三男のVRMMO記

七草

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6、三男、初めての生産

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「それでは、続いてSFOのチュートリアルを始めます」
「はい。…あ、すみません。俺は運営さんのことなんて呼べばいいですか?」
「ああ、失念してました。私は篠田と申します。改めて、よろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。篠田さん、とお呼びしますね」
「はい。カスミ様」
「えっと…その様ってどうにかなりませんか?どうにもむず痒くて」

頬をかきながら照れたよう言った。正直、運営さん、では呼びづらい。
運営さん、改め篠田さんはそんな俺に対して微笑んでくれた。

「分かりました。では、カスミさんと」
「はい!あ、とめちゃってすみません」
「いえ。では始めますね」
「はい。よろしくお願いします」

篠田さんが手元のプレートをいじると、俺と篠田さんの足元が光り、一瞬のうちに辺りは小屋のある草原に変わっていた。
瞬きの間だったから、全く気づかなかった。

「これは…すごいな」
「気に入って頂けたようで。これがSFOの世界です」

視界に映るのは豊な草原。風に揺れる草花と、少し遠くに見える緑の深い森。風はゆらりと髪を揺らし、草花の匂いを運んでくる。
しゃがみこんで草に触れれば、柔らかな感覚と水気を感じる。
リアリティ無しでこれなのだから、高はどれだけなのか。そんな疑問が顔に出ていたのか、篠田さんが答えてくれた。

「自然の造物に関してはリアリティの度合いは関係ありません。ただし、泥に汚れる、雨に濡れる、火を熱く感じる、などの項目はこれに該当します。カスミさんは無しですから、泥は柔らかい土のように感じ、雨は当たりますが濡れませんし、火も温かく感じます。しかし、この世界ではNPCも一人の生きた住民ですので、傘もささずに平然と雨に当たっていたり、火に腕を突っ込んでいたりしたら異常者だと思われるでしょう。やばいやつだ、と」
「そうなんですね。ありがとうございます」

やはり、最近のゲームは凄いらしい。
草の感覚を足で感じながら、篠田さんの説明を聞く。
チュートリアルは選んだ職業を体験し、ギルドなどの施設の使い方を教わり、一度NPCの簡単なお使いクエストをこなすことで終了となるらしい。
各過程で途中でチュートリアルを辞めることも可能だそうだ。
俺は全部やるがな。自慢じゃないがこの手のゲームは本当に初心者だ。
今は草原にいるが、ここでは職業体験を行い、終わり次第街へと移動する手筈らしい。

「カスミ様はテイマーと生産者ですが、テイマーの初期装備であるムチを使うための鞭術を取っていなかったので、今回はテイムをしてみましょう。生産者は全てやるには多すぎますから、今回は錬金を」
「分かりました」

装備の中に存在した革の鞭の出番はないらしいな。スキル選びの時に、俺は武道のセンスも戦闘のセンスもないことを自覚しているので、戦闘系のスキルを取らなかったのである。
とっても肥やしになりそうだったからな。

「先に錬金をしましょう。テイムは森に近づく必要がありますが、錬金はそこの小屋で行います」
「はい」

小屋の中は窓から差し込む光によって明るさが保たれており、風通しも良いのか湿気はなかった。
小屋には机や料理台、裁縫道具や離れたところには鍛冶場まで存在していた。

「こちらが錬金の道具と、材料です。今回作るのはHP治癒ポーションにしましょう。基本です」
「へえ、理科の実験道具見たいですね」
「それがベースだそうですよ。ベース、もと。使ったことのある道具の方が、やりやすいだろうと」
「心遣い、ですね。ありがたいです」

篠田さんが机をトンと叩くと、あっという間に机の上にあった裁縫道具などは消えて錬金の道具だけが残り、材料が現れた。道具は鍋、フラスコ、ビーカー、スポイト、ピンセット、大きめの乳鉢と乳棒、混ぜるために使う大きな匙、測り、まな板のような魔力版、試験管、そして2枚のレシピであった。材料は砂、薬草、水のみだった。
理科かな?

「作り方はレシピに乗っていますが、細かい 作業は自由です。やりたいようにやってみて下さい。さすがに、という行為のみ、忠告します。材料が何か知りたい場合は、鑑定、と唱えてください」
「分かりました」

まずHP治癒ポーションのレシピと書かれた紙を手にして、内容を確認してみた。必要事項に、瓶を用意すること、とあるが、この場に瓶はない。
それならばともう1枚のレシピを確認すれば、硝子瓶のレシピとあった。

「ま、やってみるか」

とりあえずレシピをもとに作成を開始した。
まず、鍋に砂を入れるらしい。この時、量は1つの瓶につき50gだそうだ。このくらい!といって入れる者が多いらしいが、普段の料理で俺は知っている。分量のミスは失敗のもとであることを。
測りを手に取り砂を少しづつのせていく。測りは薄い板のような形をしており、砂をのせるとホログラムで数字が現れる仕組みである。近未来感が凄い。

「49…50っと」

砂を測り終え、鍋へと移す。鍋の中の砂を大きく細い匙で優しくかき混ぜながら、その匙伝いにMPが注ぎ込まれるように意識する。レシピにはMPを注ぎ、錬金と唱える。とあったので、MPの量や注ぎ方は後でいろいろ試してみよう。
ぐるぐると混ぜながら、息を吸って、はっきりと、声に出す。

「錬金」

パァっと鍋の中が光、匙伝いに感じていた砂の感覚が消える。その代わり、鍋の中身は砂よりも硬く荒い粒に変化していた。
ザリザリからジャリジャリって感じだ。

「なんだろ。鑑定」

【硝子粉・・・シリカ砂を錬金することで出来た粉。ガラス製品の材料になる。丁寧に作られたため透明度が高い。希少度3】

流れで先程の砂の名前も分かってしまった。篠田さん曰く、この砂はNPCの商店で購入可能であり、ひと袋10リンだそうだ。安いのか高いのか知らないが。
出来た硝子粉を再び鍋の中で、今度は硝子粉を割らないように注意しながらMPを注ぎ、瓶をイメージしながら唱える。このイメージによって完成品が異なるらしい。
細身の硝子瓶をイメージする。

「錬金」

先程と同様に光り、鍋の中に蓋付きの硝子瓶が出来上がった。蓋はオプションだろうか。

「鑑定」

【硝子瓶・・・ポーションを入れるための瓶。丁寧に作られたため透明度が高い。希少度4】

希少度については広葉が語る中で出てきていたのだが、上限は10だそうだ。普通硝子瓶の希少度はせいぜい3、NPC作のものは2なのだが、もちろん今の俺はそんなこと知らない。
ちなみに、本来薬は陽の光に弱いものが多く、瓶も不透明なものが多いのだが、この世界では関係ないらしい。完全な余談であるが。

「次は中身かな。鑑定」

【薬草・・・苦味の強い草であり、そのまま食べても効果はない。ポーションや薬の材料になる。希少度2】

レシピ曰く、乳鉢に薬草を入れて乳棒ですり潰し、固形がなくなったら水を少量注いで再び混ぜ合わせ、水と薬草の分離がなくなった時点で瓶に入れて錬金を使うらしい。
とりあえず普段の料理の要領で薬草を洗い、水気を切って乳鉢に入れ、乳棒ですり潰し始める。草によく見られる筋を潰すようにしながら混ぜ、固形がないようにする。ゴリゴリコリコリと混ぜていくのが
楽しい作業だ。
完全にすり潰せたと感じる段階で、一度鑑定をかけてみる。

「鑑定」

【薬草(ペースト)・・・丁寧にすり潰されたペースト状の薬草。不純物も少ない。希少度3】

ペーストという文字が見えたことで安心し、乳鉢の中に水を注ぐ。この量も後で試すとしよう。
水が緑色になり、ペースト状にした薬草が見えなくなるまで続けたら、鑑定してみる。

「鑑定」

【薬草水・・・ペースト状の薬草と水が完全に混ざったもの。少量の不純物を含む。希少度3】

薬草の時点では不純物は少なかったため、水に問題があったのだろうと考えながら、瓶の中に薬草水を移していく。瓶の中を満たしたところで、瓶を手に持ち唱える。

「錬金」

手に持った薬草水入りの瓶が光り、緑色に濁っていた薬草水が透明度の高い色に変わった。
草独特の匂いも無くなり、薬の匂いに変わっている。錬金が凄い便利ということが分かった。

「鑑定」

【HP治癒ポーション(下)・・・HPの低減を治す効果のあるポーション。丁寧に作られたため透明度が高い。少量の不純物を含む。希少度5】

「瓶の希少度込みなのかな?」

先の時点ではお互いに希少度3だったのだが、合わせて錬金した事で希少度が5に上がっている。これは更に上げたいところであるのだが、後の楽しみということにしておこう。

「完成しましたか?」
「はい。大丈夫みたいです。」
「では、失礼して…鑑定」

鑑定結果は他人には見えないらしく、篠田さんの鑑定結果は見えなかった。
その代わりに、篠田さんの目には先程の鑑定結果よりも精密な内容が映っていたらしい。
提示してもらった内容は、こんな感じである。

【HP治癒ポーション(下)・・・HPの低減を治す効果のあるポーション。丁寧に作られたため透明度が高い。下級ポーションではあるが、治癒量は中級ポーションと同等である。少量の不純物を含む。希少度5】

下級が中級並。ゲーム初心者でも分かる、とんでも効果ということが。

「希少度、5…ですか。流石と言いますか、なんというか…」
「えっと…これって低いんですか?」
「まさか。むしろ高すぎますね。下級ポーションの筈なんですけどね」

生産品は本人の器用さと技能、運によるらしい。錬金は失敗も多く、上手くいっても下級ポーションの希少度はせいぜい3だそうだ。
心做しか篠田さんの目に映る俺への興味が増していった気がした。

「成功です。大成功です。おめでとうございます」
「よかった。ありがとうございます」

俺にポーションを返しながら言った篠田さんの言葉に、とりあえずはと安心して微笑んだ。

「そのポーションはストレージに閉まっておきましょう。ストレージ、と唱えるとプレートが現れるので、そこに入れてください。中身はプレートに写されますので、取り出したいときはプレートの該当部分に触れてください。」
「分かりました。えっと…ストレージ」

目の前にステータスを唱えた時のようなプレートが現れる。ストレージの中は時間が止まる設定であり、温かいものも冷たいものもそのままの状態で保存される仕様であるらしい。何それ便利。
カスミがポーションの瓶をプレートに触れされると、手の中の瓶が消えていき、代わりにプレートに表示されている枠の中にポーションのマークとHP治癒ポーション(下)の文字が追加された。

「そういえば、薬草水が余ってしまったんですけど、どうすればいいですか?」
「答えます。油を用意するので、少し混ぜて固めて、傷薬を作りましょう。オプション、ということで」
「ありがとうございます」

篠田さんが机をトンと叩くと、瞬時に机の上に油が現れた。この世界では、油は植物性か動物性かの二択らしい。今回は植物性だ。
残った薬草水に油を混ぜて、分離が無くなるようによく混ぜる。硬くなってきても練り続け、緑のクリーム状にする。
篠田さんが合わせて用意してくれた容器に移し、平らにしたところで錬金を唱えると、光が収まった頃には塗る傷薬の完成であった。
現実ではもっと色々とあるのだろうが、そこは錬金でということらしい。
やっぱり錬金すごく便利。

「容器と油、ありがとうございます」
「これもオプション、です。お気になさらず」

この傷薬、実は直ぐに使うことになるのだが、そんなことは知らない俺はそそくさとストレージへしまい込む。

「さて、続いてテイムに移ろうと思うのですが、続けてしまって大丈夫ですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「畏まりました。では、森へ行きましょう」

この世界にはどんな動物、改め魔物がいるのだろうか。
期待と不安で胸を満たしながら、俺は篠田さんの後を追った。
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