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第2章 現実と仮想現実

第173話 優先順位

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 あれから、本当に何も起きなくて2日。
 その間はちょっとした作業や、相部屋になったシンシさんとのお話で時間が過ぎていった。

「へー、じゃあシンシさんは、現実でもそういったお仕事をされてるんですか?」
「えぇ、母の代で始めたハンドメイドの雑貨屋を継いで、ですが」
「でも個人経営だと、お仕事忙しかったりするんじゃないです?」
「いえいえ。贔屓にしていただいている取引先の方以外は、ほとんど来ませんから。その時間を、こっちの世界で技術向上に努めているという状態です」

 実際、現実で技術向上の為に試作を……と思うと、材料費とかもかかっちゃって大変だからね……。
 その点、こっちならリアリティ維持のためか、感覚を現実にかなり近づけてあるため、お金もかからず、いろんな練習が出来るみたい。

「姫は高校生といったところでしょうか?」
「あ、うん。今年入学したばっかりで、今は夏休みだよ」
「あぁ、良いですね……夏休み」
「外出ると暑いから、ずっとゲームしてるけど……」
「えぇ、それが良いでしょう。今年の暑さは異常気象ですから。……つまり姫は、まったく焼けていないと」
「全然出てないからね。腕も真っ白で、なんだかおん……」
「なんだか……なんです?」
「いや、えっと……なんだかお母さんみたいだなーとか」

 慌てて言い直した僕の言葉に、シンシさんは「あぁ、なるほど」と微笑みながら頷いてくれる。
 あぶない危ない……この身体も、目に入る髪にも慣れすぎて、こっちでは女の子なこと、すっかり忘れてた……。

「そ、そんなことより、準備しましょう! たぶん今日辺り動くと思います」
「あぁ、任せてくれ。姫に請われたモノの作成はすでに終えている」

 さっきまでの優しいお姉さんな顔は表から消えて、シンシさんは出会ったときのような格好いい顔で頷く。
 いっぱい話して確信したけど、シンシさんは女性だ。
 でも、普段はなぜか男性……その中でもアイドルの人みたいなキャラを作ってるみたいだった。

「……なんでなんだろう」
「ん? 姫、どうかしたかい?」
「いえ、なんでもないです」

 とりあえず疑問は置いといて、僕の方も準備を終わらせていく。
 と言ってもポーチに、ポーションと、水だけの瓶と布に包んだ素材を入れておくだけなんだけど。
 そういえば、ラミナさんに教えてもらってやった天日干しの方は、上手いこと出来ていた。
 むしろ、1日で完全に乾燥してて、驚いたんだけど。
 ……あ、あと包丁も入れとこう。

「姫が言うには、今日の夕方頃に動きがあるかもしれないとのことだが……」
「えぇ、その通りです。日曜日スタートのイベントで2週間……つまり、来週の土曜日が最終日です。となると、イベント中では最後の日曜日なので、昨日の夜から今日の夕方辺りまではプレイしてる人の数が多いはずです」
「だが、普通……拠点を襲うなら、人が少ない時間だと思うのだが?」
「それは僕らが、対人をメインに考えない・・・・・・・・・・・プレイスタイルだからだと思います」
「なるほど……優先順位が逆なのか」

 そう、PKの人と僕らでは、優先される内容が逆なんだ。
 僕らが拠点を制圧しようと思うと、人が少なく、危険が少ない時間を選ぶ。
 けれど、PKの人は……人と戦う、人を襲うことが優先だ。
 だからこそ逆に、初心者も多く、人をたくさん倒せる時間を選ぶんじゃないかな。
 合ってるかどうかはわからないけど……。

「ここが森のどの辺りかはわからないですけど、こんな部屋がいっぱいあるってことは、結構大きい拠点だと思います。なので、森の入口付近ではなくて、結構奥にあるはず」
「ほう……」
「つまり、拠点までそれなりに離れているとすれば、完全に暗くなるよりも前には動き出すはず……たぶん」

 正直、予想に予想を重ねている状態なため、言い切れるほど確信は持てていない。
 どこか1つでも予想が外れていれば、全部が瓦解する可能性すらある。
 ……それでもなんとかしないといけないんだ!

「姫……大丈夫、問題ない。仮に違っていても、臨機応変に対応すれば良い。それで予定としては、そのタイミングで部屋の扉を全力で破壊。それから……」
「息を止めて……全力疾走です!」

 正直、作戦とも呼べないほどの無理矢理な計画。
 でも、今の状態で一番可能性がある方法でもあるはずだ!

「僕らは逃げれれば大丈夫……! 欲を言えば、他の部屋の人たちも解放したいけど……」
「それはその時に考えよう。今はとにかく目先を大事に」
「シンシさん……。わかりました」

 きっとシンシさんの方が、心苦しい判断のはず……。
 それがわかるからか、僕の口からはそれ以上の言葉が出せなかった。
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