16 / 32
第2章
シルキー・ラビット
王都グランド・ゼニスの北に位置する『静寂の森』。
その名の通り、本来は深い静寂に包まれた神秘的な原生林だが、実態は『シルキー・ラビット』をはじめとする凶暴な魔物が群れをなす、上級冒険者向けの危険地帯である。
だが、今のこの森は、別の意味で不気味なほどに静まり返っていた。
「おかしいな。さっきから一匹も魔物を見かけないよ。やっぱり僕、嫌われてるのかな」
カイルは三年間使い込んできたボロボロの木剣を握り直し、慎重に周囲を警戒しながら進む。
カイル自身は全く気づいていないが、シリウスと共鳴した彼が歩くたび、その足元からは「絶対的な強者」の圧が波紋のように広がっていた。
森の捕食者たちは、本能が告げる死の恐怖に震え、カイルが通りかかる数分前には、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していたのである。
「あ、いた! シリウス、あれだよね」
カイルが見つけたのは、あの男が言っていた『シルキー・ラビット』だった。
群れから逸れたらしく、ただ一匹だけがいる。白く長い毛に包まれた愛くるしい姿。
カイルはその姿に、討伐することを躊躇ってしまった。
「ギルドに入るためには、この子を討伐しないといけないらしいけど、どうしよう」
カイルの眼前にいるシルキー・ラビットは怯え震えていた。
「逃がしてあげよう。他の魔物を討伐すればいいよね」
カイルがシルキー・ラビットに手を伸ばす。カイルの圧から逃げ遅れたシルキー・ラビットは、絶望に瞳を血走らせ、生存本能のままに狂暴化し始める。
ギチギチ、と嫌な音を立てて、その小さな身体が膨張を始める。
先程までの愛らしい姿はそこになく、全長3メートルは超えるシルキー・ラビットが二足の足で立ち上がった。前足の爪は鋭く伸びていた。
「なにこれ」
カイルは全身に緊張を走らせた。シルキー・ラビットは丸太のような太い脚で地面を蹴り、弾丸のような速さでカイルへと飛びかかってくる。
「速い!」
カイルは必死の思いで、向かってくる巨体を躱した。
シルキー・ラビットは大木を薙ぎ倒し、次の攻撃準備に入っている。
カイルは木剣を強く握りしめた。
再びシルキー・ラビットがカイルに突進してきた。
カイルはシルキーラビットに向けて木剣を振り下ろした。しかし、木剣はシルキーラビットに当たらず、空を切った。
シルキー・ラビットが強靭な爪を地面に突き刺し急停止したのだ。
ヤられる。そう思ったカイルは目を閉じた。しかし、次の瞬間にはシルキー・ラビットがその場から吹き飛んでいた。
シリウスから供給された膨大なマナがカイルの腕力に上書きされ、放たれた一撃は「剣を振る」という動作が、爆発的な衝撃波を生み出した。
バキィッ!!森に不気味な破壊音が響く。
シルキー・ラビットは、後方の巨木を数本なぎ倒してようやく止まった。
「……え?」
凄まじい音に、カイルは恐る恐る目を開いた。目の前にいたはずのシルキー・ラビットはその巨体が小さく見えるほどに吹き飛んでいた。
「シリウスが倒してくれたの?」
カイルは隣で身体を伸ばしているシリウスに問いかけた。シリウスは「クゥーン」と一言鳴いた。
「すごく怖かったけど、見た目だけが強そうに見える種類の魔物だったのかな。外敵から身を守るための、擬態の一種なのかも」
カイルは吹き飛ばされたシルキー・ラビットに近づく。
シルキー・ラビットは元の小さく愛らしい姿となって息絶えていた。
「これで、ギルドに入れる!」
カイルは喜びながらシルキーラビットを見た。
シリウスが、カイルの足元に擦り寄る。
「あはは、分かったよ。シリウス、お腹空いたんだね。頑張ってくれたもんね。あの男の人も酒場にいるって言ってたし、時間はたっぷりある。ゆっくりご飯にしようか」
カイルは手際よく獲物を捌き、手近な枯れ枝を集めて焚き火を起こした。
本来なら王都の食通たちが金貨を積み上げて奪い合う、至高の珍味。
それをカイルは、ただの「ちょっと手強そうだったウサギ」として、適当な枝に突き刺して豪快に焼き始めた。
「うん、美味しい! 脂が乗ってて、すごく甘いよシリウス!」
滴る肉汁の香ばしい匂いが辺りに漂う。シリウスも満足げに、カイルから与えられた肉を頬張っている。王都の貴族が見れば文句が出かねない、贅沢極まる晩餐だった。
だが、その平穏な食事の時間を、重苦しい「気配」が切り裂いた。
ガシャリ、と重い金属音が静まり返った森に響く。
風に乗って届いたのは、濃密な血の匂いだ。シリウスがその匂いに反応して、森の奥を見る。
「シリウス?」
カイルが顔を上げた先。木々の隙間から、一人の男が転がり込んできた。
「あ、あの! 大丈夫ですか!?」
カイルは慌てて立ち上がり、見知らぬ負傷者へと駆け寄ろうとした。
男は、焚き火を囲む少年の姿をみると、信じられないものを見たというように目を見開いた。
「子供がなんで、こんな場所に」
男は掠れた声で呟く。そしてそのまま、気を失った。
その名の通り、本来は深い静寂に包まれた神秘的な原生林だが、実態は『シルキー・ラビット』をはじめとする凶暴な魔物が群れをなす、上級冒険者向けの危険地帯である。
だが、今のこの森は、別の意味で不気味なほどに静まり返っていた。
「おかしいな。さっきから一匹も魔物を見かけないよ。やっぱり僕、嫌われてるのかな」
カイルは三年間使い込んできたボロボロの木剣を握り直し、慎重に周囲を警戒しながら進む。
カイル自身は全く気づいていないが、シリウスと共鳴した彼が歩くたび、その足元からは「絶対的な強者」の圧が波紋のように広がっていた。
森の捕食者たちは、本能が告げる死の恐怖に震え、カイルが通りかかる数分前には、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していたのである。
「あ、いた! シリウス、あれだよね」
カイルが見つけたのは、あの男が言っていた『シルキー・ラビット』だった。
群れから逸れたらしく、ただ一匹だけがいる。白く長い毛に包まれた愛くるしい姿。
カイルはその姿に、討伐することを躊躇ってしまった。
「ギルドに入るためには、この子を討伐しないといけないらしいけど、どうしよう」
カイルの眼前にいるシルキー・ラビットは怯え震えていた。
「逃がしてあげよう。他の魔物を討伐すればいいよね」
カイルがシルキー・ラビットに手を伸ばす。カイルの圧から逃げ遅れたシルキー・ラビットは、絶望に瞳を血走らせ、生存本能のままに狂暴化し始める。
ギチギチ、と嫌な音を立てて、その小さな身体が膨張を始める。
先程までの愛らしい姿はそこになく、全長3メートルは超えるシルキー・ラビットが二足の足で立ち上がった。前足の爪は鋭く伸びていた。
「なにこれ」
カイルは全身に緊張を走らせた。シルキー・ラビットは丸太のような太い脚で地面を蹴り、弾丸のような速さでカイルへと飛びかかってくる。
「速い!」
カイルは必死の思いで、向かってくる巨体を躱した。
シルキー・ラビットは大木を薙ぎ倒し、次の攻撃準備に入っている。
カイルは木剣を強く握りしめた。
再びシルキー・ラビットがカイルに突進してきた。
カイルはシルキーラビットに向けて木剣を振り下ろした。しかし、木剣はシルキーラビットに当たらず、空を切った。
シルキー・ラビットが強靭な爪を地面に突き刺し急停止したのだ。
ヤられる。そう思ったカイルは目を閉じた。しかし、次の瞬間にはシルキー・ラビットがその場から吹き飛んでいた。
シリウスから供給された膨大なマナがカイルの腕力に上書きされ、放たれた一撃は「剣を振る」という動作が、爆発的な衝撃波を生み出した。
バキィッ!!森に不気味な破壊音が響く。
シルキー・ラビットは、後方の巨木を数本なぎ倒してようやく止まった。
「……え?」
凄まじい音に、カイルは恐る恐る目を開いた。目の前にいたはずのシルキー・ラビットはその巨体が小さく見えるほどに吹き飛んでいた。
「シリウスが倒してくれたの?」
カイルは隣で身体を伸ばしているシリウスに問いかけた。シリウスは「クゥーン」と一言鳴いた。
「すごく怖かったけど、見た目だけが強そうに見える種類の魔物だったのかな。外敵から身を守るための、擬態の一種なのかも」
カイルは吹き飛ばされたシルキー・ラビットに近づく。
シルキー・ラビットは元の小さく愛らしい姿となって息絶えていた。
「これで、ギルドに入れる!」
カイルは喜びながらシルキーラビットを見た。
シリウスが、カイルの足元に擦り寄る。
「あはは、分かったよ。シリウス、お腹空いたんだね。頑張ってくれたもんね。あの男の人も酒場にいるって言ってたし、時間はたっぷりある。ゆっくりご飯にしようか」
カイルは手際よく獲物を捌き、手近な枯れ枝を集めて焚き火を起こした。
本来なら王都の食通たちが金貨を積み上げて奪い合う、至高の珍味。
それをカイルは、ただの「ちょっと手強そうだったウサギ」として、適当な枝に突き刺して豪快に焼き始めた。
「うん、美味しい! 脂が乗ってて、すごく甘いよシリウス!」
滴る肉汁の香ばしい匂いが辺りに漂う。シリウスも満足げに、カイルから与えられた肉を頬張っている。王都の貴族が見れば文句が出かねない、贅沢極まる晩餐だった。
だが、その平穏な食事の時間を、重苦しい「気配」が切り裂いた。
ガシャリ、と重い金属音が静まり返った森に響く。
風に乗って届いたのは、濃密な血の匂いだ。シリウスがその匂いに反応して、森の奥を見る。
「シリウス?」
カイルが顔を上げた先。木々の隙間から、一人の男が転がり込んできた。
「あ、あの! 大丈夫ですか!?」
カイルは慌てて立ち上がり、見知らぬ負傷者へと駆け寄ろうとした。
男は、焚き火を囲む少年の姿をみると、信じられないものを見たというように目を見開いた。
「子供がなんで、こんな場所に」
男は掠れた声で呟く。そしてそのまま、気を失った。
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。
どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!
スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!
天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった
よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】
皆様の熱い応援、本当にありがとうございます!
ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です!
【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】
電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。
気がついたら異世界召喚。
だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。
52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。
結論――王都の地下下水道に「廃棄」。
玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。
血管年齢は実年齢マイナス20歳。
そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。
だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。
下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。
捨てられた魔道具。
長年魔素を吸い続けた高純度魔石。
そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。
チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。
あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。
汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。
スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。
この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。
魔力は毒である。代謝こそが命である。
軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。
でも、だからこそ――まず1話、読んでください。
【最新情報&著者プロフィール】
代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作!
◆ 2月に待望の【第2巻】刊行!
◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中!
◆ 【コミカライズ企画進行中】!
すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!