9 / 9
9
しおりを挟む
翌朝、テレサは聖女としての地位を剥奪されるために王宮に向かう。
先祖代々、アルカディア王国を守り抜いてきたのに、自分の代でそれが終わってしまう。
民たちの中にはブレイズ家を非難するものもいるかもしれない。
テレサの足取りが重たいのも仕方ないことだった。
「あ!聖女様だ!」
6歳くらいの少年がテレサに気がついて走り寄ってきた。
「ごきげんよう。1人なの?」
「うん。おつかいに来たんだ」
少年は果物の入ったバスケットを大事そうに抱き抱えていた。
「1人でお使いなんてすごいわね」
「僕は将来騎士団に入って、聖女様とこの国を守るんだから!これくらい余裕だよ!」
少年が真っ直ぐにテレサを見てくる。
テレサはその真っ直ぐな瞳に思わず顔を逸らした。
「聖女様を守ってあげてね」
テレサはそう言って少年の頭を撫でる。
少年は少し不思議そうな顔をしたが、すぐに帰らないと行けないと言って走っていった。
ああいう子達と共に戦うことなんてもう無いのよね。
『ガシャン』
遠くの方で何か小さな音が聞こえた。
何の音か辺りを見ると、離れたところに果物とバスケットが転がっている。
しかし、その近くに少年の姿はない。
転んで零したわけではないようだ。
テレサは急いでその場所に駆けつけると、踏み潰された果物が散らばっていた。
少し離れた曲がり角を、大柄の男が大きな麻袋を抱えて走っていくのが見えた。
ーーーもしかして、人攫い
「待ちなさい!」
テレサは声を上げて男を追いかけた。
アルカディア王国は魔物の被害が少ない安全な国であることから、富裕層が多く暮らしている。
魔物以上にこの国の問題になっているのが人攫いだった。
普段は憲兵が目を光らせているのだが、今日はルーカスによる重大な発表があるせいで騎士団はもちろんのこと、憲兵達も王宮付近の警備に駆り出されていた。
人攫いたちは好機と思ったのだろうが、運がなかったらしい。
この国を守る聖女に見つかってしまったのだから。
「絶対に助けるから」
テレサは全速力で追いかけた。
ーーーーーーーーーー
一方その頃王宮ではルーカスとフィオナが正午に向けて準備を進めていた。
「ルーカス様これなんてどうですか?」
フィオナが華やかなドレスを手に取り併せてルーカスに見せる。
「とても似合ってて綺麗だよ」
「それにしてもテレサ様は遅いですわね」
フィオナは他のドレスを選びながら言う。
「ちゃんと来るように言ったのに、あいつは何をやっているんだ。迎えを出せばよかった」
ルーカスは今日の舞台にテレサが来ないことを危惧してイラついている様子だ。
「まぁいいじゃないですか」
「俺もそう言ったんだがな。聖女の地位を剥奪するのだから、民に説明をする上で姿を見せる必要があるんだとよ。それに、本人から話をさせないと納得感も与えられないって爺やが煩くてな」
「来なかったらどうするんです?」
ルーカスはどうしたものかと頭を悩ませている。
「例えばですけど、弁明の機会をここに作ったのに、聖女だと嘘をつき続けてきたからこの場に顔を出せない。糾弾されるのが嫌で逃げ出した。こちらからの話に対して聞く耳すら持たない。
これなら、わざわざ説明して納得なんかさせなくても、決断をしたルーカス様に文句を言う人など現れませんよ」
フィオナの言葉にルーカスは黙って考え込む。
「それもそうか。そもそも偽物の聖女のために、何でこっちが気をつかってやる必要があるんだよ」
「そうですわ」
フィオナはルーカスにそう言いながら、うっすらと笑みを浮かべているように見えた。
先祖代々、アルカディア王国を守り抜いてきたのに、自分の代でそれが終わってしまう。
民たちの中にはブレイズ家を非難するものもいるかもしれない。
テレサの足取りが重たいのも仕方ないことだった。
「あ!聖女様だ!」
6歳くらいの少年がテレサに気がついて走り寄ってきた。
「ごきげんよう。1人なの?」
「うん。おつかいに来たんだ」
少年は果物の入ったバスケットを大事そうに抱き抱えていた。
「1人でお使いなんてすごいわね」
「僕は将来騎士団に入って、聖女様とこの国を守るんだから!これくらい余裕だよ!」
少年が真っ直ぐにテレサを見てくる。
テレサはその真っ直ぐな瞳に思わず顔を逸らした。
「聖女様を守ってあげてね」
テレサはそう言って少年の頭を撫でる。
少年は少し不思議そうな顔をしたが、すぐに帰らないと行けないと言って走っていった。
ああいう子達と共に戦うことなんてもう無いのよね。
『ガシャン』
遠くの方で何か小さな音が聞こえた。
何の音か辺りを見ると、離れたところに果物とバスケットが転がっている。
しかし、その近くに少年の姿はない。
転んで零したわけではないようだ。
テレサは急いでその場所に駆けつけると、踏み潰された果物が散らばっていた。
少し離れた曲がり角を、大柄の男が大きな麻袋を抱えて走っていくのが見えた。
ーーーもしかして、人攫い
「待ちなさい!」
テレサは声を上げて男を追いかけた。
アルカディア王国は魔物の被害が少ない安全な国であることから、富裕層が多く暮らしている。
魔物以上にこの国の問題になっているのが人攫いだった。
普段は憲兵が目を光らせているのだが、今日はルーカスによる重大な発表があるせいで騎士団はもちろんのこと、憲兵達も王宮付近の警備に駆り出されていた。
人攫いたちは好機と思ったのだろうが、運がなかったらしい。
この国を守る聖女に見つかってしまったのだから。
「絶対に助けるから」
テレサは全速力で追いかけた。
ーーーーーーーーーー
一方その頃王宮ではルーカスとフィオナが正午に向けて準備を進めていた。
「ルーカス様これなんてどうですか?」
フィオナが華やかなドレスを手に取り併せてルーカスに見せる。
「とても似合ってて綺麗だよ」
「それにしてもテレサ様は遅いですわね」
フィオナは他のドレスを選びながら言う。
「ちゃんと来るように言ったのに、あいつは何をやっているんだ。迎えを出せばよかった」
ルーカスは今日の舞台にテレサが来ないことを危惧してイラついている様子だ。
「まぁいいじゃないですか」
「俺もそう言ったんだがな。聖女の地位を剥奪するのだから、民に説明をする上で姿を見せる必要があるんだとよ。それに、本人から話をさせないと納得感も与えられないって爺やが煩くてな」
「来なかったらどうするんです?」
ルーカスはどうしたものかと頭を悩ませている。
「例えばですけど、弁明の機会をここに作ったのに、聖女だと嘘をつき続けてきたからこの場に顔を出せない。糾弾されるのが嫌で逃げ出した。こちらからの話に対して聞く耳すら持たない。
これなら、わざわざ説明して納得なんかさせなくても、決断をしたルーカス様に文句を言う人など現れませんよ」
フィオナの言葉にルーカスは黙って考え込む。
「それもそうか。そもそも偽物の聖女のために、何でこっちが気をつかってやる必要があるんだよ」
「そうですわ」
フィオナはルーカスにそう言いながら、うっすらと笑みを浮かべているように見えた。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」
婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。
罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。
それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。
しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。
「どんな場所でも、私は生きていける」
打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。
これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。
国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星井ゆの花
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる