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28、三男と牛乳
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昨日の夜に書けたので、更新出来ました(*´`*)
お待たせして申し訳ないです。
牛を鶏と同じようにノンアクティブモンスターにしました。名前はモーミルです。
安直だと思ったあなた!その通りです!
ーーーーーーーー
「次はここよ!」
「…ここって」
ハインツさんとリンダさんから別れた後、俺とナンシーさんは農家のエリアから離れたところに来ていた。
家や小屋があって、その他には広い土地が辺りに見えるところは先ほどと同じ光景なのだが、異なる点が一つ。
それは、その土地に存在するのが野菜などではなく、動物達というところだ。
辺りからはモーとかメェーとかブビーとかヒヒーンとかコケーとか、本当にたくさんの声が聞こえてくる。
動物大合唱とはこの事か。
「ここで何を買うんですか?」
「ここではモーミルの牛乳とドードリの卵、あとお肉よ。この辺りは土地がいいのかしらね。動物たちが健康に育ってくれるらしくて、その子達から取れるものも必然的に美味しくなるのよ」
「なるほど。確かに、元気な子ばかりですね」
「きゅー」
辺りを見渡して俺はそう言った。
聞こえてくる声は伸び伸びと生きていることが伝わる声だ。
声の多さに驚いてしまったけど、この場所はこれが普通なんだろうな。
マリはそこら中から聞こえてくる声に少しだけ驚いていたが、もともとが野生だったからかすぐに慣れていた。
なんだかんだで肝が据わってるよね、マリは。
最初にこの場所に来た時、多分驚いたんだと思うけど、ぴゃっと俺の首にすりついてきたのは可愛かったけど。
これを言うと拗ねそうだから、秘密にしておこう。
2日しか一緒にいないけど、なんとなくマリはカッコよくいたいんだと思う。
俺が守って欲しいって言ったこともあるんだろうけど、もともと強くなりたいと望んでいたからな。
この辺りの動物になんか負けてられないって感じなんだろうな。
そう思うと、肩の上で得意顔をしている様子のマリがすごく愛しく思えてきた。
応援したいし、手伝いたいし、支えたい。
もちろん戦闘では役に立たないから、それ以外で。
食べることはその第一歩だろうから、俺は美味しい料理を作らないとな。
そのためには、ここの場所でも美味しい食事を見つけないと。
俺は決意を新たにして、先へ進むナンシーさんを追っていく。
ナンシーさんは何度も来ているからか、動物達の声には全く驚いていないし、それどころか楽しそうにしている。
俺もこのくらい強くなりたいものだ。
そう思いながらナンシーさんの後をついて行くと、ナンシーさんは立ち止まって一人の男性に向かって声をかけた。
「こんにちは~」
その人は牛みたいなモンスターたちを相手にしていたみたいで、たくさんのそのモンスターに囲まれていた。
多分あれがモーミルなんだろうな。
モーミルの声に負けじとナンシーさんが大声で呼んだおかげで男性はこちらに気づいてくれたけど、これ普段は大丈夫なのかな?
モーミルの集団から抜け出しながら近づいてくる男性を見てそう思ったけど、モーミルたちの強さをものともしないその動きに問題ないのだということが分かった。
酪農家とは思えない肉体だ。
羨ましいというか、なんというか…。
男が憧れる体つきをしていた。兄さん達みたいな。
父さんは別格だと思うけど、この人もだいぶすごいと思う。
俺が少しだけ圧倒されていたのが伝わったのか、ナンシーさんは面白そうに笑って、男性はナンシーさんとは反対に苦笑していた。
そして、ナンシーさんと俺に向かって声をかけてくれた。
「よぉ奥さん。調達かい?こっちの子は?」
「そんなところよ。この子は今日1日限定のお手伝いさん。可愛いでしょう?」
「可愛いかどうかは分かりませんが、俺はカスミって言います。こっちはパートナーのマリです。よろしくお願いします」
「ぴ、ぴゅぅ」
俺は男性とナンシーさんのやり取りに我に返って、男性を見つめていた目をそっと外した。
見続けるのも失礼だし、何より申し訳ない。
ナンシーさんの可愛い、というのがよく分からないが、とりあえず挨拶をする。
俺から見ても男性は背が高く、太陽を背にしているせいで顔が陰っているからその表情は分からない。
俺より低い位置にいるマリも、緊張してる感じの返事を返していた。
そんな俺達の様子に苦笑したように笑った男性は、太陽から少し離れてから名前を教えてくれた。
そのおかげで男性の表情が苦笑ということもわかったし、怖い人ではないこともわかった。
「俺はダンってんだ。こんな顔してるけどよ、一応酪農家だ。ついでに養鶏」
「ダンさんですね。よろしくお願いします」
「きゅぴ!」
よろしくとは言ってくれなかった。
まだ警戒されているように感じたが、まあ当然だろう。見ず知らずの人間だしな。
俺としては、表情が分かれば怖くなんてない。
こんな顔、というのは強面っていうことだろうか?
正直それのなにがいけないのか分からない。
俺からしたら女みたいな顔よりも男らしくていいと思うんだけどな。
ないものねだりなのかもしれないし、母さんからの贈り物だから俺は今の俺でよかったと思ってるけどさ。
それでもやっぱり、憧れたりはするわけで。
父さんや兄さん達と似ていたらどうなってたかな、なんて考えることもある。
まぁそんなもしも話に意味は無いんだけど。
ダンさんの顔が怖くなんてないよなぁと色々考えていたら、ダンさんは少し驚いたように目を開いてナンシーさんの方を向いた。
「あら、この子達はうちの旦那に笑った子達よ。ダンさんの顔なんてこの子達にとっては意味無いわ」
「……え…」
まじか。
そんな声が、俯いたダンさんから聞こえた気がした。
「ダンさんね、旦那の友達なのよ。ほら、うちの旦那の顔、世間一般的にはあれでしょう…。だから、心配していたみたいなの」
「レオンさんのご友人だったんですね。友達思いの方ですね」
「ほんとにねぇ…。ほらダンさん、いつまで俯いてるの。早く牛乳と卵とお肉くださいな」
未だ俯いているダンさんに向かってナンシーさんは声をかける。
ダンさんはすこしだけあーっと唸ってから顔を上げた。
「カスミ、だったな。お前さ、あいつが怖くないのか?」
「…怖い?いえ、全然」
「あの顔だぞ?おっかねぇ傷もある。普通は怖いだろ。笑わない仏頂面の長身男だぞ?何考えてんのかわかんねぇ口下手野郎だしよ。付き合いも悪いんだぞ?そんな男のどこが怖くないんだ?」
「…怖くなんてないですよ」
「はぁ?」
ダンさんは未だに納得がいってないらしく、不思議そうな声をあげた。
そんなに変なことかな?
「レオンさんは優しいですし、それに男の顔に傷なんて勲章ものでしょう?身長は羨ましいなぁとは思いますけど、特に怖いとは思いませんよ。もちろん、ダンさんも」
「…っ」
ナンシーさんがいる前でこんなことを聞くんだ。
きっとダンさんの行動は、レオンさんだけじゃなくて、ナンシーさんも心配してのことだと思う。
こんなぽっと出の俺が大切な二人に近づいてるんだから、心配して当然だろう。
だから、ダンさんもまた、優しい人だと思った。
「ダンさん、わざとレオンさんのこと悪く言ってますよね?俺の本音を聞き出すために。ナンシーさんが本気にしたら、怒るかもしれないのに。それは、レオンさんのことも、ナンシーさんのことも、大切に思っているからやったことでしょう?だから、ダンさんは優しい人ですよ」
「きゅいきゅい」
マリもそうだーと援護射撃をしてくれた。
マリはモンスターだし、元野生だ。
そういう鼻は俺よりも聞きそうだな。
マリも分かってるもんねーと鼻を擽るように撫でていたら、ダンさんがまた俯いてふるふると震え始めた。
どうしたのかとナンシーさんを見たら、ナンシーさんも顔に手を当てて震えている。
何かやってしまっただろうか。
初対面であんな分かったふうなことを言ったから、癇に障ったのかもしれない。
「あの、ダンさん…すみません」
「…………なんで謝ってんだ?」
「だって、その…お二人が震えてるのって、俺が知ったふうに言ったからですよね。すみません。その、生意気を…」
「あー、違う違う!違うからちょっとまて!」
「え、はい!」
ダンさんは俯いたままそう言って、ナンシーさんに近づいていった。
ナンシーさんとダンさんは何事かを話したあと、二人揃ってはぁぁと大きくため息を吐いた。
そして二人は何を言われるのだろうかとビクビクしている俺に向かって顔を上げて近づいてきて、すっと腕を上げた。
叩かれる?!と思ってぎゅっと目を瞑ると、予想していた衝撃よりもかなり柔らかい感覚が頭に触れた。
え?と目を開けてちらりと上を見ると、ダンさんが大きな手のひらで俺を撫でてくれていた。
ナンシーさんの手はというと、マリを撫でているみたいで、俺の肩へと伸びていた。
「あー…悪かったな。意地悪言っちまってよ。口下手なのは俺の方だ。あいつはむしろお前の言う通り優しいやつだよ。だから、騙されねぇか心配なんだ」
嫁さんは嫁さんで時々抜けてるからなーとナンシーさんに向かって言って、ダンさんはナンシーさんにバシッと叩かれた。
痛てぇなんて声に出してるけど、その顔は楽しそうだ。
ほら、やっぱりダンさんも優しいじゃないか。
そんなことを考えてたら、いつの間にかダンさんとナンシーさんが向き合って言い合いのようなものをしていた。
「いいわけなんてしてないで、さっさとよろしくしなさい!あと、あなたうちの旦那を貶すならもっとあるでしょうが!なにあの中途半端な言い方は!」
「お前あいつの嫁さんだよな?いや、世話になりっぱなしの俺があれ以上貶してみろ?泣くぞ?俺が」
「泣きなさいよ」
「鬼かよ」
「うるさいわね。いいからほら、挨拶やり直しなさい!」
まるでコントのようなやり取りをして、ダンさんはナンシーさんに背中を押されて俺の前に立った。
まぁその時バンッなんていう痛そうな音が響いてたけど、ダンさんは全く気にしていなかった。
そして俺と向き合って、少しだけ恥ずかしそうに頬をかいてから、絞り出すように言った。
「あ、改めてだが、俺はダンだ。その、さっきは悪かった。…よろしく頼む」
「はい。改めまして、俺はカスミです。こっちはマリ。さっきのことはもういいですよ。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「ぴーきゅ!」
ダンさんは照れながら言ってくれて、そっと片手を俺の方に出てきた。
俺はその手をぎゅっと両手で握って、改めて挨拶を交わす。
ダンさんは俺が片手ではなく両手で掴み返したことに少し驚いていたけど、俺がよろしくお願いしますと言ったらふわっと優しく微笑んでくれた。
その微笑みは、レオンさんの優しい笑みとすごくよく似ていて、なんだかすごく胸が暖かくなったのを感じた。
俺とダンさんがほわほわとした空気を作っていたら、ナンシーさんが場をとりなすようにぱんっと手を叩いて声を出した。
「よし!それじゃあダンさん、牛乳と卵とお肉よ!よろしくね!」
「……空気読めよ」
「なによ。ちゃんと読んであげたでしょう?」
「…へーへー」
レオンさんとダンさんが友達ってことだったけど、俺にはナンシーさんとダンさんも友達に見えるな。
軽口を叩き合える関係みたいだしね。
「あ、カスミ。お前うちの牛乳初めてだよな。1杯飲んでくか?」
「え?!いいんですか?」
「おー。さっきの詫びだ。貰ってくれ」
「それじゃあ…ありがとうございます」
この世界での牛乳ってどんな感じなんだろう。
俺はダンさんが注文の品を取りに行っている間そんなことを考えた。
今まで、といっても2日間だが、この間に飲んだものは水と果実水だ。
どちらも美味しくて、果実水なんかは水にもかかわらず果実の甘みや酸味を確かに感じることが出来るものだったが、それ以外の飲み物が気になっていたのも事実。
こんなところで貰えるなんて、本当に連れてきてくれたナンシーさんに感謝しないとな。
俺がそう決めたとき、ちょうどダンさんは品物を持ってきていた。
そして中身の確認をしたあと、俺の前に立ってコップを差し出してくれた。
コップには白い液体が満たされていて、水よりもトロリとしているのを感じる。
見た目は完璧にリアルと同じ牛乳だ。
味はどうなのだろうか。
「ありがとうございます、ダンさん。いただきます」
俺は牛乳の入ったコップに口をつけ、くいっと傾けた。
すると、口の中には牛乳独特の甘みが広がり、しかし全くしつこくないサラリとした旨みが喉を通ったのを感じた。
なにこれすごく美味しい。
美味しいものは幸せにしてくれる、って言うのは俺が信じてるところだけど、それを今体感してる気分だ。
「ダンさん!これすっごく美味しいです!」
「ありがとよ!俺のモーミル達は最高だからな!当然だ!!」
「きゅっ!ぴゅ!」
さっきの野菜といいここの牛乳といい、美味しいものはそのまま食べても美味しいのだ。
では、これを生かすにはどんな料理をするべきだろうか。
俺は飲みたがったマリを腕に抱えてコップを傾けてやりながら、そんなことを考えていた。
美味しいものを美味しいままに食べるのも大切だけど、美味しいものをさらに美味しく食べることも大切だからね。
この牛乳の使い道もレオンさんに相談してみよう。
あとは卵とお肉か。
牛乳がこれだけ美味しいのだから、卵の味もまた格別なのだろう。
そしてこんなに美味しい食材たちを生み出せるのだから、動物達のお肉も素晴らしいものであることは分かりきったことだ。
この食材たちもさらに美味しくしたいな。
食べた人の顔が、ふにぁってとろけるみたいな。そんな幸せを感じる料理を作りたい。
マリの花が五つ飛んじゃうような、そんな料理を作りたいな。
そしてそれを、ダンさんやハインツさん、リンダさんにも食べてもらいたい。
今は夢かもしれないけど、いつか、必ず。
「カスミ、これもやるよ」
「え?……えぇ!流石に頂けませんよ!」
俺が今後の夢を考えていたら、ダンさんが3リットル程の牛乳瓶を差し出してきた。
これもさっきのお詫びのつもりだろうか。
俺としてはあんなに美味しい牛乳と出会えたことだけでプラマイプラスくらいなんだど。
しかしダンさんはこのことを言っても納得してくれなくて、俺は結局ダンさんのご好意に甘えることにした。
もちろん、今度は買いに来ることも約束した。
「今度は卵と肉も買いに来いよ。いいもん残しておいてやる」
「ありがとうございます。必ずまた来ますね」
今後の目標に一つ追加だ。
ハインツさんとリンダさんの野菜も買いたいし、ダンさんの牛乳も卵もお肉も欲しい。
その為にも依頼を頑張らないとな。
「マリ、頑張ろうな」
「きゅ?きゅぴ!」
分かっているのかどうなのかが定かでないマリだが、やる気十分の返事をしてくれたので多分分かっているのだろう。
そんなマリに癒されながら、俺はとりあえずナンシーさんの手伝いを遂行するべく品物をストレージにしまうのだった。
お待たせして申し訳ないです。
牛を鶏と同じようにノンアクティブモンスターにしました。名前はモーミルです。
安直だと思ったあなた!その通りです!
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「次はここよ!」
「…ここって」
ハインツさんとリンダさんから別れた後、俺とナンシーさんは農家のエリアから離れたところに来ていた。
家や小屋があって、その他には広い土地が辺りに見えるところは先ほどと同じ光景なのだが、異なる点が一つ。
それは、その土地に存在するのが野菜などではなく、動物達というところだ。
辺りからはモーとかメェーとかブビーとかヒヒーンとかコケーとか、本当にたくさんの声が聞こえてくる。
動物大合唱とはこの事か。
「ここで何を買うんですか?」
「ここではモーミルの牛乳とドードリの卵、あとお肉よ。この辺りは土地がいいのかしらね。動物たちが健康に育ってくれるらしくて、その子達から取れるものも必然的に美味しくなるのよ」
「なるほど。確かに、元気な子ばかりですね」
「きゅー」
辺りを見渡して俺はそう言った。
聞こえてくる声は伸び伸びと生きていることが伝わる声だ。
声の多さに驚いてしまったけど、この場所はこれが普通なんだろうな。
マリはそこら中から聞こえてくる声に少しだけ驚いていたが、もともとが野生だったからかすぐに慣れていた。
なんだかんだで肝が据わってるよね、マリは。
最初にこの場所に来た時、多分驚いたんだと思うけど、ぴゃっと俺の首にすりついてきたのは可愛かったけど。
これを言うと拗ねそうだから、秘密にしておこう。
2日しか一緒にいないけど、なんとなくマリはカッコよくいたいんだと思う。
俺が守って欲しいって言ったこともあるんだろうけど、もともと強くなりたいと望んでいたからな。
この辺りの動物になんか負けてられないって感じなんだろうな。
そう思うと、肩の上で得意顔をしている様子のマリがすごく愛しく思えてきた。
応援したいし、手伝いたいし、支えたい。
もちろん戦闘では役に立たないから、それ以外で。
食べることはその第一歩だろうから、俺は美味しい料理を作らないとな。
そのためには、ここの場所でも美味しい食事を見つけないと。
俺は決意を新たにして、先へ進むナンシーさんを追っていく。
ナンシーさんは何度も来ているからか、動物達の声には全く驚いていないし、それどころか楽しそうにしている。
俺もこのくらい強くなりたいものだ。
そう思いながらナンシーさんの後をついて行くと、ナンシーさんは立ち止まって一人の男性に向かって声をかけた。
「こんにちは~」
その人は牛みたいなモンスターたちを相手にしていたみたいで、たくさんのそのモンスターに囲まれていた。
多分あれがモーミルなんだろうな。
モーミルの声に負けじとナンシーさんが大声で呼んだおかげで男性はこちらに気づいてくれたけど、これ普段は大丈夫なのかな?
モーミルの集団から抜け出しながら近づいてくる男性を見てそう思ったけど、モーミルたちの強さをものともしないその動きに問題ないのだということが分かった。
酪農家とは思えない肉体だ。
羨ましいというか、なんというか…。
男が憧れる体つきをしていた。兄さん達みたいな。
父さんは別格だと思うけど、この人もだいぶすごいと思う。
俺が少しだけ圧倒されていたのが伝わったのか、ナンシーさんは面白そうに笑って、男性はナンシーさんとは反対に苦笑していた。
そして、ナンシーさんと俺に向かって声をかけてくれた。
「よぉ奥さん。調達かい?こっちの子は?」
「そんなところよ。この子は今日1日限定のお手伝いさん。可愛いでしょう?」
「可愛いかどうかは分かりませんが、俺はカスミって言います。こっちはパートナーのマリです。よろしくお願いします」
「ぴ、ぴゅぅ」
俺は男性とナンシーさんのやり取りに我に返って、男性を見つめていた目をそっと外した。
見続けるのも失礼だし、何より申し訳ない。
ナンシーさんの可愛い、というのがよく分からないが、とりあえず挨拶をする。
俺から見ても男性は背が高く、太陽を背にしているせいで顔が陰っているからその表情は分からない。
俺より低い位置にいるマリも、緊張してる感じの返事を返していた。
そんな俺達の様子に苦笑したように笑った男性は、太陽から少し離れてから名前を教えてくれた。
そのおかげで男性の表情が苦笑ということもわかったし、怖い人ではないこともわかった。
「俺はダンってんだ。こんな顔してるけどよ、一応酪農家だ。ついでに養鶏」
「ダンさんですね。よろしくお願いします」
「きゅぴ!」
よろしくとは言ってくれなかった。
まだ警戒されているように感じたが、まあ当然だろう。見ず知らずの人間だしな。
俺としては、表情が分かれば怖くなんてない。
こんな顔、というのは強面っていうことだろうか?
正直それのなにがいけないのか分からない。
俺からしたら女みたいな顔よりも男らしくていいと思うんだけどな。
ないものねだりなのかもしれないし、母さんからの贈り物だから俺は今の俺でよかったと思ってるけどさ。
それでもやっぱり、憧れたりはするわけで。
父さんや兄さん達と似ていたらどうなってたかな、なんて考えることもある。
まぁそんなもしも話に意味は無いんだけど。
ダンさんの顔が怖くなんてないよなぁと色々考えていたら、ダンさんは少し驚いたように目を開いてナンシーさんの方を向いた。
「あら、この子達はうちの旦那に笑った子達よ。ダンさんの顔なんてこの子達にとっては意味無いわ」
「……え…」
まじか。
そんな声が、俯いたダンさんから聞こえた気がした。
「ダンさんね、旦那の友達なのよ。ほら、うちの旦那の顔、世間一般的にはあれでしょう…。だから、心配していたみたいなの」
「レオンさんのご友人だったんですね。友達思いの方ですね」
「ほんとにねぇ…。ほらダンさん、いつまで俯いてるの。早く牛乳と卵とお肉くださいな」
未だ俯いているダンさんに向かってナンシーさんは声をかける。
ダンさんはすこしだけあーっと唸ってから顔を上げた。
「カスミ、だったな。お前さ、あいつが怖くないのか?」
「…怖い?いえ、全然」
「あの顔だぞ?おっかねぇ傷もある。普通は怖いだろ。笑わない仏頂面の長身男だぞ?何考えてんのかわかんねぇ口下手野郎だしよ。付き合いも悪いんだぞ?そんな男のどこが怖くないんだ?」
「…怖くなんてないですよ」
「はぁ?」
ダンさんは未だに納得がいってないらしく、不思議そうな声をあげた。
そんなに変なことかな?
「レオンさんは優しいですし、それに男の顔に傷なんて勲章ものでしょう?身長は羨ましいなぁとは思いますけど、特に怖いとは思いませんよ。もちろん、ダンさんも」
「…っ」
ナンシーさんがいる前でこんなことを聞くんだ。
きっとダンさんの行動は、レオンさんだけじゃなくて、ナンシーさんも心配してのことだと思う。
こんなぽっと出の俺が大切な二人に近づいてるんだから、心配して当然だろう。
だから、ダンさんもまた、優しい人だと思った。
「ダンさん、わざとレオンさんのこと悪く言ってますよね?俺の本音を聞き出すために。ナンシーさんが本気にしたら、怒るかもしれないのに。それは、レオンさんのことも、ナンシーさんのことも、大切に思っているからやったことでしょう?だから、ダンさんは優しい人ですよ」
「きゅいきゅい」
マリもそうだーと援護射撃をしてくれた。
マリはモンスターだし、元野生だ。
そういう鼻は俺よりも聞きそうだな。
マリも分かってるもんねーと鼻を擽るように撫でていたら、ダンさんがまた俯いてふるふると震え始めた。
どうしたのかとナンシーさんを見たら、ナンシーさんも顔に手を当てて震えている。
何かやってしまっただろうか。
初対面であんな分かったふうなことを言ったから、癇に障ったのかもしれない。
「あの、ダンさん…すみません」
「…………なんで謝ってんだ?」
「だって、その…お二人が震えてるのって、俺が知ったふうに言ったからですよね。すみません。その、生意気を…」
「あー、違う違う!違うからちょっとまて!」
「え、はい!」
ダンさんは俯いたままそう言って、ナンシーさんに近づいていった。
ナンシーさんとダンさんは何事かを話したあと、二人揃ってはぁぁと大きくため息を吐いた。
そして二人は何を言われるのだろうかとビクビクしている俺に向かって顔を上げて近づいてきて、すっと腕を上げた。
叩かれる?!と思ってぎゅっと目を瞑ると、予想していた衝撃よりもかなり柔らかい感覚が頭に触れた。
え?と目を開けてちらりと上を見ると、ダンさんが大きな手のひらで俺を撫でてくれていた。
ナンシーさんの手はというと、マリを撫でているみたいで、俺の肩へと伸びていた。
「あー…悪かったな。意地悪言っちまってよ。口下手なのは俺の方だ。あいつはむしろお前の言う通り優しいやつだよ。だから、騙されねぇか心配なんだ」
嫁さんは嫁さんで時々抜けてるからなーとナンシーさんに向かって言って、ダンさんはナンシーさんにバシッと叩かれた。
痛てぇなんて声に出してるけど、その顔は楽しそうだ。
ほら、やっぱりダンさんも優しいじゃないか。
そんなことを考えてたら、いつの間にかダンさんとナンシーさんが向き合って言い合いのようなものをしていた。
「いいわけなんてしてないで、さっさとよろしくしなさい!あと、あなたうちの旦那を貶すならもっとあるでしょうが!なにあの中途半端な言い方は!」
「お前あいつの嫁さんだよな?いや、世話になりっぱなしの俺があれ以上貶してみろ?泣くぞ?俺が」
「泣きなさいよ」
「鬼かよ」
「うるさいわね。いいからほら、挨拶やり直しなさい!」
まるでコントのようなやり取りをして、ダンさんはナンシーさんに背中を押されて俺の前に立った。
まぁその時バンッなんていう痛そうな音が響いてたけど、ダンさんは全く気にしていなかった。
そして俺と向き合って、少しだけ恥ずかしそうに頬をかいてから、絞り出すように言った。
「あ、改めてだが、俺はダンだ。その、さっきは悪かった。…よろしく頼む」
「はい。改めまして、俺はカスミです。こっちはマリ。さっきのことはもういいですよ。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「ぴーきゅ!」
ダンさんは照れながら言ってくれて、そっと片手を俺の方に出てきた。
俺はその手をぎゅっと両手で握って、改めて挨拶を交わす。
ダンさんは俺が片手ではなく両手で掴み返したことに少し驚いていたけど、俺がよろしくお願いしますと言ったらふわっと優しく微笑んでくれた。
その微笑みは、レオンさんの優しい笑みとすごくよく似ていて、なんだかすごく胸が暖かくなったのを感じた。
俺とダンさんがほわほわとした空気を作っていたら、ナンシーさんが場をとりなすようにぱんっと手を叩いて声を出した。
「よし!それじゃあダンさん、牛乳と卵とお肉よ!よろしくね!」
「……空気読めよ」
「なによ。ちゃんと読んであげたでしょう?」
「…へーへー」
レオンさんとダンさんが友達ってことだったけど、俺にはナンシーさんとダンさんも友達に見えるな。
軽口を叩き合える関係みたいだしね。
「あ、カスミ。お前うちの牛乳初めてだよな。1杯飲んでくか?」
「え?!いいんですか?」
「おー。さっきの詫びだ。貰ってくれ」
「それじゃあ…ありがとうございます」
この世界での牛乳ってどんな感じなんだろう。
俺はダンさんが注文の品を取りに行っている間そんなことを考えた。
今まで、といっても2日間だが、この間に飲んだものは水と果実水だ。
どちらも美味しくて、果実水なんかは水にもかかわらず果実の甘みや酸味を確かに感じることが出来るものだったが、それ以外の飲み物が気になっていたのも事実。
こんなところで貰えるなんて、本当に連れてきてくれたナンシーさんに感謝しないとな。
俺がそう決めたとき、ちょうどダンさんは品物を持ってきていた。
そして中身の確認をしたあと、俺の前に立ってコップを差し出してくれた。
コップには白い液体が満たされていて、水よりもトロリとしているのを感じる。
見た目は完璧にリアルと同じ牛乳だ。
味はどうなのだろうか。
「ありがとうございます、ダンさん。いただきます」
俺は牛乳の入ったコップに口をつけ、くいっと傾けた。
すると、口の中には牛乳独特の甘みが広がり、しかし全くしつこくないサラリとした旨みが喉を通ったのを感じた。
なにこれすごく美味しい。
美味しいものは幸せにしてくれる、って言うのは俺が信じてるところだけど、それを今体感してる気分だ。
「ダンさん!これすっごく美味しいです!」
「ありがとよ!俺のモーミル達は最高だからな!当然だ!!」
「きゅっ!ぴゅ!」
さっきの野菜といいここの牛乳といい、美味しいものはそのまま食べても美味しいのだ。
では、これを生かすにはどんな料理をするべきだろうか。
俺は飲みたがったマリを腕に抱えてコップを傾けてやりながら、そんなことを考えていた。
美味しいものを美味しいままに食べるのも大切だけど、美味しいものをさらに美味しく食べることも大切だからね。
この牛乳の使い道もレオンさんに相談してみよう。
あとは卵とお肉か。
牛乳がこれだけ美味しいのだから、卵の味もまた格別なのだろう。
そしてこんなに美味しい食材たちを生み出せるのだから、動物達のお肉も素晴らしいものであることは分かりきったことだ。
この食材たちもさらに美味しくしたいな。
食べた人の顔が、ふにぁってとろけるみたいな。そんな幸せを感じる料理を作りたい。
マリの花が五つ飛んじゃうような、そんな料理を作りたいな。
そしてそれを、ダンさんやハインツさん、リンダさんにも食べてもらいたい。
今は夢かもしれないけど、いつか、必ず。
「カスミ、これもやるよ」
「え?……えぇ!流石に頂けませんよ!」
俺が今後の夢を考えていたら、ダンさんが3リットル程の牛乳瓶を差し出してきた。
これもさっきのお詫びのつもりだろうか。
俺としてはあんなに美味しい牛乳と出会えたことだけでプラマイプラスくらいなんだど。
しかしダンさんはこのことを言っても納得してくれなくて、俺は結局ダンさんのご好意に甘えることにした。
もちろん、今度は買いに来ることも約束した。
「今度は卵と肉も買いに来いよ。いいもん残しておいてやる」
「ありがとうございます。必ずまた来ますね」
今後の目標に一つ追加だ。
ハインツさんとリンダさんの野菜も買いたいし、ダンさんの牛乳も卵もお肉も欲しい。
その為にも依頼を頑張らないとな。
「マリ、頑張ろうな」
「きゅ?きゅぴ!」
分かっているのかどうなのかが定かでないマリだが、やる気十分の返事をしてくれたので多分分かっているのだろう。
そんなマリに癒されながら、俺はとりあえずナンシーさんの手伝いを遂行するべく品物をストレージにしまうのだった。
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