魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき

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第2章 

シルキー・ラビット

王都グランド・ゼニスの北に位置する『静寂の森』。

その名の通り、本来は深い静寂に包まれた神秘的な原生林だが、実態は『シルキー・ラビット』をはじめとする凶暴な魔物が群れをなす、上級冒険者向けの危険地帯である。

だが、今のこの森は、別の意味で不気味なほどに静まり返っていた。

「おかしいな。さっきから一匹も魔物を見かけないよ。やっぱり僕、嫌われてるのかな」

カイルは三年間使い込んできたボロボロの木剣を握り直し、慎重に周囲を警戒しながら進む。

カイル自身は全く気づいていないが、シリウスと共鳴した彼が歩くたび、その足元からは「絶対的な強者」の圧が波紋のように広がっていた。

森の捕食者たちは、本能が告げる死の恐怖に震え、カイルが通りかかる数分前には、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していたのである。

「あ、いた! シリウス、あれだよね」

カイルが見つけたのは、あの男が言っていた『シルキー・ラビット』だった。

群れから逸れたらしく、ただ一匹だけがいる。白く長い毛に包まれた愛くるしい姿。

カイルはその姿に、討伐することを躊躇ってしまった。

「ギルドに入るためには、この子を討伐しないといけないらしいけど、どうしよう」

カイルの眼前にいるシルキー・ラビットは怯え震えていた。


「逃がしてあげよう。他の魔物を討伐すればいいよね」

カイルがシルキー・ラビットに手を伸ばす。カイルの圧から逃げ遅れたシルキー・ラビットは、絶望に瞳を血走らせ、生存本能のままに狂暴化し始める。

ギチギチ、と嫌な音を立てて、その小さな身体が膨張を始める。

先程までの愛らしい姿はそこになく、全長3メートルは超えるシルキー・ラビットが二足の足で立ち上がった。前足の爪は鋭く伸びていた。

「なにこれ」

カイルは全身に緊張を走らせた。シルキー・ラビットは丸太のような太い脚で地面を蹴り、弾丸のような速さでカイルへと飛びかかってくる。

「速い!」

カイルは必死の思いで、向かってくる巨体を躱した。

シルキー・ラビットは大木を薙ぎ倒し、次の攻撃準備に入っている。

カイルは木剣を強く握りしめた。

再びシルキー・ラビットがカイルに突進してきた。

カイルはシルキーラビットに向けて木剣を振り下ろした。しかし、木剣はシルキーラビットに当たらず、空を切った。

シルキー・ラビットが強靭な爪を地面に突き刺し急停止したのだ。

ヤられる。そう思ったカイルは目を閉じた。しかし、次の瞬間にはシルキー・ラビットがその場から吹き飛んでいた。

シリウスから供給された膨大なマナがカイルの腕力に上書きされ、放たれた一撃は「剣を振る」という動作が、爆発的な衝撃波を生み出した。

バキィッ!!森に不気味な破壊音が響く。
シルキー・ラビットは、後方の巨木を数本なぎ倒してようやく止まった。

「……え?」

凄まじい音に、カイルは恐る恐る目を開いた。目の前にいたはずのシルキー・ラビットはその巨体が小さく見えるほどに吹き飛んでいた。

「シリウスが倒してくれたの?」

カイルは隣で身体を伸ばしているシリウスに問いかけた。シリウスは「クゥーン」と一言鳴いた。

「すごく怖かったけど、見た目だけが強そうに見える種類の魔物だったのかな。外敵から身を守るための、擬態の一種なのかも」

カイルは吹き飛ばされたシルキー・ラビットに近づく。

シルキー・ラビットは元の小さく愛らしい姿となって息絶えていた。

「これで、ギルドに入れる!」

カイルは喜びながらシルキーラビットを見た。

シリウスが、カイルの足元に擦り寄る。

「あはは、分かったよ。シリウス、お腹空いたんだね。頑張ってくれたもんね。あの男の人も酒場にいるって言ってたし、時間はたっぷりある。ゆっくりご飯にしようか」

カイルは手際よく獲物を捌き、手近な枯れ枝を集めて焚き火を起こした。

本来なら王都の食通たちが金貨を積み上げて奪い合う、至高の珍味。

それをカイルは、ただの「ちょっと手強そうだったウサギ」として、適当な枝に突き刺して豪快に焼き始めた。

「うん、美味しい! 脂が乗ってて、すごく甘いよシリウス!」

滴る肉汁の香ばしい匂いが辺りに漂う。シリウスも満足げに、カイルから与えられた肉を頬張っている。王都の貴族が見れば文句が出かねない、贅沢極まる晩餐だった。

だが、その平穏な食事の時間を、重苦しい「気配」が切り裂いた。

ガシャリ、と重い金属音が静まり返った森に響く。

風に乗って届いたのは、濃密な血の匂いだ。シリウスがその匂いに反応して、森の奥を見る。

「シリウス?」
カイルが顔を上げた先。木々の隙間から、一人の男が転がり込んできた。

「あ、あの! 大丈夫ですか!?」

カイルは慌てて立ち上がり、見知らぬ負傷者へと駆け寄ろうとした。

男は、焚き火を囲む少年の姿をみると、信じられないものを見たというように目を見開いた。

「子供がなんで、こんな場所に」

男は掠れた声で呟く。そしてそのまま、気を失った。
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