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第3章

第325話 どうしよう、名前が決まらない

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「なるほど。双眼鏡みたいな感じなんだ」

 <千里眼>を使うと、視界がぐぐっと狭くなる代わりに遠くのモノが見えるようになる。
 つまり、狙い澄まして使わないと、使いにくいスキルってことだ。

「さっきみたいな高いところから、ある一点を集中して見たり、開けたところで遠くにあるモノを見ようとするのに使えるって感じかな」
「ん」
「でも、使った瞬間に自分の周りが分からなくなるから、安全なところ以外では使わない方が良いかも」

 双眼鏡みたいになるということは、自分の周囲が全く分からなくなるということ。
 こんな状態で魔物に狙われでもしたら、回避はほぼ不可能だと思う。
 ……まあ僕の場合は、普段から回避出来てないことも多いんだけどね。

 そんなわけで、遠目から門が開いてるかどうかを確認つつ、僕らはイルビンの街への帰路を走る。
 いや、走らなくても間に合いそうなんだけどね。
 なんていうか、他のギルドメンバーと夜の街で合流する予定だっただけに、街に入れなかったって状況はなんとしても避けなければって。

「アキ」
「ん? なに?」
「ギルド名、どうする?」
「あー……考えてなかった」

 並走しながら、僕は“うーん……”と頭を捻る。
 最終的には5人揃ってから決めることにはなると思うんだけど、案くらいは考えておかないとダメだよねぇ……。
 でも、ギルド名……ギルド名かぁ……。

「これって言うのが思い付かないんだよね。ほら、全員バラバラだし」
「……? みんな似てる」
「え、そう? どういう所が?」
「自由。あと、一直線」
「自由と一直線? まあ確かに自由だけど……」

 特にリュンさんとハスタさんなんて、自由の権化みたいなところがある。
 リュンさんはそもそも縛られるのが嫌いみたいだし、ハスタさんも似てるところがあるし。
 それに言われてみれば、フェンさんも結構自由に動いてる気がする。
 でも……。

「ラミナさんはあんまり自由って感じしないけど?」
「……?」
「いやだって、誰かに付き合ったりとか、フォローしたりとか……そういうことをよくやってるよね? 今日だって僕と一緒にガザさんのところに行ってくれたりとか、僕のスキル取得に付き合ってくれたりしたし」
「一緒にいたいだけ。アキと」

 並走したまま、表情ひとつ変えること無くそう答えるラミナさんに、僕は「うぐっ……」と顔が熱くなるのを感じた。
 呻いた後、何も言えなくなってしまった僕が不思議だったのか、ラミナさんは僕を見て首を傾げる。
 そんな彼女から顔を逸らしつつ、僕はイルビンの街へと駆け込むのだった。

◇◇◇

 オリオンさんに教えてもらったお店で集合することにした僕は、ラミナさんをつれて一足先に紅茶を飲んでいた。
 ゆったりとした時間に、ちょっと眠くなりかけていたとき、僕の背後にあった扉が、カタンと音を立てる。
 その音に、僕は扉の方へと顔を向け……入ってくる人と目があった。

「お、アキさん。久しぶりだな」
「アルさん!? お久しぶりです!」

 背の高い黒髪美丈夫、もといアルさんが微笑みながら、僕らの近くへと座る。
 アルさんと一緒に来ていたリアさんも、茶色のポニーテールを揺らしながら、彼の隣へと腰掛けた。

「アキちゃん、久しぶり。元気してた?」
「はい! リアさんも、お久しぶりです」

 イベントの時から会ってないってことは、かれこれ1ヶ月くらい会ってなかったわけで……。
 まあ、だからといって何かが変わったわけではないし。
 あ、変わってるっけ?

「たしか、アルさん達もギルドを作ったんですよね?」
「ああ、作ったぞ。今日は別行動だが、テツ達と一緒に、“黒鉄くろがね旅団”ってギルドをな」
「黒鉄旅団……なんだか危ないギルドみたいな名前ですね……」

 ふと僕がこぼした呟きに、アルさんは「だよなぁ……」と苦笑する。
 しかし、そういう名前になったのは……たぶんアルさんの持つ大剣[黒鉄クロガネ]と、テツさんの名前である、鉄屑の二つからとったからなんだろう。

「それで、アキさん達もギルドを立てるんだよな? ギルド名は決まったか?」
「あはは……それが全く」
「難しいよね。私もアル達と考えてたけど、全然思いつかなかったもの」
「リアさんもですか? もうほんとどうしようかなぁって思ってますよー……ラミナさん以外の3人はあんまりこういったことを考えてくれそうにない気もしますし」

 そう言って僕が苦笑すれば、ラミナさんも「ん」と、頷いて同意してくれる。
 そんな僕らの反応にアルさんもまた「そうだよなぁ……」と困ったように頷いて、「じゃあ、参考までに他のギルドの名前も聞いてみるのはどうだろう?」と、助け舟を出してくれるのだった。

「他のギルド、ですか?」
「ああ。ギルドシステムが開始されてまだ数日だが、もうすでに結構な数のギルドが設立されてるんだ。だから、自分のギルドの名前の参考に、他のギルドの名前を見てみるのも手だろう」
「なるほど……!」
「というわけでだ。……トーマ、そろそろ会話に参加してこい」
「え!?」

 僕とラミナさんの席のさらに奥。
 その席に僕らから背を向けて座っていた男性が、「なんや、バレとったんか」と顔を見せる。
 その顔は確かにトーマ君の顔で……しかし、髪は真っ黒だった。

「アキにはバレへんかったし、上手く変装できとったと思うんやけど、やっぱアルには通じんかったか」
「店に入った時には気付かなかったが、アキさんと話してる間、ずっとこっちを伺ってたように感じてな……。まあ、なんにしても、トーマがこの店にいてくれて助かった」
「ま、話は聞いとったしな。で、ギルドの情報が欲しいんやろ?」
「ああ。ついでにトーマのギルドも教えてくれると助かる。ギルドでの付き合いもあるかもしれないしな」

 驚いてる僕を放ったまま話は進み、アルさんの言葉にトーマ君が「りょーかい」と軽く返して、僕らの席へと移動してくる。
 そんなトーマ君の後ろに、もう一人男性がいて……その人は僕の知らない人だった。

 ……あれ?
 そういえばトーマ君がギルドを組んだメンバーって、ウォンさんしか知らないな?
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