魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき

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第2章 

歓迎会

エミリアさんはカウンターの奥で魔法の羊皮紙を広げると、慣れた手つきで羽ペンをインクに浸しました。夕暮れ時の柔らかな光が窓から差し込み、宙を舞う埃をキラキラと照らしています。

「じゃあカイル君。さっそく登録の手続きを進めちゃうわね。まずは基本ステータスの確認から。ええと、スキルとレベルはいくつかな?」

僕は緊張で膝の上に置いた手を強く握りしめ、正直に答えました。

「魔物使いです。レベルは...0です」

エミリアさんの羽ペンが、紙の上でぴたりと止まりました。彼女は顔を上げると、困ったように眉を下げて僕を見つめます。

「レベル0? カイル君。冒険者はいつだって死と隣り合わせ。だから、基本的にはスキルレベルが1に達していないと、ギルドとしては活動を認められないのよ」

「そうですよね...」

王都に来れば、こんな僕でもどうにかなるかと期待していたけれど、レベル0の僕がいられる場所なんてないのかもしれない。
すると、隣で机に突っ伏していたライオットさんが、がばっと顔を上げました。

「いいじゃねえかエミリアちゃん! そこはもう適当に1って書いちゃえよ。俺が実力は保証するからさ」

「適当なんてダメに決まってるでしょ。データの改ざんは重大な規約違反。これはもう、マスターの承認が無いと私の一存じゃどうしようもないわ」

エミリアさんが溜息をついた、その時でした。
ギルドの奥にある重厚な扉が、ギィ、と重い音を立てて開きました。

「騒々しいな。ライオット、また何か問題でも起こしたのか」

鈴を転がすような綺麗な声なのに、ずしりと重い響きがして、僕は思わず身を固くした。
奥から歩いてきたのは、僕と同じか、もっと小さく見えるくらいの女の子だった。透き通るような肌に、長く美しい銀髪。そして、尖った耳が髪の間から覗いている。

僕はその幼い姿に驚いたけれど、なぜか足が震えて動けなくなる。見た目は子供なのに、その瞳に見つめられるとすべてを見透かされているような不思議な感覚になる。ライオットさんが慌てて姿勢を正した。

「マスター! 問題なんて人聞きが悪いって。俺は、見どころのある新人を連れてきただけだって」

この子が、漆黒の烏のマスター。ライオットさんがそう呼んでいるのを聞いて、僕はさらに驚きました。女の子は僕の前に立つと、じっと僕の顔を覗き込んできました。

「スキルレベル0か。数値を書き換えることくらい私には容易いが...。少年。お前にその覚悟はあるのか。死んでも文句は言わないと言い切れるか」

ドクドクと心臓がうるさいくらいに鳴り響く。けれど、僕はここで逃げ出したくない。

「僕は精一杯頑張ります! ライオットさんが誘ってくれたこの場所で、役に立ちたいんです」

僕が必死に答えると、彼女は僕の足元で静かに座っているシリウスに目を向けた。

「ふん。その子がついてるなら問題ないか。いいだろう、特別に入団を認める」

「本当ですか!」

「ただし」と、彼女は釘を刺すようにライオットさんを睨んだ。

「任務を受けるなら、ライオット。お前が責任を持って同行しろ。カイルに何かあれば、お前の命はないと思え」

「へへ、合点承知だぜ!」

ライオットさんは嬉しそうに僕の肩を叩いた。

日が落ちるにつれて、ギルドには続々と人が戻ってきた。

「おいライオット、新人が入ったんだってな!」

「こんなボロボロなギルドに自分から入るなんて、お前もなかなかの変わり者だな!」

大きな酒瓶が並べられ、あっという間に僕の歓迎会が始まった。

「カイルといいます。これからよろしくお願いします!」

「おうよろしくな。そうだお前のスキルはなんだ?知っておけば依頼に誘う時があるかもしれん」



「魔物使いです」

「なるほどな。じゃあ、あそこで絡まれてるのが、使役魔物か」

シリウスはギルドメンバーの女性たちを中心に、可愛がられていた。
みんな明るくていい人たちだけど、僕は一つだけ、どうしても隠しておけないことがあった。

「ただ...。実はスキルレベル0なんです!」

その言葉を口にした瞬間、酒場は一瞬だけ、水を打ったように静まり返った。
けれど、次の瞬間。

「がはははは! スキルレベル0で冒険者になりたいなんて、ここにいる誰よりも命知らずじゃねえか!」

「最高だぜ! そんな弱そうな見た目して中身がいかれてやがるなんて、漆黒の烏にぴったりだ!」

男の人が僕の背中を豪快に叩き、みんながドッと笑い声を上げた。

「いいかカイル! ここはな、まともな奴が一人もいねえんだ。レベル0の冒険者。面白いじゃねえか、歓迎するぜ!」

「ありがとうございます!」

僕は差し出されたコップを掲げた。

レベル0の僕を「命知らず」と笑って受け入れてくれた、初めての仲間たち。
エミリアさんも優しく微笑んでくれている。それを見たライオットさんが、僕の耳元で真剣な顔をして囁いた。

「おいカイル。いいか、エミリアちゃんに近づくなよ。いいな、絶対にだぞ」

「え? は、はい」

理由はよく分からなかったけれど、ライオットさんの必死な様子に僕は頷いた。
新しい家を見つけたような温かな心地に、僕は少しだけ、目頭が熱くなるのを感じていた。
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