魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき

文字の大きさ
25 / 27
第3章

金獅子の襲来3

しおりを挟む
リリィさんはゆっくりと僕たちの方へ歩み寄ってきた。

その足取りには一切の迷いがなく、獲物を観察する学者のような冷徹さと、底知れない好奇心が混ざり合っている。

見た目こそ僕と同じくらいの年齢、あるいはそれよりも下に見えたが、その纏う雰囲気の重さは、あのクラリスさんと何ら遜色がないように感じた。

彼女が近づくにつれ、シリウスが再び喉の奥で低く唸った。

「……リリィさん、ですよね」

僕が恐る恐る声をかけると、彼女は僕の顔をじっと見つめた後、視線を下ろしてシリウスを凝視した。

「カイル君、と言ったかしら。面白いわね。あなたの魔力……いえ、存在そのものが、この王都のどの記録にも当てはまらない」

彼女はそう言うと、断りもなくシリウスの前に跪いた。

シリウスは依然として警戒を解いていなかったが、彼女が手を伸ばした瞬間、その指先から微かな魔力の粒子がこぼれるのが見えた。

それは攻撃的なものではなく、対象を鎮静化させるような、ひどく心地の良いリズムを持っていた。

「少し、触らせてもらっていいかしら?」

どことなくウズウズした表情で彼女が言う。

シリウスを見ると、意外にも嫌がった素振りは見せなかった。

「はい」

僕が答えるや否や、リリィさんはシリウスの体に顔を埋めた。

彼女の細い指がシリウスの首筋に触れ、そのまま白く柔らかな毛並みの中に深く沈んでいく。

リリィさんは周囲の目も気にせず、無心にシリウスをモフり始めた。

「ああ、かわいい……。モフモフしてて最高だわ」

先ほどまでの凛とした立ち振る舞いからは想像もできないギャップに、僕は呆然と立ち尽くすしかなかった。

「こいつ、見た目と違って大人びて見えたろ? でもな、こういうモフモフした可愛いものには目がないんだよ」

ライオットさんが隣で呆れたように補足する。シリウスは抗うのを諦めたのか、「クゥーン」と鼻を鳴らして身を任せていた。

「やっぱり。この子のマナ、王都のどの生態系にも属していないわ。まるで、異界からそのまま切り取られてきたみたい」

彼女は感嘆するように呟いた。あんなに夢中でモフモフしていたというのに、その指先は冷静に何かを解析していたようだ。

「数本だけ、貰っていいかしら?」

そう言うと、彼女の掌の中にシリウスの白い毛が数本消え、隠し持っていた小さな試験管に収められた。

それはあまりに自然で、まるで訓練されたスリのような鮮やかな手際だった。

「あの?」

「少しだけ調べさせてほしいだけよ。悪いようにはしないから」

ライオットさんの方を見ると、特に警戒している雰囲気ではなかったので、きっと大丈夫なのだろうと自分を納得させた。

「満足したわ。お姉様を追いかけないと。また会いましょう、カイル君。たぶん、そう遠くないうちに」

リリィさんはそれだけ言い残すと、待機させていたレッグホースに軽やかに跨った。

蹄の音が石畳に響き、それが次第に遠ざかっていく。ようやく辺りに、本来の静寂が戻ってきた。

ライオットさんは槍を収めると、深く、長くため息をついた。

「全くもって、人騒がせな姉妹だぜ」

「クラリスさんにはびっくりしましたけど、リリィさんはそこまで怖くなかった気がします」

僕が率直な感想を漏らすと、ライオットさんは僕を諭すように視線を落とした。

「いいかカイル。あの妹の方は、姉貴より何倍も食えねえタイプだ。あいつはもう、お前たちを『ただの珍しい魔物を連れたガキ』とは見てねえだろうぜ。これから先、面倒なことになるかもな」

ライオットさんの不穏な言葉に、僕は少しだけ不安になった。

でも、ライオットさんはそう言いながらも、どこかこれから起こる騒動を楽しんでいるようにも見えた。

僕たちの王都での生活は、思っていたよりもずっと険しく、そして巨大な何かに巻き込まれようとしているのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...