3 / 9
3
しおりを挟む
広場での酔っ払いの喧嘩を収めたテレサは家に帰ってきた。
テレサは門をくぐり、荘厳な雰囲気に包まれた中庭を抜け、屋敷の扉を開ける。
さすがは聖女の家系だけあり、かなりの豪邸だ。
「ただいま戻りました」
とテレサが言っても、屋敷内からは「おかえりなさい」という反応は返ってこない。
エントランスの高い天井と豪華な家具や絵画が、その静寂を一層引き立てている。
テレサには身内がいない。天涯孤独の身であった。この広い屋敷に1人で暮らしている。
テレサは自室に入り、部屋に飾っている両親の写真を手に取りベットに横になった。
先代の聖女である母親はテレサがまだ幼い時に死んでいる。ブレイズ家の宿命なのか、聖女の力を受け継いだ者はその力に耐えきれないのか短命に終わる者が出てくる事がある。
テレサは6つの時に聖女の力を受け継いで、はや10年になろうとしていた。
父親はアルカディアの大臣の1人として、王家を支えていたが半年前に何者かに暗殺された。
犯人は自害しており、その真相は未だに闇に包まれている。犯人の男は国の人間ではないことは分かっており、どこかの国が聖女の力を狙った陰謀だという疑念がまことしやかに噂されている。
王宮が調査チームを設立したが、調査は難航しているらしく、テレサの元に新しい情報は何も上がってこない。
「お父様、お母様。ブレイズ家は私が守りますから」
エターニア家と比べてブレイズ家の影響力は元々高くない。
たった1人のブレイズ家の人間となったテレサは、ブレイズ家の聖女としての力を誇示するためにも、酔っ払いの喧嘩という些細な諍いを治めて回る日々を過ごしているのだった。
テレサは街で言われた言葉を思い出す。
「お飾りの聖女…、私だって頑張ってるのに。いったいどうしたらいいの」
本来、魔物との戦いでこそブレイズ家の聖女の力は発揮されるのだが、ここ何十年とそのような機会は起きていない。
エターニア家の結界により、魔物がアルカディアの国を襲う事がほとんどないのだ。
近隣にいる棲息している魔物も結界の効力で弱体化しており、騎士団で充分に対応が可能になっている。
それもあり魔物から得られる資源はこの国の特産品にまでなろうとしていた。
つまりは、国民達は魔物を倒す騎士団の姿は目にしていても、ブレイズ家の聖女の力を目にした事がないのだ。
そうなれば、お飾りの聖女と思われても仕方ないのかもしれない。
「もっと強力な魔物が襲ってきてくれたら・・・。」
テレサはふと頭によぎった言葉にハッとした表情になる。
「ゔうああ」
枕で口を抑えて思い切り叫び声をあげた。
「ふー。なんて事を考えてるのよ。やめよやめ。平和である事が1番。その中でブレイズ家を私が護っていけばいい話よ」
テレサは写真をテーブルに戻して布団をかぶる。
「今日は少し疲れたわ」
16歳の肩には重すぎる使命がのしかかっていた。
テレサは門をくぐり、荘厳な雰囲気に包まれた中庭を抜け、屋敷の扉を開ける。
さすがは聖女の家系だけあり、かなりの豪邸だ。
「ただいま戻りました」
とテレサが言っても、屋敷内からは「おかえりなさい」という反応は返ってこない。
エントランスの高い天井と豪華な家具や絵画が、その静寂を一層引き立てている。
テレサには身内がいない。天涯孤独の身であった。この広い屋敷に1人で暮らしている。
テレサは自室に入り、部屋に飾っている両親の写真を手に取りベットに横になった。
先代の聖女である母親はテレサがまだ幼い時に死んでいる。ブレイズ家の宿命なのか、聖女の力を受け継いだ者はその力に耐えきれないのか短命に終わる者が出てくる事がある。
テレサは6つの時に聖女の力を受け継いで、はや10年になろうとしていた。
父親はアルカディアの大臣の1人として、王家を支えていたが半年前に何者かに暗殺された。
犯人は自害しており、その真相は未だに闇に包まれている。犯人の男は国の人間ではないことは分かっており、どこかの国が聖女の力を狙った陰謀だという疑念がまことしやかに噂されている。
王宮が調査チームを設立したが、調査は難航しているらしく、テレサの元に新しい情報は何も上がってこない。
「お父様、お母様。ブレイズ家は私が守りますから」
エターニア家と比べてブレイズ家の影響力は元々高くない。
たった1人のブレイズ家の人間となったテレサは、ブレイズ家の聖女としての力を誇示するためにも、酔っ払いの喧嘩という些細な諍いを治めて回る日々を過ごしているのだった。
テレサは街で言われた言葉を思い出す。
「お飾りの聖女…、私だって頑張ってるのに。いったいどうしたらいいの」
本来、魔物との戦いでこそブレイズ家の聖女の力は発揮されるのだが、ここ何十年とそのような機会は起きていない。
エターニア家の結界により、魔物がアルカディアの国を襲う事がほとんどないのだ。
近隣にいる棲息している魔物も結界の効力で弱体化しており、騎士団で充分に対応が可能になっている。
それもあり魔物から得られる資源はこの国の特産品にまでなろうとしていた。
つまりは、国民達は魔物を倒す騎士団の姿は目にしていても、ブレイズ家の聖女の力を目にした事がないのだ。
そうなれば、お飾りの聖女と思われても仕方ないのかもしれない。
「もっと強力な魔物が襲ってきてくれたら・・・。」
テレサはふと頭によぎった言葉にハッとした表情になる。
「ゔうああ」
枕で口を抑えて思い切り叫び声をあげた。
「ふー。なんて事を考えてるのよ。やめよやめ。平和である事が1番。その中でブレイズ家を私が護っていけばいい話よ」
テレサは写真をテーブルに戻して布団をかぶる。
「今日は少し疲れたわ」
16歳の肩には重すぎる使命がのしかかっていた。
0
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
この国を護ってきた私が、なぜ婚約破棄されなければいけないの?
柊
ファンタジー
ルミドール聖王国第一王子アルベリク・ダランディールに、「聖女としてふさわしくない」と言われ、同時に婚約破棄されてしまった聖女ヴィアナ。失意のどん底に落ち込むヴィアナだったが、第二王子マリクに「この国を出よう」と誘われ、そのまま求婚される。それを受け入れたヴィアナは聖女聖人が確認されたことのないテレンツィアへと向かうが……。
※複数のサイトに投稿しています。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
結婚するので姉様は出ていってもらえますか?
基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。
気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。
そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。
家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。
そして妹の婚約まで決まった。
特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。
※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。
※えろが追加される場合はr−18に変更します。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる