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32、三男、ログアウトする
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三日ぶりでしょうか。
お待たせして申し訳ございません<(_ _)>
待っていて下さった皆様、本当にありがとうございます。
ーーーーーーーー
アシル君に腰をぎゅってされながら、ナンシーさんとレオンさんから頭を撫でられていた状況のまま少し時間が経った。
我に返って気恥ずかしくなってきたあたりだったので、一言ありがとうございますと伝えて離れてもらった。
ナンシーさんとレオンさんは恥ずかしがる俺を微笑ましそうに見ているし、アシル君は何故かキラキラした顔で見てきて、正直いたたまれない。
首に擦り寄っていてくれたマリにもありがとうと伝えて離れてもらい、なんとなく姿勢を正した。
家族の温もりが離れてしまったことは少し寂しいけど、胸に温かさが残っていてくれてるから大丈夫だ。
マリの体温のようにぽかぽかと温かいこれを、俺はきっと忘れない。
「レオンさん、ナンシーさん、アシル君、ありがとうございました」
家族だと言ってくれたことに、そう思ってくれたことに、そして温もりをくれたことに、俺はそう言った。
そうしたら、レオンさんとナンシーさんはなんてことないように笑って当然だと言ってくれた。
アシル君もにこにこと笑ってくれている。
「1日しか過ごしてなくても、知り合ったばかりでも、カスミさんはもう家族なのよ」
「…そうだな。カスミは、俺の弟子で、俺達の子供で、アシルの兄だ」
「カスミお兄さんは僕のお兄さんだよ!」
当然のように言われるこれが、どれだけ凄いことなのかなんて、考えるまでもないだろう。
でも、彼らがこう言ってくれるから。
泣いた俺のことも受け入れてくれるように笑うから。
そんなの、遠慮なんて出来るわけないじゃないか。
「何かあったら…。いえ、何も無くてもいつでも来なさい。待ってるわ」
「…美味いものを作っておく」
「大丈夫だよ、カスミお兄さん。僕が守ってあげるからね」
「あら、アシルが守るの?」
「ぴっきゅ?!」
「うん!だってカスミお兄さん、すっごく細いんだもん。絶対弱いと思うの。だから、マリと一緒に僕が守るの!」
「きゅ!きゅい!!」
涙が一瞬で引っ込んだ気がする。
マリ、そこはうんうんと頷かないでくれ。
アシル君はさっき俺の腰に抱きついた時のことを言っているのだろうか。
そこまで細くはないぞ。弱いことは否定出来ないから何も言えないが。
感動もしているし嬉しいことには変わりないのだが、ここで素直に喜んだら負けな気がするのは何故だろうか。
「確かにカスミさんは細いわ。羨ましいくらいだわ」
「…そうだな。カスミ用のレシピを考えておく」
「僕も強くなるからね!」
「あ、はは…ありがとう、ございます」
素直に喜んだら負けな気がする!!
心遣いはとても嬉しいのだ。
だけど流石に俺も男だ。強さに憧れないわけじゃない。
父さんや兄さん達のようになれたら、なんて思わないわけないのだ。
俺は見た目からして母さん似で、写真で見る母さんは武術なんて知りません、見たいな見た目だった。
多分俺はその体つきも受け継いでるのだ。
ほんの少しでも父さんの体格なり体質なりを受け継いでいれば、少しくらいなら強くなれたのだろうな。
まぁ、そんなこと言ってもしょうがないことなのだが。
とはいえ、俺が母さん似だったから家事が上手くこなせているという点があるから、結局俺はどんなに迷っても悩んでも、今の俺でよかったなんて思うんだけど。
ただ、それでも強くなりたいとは思うわけで。
「でも、俺も鍛えますからね。ちゃんと戦えるように」
「無理だと思うわ」
「…諦めも肝心だ」
「大丈夫だよ、カスミお兄さん!僕頑張るから」
「ぴーきゅ」
マリにまで言われてしまった。
確かに弱いから助けて欲しいとは言ったけど、そんな首を振りながら言わなくても。
ついでに言うなら、アシル君のが一番心に刺さった。
でも、キラキラした瞳で見つめられて否とは言えないから、結局俺は頷いてしまうんだけど。
俺が頷いたのを見て安心したらしいアシル君は、ふわぁっと大きな欠伸を一つ零した。
「あら、こんな時間なのね。もう泊まりのお客さんも来なそうだし、今日の営業はおしまいね」
「…ああ」
「カスミさん、一日お疲れ様。あなたがいてくれて助かったわ。さっきも言ったけど、また帰ってきてね」
「…今日は助かった。いつでも待ってる。」
「カスミお兄さん、また来てね…」
帰ってきてね、とナンシーさんが言ってくれたあたりで俺の涙腺はまた壊れそうだったけど、なんとか耐えたよ。
レオンさんは言葉こそ少ないが、その分だけその短い言葉に思いが込められているのを感じる。
アシル君は眠そうな声ではあるけれど、俺の方をしっかりと見て言ってくれた。
本当に、この場所に来れて、この人たちに会えて良かったと思う。
「カスミさんが帰ってしまう前に、リンク登録をしておきましょうか。いつでも連絡がとれるようにね」
「はい!」
俺はナンシーさんの提案で、ナンシーさん、レオンさん、そしてアシル君とリンク登録をした。
カードに出会いが刻まれていくこの行為を、俺は2日間の間に好きになっていたりする。
三人を除けばまだ2回しかしていないが、それでもこの世界での繋がりを感じて嬉しくなるのだ。
ナンシーさん、レオンさん、アシル君ともリンク登録が出来たことで、その繋がりが強くなった気がしてなんだか幸せな気分になる。
「ありがとうございます。本当に…俺、ここに来れて良かったです。ナンシーさんと、レオンさんと、アシル君の家族になれて、家族だって言ってもらえて、すごく幸せで、幸せすぎて、溢れちゃいそうでした」
「きゅぴっ!きゅーい!」
現実の時間を考えると、今日はここまでだ。
俺はたったの一日だけだったけど、幸せをくれたナンシーさん達に想いを込めてお礼を言う。
マリも小さな身体を全力で使ってありがとうをアピールしている。
「ええ!こちらこそ、うちに来てくれてありがとう!」
「…また来い」
「カスミ、お兄さん…またね」
少し涙ぐんでいるナンシーさんがそう言ってくれて、微笑んでくれているレオンさんと眠たいはずなのに頑張ってくれているアシル君が続けて言ってくれた。
「はい。また来ます。その時は、お土産を持ってきますね!ただいまって、言いに来ます」
「きゅぴきゅー!」
たったの一日だって、誰かは言うかもしれない。
それでも、確かに俺はナンシーさんとレオンさん、そしてアシル君の家族なんだ。
まだ心のどこかでは烏滸がましいって思ってる自分はいる。
だけど、彼らが思いをくれたから。
同じだけの、いや、それ以上の思いを返さないでどうする。
器も心も広い父さんの子供で兄さん達の弟なんだから、俺もそうありたいと願うんだ。
それに、レオンさんやナンシーさんも広い心を持ってる。
俺を息子だと言ってくれた彼らに恥じない自分でいたい。
アシル君が自慢できる兄でいたい。
そうあるためにも、俺が家族だと認めないでどうするの。
家族だと思わないのは、家族だと思ってくれた彼らに対する裏切りだ。
レオンさんは自分たちを第二の家族だと言ってくれて、俺の心を救ってくれた。
それに応えたいと思った。
リンク登録で連絡も取りやすくなったし、いつでも話せるようになった。
もし彼らが助けを求めてきたら、どんなことでも駆けつけよう。
力になれなくても、それでもそばにいよう。
「ナンシーさんも、レオンさんも、アシル君も、いつでも俺を呼んでください。駆けつけますから」
「きゅ!」
まだまだ俺は弱いし、出来ることも少ない。
だから努力しよう。
家の家事を覚えたように、また頑張ればいい。
マリと一緒に強くなろう。
そんな俺の気持ちが通じたのか、マリは俺の頬に自分の頬を擦り寄せてくれた。
俺とマリがそうしていると、ナンシーさんとレオンさんはふっと笑って応えてくれた。
「あら、ならまた荷物持ちでも頼みたいわね!それで、また一緒に夕食を食べましょう!」
「…また料理を教えよう」
「いっしょに…そうじ、しよ…」
なんでもないことでも呼んでくれて、頼りにしてくれて、弟子であることも忘れないでいてくれて、一緒にと言ってくれる三人に対する好感度が跳ね上がり中だ。
多分上限はないと思う。
そんな好感度上昇中だが、アシル君がそろそろ限界みたいなので、ここでお別れだ。
直ぐにまた会えるのかもしれないけど、それは俺の体感時間だ。
この世界の時間は現実の何倍も早いスピードで進み続ける。
彼らが成長するのかなんて分からないし、どれだけリアルなのかも分からない。
だけど、俺が久しぶりと思う時間と彼らがそう思う時間は違うのかもしれないから。
別れを惜しむ気持ちだって、間違ってないと思うんだ。
「…そろそろ、行きますね。本当に、お世話になりました」
「きゅい」
宿屋の入口を出て、振り向いて頭を下げる。
「こちらこそ、新しい息子ができて嬉しいわ。またいらっしゃいね」
「…まだ教えていないことがあるからな」
「…カスミ、おにぃさん…また…」
最後まで、幸せが溢れて止まらない気持ちにさせてくれる人達だな。
勝手に笑みがこぼれるのは、今日で何回目だろうか。
「はい。何回でも来ます。…行ってきます」
「ぴきゅー」
さようならは少し違うと思ったから、ただいまを言うための行ってきますだ。
またここに来ることを心に決めて、手を振って言った。
そうしたらナンシーさんとレオンさんは嬉しそうに笑って、行ってらっしゃいと言ってくれた。
アシル君も半分眠りながらでも手を振ってくれて、また胸に温かさが積もっていく。
アシル君を支えながら、ナンシーさんとレオンさんは俺が見えなくなるまでずっと手を振ってくれて、俺とマリも三人の姿が見えなくなるまで何度も振り返って手を振った。
「…また来ような、マリ」
「きゅい!」
胸の温かさは無くならない。
現実に帰っても、きっとこのままだ。
俺はいつか広葉に聞いたログアウト方法を思い出しながら、別れたばかりの彼らのことを考えていた。
現実に戻ったら、今度は俺から広葉に語ろう。
楽しくて、嬉しくて、幸せな時間を過ごせたことを。
お前の言っていた通り、この世界は最高だったと伝えよう。
そんなことを考えながら、俺は一番最初にいた噴水広場に来て、空いていたベンチに座った。
ちなみに、ログアウトは街中ならどこでも出来るのだが、この噴水広場が一番大きく安全なため、ここでのログアウトが推奨されているらしい。
ベンチに座ったのはなんとなくだ。
宿屋でログアウトも出来るのだが、その間のこの世界で経過した日にち分の料金は払わなければいけないため、この手段をとる人はいない。
出来ていたら俺はあそこにいたままなんだよな。
そう考えながら、俺はマリを肩から降ろして膝の上に置いた。
「さて、マリ。昨日と今日、ありがとう」
「きゅぴ!」
思えば、パートナーになってくれたマリには助けられてばかりだった。
俺のレベルが上がったのもマリが戦ってくれたおかげだ。
次に来た時、もっともっと美味しいものを作ってあげないとな。
「おやすみ、マリ。またね」
「きゅ…きゅぅ」
俺がそう言うと、マリは眠たげな声を出しながら青いホログラムになって消えていった。
これでマリは休憩モードになり、次に俺がこの世界に来た時に声をかけることで再び活動モードになるという事なのだろう。
青いホログラムに少し寂しさを感じたが、次に会える時を考えて切り替える。
「さ、俺も戻ろう」
俺は広葉に何から話すかを考えながら、ステータス画面のログアウトボタンを押した。
そんな中で、俺は広葉とリンク登録をしていないことを思い出したのだが、すでに意識は離れていた。
お待たせして申し訳ございません<(_ _)>
待っていて下さった皆様、本当にありがとうございます。
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アシル君に腰をぎゅってされながら、ナンシーさんとレオンさんから頭を撫でられていた状況のまま少し時間が経った。
我に返って気恥ずかしくなってきたあたりだったので、一言ありがとうございますと伝えて離れてもらった。
ナンシーさんとレオンさんは恥ずかしがる俺を微笑ましそうに見ているし、アシル君は何故かキラキラした顔で見てきて、正直いたたまれない。
首に擦り寄っていてくれたマリにもありがとうと伝えて離れてもらい、なんとなく姿勢を正した。
家族の温もりが離れてしまったことは少し寂しいけど、胸に温かさが残っていてくれてるから大丈夫だ。
マリの体温のようにぽかぽかと温かいこれを、俺はきっと忘れない。
「レオンさん、ナンシーさん、アシル君、ありがとうございました」
家族だと言ってくれたことに、そう思ってくれたことに、そして温もりをくれたことに、俺はそう言った。
そうしたら、レオンさんとナンシーさんはなんてことないように笑って当然だと言ってくれた。
アシル君もにこにこと笑ってくれている。
「1日しか過ごしてなくても、知り合ったばかりでも、カスミさんはもう家族なのよ」
「…そうだな。カスミは、俺の弟子で、俺達の子供で、アシルの兄だ」
「カスミお兄さんは僕のお兄さんだよ!」
当然のように言われるこれが、どれだけ凄いことなのかなんて、考えるまでもないだろう。
でも、彼らがこう言ってくれるから。
泣いた俺のことも受け入れてくれるように笑うから。
そんなの、遠慮なんて出来るわけないじゃないか。
「何かあったら…。いえ、何も無くてもいつでも来なさい。待ってるわ」
「…美味いものを作っておく」
「大丈夫だよ、カスミお兄さん。僕が守ってあげるからね」
「あら、アシルが守るの?」
「ぴっきゅ?!」
「うん!だってカスミお兄さん、すっごく細いんだもん。絶対弱いと思うの。だから、マリと一緒に僕が守るの!」
「きゅ!きゅい!!」
涙が一瞬で引っ込んだ気がする。
マリ、そこはうんうんと頷かないでくれ。
アシル君はさっき俺の腰に抱きついた時のことを言っているのだろうか。
そこまで細くはないぞ。弱いことは否定出来ないから何も言えないが。
感動もしているし嬉しいことには変わりないのだが、ここで素直に喜んだら負けな気がするのは何故だろうか。
「確かにカスミさんは細いわ。羨ましいくらいだわ」
「…そうだな。カスミ用のレシピを考えておく」
「僕も強くなるからね!」
「あ、はは…ありがとう、ございます」
素直に喜んだら負けな気がする!!
心遣いはとても嬉しいのだ。
だけど流石に俺も男だ。強さに憧れないわけじゃない。
父さんや兄さん達のようになれたら、なんて思わないわけないのだ。
俺は見た目からして母さん似で、写真で見る母さんは武術なんて知りません、見たいな見た目だった。
多分俺はその体つきも受け継いでるのだ。
ほんの少しでも父さんの体格なり体質なりを受け継いでいれば、少しくらいなら強くなれたのだろうな。
まぁ、そんなこと言ってもしょうがないことなのだが。
とはいえ、俺が母さん似だったから家事が上手くこなせているという点があるから、結局俺はどんなに迷っても悩んでも、今の俺でよかったなんて思うんだけど。
ただ、それでも強くなりたいとは思うわけで。
「でも、俺も鍛えますからね。ちゃんと戦えるように」
「無理だと思うわ」
「…諦めも肝心だ」
「大丈夫だよ、カスミお兄さん!僕頑張るから」
「ぴーきゅ」
マリにまで言われてしまった。
確かに弱いから助けて欲しいとは言ったけど、そんな首を振りながら言わなくても。
ついでに言うなら、アシル君のが一番心に刺さった。
でも、キラキラした瞳で見つめられて否とは言えないから、結局俺は頷いてしまうんだけど。
俺が頷いたのを見て安心したらしいアシル君は、ふわぁっと大きな欠伸を一つ零した。
「あら、こんな時間なのね。もう泊まりのお客さんも来なそうだし、今日の営業はおしまいね」
「…ああ」
「カスミさん、一日お疲れ様。あなたがいてくれて助かったわ。さっきも言ったけど、また帰ってきてね」
「…今日は助かった。いつでも待ってる。」
「カスミお兄さん、また来てね…」
帰ってきてね、とナンシーさんが言ってくれたあたりで俺の涙腺はまた壊れそうだったけど、なんとか耐えたよ。
レオンさんは言葉こそ少ないが、その分だけその短い言葉に思いが込められているのを感じる。
アシル君は眠そうな声ではあるけれど、俺の方をしっかりと見て言ってくれた。
本当に、この場所に来れて、この人たちに会えて良かったと思う。
「カスミさんが帰ってしまう前に、リンク登録をしておきましょうか。いつでも連絡がとれるようにね」
「はい!」
俺はナンシーさんの提案で、ナンシーさん、レオンさん、そしてアシル君とリンク登録をした。
カードに出会いが刻まれていくこの行為を、俺は2日間の間に好きになっていたりする。
三人を除けばまだ2回しかしていないが、それでもこの世界での繋がりを感じて嬉しくなるのだ。
ナンシーさん、レオンさん、アシル君ともリンク登録が出来たことで、その繋がりが強くなった気がしてなんだか幸せな気分になる。
「ありがとうございます。本当に…俺、ここに来れて良かったです。ナンシーさんと、レオンさんと、アシル君の家族になれて、家族だって言ってもらえて、すごく幸せで、幸せすぎて、溢れちゃいそうでした」
「きゅぴっ!きゅーい!」
現実の時間を考えると、今日はここまでだ。
俺はたったの一日だけだったけど、幸せをくれたナンシーさん達に想いを込めてお礼を言う。
マリも小さな身体を全力で使ってありがとうをアピールしている。
「ええ!こちらこそ、うちに来てくれてありがとう!」
「…また来い」
「カスミ、お兄さん…またね」
少し涙ぐんでいるナンシーさんがそう言ってくれて、微笑んでくれているレオンさんと眠たいはずなのに頑張ってくれているアシル君が続けて言ってくれた。
「はい。また来ます。その時は、お土産を持ってきますね!ただいまって、言いに来ます」
「きゅぴきゅー!」
たったの一日だって、誰かは言うかもしれない。
それでも、確かに俺はナンシーさんとレオンさん、そしてアシル君の家族なんだ。
まだ心のどこかでは烏滸がましいって思ってる自分はいる。
だけど、彼らが思いをくれたから。
同じだけの、いや、それ以上の思いを返さないでどうする。
器も心も広い父さんの子供で兄さん達の弟なんだから、俺もそうありたいと願うんだ。
それに、レオンさんやナンシーさんも広い心を持ってる。
俺を息子だと言ってくれた彼らに恥じない自分でいたい。
アシル君が自慢できる兄でいたい。
そうあるためにも、俺が家族だと認めないでどうするの。
家族だと思わないのは、家族だと思ってくれた彼らに対する裏切りだ。
レオンさんは自分たちを第二の家族だと言ってくれて、俺の心を救ってくれた。
それに応えたいと思った。
リンク登録で連絡も取りやすくなったし、いつでも話せるようになった。
もし彼らが助けを求めてきたら、どんなことでも駆けつけよう。
力になれなくても、それでもそばにいよう。
「ナンシーさんも、レオンさんも、アシル君も、いつでも俺を呼んでください。駆けつけますから」
「きゅ!」
まだまだ俺は弱いし、出来ることも少ない。
だから努力しよう。
家の家事を覚えたように、また頑張ればいい。
マリと一緒に強くなろう。
そんな俺の気持ちが通じたのか、マリは俺の頬に自分の頬を擦り寄せてくれた。
俺とマリがそうしていると、ナンシーさんとレオンさんはふっと笑って応えてくれた。
「あら、ならまた荷物持ちでも頼みたいわね!それで、また一緒に夕食を食べましょう!」
「…また料理を教えよう」
「いっしょに…そうじ、しよ…」
なんでもないことでも呼んでくれて、頼りにしてくれて、弟子であることも忘れないでいてくれて、一緒にと言ってくれる三人に対する好感度が跳ね上がり中だ。
多分上限はないと思う。
そんな好感度上昇中だが、アシル君がそろそろ限界みたいなので、ここでお別れだ。
直ぐにまた会えるのかもしれないけど、それは俺の体感時間だ。
この世界の時間は現実の何倍も早いスピードで進み続ける。
彼らが成長するのかなんて分からないし、どれだけリアルなのかも分からない。
だけど、俺が久しぶりと思う時間と彼らがそう思う時間は違うのかもしれないから。
別れを惜しむ気持ちだって、間違ってないと思うんだ。
「…そろそろ、行きますね。本当に、お世話になりました」
「きゅい」
宿屋の入口を出て、振り向いて頭を下げる。
「こちらこそ、新しい息子ができて嬉しいわ。またいらっしゃいね」
「…まだ教えていないことがあるからな」
「…カスミ、おにぃさん…また…」
最後まで、幸せが溢れて止まらない気持ちにさせてくれる人達だな。
勝手に笑みがこぼれるのは、今日で何回目だろうか。
「はい。何回でも来ます。…行ってきます」
「ぴきゅー」
さようならは少し違うと思ったから、ただいまを言うための行ってきますだ。
またここに来ることを心に決めて、手を振って言った。
そうしたらナンシーさんとレオンさんは嬉しそうに笑って、行ってらっしゃいと言ってくれた。
アシル君も半分眠りながらでも手を振ってくれて、また胸に温かさが積もっていく。
アシル君を支えながら、ナンシーさんとレオンさんは俺が見えなくなるまでずっと手を振ってくれて、俺とマリも三人の姿が見えなくなるまで何度も振り返って手を振った。
「…また来ような、マリ」
「きゅい!」
胸の温かさは無くならない。
現実に帰っても、きっとこのままだ。
俺はいつか広葉に聞いたログアウト方法を思い出しながら、別れたばかりの彼らのことを考えていた。
現実に戻ったら、今度は俺から広葉に語ろう。
楽しくて、嬉しくて、幸せな時間を過ごせたことを。
お前の言っていた通り、この世界は最高だったと伝えよう。
そんなことを考えながら、俺は一番最初にいた噴水広場に来て、空いていたベンチに座った。
ちなみに、ログアウトは街中ならどこでも出来るのだが、この噴水広場が一番大きく安全なため、ここでのログアウトが推奨されているらしい。
ベンチに座ったのはなんとなくだ。
宿屋でログアウトも出来るのだが、その間のこの世界で経過した日にち分の料金は払わなければいけないため、この手段をとる人はいない。
出来ていたら俺はあそこにいたままなんだよな。
そう考えながら、俺はマリを肩から降ろして膝の上に置いた。
「さて、マリ。昨日と今日、ありがとう」
「きゅぴ!」
思えば、パートナーになってくれたマリには助けられてばかりだった。
俺のレベルが上がったのもマリが戦ってくれたおかげだ。
次に来た時、もっともっと美味しいものを作ってあげないとな。
「おやすみ、マリ。またね」
「きゅ…きゅぅ」
俺がそう言うと、マリは眠たげな声を出しながら青いホログラムになって消えていった。
これでマリは休憩モードになり、次に俺がこの世界に来た時に声をかけることで再び活動モードになるという事なのだろう。
青いホログラムに少し寂しさを感じたが、次に会える時を考えて切り替える。
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<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
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