多機能型特別公衆便所 ==特便==

辻 野乃子

文字の大きさ
34 / 57

case0: 裏切り /Side-A #3

しおりを挟む
 隣の座敷に通され、あの黒髪ロングの女性の姿を探す。
(居た――!)

 彼女が居たのは入り口から見て一番奥――端っこの目立たない席に居たものの、その澄み切った雰囲気が放つ、不思議な存在感によってすぐに見つけられた。華があるといった感じとは違って、そこだけ空間を切り取ったような…一人だけ異世界からやってきたかのような…そんな存在感である。

「じゃあ、適当に好きなトコ座ってくれ。」
 そう言われて彼女の近くの席を見るが、どこにも空席はない。一度話してみたかったので残念だ…。

 言われた通り、適当に座る席を探していると、聞き覚えのある声に呼ばれる。
「お~い!M。こっち来いよー。」

 声の主は、リーダーが開宴の挨拶をしているときに野次を飛ばしていた、複数人の内の一人…"S先輩"だった。先輩は僕が見学に来ていた頃から気さくに話し掛けてくれる、お調子者だけど優しい――サークル内のムードメーカー的な存在だ。

 S先輩が指さしているのは、彼女とは一番離れた位置にある席だったが、僕は誘われるがままS先輩の隣に座った。

「よっ!歓迎会楽しんでるか?」

「はい!お陰様で楽しませてもらってます。」

「そっかそっか…そう言ってもらえると、こっちとしても頑張って準備した甲斐があるよ。」
 向かいの席に座っていたリーダーが、頷きながら感慨深げに言う。

 リーダーは、学内でも指折りの秀才として知られている。真面目だけど真面目過ぎず、人付き合いも上手で周囲からの人望も厚い――まさにリーダーになるべくしてなった人といった感じだ。

「ところでMって今、彼女とか居んの?」
 S先輩は普段からよく喋るひとだが、今日はお酒が入っているからか…特に上機嫌に感じられる。

「居ないですよ。今っていうか…彼女いない歴=年齢なんですけどね。」
 苦笑いを交えて返答する。

「まじで?こんなに良い好青年を放っておくなんて…みんな見る目ねえなぁ。」

「ははっ…ありがとうごさいます。」

「おい、S。あんまりウザ絡みすんなよ。M君も嫌だったら、コイツの事は無視してくれて一向に構わないからね。」

「うわっ!酷ぇ…。Mはそんなことしないよな?」

「・・・はい、そんなことしませんよ。」

「アレ?今何か変な間がなかった?」

「・・・そんなことないですよ。」
 イジリかそうでないかの微妙なラインを攻める。周りからは適度に笑い声もあがり、好感触だ。
 先輩たちとはもう知り合って一か月以上になるし…大学生らしく、こういう悪ノリも覚えていきたいところだ。

「ところで先輩、あの一番端の席に座ってる女の人って…」

「お!やっぱり気になる?」
 待ってましたとばかりに、食い気味に訊いてくる。

「ええ、まあ…」
 それを聞くと先輩は僕の肩に腕を回し、滑らかに話し始める。

「あの娘は"Yちゃん"。○○学部△△学科所属の2年生。8月27日生まれのおとめ座で、現在19歳――」
(Y…先輩…2年生だったのか…。あんまり馴染めていないように見えたから、てっきり同世代か思ったけど…)

「出身は□□で血液型はB型。好きな食べ物は…」
バシッ―――。
 リーダーの手刀がS先輩の頭に命中する。

「他人の個人情報をベラベラと喋るな。」

「痛ってぇ…なにすんだよ!俺はただ、かわいい後輩君のために愛のキューピットを買って出ただけであってな…」

「M君だって、別にまだ好きだなんて言ってないだろ。」

「それはそうだけどよ…。で!実際のトコどうなんだ…?M。」

「好きかどうかはまだ分かりませんが、正直…見た目はすごく好みです…。」

「おおー、イイねぇ!!ほら!Mだってこういってるじゃんか。」

「…まあ、M君がそういうならいいけど…。
 よし!そういう事なら僕も一肌脱ぐよ。次の席替えではリーダー権限で、MくんをYちゃんの近くに座れるようにしてあげよう!」

「本当ですか?ありがとうございます!」
 この手の話題は男女問わず食いつきがいいので、変に恥ずかしがって否定する必要はない。話してみたいと思っていたのも事実だし…先輩たちも協力的な様子なので、軋轢が生まれるということもなさそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...