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10. お友達
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日曜日の昼下がり。昼食は適当に作った野菜炒めとそうめんで簡単に済ませて、現在、家には母と僕の二人っきりだ。
千夜子はいつぞやの通学路で話した通り、翔と誕生日プレゼントの日傘を選びに出掛けてしまった…。しかも...ついでに前々から観たかったという映画を一緒に観てくるというので、帰ってくるのは夕飯前になるという…。
勿論、自分も付いていくとは言ったのだが、当日まで秘密にしたいというので、他でもない千夜子に拒否されてしまったのだ…。
千夜子が出発して12分が経過した――。今はまだ電車に揺られている頃だろう…。
・・・ああ、千夜子――。電車の中は暑くないかい…?翔のヤツに変な目で見られてないかい…?
ピロン―――。
僕の心の声に呼応するかのように、メッセージアプリの通知音が鳴り響く。
(千夜子――っ!!)
・・・と思ったが、メッセージの送り主は翔だった…。
『千夜子ちゃんは責任もって家まで送り届けるから心配すんなよ!』
(・・・・・・。)
『千夜子に怪我させたり、泣かせたりしたら承知しないからな。あと変なコトしたら絶対ニ許サナイ…その時は僕の誕生日がお前の命日になる。』
・・・と、半分、冗談交じりのメッセージを送る。
少し間を置いて、青ざめた表情のニワトリのキャラクターのスタンプが返ってきた。
翔とは、こういうブラックジョークを交えたやり取りも出来るくらいには気の置けない仲である。もっとも...この後の翔の行動次第では、その関係も今日までのものとなる可能性もあるが…。
…千夜子のことはどうしても気になるが、あれこれ考えていても仕方がない。今は自分のやるべき事に集中しよう――。
雑念を振り払い、教科書とノートを開く。来週からは期末テストがあるので、誕生日や夏休みなどと浮かれている場合ではないのだ。
元々は学年上位20%に入るくらいだった成績も、母の介護を始めて以来どんどん順位を落としていき、今では中の下程度にまで成り下がってしまった…。そのことで先生や友人、そして何より…母さん自身にも酷く心配をかけてしまっている。だからこれ以上、順位を落とす訳にはいかないのだ――。
テスト勉強もひと段落し、小休憩に入る。時刻は3時を少し過ぎた当たり。
休みの日は夕飯のおかずを伯母さんに頼る事も出来ないので、全てこちらで準備する必要がある。
(準備を始めるなら、4時半くらいかな・・・
それまでは勉強の方をもうひと頑張りだな…。)
そう決意した矢先――、母さんに呼ばれる。
「夕也~。ちょっといいかしら?」
嫌な予感がする…。母さんの言う”ちょっと”は、大概ちょっとでは済まないからだ…。
「どうしたの…?」
「ちょっと草むしりを手伝って欲しいんだけど、大丈夫かしら~?」
――案の定だった。この人は一体何を言っているんだろう…?こんなカンカン照りの中、一緒に草をむしろうだなんて正気の沙汰とは思えない――。
「今からやるの?もう少し日が落ちてからでもいいんじゃ…?」
「あら?でも、夕也...お夕飯の支度があるでしょう?」
(そこまで分かって言っているのか…)
母さんは本当に遠慮というものが無くなった。昔はもっと気の回る人だった筈だが…。
「(悪いんだけど僕テスト勉強があるから)」
…と言いかけたところで思い留まる。
――駄目だ。これじゃあ昔の僕に戻ってしまう…。女手ひとつで僕たちをここまで育ててくれた、母さんの苦労に報いると決めたじゃないか。
甘えてなんかいられない...大人になるんだ――!
「分かったよ。準備してくるからちょっと待ってて。」
「ありがとうね~、夕也。愛してるわよー。」
(ハイハイ・・・。)
生地が薄めの長袖長ズボンの服に着替え、いつもの帽子を着用する。
ピロン―――。
メッセージが届く。
(誰だろう・・・。)
向田さんからだった。
『宗真くんと二人でプレゼント選びに来てまーす♪
来週楽しみにしててね(^_^)b』
というメッセージと共に、見るからに嬉しそうな表情の向田さんと、照れくさそうに笑う清水のツーショット写真が送られてきた。
(・・・僕の誕生日はお前らの青春ラブストーリー進行のためのイベントじゃないんだよ...)
―――ん…?
一瞬、何だかとんでもない思考が浮かんだ気がしたので、すぐさま搔き消して返信する。
『ありがとう。楽しみにしてるよ。』
そう――、これで正解だ。
二人は今、自分たちの休日の貴重な時間を使って僕のためにプレゼントを買いに行ってくれている。お礼を言う以外に何があるというのだ。
(そういえば…後ろに写ってるのって隣町のショッピングモールだよな…。)
二人が居るであろう隣町の大型ショッピングモールには、映画館やゲームセンターなども併設されている。近くに娯楽施設の類が一切存在しない――この辺りの住民にとって、休みの日に遊びに行く場所としては定番のスポットになっている。
そして...千夜子と翔が日傘を買いに行ったショッピングモールでもある。
(もしかしたら、どこかですれ違ってるかもしれないな…。)
別に、だからどうということもないのだが…四人が今、同じ場所に居る...そう考えるとなぜかモヤモヤした気分になってくる。
千夜子も、翔も、清水も、向田さんも…一緒にお出掛けして、一緒に映画を観て、一緒にデートして、一緒にプレゼントを買う。みんな時を同じくして…同じ場所に、同じ目的で集まっている。
一方、僕はどうだ?朝昼晩と食事を準備して、一人で黙々とテスト勉強をして、これから母と草を抜くだけの一日だ。
ああ、そうか…。
みんなの青春の一ページに、僕は居ないんだ――。
千夜子はいつぞやの通学路で話した通り、翔と誕生日プレゼントの日傘を選びに出掛けてしまった…。しかも...ついでに前々から観たかったという映画を一緒に観てくるというので、帰ってくるのは夕飯前になるという…。
勿論、自分も付いていくとは言ったのだが、当日まで秘密にしたいというので、他でもない千夜子に拒否されてしまったのだ…。
千夜子が出発して12分が経過した――。今はまだ電車に揺られている頃だろう…。
・・・ああ、千夜子――。電車の中は暑くないかい…?翔のヤツに変な目で見られてないかい…?
ピロン―――。
僕の心の声に呼応するかのように、メッセージアプリの通知音が鳴り響く。
(千夜子――っ!!)
・・・と思ったが、メッセージの送り主は翔だった…。
『千夜子ちゃんは責任もって家まで送り届けるから心配すんなよ!』
(・・・・・・。)
『千夜子に怪我させたり、泣かせたりしたら承知しないからな。あと変なコトしたら絶対ニ許サナイ…その時は僕の誕生日がお前の命日になる。』
・・・と、半分、冗談交じりのメッセージを送る。
少し間を置いて、青ざめた表情のニワトリのキャラクターのスタンプが返ってきた。
翔とは、こういうブラックジョークを交えたやり取りも出来るくらいには気の置けない仲である。もっとも...この後の翔の行動次第では、その関係も今日までのものとなる可能性もあるが…。
…千夜子のことはどうしても気になるが、あれこれ考えていても仕方がない。今は自分のやるべき事に集中しよう――。
雑念を振り払い、教科書とノートを開く。来週からは期末テストがあるので、誕生日や夏休みなどと浮かれている場合ではないのだ。
元々は学年上位20%に入るくらいだった成績も、母の介護を始めて以来どんどん順位を落としていき、今では中の下程度にまで成り下がってしまった…。そのことで先生や友人、そして何より…母さん自身にも酷く心配をかけてしまっている。だからこれ以上、順位を落とす訳にはいかないのだ――。
テスト勉強もひと段落し、小休憩に入る。時刻は3時を少し過ぎた当たり。
休みの日は夕飯のおかずを伯母さんに頼る事も出来ないので、全てこちらで準備する必要がある。
(準備を始めるなら、4時半くらいかな・・・
それまでは勉強の方をもうひと頑張りだな…。)
そう決意した矢先――、母さんに呼ばれる。
「夕也~。ちょっといいかしら?」
嫌な予感がする…。母さんの言う”ちょっと”は、大概ちょっとでは済まないからだ…。
「どうしたの…?」
「ちょっと草むしりを手伝って欲しいんだけど、大丈夫かしら~?」
――案の定だった。この人は一体何を言っているんだろう…?こんなカンカン照りの中、一緒に草をむしろうだなんて正気の沙汰とは思えない――。
「今からやるの?もう少し日が落ちてからでもいいんじゃ…?」
「あら?でも、夕也...お夕飯の支度があるでしょう?」
(そこまで分かって言っているのか…)
母さんは本当に遠慮というものが無くなった。昔はもっと気の回る人だった筈だが…。
「(悪いんだけど僕テスト勉強があるから)」
…と言いかけたところで思い留まる。
――駄目だ。これじゃあ昔の僕に戻ってしまう…。女手ひとつで僕たちをここまで育ててくれた、母さんの苦労に報いると決めたじゃないか。
甘えてなんかいられない...大人になるんだ――!
「分かったよ。準備してくるからちょっと待ってて。」
「ありがとうね~、夕也。愛してるわよー。」
(ハイハイ・・・。)
生地が薄めの長袖長ズボンの服に着替え、いつもの帽子を着用する。
ピロン―――。
メッセージが届く。
(誰だろう・・・。)
向田さんからだった。
『宗真くんと二人でプレゼント選びに来てまーす♪
来週楽しみにしててね(^_^)b』
というメッセージと共に、見るからに嬉しそうな表情の向田さんと、照れくさそうに笑う清水のツーショット写真が送られてきた。
(・・・僕の誕生日はお前らの青春ラブストーリー進行のためのイベントじゃないんだよ...)
―――ん…?
一瞬、何だかとんでもない思考が浮かんだ気がしたので、すぐさま搔き消して返信する。
『ありがとう。楽しみにしてるよ。』
そう――、これで正解だ。
二人は今、自分たちの休日の貴重な時間を使って僕のためにプレゼントを買いに行ってくれている。お礼を言う以外に何があるというのだ。
(そういえば…後ろに写ってるのって隣町のショッピングモールだよな…。)
二人が居るであろう隣町の大型ショッピングモールには、映画館やゲームセンターなども併設されている。近くに娯楽施設の類が一切存在しない――この辺りの住民にとって、休みの日に遊びに行く場所としては定番のスポットになっている。
そして...千夜子と翔が日傘を買いに行ったショッピングモールでもある。
(もしかしたら、どこかですれ違ってるかもしれないな…。)
別に、だからどうということもないのだが…四人が今、同じ場所に居る...そう考えるとなぜかモヤモヤした気分になってくる。
千夜子も、翔も、清水も、向田さんも…一緒にお出掛けして、一緒に映画を観て、一緒にデートして、一緒にプレゼントを買う。みんな時を同じくして…同じ場所に、同じ目的で集まっている。
一方、僕はどうだ?朝昼晩と食事を準備して、一人で黙々とテスト勉強をして、これから母と草を抜くだけの一日だ。
ああ、そうか…。
みんなの青春の一ページに、僕は居ないんだ――。
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