……だけどアルファは、僕を選んでくれたんだね?」
「当たり前だろ? お前の方が笑顔も性格も百倍可愛い。こんな性格ブスと結婚して、人生の時間を無駄にしたよ」
散々に言われながらも、早く立ち去ってほしくて黙っていると、ベータが立ち上がった。
「訂正してください」
「あ? なんだお前」
「オメガさんは! すごく頑張り屋で、健気で可愛くて、最高に綺麗なんです! 貴方に貶されていい人じゃない!」
本気で怒るベータを見て、元夫達は面倒臭そうに去っていく。
「気にすることありませんからね、オメガさん! アイツ、オメガさんのこと全然わかってない……って、顔が真っ赤ですよ? 大丈夫ですか、風邪でも引きましたっ?」
慌てふためくベータにときめきすぎて、返事ができなかった。
彼が見た目よりも先に性格を褒めてくれて、きっかけは一目惚れでも内面も好いてくれていると確信したらもう、止まらなかった。
彼の袖を引いて、小声で告げる。
「告白の返事、今してもいいですか」
「えっ、え!?」
彼の耳に顔を寄せて返事を囁くと、ベータはオメガに負けないくらいに真っ赤になった。
「は? 待って、この前僕ら結婚したばかりで」
「うるさいな、すぐに離婚届にサインをしろ。チッ、顔のよさで選ぶんじゃなかった。お前の能面みたいな無表情を見てると、馬鹿にされてるみたいでイラつく。早く俺の前から消えてくれ」
オメガはアルファに浮気をされて捨てられた。
幸い頸は噛まれる前だったけれど、婚姻届は出してしまった後だ。
バツがついたオメガなんて、きっと誰も欲しがらないと絶望した。
アルファの浮気相手のベータは自分と違い、よく笑うし優し気な印象だ。
美人だけど表情に乏しく、冷たい雰囲気の自分は、アルファの理想からほど遠かったのだろう。
愛してもらえないんじゃ結婚生活を続ける意味がないと、涙を飲んで離婚届にサインをした。
一度は失敗したけれど、オメガは幸せな結婚に憧れていた。
このままの自分では誰にも愛されない。
どうにか自分を変えようと決意した。
なるべく人あたりよくにこやかに、嫌なことがあっても顔に出さないように暮らしていた。
「ああ、疲れた……」
仕事帰り、酷使した表情筋を労りながら電車に乗る。
車窓に映った自分の顔は、目の下に隈が出ていて蒼白だ。
無表情でいると余計に近づき難く見えるだろうが、もう気力は限界だ。
暗い顔のままため息をついて電車から降りる。後ろから押された拍子に、鞄の中からハンカチが転がり落ちた。
目の前で誰かの手が伸びてきて、ハンカチを拾ってくれる。
「はいこれ、落ちました……よ……」
言葉が不自然に途切れるのを訝しみ顔を上げると、ポカンと口を開けた癖毛の青年がオメガを凝視していた。
目の前の人の頬がみるみるうちに赤くなっていく。
「あっ、あの!」
「はい?」
彼はハンカチごとオメガの手を握る。
「一目惚れしました! つきあってください!」
「え、なんでですか、今の僕最高に不細工だったでしょ」
「いいえ! 綺麗です! 今まで出会った人の中で一番、綺麗です」
飾り気のない必死な言葉に、ぎゅんと心臓が反応する。
勢いに押されて連絡先を交換することに。
彼はベータらしいから、結婚相手としては見れないし、静かにフェードアウトしようと思っていた。
なのにものすごく情熱的に愛を告げられ、バツイチでも気にしないと言い張り、素の自分の素っ気なさを見せても、クールで素敵だと褒めちぎられる。
本当に? 信じられなかった。
いくら愛の言葉を囁かれても、元夫との別れが脳裏に過ぎって前に踏み出せない。
それにどうせ、顔で好かれているんだろうし……告白される度にグラグラ揺れながらも、気持ちを受け入れられずにいた。
そんなある日、オメガはベータに誘われてバーで飲んでいた時に、元夫と浮気相手に再会する。
「うわ、やなヤツに出会っちゃった。よ、顔だけオメガ」
浮気相手もオメガを見下ろす。
「すごく綺麗な人……だけどアルファは、僕を選んでくれたんだね?」
「当たり前だろ? お前の方が笑顔も性格も百倍可愛い。こんな性格ブスと結婚して、人生の時間を無駄にしたよ」
散々に言われながらも、早く立ち去ってほしくて黙っていると、ベータが立ち上がった。
「訂正してください」
「あ? なんだお前」
「オメガさんは! すごく頑張り屋で、健気で可愛くて、最高に綺麗なんです! 貴方に貶されていい人じゃない!」
本気で怒るベータを見て、元夫達は面倒臭そうに去っていく。
「気にすることありませんからね、オメガさん! アイツ、オメガさんのこと全然わかってない……って、顔が真っ赤ですよ? 大丈夫ですか、風邪でも引きましたっ?」
慌てふためくベータにときめきすぎて、返事ができなかった。
彼が見た目よりも先に性格を褒めてくれて、きっかけは一目惚れでも内面も好いてくれていると確信したらもう、止まらなかった。
彼の袖を引いて、小声で告げる。
「告白の返事、今してもいいですか」
「えっ、え!?」
彼の耳に顔を寄せて返事を囁くと、ベータはオメガに負けないくらいに真っ赤になった。
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