三男のVRMMO記

七草

文字の大きさ
37 / 40

31、三男と家族

しおりを挟む
昨日出す予定だったんですけど、難産すぎて間に合いませんでした。
すみません(´;ω;)
まとまりがないですけどなんとか終わったので、投稿します。
今回シリアス?です。


ーーーーーーーー



「…ご馳走様でした」
「ご馳走様でした。美味しかったわ」
「ごちそうさまでした!」
「ご馳走様でした」
「ぴきゅーきゅい」

そう言って夕食を終えた俺たちは、そのままその場の片付けをはじめた。
ナンシーさんは受付で今日の泊まりのお客さんを待つらしいから、片付けは俺とレオンさん、アシル君で行う。
マリを肩に乗せてから、食器を俺とレオンさんで厨房に戻し、その場で洗ってしまう。
その間アシル君は机を拭いてくれて、形も元通りに直してくれていた。
これが終わったらアシル君の今日のお仕事は終わりだそうで、ナンシーさんのそばに寄っていくのが見えた。
アシル君はナンシーさんの腰のあたりに抱きついていて、ナンシーさんはそんなアシル君の頭を撫でながら優しそうに微笑んでいた。
アシル君を心から愛していることが伝わる、そんな微笑みだった。
そんな光景は俺にとっては眩しいものだったけど、ずっと見ていたいようなものでもあった。
その時、俺がずっと見ていたからかレオンさんが声をかけてくれた。

「…どうした?」
「あ、えっと」
「…ああ、アシルか」
「…はい。優しい光景だなぁって、少し」

少しだけ、ほんの少しだけ羨ましく思った。
なんて、言えるはずもなかったので誤魔化したけど。
それでもレオンさんはそんな俺の状態に何か思ったのか、それとも分かったのか。
おもむろにふわっと優しく頭を撫でてくれた。
なんだか、今日は撫でられてばかりだな。

「あ、の?」
「………カスミも、もう家族だ」
「ーーー!」
「…俺の弟子で、俺とナンシーの子供で、アシルの兄だ」
「……あ」
「…俺は、そう思っていた」

お前は?と聞かれた気がした。
父さんや兄さん達に不満はない。
むしろ、俺の父さんや兄さんであるには立派すぎる人達だと思う。
周りの人にも不満はない。
広葉という頼りになる幼馴染がいて、俺は充実しているのだ。
言ったら調子に乗るだろうから言ってやらないけど。
だけど、そんな現実に思うところが何も無いのか、と問われると、はいと言えない自分もいるんだ。
広葉には優しいお母さんがいて、外を歩けば母親と手を繋ぐ子供がいて。
時に褒めて、時に叱っている家族が目にとまるたび、心のどこかで思ってしまうんだ。
いいなぁと。
隣の芝生は青いなんてよく言ったもので、母さんがいないのが時々酷く虚しくなる。
もちろん、俺よりも父さんや兄さん達の方がこの思いは強いだろうから、俺は絶対にこれを言ってはいけないのだけれど。
そんな思いが、広葉にだって言っていない思いが、この家族の温かさで溢れてしまいそうになった。
そして、レオンさんの優しさと思いに触れて、結局溢れてしまった。
レオンさんが俺を見て少し慌てているのがぼやけた視界に写ったけど、どうにも止められそうにない。
レオンさんの思いが嬉しくて、申し訳なくて、それでも父さんや兄さん達を諦められなくて、そんな自分が情けなくて、烏滸がましいと思ってしまって。
感情がごちゃ混ぜになってるのが分かる。
どの気持ちで泣いているのかも分からないくらいだ。
でも、一番大きい気持ちだけは分かる。
今日で何度も経験した。胸が暖かくなって、勝手に顔が綻ぶこの気持ち。
嬉しくて、喜びでいっぱいで、幸せな気持ち。
申し訳なさだってあるし、こんな自分でいいのかという思いもあるけど、それでもやっぱり嬉しくてたまらない。
泣き笑い見たいな表情になってると思うけど、こればかりはどうしようもない。
なんだか涙が零れたことで開き直ってる気がするな。
そんな自分に苦笑してしまって、さらに複雑な顔になったかもしれない。
でもレオンさんは最初に少しだけ慌てただけで、直ぐに仕方ないなって顔でずっと頭を撫でていてくれた。
迷子を導くような優しい手が差し出された気分だ。
俺の涙は、そんな手を離さない為に流れたのかもしれないな。
そう思ったら、素直すぎる自分の身体に面白くなってもきた。
もう訳が分からないや。

「…理由は聞かない。今は泣けばいい」
「…ありがとう、ございます」

マリも慰めるように首にすりついてくれて、レオンさんに撫でられている頭とマリにすりつかれている首から暖かさが伝わってくる。
もう俺には、この世界がゲームで、この人たちがAIだなんて思えなくなっていた。
彼らはここで生きている。
そうじゃなかったら、俺はきっと泣いてないし、幸せにもなってないよ。
俺は止まらない涙をそのままに、レオンさんの顔を見る。

「…家族って、思っていい…ですか」
「…当たり前だ」
「ふ、ふふ。…ありがとうございます」

俺がそうお礼を言ったら、レオンさんはハァっと息を吐いて仕方ない子を見るような顔をしてから、微笑んで、再び当たり前だと言ってくれた。
その言葉には、お礼を言うようなことじゃない、当然のことだという意味が含まれているように感じた。
その言葉を聞いたら、どうしようもなかった俺の涙は止まってくれた。
安心したから止まったんだと思う、なんて、自分のことなのに曖昧だ。
でも多分、そうなのだ。
父さんと兄さん達のことはもちろん諦められないけど、第二の世界で第二の現実というのがこの世界なのだ。
父さんがくれたこの世界、広葉が教えてくれたこの世界では、自由に楽しんでいいんじゃないかな。
俺はレオンさんとナンシーさん、そしてアシル君を家族のように思いたい。
彼らがそう思ってくれているのなら、余計に。
でも、もしそれが裏切りのように思われたら…。
そうグダグダと悩んでいると、レオンさんがまるで俺の心を見透かしたように声をかけてくれた。

「…何に悩んでいるかは知らないが……好きに生きたらダメなのか?」
「……そう、ですね。でも、俺は父さんや兄さん達を裏切れないから…」
「…何がどう裏切りなんだ?」
「……俺がレオンさんたちを家族だと思うこと、です」
「…それは、裏切りではないだろう」
「え?」

言う事に頭を下げて下を向いていたのだが、レオンさんの言葉を聞いてすっとレオンさんに視線を向けた。
俺が父さんや兄さん達という本当の家族ではない人達を家族だということの、どこが裏切りてないと言えるだろうか。
そう考えてたら、レオンさんは俺の頭を撫でながら続けてくれた。

「…血の繋がりは途切れない。俺たちとカスミは、第二の家族だ。だから、裏切りではない」
「…あ」

俺は、今の家族と同じ位置に、今の家族と代わってレオンさんたちを置くと考えてしまっていた。
だけどレオンさんは、今の家族はそのままに、自分たちを第二の家族だとして欲しいと言ってくれた。
俺がレオンさんたちに申し訳ないからと考えないようにしていた考えを、レオンさん自らが言ってくれたんだ。
なんだか、全て許されたような気分だ。
レオンさんの意見だということはわかってる。
父さんや兄さん達の考えではないことくらい、分かっている。
だけど、俺の父さんと兄さん達はその身体と同じく心も器も広いのだ。
少なくとも俺はそう思ってる。
だからきっと許してくれる、だなんて、都合のいい考えだけど。

「…そうですね。素敵な、考えです」
「きゅい」

血の繋がりは途切れない。
その言葉は、父さんと兄さん達のことを諦める必要はないと言ってくれているようなきがした。
焦らなくてもいいんだ。
いつになるかは分からないけど、いつか、今も抱き合ってるアシル君とナンシーさんのように、甘えられるような関係になれればいい。
だから、レオンさんとナンシーさん、アシル君には、そのための勇気を貰うことにしよう。
勇気を貰える、いてくれると心強い、大切な第二の家族。
それが、俺にとっての三人だ。

「…レオンさん、また来ますね。今度は、お客さんとしてではなく」
「…ああ。待っている」

出会って1日だ。
たったの1日だと思う気持ちもあるけど、俺にとっては長すぎる1日で、価値ある日だった。
ひょっとしたら1ヶ月分にも匹敵するんじゃないかなと思うくらい。
たった1日で、レオンさんは俺を受け入れてくれて、家族だと思ってくれた。
もしこの宿屋に来なかったら、一つ前の宿屋の入っていたら、レオンさんやナンシーさん、アシル君には出会えなかった。
もし俺がパンのレシピを持っていたら、お手伝いなんてことはせず、この場にもいなかった。
もしも話に意味なんてないけど、それでも、この場にいれることが奇跡みたいなもので、レオンさんがレオンさんだったから、家族として思ってくれたんだ。
なんだか、この出来事がすごく尊いものに思えてきたな。
大切にしよう。
貰った温かさも、優しさも、笑顔も、気持ちも、きっと俺は忘れない。
大切に大切に心にしまって、そしてまた貰ってはしまうのだ。
溢れることなんてないのだから。
俺がそう考えていたら、またレオンさんが温かさをくれた。
レオンさんの温もりを撫でてくれる手のひらから感じる。
その温かさで、俺はふにゃっと笑ってしまいそうになる。
流石にそんな顔は情けないから目を閉じて少し力を入れて耐えてるけど。
レオンさんの人柄と同じ、優しく包み込むような温もりを、俺は瞳を閉じて受け止めていた。
結局笑ってしまったけど、こればかりはしょうがないよね。
俺は緩む頬をそのままに、肩のマリを撫でる。
レオンさんがしてくれているように、優しく。
マリはそれを受けて首に擦り寄ってくれた。
マリが俺と同気持ちになってくれていたらいいな。
レオンさんが俺を撫でて、俺がマリを撫でて、マリが俺に擦り寄る。
なんだか俺ばかりが幸せな立場のように感じるけど、うん、いいか。
むしろ俺にとっては万々歳ってものだ。
俺はそんなことを考えながら、この幸せを心に刻んでいた。
忘れないために、大切にするために。
結局そんな俺達のやりとりは、ナンシーさんが呼びに来るまで続いた。
その後ナンシーさんとアシル君も、家族だと思ってるなんて言ってくれたので、また俺の涙腺がバカになった。
ナンシーさんにしていたようにアシル君が腰に抱きつき、レオンさんとナンシーさんの二人がかりで撫でられるというこれ以上ない幸せを感じながら、俺は破顔するのだった。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

処理中です...