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21、三男とマリと朝食
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びっくりするくらい遅くなってしまいすみません。
ーーーーーーーー
「ん……あさ?」
カーテンの隙間から差し込む光を受けて、俺は目を覚ました。
目を開けたら一面木の天井が映ってここがどこか一瞬考えた。
ああ、ゲームの中でマリと一緒に寝たのか。
枕元では未だにマリがスピスピと鼻ちょうちんを作って泡を飛ばしながら寝ている。
たとえ現実で数分の出来事だったとしても、体感時間的にはきちんと7時間程の睡眠が取れているのだから不思議なものだ。
マリも寝てるし、起きるかまだ寝るか…。
どうしようかなと考えてたら、微かにいい匂いがしてきた。
なんだろうなと考えて、昨日の会話を思い出す。
朝食が出るのと、確かパンが美味しいって話をしたな。
「…マリも食べたいよな」
ゴロンと横を向いてマリの方を向く。
気持ちよさそうに寝ているマリを起こすのはあれなので、とりあえず俺だけ起きてマリは抱っこして連れていこう。
お腹が空いたら起きるかもしれないし。
そう決めて、俺は一度マリに顔を埋めてもふもふを堪能してから、よしっと声に出してベットから出た。
寝るために脱いでいたコートを着て、ブーツを履く。
特に必要ないのだが、未だに寝ぼけた頭をリセットするために水で顔を洗う。
正直リアリティ無しなので水で濡れることはないのだが、それでも少しだけ感じた水の冷たさは俺の意識を眠りから取り戻してくれた。
「うん。準備終わり」
現実もこのくらい身支度が早く終わればいいのになと考えながら、俺はマリを優しく抱えて部屋を出て、朝食を食べに向かう。
階段を降りて1階に行くと、朝から賑やかな声が聞こえてきた。
「あら、おはようお客さん!」
「おはようございます」
そこには俺以外の客と朝食を運んでいる昨日の人がいた。
旦那さんは厨房みたいだな。
「あ、お客さん初めてよね。ちょっと待ってちょうだいね」
そう言うとお店の人…奥さんにしよう。
奥さんは厨房に向かってアシルーと呼んだ。
すると厨房からはーいという男の子の声とパタパタという軽い足音が聞こえてきた。
厨房から姿を現したのは、奥さんに少し似ている男の子で、昨日話題にでてきた奥さんと旦那さんの息子さんだということが分かる。
「この子はアシル。私と奥にいる旦那の子なの。あ、言ってなかったけど、私はナンシー、旦那はレオルって言うの。改めてよろしくね」
「こちらこそ。俺はカスミって言います。こっちはマリ、俺のパートナーです。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく。それで、この子を呼んだのは朝食に関して説明してもらうのと、あなた達と会わせるため。私が説明してもいいんだけど、この子の成長のために協力してもらえる?」
なるほど。旦那さんじゃなくて子供の名前を呼んだ理由が分かったな。
それにやっと名前を知ることが出来た俺は、その事にほくほくしながらアシル君に挨拶するために膝をついてしゃがんだ。
「こんにちは、アシルくん。俺はカスミ、こっちはマリって言うんだ。よろしくね」
俺はさっきからずっと寝ているマリを見せながら、アシル君に話しかけた。
案の定アシル君の目はマリに釘付けだ。
マリにも直接挨拶させたかったので、マリ、と少し揺すって起こす。
ついでに鼻ちょうちんを割って起こしにかかる。
すると、マリはぴっと鳴いて目を覚まし、少し落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見てから俺の腕の中にいることに気づいたようで、一気に脱力した。
俺はそんなマリの態度に嬉しく思いながら、もう一度アシル君にマリを見せる。
「マリ、この宿の人の息子さんだよ。アシル君って言うんだ。よろしくーって」
「きゅーぴー」
マリも挨拶には慣れたもので、腕の中で小さな手を自分で振って挨拶をする。
アシル君はそんなマリの仕草に驚いたように目を開きながら、おずおずと挨拶を返してくれた。
「えっと…アシル、です。よろしくおねがいします」
「うん。よろしくね」
そう返しながらも、俺はまだまだ幼いだろうアシル君が敬語を使って挨拶したことに少し驚いた。
お母さんやお父さんの会話から覚えたのか、お店だからと教えられたのか。
どちらにせよ、頭の良い子であることは間違いなさそうだ。
だからこそ、ナンシーさんもアシル君に説明を求めたのだろう。
成長のためとはいえ、全て任せるのは少し早いのではと思っていたが、杞憂だったみたいだ。
「アシル君。俺達この宿に泊まるの初めてなんだ。だから、朝食について教えてもらえないかな」
「ぴゅ」
少し緊張している様子のアシル君に、微笑みながら俺はそう言った。
アシル君は俺とマリを交互に見て、やがて頷いてくれた。
「えっと…朝食は、ここか部屋で食べられ、ます。あと、メニューは、日がわりで…あ、お父さんかお母さんに言うと、貰えます。あとは…んと、おかわりは2回までなら自由で、食器は、そのまま戻して大丈夫、です」
アシル君は指を折りながら少しずつ言っていき、最後は言えたっとばかりに表情を明るくした。
俺はうんうんと頷いて反応を返しながら、情報を整理した。
朝食は1階に食事スペースがあるので、そこで食べるか部屋に持っていって食べるかの2択なんだな。
確かに食事スペースにいる人は結構少ない。
何人泊まっているのかは知らないが、部屋で食べてる人もいるのだろう。
メニューが日替わりなのはいい案だな。
いちいちメニューから選んでいたら作るのが大変だし、人手もいる。
お代わり自由なのはありがたい。
俺はともかくとして、マリがどれだけ食べるのか分からないし。
俺がちらりとマリを見ると、マリも俺の方を向いて、お腹空いた!と言うかのように鳴いた。
うちの子はもう限界のようだね。
「なるほど。ありがとうアシル君。あ、食器はそのままって、洗わなくてもいいの?」
「うん。あ、違った…はい。えっと、食器洗うのは、僕の仕事だから」
「そっか。分かった。教えてくれてありがとうね」
「きゅい!」
スキルに掃除もあるし、食器くらいならと思ってそう言ってみたが、アシル君のお仕事ならそれでいい。
きっとお手伝いできることが嬉しいのだろう。
僕の仕事、という言葉には、それを感じさせる力強さがあった。
俺がアシル君にお礼を言ったら、マリも一緒に言ってくれた。
昨日から分かっていたことだが、うちの子は賢い。
そしてそんな俺達を見てるアシル君は、より正確に言うならマリをずっと見ていた。
分かるよアシル君。撫でたいよね。
「マリ、アシル君に撫でさせても大丈夫か?」
「えっ?」
「ぴゅ?ぴゅー…きゅ!」
アシル君とマリが揃って驚いたような声を出したが、リリーちゃんにも撫でられてるマリは少し悩んだもののいいよと鳴いてくれた。
「ありがとう、マリ。アシル君、触ってみる?」
「あ、その…いいん、ですか?」
「マリがいいって言ったし、優しくなら大丈夫だよ」
「じゃ、じゃあ」
そろ~っと緊張した様子のアシル君が腕を伸ばし、マリの毛に触れた。
するとアシル君の緊張は一気になくなり、固まっていた表情も崩れた。
マリの柔らかい毛に小さな手を埋めたアシル君は、俺の言葉通り優しくマリに触れている。
毛並みにそってふわふわの毛が撫でられて流されていくのを見ながら、俺はアシル君のことも見ていた。
立派に説明しきったアシル君はその緊張が解けたこともあってか、出会ってから1番の笑顔を見せてくれていた。
「可愛い?」
「うん!あ…はい!」
「ふふ、いいよ。敬語じゃなくても。説明はしてもらったから、今はお仕事じゃないしね」
「ほんと!?ありがとうカスミお兄さん!」
「こちらこそ。説明ありがとう」
そう言ってからもアシル君はマリを撫で続けた。
そしてひとしきりマリを撫でて満足したらしいアシル君は、再びお仕事モードに入った。
「ずっと撫でててすみません…。えっと、朝食はどこで食べますか?」
「んー…ここでいいかな」
「きゅう」
この後はすぐこの宿屋をでる予定だし、部屋に戻っても結局二度手間だ。
それなら、ここで食べてしまった方が早い。
「分かり、ました」
そう言ったアシル君は、お母さんの元に向かっていった。
きっと伝えてくれるんだろう。
そう思ってアシル君を見ていたら、案の定だったらしく、ナンシーさんが厨房に向かっていった。
アシル君はそれを見て再びこちらに戻ってきて、席に案内してくれた。
アシル君にお礼を言って席に着いく。
アシル君は仕事があるからと厨房に戻ってしまったので、俺とマリは正直朝食が来るまで暇である。
なので、今日の予定をマリと決めることにした。
「とりあえず、この宿をでたらギルドに行こうか。その後はまた森かな。あ、でもその前にハニービーの女王様にあげる出産祝いを作りたいから、ギルドの生産所にも寄らないとね。出産したかは分からないけど、作っておいて損は無いし」
「きゅう!」
「うん。モンスターとも戦おうね。頼りにしてるよ、マリ」
「きゅきゅぅ!」
元気いっぱいのマリがテーブルに乗ってピョンピョンしてる。
どうやら戦えることが嬉しいらしい。
そんなマリを見て癒されていたら、ナンシーさんが朝食を持ってきてくれた。
考えるのをやめて、俺は目の前に置かれていく料理に視線をやる。
今日のメニューは、焼きたてのパンにごろっと野菜のポトフ、新鮮な野菜のサラダだった。
ポトフの野菜は大きめに切られて存在感を主張しているし、サラダからはみずみずしさを感じる。
何より、焼かれたパンの芳ばしい香りが食欲を刺激する。
今か今かと待っていた俺とマリにとって、その香りは刺激が強かった。
ナンシーさんがお水の入ったコップを置き、召し上がれと言ってくれた。
それを受けて俺とマリはいただきますと応え、早速朝食に手を伸ばした。
まずはパンをちぎって一口食べる。サクサクのパンは中はもちもちふわふわで、食感もそうだが小麦の甘い味と芳ばしさが絶妙だ。
ポトフは優しい味付けで、野菜の持つ甘さが際立っておりいくらでも食べられそうだ。
サラダは見た目通りの新鮮さで、野菜のみずみずしさを存分に味わうことが出来た。
マリもこの朝食にはご満悦で、結局俺とマリは2回のお代わり自由を有効活用して、心ゆくまでこの世界の食事を堪能した。
「ふ~…ごちそうさまでした」
「きゅきゅ~」
コトリと水の入っていたコップを置いて、そう口にする。
皿に欠けらも無いくらい綺麗に食べ終えたことに満足して、俺とマリはこの世界て初めての朝食を終えた。
お腹も心も満たされたことにホクホクした気分で、俺はマリを肩に乗せて食器を片付ける。
そして厨房に持っていき、食器返却のスペースと思われる場所に置いた。
厨房にはレオンさんとナンシーさん、アシル君がいて、俺に気づいたナンシーさんがこちらに来てくれた。
「あら、食べ終えたのね。どうでした?うちの朝食は」
きらきらと自信ありげな表情でナンシーさんが聞いてくる。
その質問に対しての俺とマリの答えは、決まっていたようなものだ。
「とっても美味しかったです。な、マリ」
「きゅぴ!!」
「ふふ、ありがとう!そう言って貰えて嬉しいわ」
ナンシーさんはふわりと嬉しそうに微笑んでそう言ったので、俺もつられてふふっと笑ってしまった。
マリも楽しそうにしてるし、何だか朝から幸せな気分だ。
俺は今日がとても良いものになることを予感しながら、2日目の朝を過ごしたのだった。
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「ん……あさ?」
カーテンの隙間から差し込む光を受けて、俺は目を覚ました。
目を開けたら一面木の天井が映ってここがどこか一瞬考えた。
ああ、ゲームの中でマリと一緒に寝たのか。
枕元では未だにマリがスピスピと鼻ちょうちんを作って泡を飛ばしながら寝ている。
たとえ現実で数分の出来事だったとしても、体感時間的にはきちんと7時間程の睡眠が取れているのだから不思議なものだ。
マリも寝てるし、起きるかまだ寝るか…。
どうしようかなと考えてたら、微かにいい匂いがしてきた。
なんだろうなと考えて、昨日の会話を思い出す。
朝食が出るのと、確かパンが美味しいって話をしたな。
「…マリも食べたいよな」
ゴロンと横を向いてマリの方を向く。
気持ちよさそうに寝ているマリを起こすのはあれなので、とりあえず俺だけ起きてマリは抱っこして連れていこう。
お腹が空いたら起きるかもしれないし。
そう決めて、俺は一度マリに顔を埋めてもふもふを堪能してから、よしっと声に出してベットから出た。
寝るために脱いでいたコートを着て、ブーツを履く。
特に必要ないのだが、未だに寝ぼけた頭をリセットするために水で顔を洗う。
正直リアリティ無しなので水で濡れることはないのだが、それでも少しだけ感じた水の冷たさは俺の意識を眠りから取り戻してくれた。
「うん。準備終わり」
現実もこのくらい身支度が早く終わればいいのになと考えながら、俺はマリを優しく抱えて部屋を出て、朝食を食べに向かう。
階段を降りて1階に行くと、朝から賑やかな声が聞こえてきた。
「あら、おはようお客さん!」
「おはようございます」
そこには俺以外の客と朝食を運んでいる昨日の人がいた。
旦那さんは厨房みたいだな。
「あ、お客さん初めてよね。ちょっと待ってちょうだいね」
そう言うとお店の人…奥さんにしよう。
奥さんは厨房に向かってアシルーと呼んだ。
すると厨房からはーいという男の子の声とパタパタという軽い足音が聞こえてきた。
厨房から姿を現したのは、奥さんに少し似ている男の子で、昨日話題にでてきた奥さんと旦那さんの息子さんだということが分かる。
「この子はアシル。私と奥にいる旦那の子なの。あ、言ってなかったけど、私はナンシー、旦那はレオルって言うの。改めてよろしくね」
「こちらこそ。俺はカスミって言います。こっちはマリ、俺のパートナーです。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく。それで、この子を呼んだのは朝食に関して説明してもらうのと、あなた達と会わせるため。私が説明してもいいんだけど、この子の成長のために協力してもらえる?」
なるほど。旦那さんじゃなくて子供の名前を呼んだ理由が分かったな。
それにやっと名前を知ることが出来た俺は、その事にほくほくしながらアシル君に挨拶するために膝をついてしゃがんだ。
「こんにちは、アシルくん。俺はカスミ、こっちはマリって言うんだ。よろしくね」
俺はさっきからずっと寝ているマリを見せながら、アシル君に話しかけた。
案の定アシル君の目はマリに釘付けだ。
マリにも直接挨拶させたかったので、マリ、と少し揺すって起こす。
ついでに鼻ちょうちんを割って起こしにかかる。
すると、マリはぴっと鳴いて目を覚まし、少し落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見てから俺の腕の中にいることに気づいたようで、一気に脱力した。
俺はそんなマリの態度に嬉しく思いながら、もう一度アシル君にマリを見せる。
「マリ、この宿の人の息子さんだよ。アシル君って言うんだ。よろしくーって」
「きゅーぴー」
マリも挨拶には慣れたもので、腕の中で小さな手を自分で振って挨拶をする。
アシル君はそんなマリの仕草に驚いたように目を開きながら、おずおずと挨拶を返してくれた。
「えっと…アシル、です。よろしくおねがいします」
「うん。よろしくね」
そう返しながらも、俺はまだまだ幼いだろうアシル君が敬語を使って挨拶したことに少し驚いた。
お母さんやお父さんの会話から覚えたのか、お店だからと教えられたのか。
どちらにせよ、頭の良い子であることは間違いなさそうだ。
だからこそ、ナンシーさんもアシル君に説明を求めたのだろう。
成長のためとはいえ、全て任せるのは少し早いのではと思っていたが、杞憂だったみたいだ。
「アシル君。俺達この宿に泊まるの初めてなんだ。だから、朝食について教えてもらえないかな」
「ぴゅ」
少し緊張している様子のアシル君に、微笑みながら俺はそう言った。
アシル君は俺とマリを交互に見て、やがて頷いてくれた。
「えっと…朝食は、ここか部屋で食べられ、ます。あと、メニューは、日がわりで…あ、お父さんかお母さんに言うと、貰えます。あとは…んと、おかわりは2回までなら自由で、食器は、そのまま戻して大丈夫、です」
アシル君は指を折りながら少しずつ言っていき、最後は言えたっとばかりに表情を明るくした。
俺はうんうんと頷いて反応を返しながら、情報を整理した。
朝食は1階に食事スペースがあるので、そこで食べるか部屋に持っていって食べるかの2択なんだな。
確かに食事スペースにいる人は結構少ない。
何人泊まっているのかは知らないが、部屋で食べてる人もいるのだろう。
メニューが日替わりなのはいい案だな。
いちいちメニューから選んでいたら作るのが大変だし、人手もいる。
お代わり自由なのはありがたい。
俺はともかくとして、マリがどれだけ食べるのか分からないし。
俺がちらりとマリを見ると、マリも俺の方を向いて、お腹空いた!と言うかのように鳴いた。
うちの子はもう限界のようだね。
「なるほど。ありがとうアシル君。あ、食器はそのままって、洗わなくてもいいの?」
「うん。あ、違った…はい。えっと、食器洗うのは、僕の仕事だから」
「そっか。分かった。教えてくれてありがとうね」
「きゅい!」
スキルに掃除もあるし、食器くらいならと思ってそう言ってみたが、アシル君のお仕事ならそれでいい。
きっとお手伝いできることが嬉しいのだろう。
僕の仕事、という言葉には、それを感じさせる力強さがあった。
俺がアシル君にお礼を言ったら、マリも一緒に言ってくれた。
昨日から分かっていたことだが、うちの子は賢い。
そしてそんな俺達を見てるアシル君は、より正確に言うならマリをずっと見ていた。
分かるよアシル君。撫でたいよね。
「マリ、アシル君に撫でさせても大丈夫か?」
「えっ?」
「ぴゅ?ぴゅー…きゅ!」
アシル君とマリが揃って驚いたような声を出したが、リリーちゃんにも撫でられてるマリは少し悩んだもののいいよと鳴いてくれた。
「ありがとう、マリ。アシル君、触ってみる?」
「あ、その…いいん、ですか?」
「マリがいいって言ったし、優しくなら大丈夫だよ」
「じゃ、じゃあ」
そろ~っと緊張した様子のアシル君が腕を伸ばし、マリの毛に触れた。
するとアシル君の緊張は一気になくなり、固まっていた表情も崩れた。
マリの柔らかい毛に小さな手を埋めたアシル君は、俺の言葉通り優しくマリに触れている。
毛並みにそってふわふわの毛が撫でられて流されていくのを見ながら、俺はアシル君のことも見ていた。
立派に説明しきったアシル君はその緊張が解けたこともあってか、出会ってから1番の笑顔を見せてくれていた。
「可愛い?」
「うん!あ…はい!」
「ふふ、いいよ。敬語じゃなくても。説明はしてもらったから、今はお仕事じゃないしね」
「ほんと!?ありがとうカスミお兄さん!」
「こちらこそ。説明ありがとう」
そう言ってからもアシル君はマリを撫で続けた。
そしてひとしきりマリを撫でて満足したらしいアシル君は、再びお仕事モードに入った。
「ずっと撫でててすみません…。えっと、朝食はどこで食べますか?」
「んー…ここでいいかな」
「きゅう」
この後はすぐこの宿屋をでる予定だし、部屋に戻っても結局二度手間だ。
それなら、ここで食べてしまった方が早い。
「分かり、ました」
そう言ったアシル君は、お母さんの元に向かっていった。
きっと伝えてくれるんだろう。
そう思ってアシル君を見ていたら、案の定だったらしく、ナンシーさんが厨房に向かっていった。
アシル君はそれを見て再びこちらに戻ってきて、席に案内してくれた。
アシル君にお礼を言って席に着いく。
アシル君は仕事があるからと厨房に戻ってしまったので、俺とマリは正直朝食が来るまで暇である。
なので、今日の予定をマリと決めることにした。
「とりあえず、この宿をでたらギルドに行こうか。その後はまた森かな。あ、でもその前にハニービーの女王様にあげる出産祝いを作りたいから、ギルドの生産所にも寄らないとね。出産したかは分からないけど、作っておいて損は無いし」
「きゅう!」
「うん。モンスターとも戦おうね。頼りにしてるよ、マリ」
「きゅきゅぅ!」
元気いっぱいのマリがテーブルに乗ってピョンピョンしてる。
どうやら戦えることが嬉しいらしい。
そんなマリを見て癒されていたら、ナンシーさんが朝食を持ってきてくれた。
考えるのをやめて、俺は目の前に置かれていく料理に視線をやる。
今日のメニューは、焼きたてのパンにごろっと野菜のポトフ、新鮮な野菜のサラダだった。
ポトフの野菜は大きめに切られて存在感を主張しているし、サラダからはみずみずしさを感じる。
何より、焼かれたパンの芳ばしい香りが食欲を刺激する。
今か今かと待っていた俺とマリにとって、その香りは刺激が強かった。
ナンシーさんがお水の入ったコップを置き、召し上がれと言ってくれた。
それを受けて俺とマリはいただきますと応え、早速朝食に手を伸ばした。
まずはパンをちぎって一口食べる。サクサクのパンは中はもちもちふわふわで、食感もそうだが小麦の甘い味と芳ばしさが絶妙だ。
ポトフは優しい味付けで、野菜の持つ甘さが際立っておりいくらでも食べられそうだ。
サラダは見た目通りの新鮮さで、野菜のみずみずしさを存分に味わうことが出来た。
マリもこの朝食にはご満悦で、結局俺とマリは2回のお代わり自由を有効活用して、心ゆくまでこの世界の食事を堪能した。
「ふ~…ごちそうさまでした」
「きゅきゅ~」
コトリと水の入っていたコップを置いて、そう口にする。
皿に欠けらも無いくらい綺麗に食べ終えたことに満足して、俺とマリはこの世界て初めての朝食を終えた。
お腹も心も満たされたことにホクホクした気分で、俺はマリを肩に乗せて食器を片付ける。
そして厨房に持っていき、食器返却のスペースと思われる場所に置いた。
厨房にはレオンさんとナンシーさん、アシル君がいて、俺に気づいたナンシーさんがこちらに来てくれた。
「あら、食べ終えたのね。どうでした?うちの朝食は」
きらきらと自信ありげな表情でナンシーさんが聞いてくる。
その質問に対しての俺とマリの答えは、決まっていたようなものだ。
「とっても美味しかったです。な、マリ」
「きゅぴ!!」
「ふふ、ありがとう!そう言って貰えて嬉しいわ」
ナンシーさんはふわりと嬉しそうに微笑んでそう言ったので、俺もつられてふふっと笑ってしまった。
マリも楽しそうにしてるし、何だか朝から幸せな気分だ。
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