聖女は2人もいらない!と聖女の地位を剥奪されました。それならば、好きにさせてもらいます。

たつき

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翌朝、テレサは聖女としての地位を剥奪されるために王宮に向かう。

先祖代々、アルカディア王国を守り抜いてきたのに、自分の代でそれが終わってしまう。

民たちの中にはブレイズ家を非難するものもいるかもしれない。

テレサの足取りが重たいのも仕方ないことだった。

「あ!聖女様だ!」

6歳くらいの少年がテレサに気がついて走り寄ってきた。

「ごきげんよう。1人なの?」

「うん。おつかいに来たんだ」

少年は果物の入ったバスケットを大事そうに抱き抱えていた。

「1人でお使いなんてすごいわね」

「僕は将来騎士団に入って、聖女様とこの国を守るんだから!これくらい余裕だよ!」

少年が真っ直ぐにテレサを見てくる。
テレサはその真っ直ぐな瞳に思わず顔を逸らした。

「聖女様を守ってあげてね」

テレサはそう言って少年の頭を撫でる。

少年は少し不思議そうな顔をしたが、すぐに帰らないと行けないと言って走っていった。

ああいう子達と共に戦うことなんてもう無いのよね。

『ガシャン』

遠くの方で何か小さな音が聞こえた。
何の音か辺りを見ると、離れたところに果物とバスケットが転がっている。

しかし、その近くに少年の姿はない。
転んで零したわけではないようだ。

テレサは急いでその場所に駆けつけると、踏み潰された果物が散らばっていた。

少し離れた曲がり角を、大柄の男が大きな麻袋を抱えて走っていくのが見えた。

ーーーもしかして、人攫い

「待ちなさい!」

テレサは声を上げて男を追いかけた。

アルカディア王国は魔物の被害が少ない安全な国であることから、富裕層が多く暮らしている。

魔物以上にこの国の問題になっているのが人攫いだった。

普段は憲兵が目を光らせているのだが、今日はルーカスによる重大な発表があるせいで騎士団はもちろんのこと、憲兵達も王宮付近の警備に駆り出されていた。

人攫いたちは好機と思ったのだろうが、運がなかったらしい。

この国を守る聖女に見つかってしまったのだから。

「絶対に助けるから」

テレサは全速力で追いかけた。


ーーーーーーーーーー
一方その頃王宮ではルーカスとフィオナが正午に向けて準備を進めていた。

「ルーカス様これなんてどうですか?」

フィオナが華やかなドレスを手に取り併せてルーカスに見せる。

「とても似合ってて綺麗だよ」

「それにしてもテレサ様は遅いですわね」

フィオナは他のドレスを選びながら言う。

「ちゃんと来るように言ったのに、あいつは何をやっているんだ。迎えを出せばよかった」

ルーカスは今日の舞台にテレサが来ないことを危惧してイラついている様子だ。

「まぁいいじゃないですか」

「俺もそう言ったんだがな。聖女の地位を剥奪するのだから、民に説明をする上で姿を見せる必要があるんだとよ。それに、本人から話をさせないと納得感も与えられないって爺やが煩くてな」

「来なかったらどうするんです?」

ルーカスはどうしたものかと頭を悩ませている。

「例えばですけど、弁明の機会をここに作ったのに、聖女だと嘘をつき続けてきたからこの場に顔を出せない。糾弾されるのが嫌で逃げ出した。こちらからの話に対して聞く耳すら持たない。
これなら、わざわざ説明して納得なんかさせなくても、決断をしたルーカス様に文句を言う人など現れませんよ」

フィオナの言葉にルーカスは黙って考え込む。

「それもそうか。そもそも偽物の聖女のために、何でこっちが気をつかってやる必要があるんだよ」

「そうですわ」

フィオナはルーカスにそう言いながら、うっすらと笑みを浮かべているように見えた。
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