41 / 57
case0: 裏切り /Side-A #7
しおりを挟む
更衣室のロッカーに忘れてきたであろう財布を見つけるべく、大学構内に戻って来た。テニスサークルの更衣室はグラウンドの入り口から見て、部室棟の一番奥にある。遠巻きに男子更衣室を見てみると、換気用の下窓が開いているのが確認できた。
(よかった・・・先輩達、まだ居るみたいだ。)
鍵を開けてもらう為だけに、先輩方の手を煩わせる事態にならずにホッとした。今すぐに更衣室が閉まってしまう可能性もゼロではないので、気持ち急ぎ足で入口へと向かった。
更衣室までほんの数メートルというところで、男子更衣室からはおおよそ聞こえてくる筈の無い――甲高い笑い声が響いた。それはテニスサークルのメンバーであれば全員にとって聞き馴染みのある、A先輩の笑い声だった。
(変だな…A先輩はサークル内では特に役職には就いていないし、予算についての話し合いなら参加する必要も無いはずなのに・・・)
先輩達との約束の時間にはまだ余裕がある…。湧き上がる疑問と好奇心を抑えられず、部室棟の裏へと回り、開け放たれた下窓の傍で聞き耳を立てることにした。
「でも、本当にいいのかい?」
「そうだよ。お前、あんなにYにご執心だったのにさ。」
「まあ…Yみたいな子を近くに置くと色々都合がいいんですよ。ほら、よく合コンの時に自分よりブスな子集めて引き立て役にする女っているじゃないですか?
あんなの、私に言わせれば二流のすることですねー。真ん中よりちょっと上くらいが一番モテるものなんですよ。」
「なるほど…引き立て役ならぬ、引き下げ役ってトコか。」
「ちょっとぉ~~!!間違ってはないけど、その言い方は酷くないですか~?
それに…Yってもの凄い美人な上にあんまり喋らないから、近寄り難いじゃないですかぁ。だから、親しみやすさって意味では引き立て役でもあるんですよねぇ。
後は、Yとお近づきになるためにアタシのところに相談に来た男を逆に捕まえたりとかぁ…あの子って色々と便利なんですよねぇ~。」
「全く…女ってのはつくづく恐ろしいね。Aと居ると色々勉強になるよ。」
「リーダーほどじゃありませんよー。そっちこそ、一体これまで何人の女の子を泣かせてきたんですかぁ~?」
「想像にお任せするよ。それに…女性関係で言えばSには敵わないさ。今って4股だっけ、S?」
「5股だよ。ほら、こないだの合宿の時に増えた…」
「ああ、あの――O君の彼女か。しかし、何も知らずに…O君も可哀想なものだね。」
「馬鹿言え、むしろ感謝して欲しいくらいだぜ。男ならナヨナヨしてねえで自分から行けって言ったのによお…アイツ、いつまで経っても行きやしねぇ。で、結局俺が先に行って、女の方けしかけて、ようやく告白だ…。あんなんじゃ誰にも相手されねえって。遊んで貰ってるだけ有難く思えってんだ。」
「確かに、受け身が許されるのはスペックの高い人間だけだよね。例えば…僕、みたいな?」
「キャハハッ!!何それ~~!
リーダーが言っても全然冗談に聞こえないんですけど~~。」
「全くだぜ…。そういうのは冗談じゃなくて嫌味って言うんだよ!」
「そうか…ジョークっていうのも、やっぱり難しいな。」
「実際、リーダーは受け身のままでいいですよー。という訳でぇ~、今夜Mくんとの食事が終わったらウチ来ませんかぁ、リーダー?」
「う~ん、確かにここ一週間くらいご無沙汰だし…この際、Aでもいいか。初めてのYちゃんの前で、あんまりギラついてるところも見せたくないしね。」
「やったぁ!」
「いや…この際ってトコにツッコめよ!」
「キャハハハ~~!!」
(・・・・・・。
何なんだ……この吐き気を催す会話は。)
信じられなかった――A先輩はともかく…あの気のいいS先輩や、真面目で温厚なリーダーまで…。
O君が僕に、人生で初めての彼女が出来たと報告してくれたあの時・・・彼は本当に嬉しそうに話してくれた。S先輩やリーダーも、彼の事を心から祝福しているように見えた…。それなのに、こんな…。
(いや...それよりも、今はY先輩だ。)
途中からしか聞いてないから全容は分からないが、何かY先輩に良くない事が起きようとしている…。
全身の汗が止まらず、普通の汗だか冷や汗だかも分からない…。こんなに暑いのに鳥肌も立っている。
それでも...僕の体はこの場から動こうとはせず、一度覗き込んでしまった深淵から目が離せずにいた…。
(よかった・・・先輩達、まだ居るみたいだ。)
鍵を開けてもらう為だけに、先輩方の手を煩わせる事態にならずにホッとした。今すぐに更衣室が閉まってしまう可能性もゼロではないので、気持ち急ぎ足で入口へと向かった。
更衣室までほんの数メートルというところで、男子更衣室からはおおよそ聞こえてくる筈の無い――甲高い笑い声が響いた。それはテニスサークルのメンバーであれば全員にとって聞き馴染みのある、A先輩の笑い声だった。
(変だな…A先輩はサークル内では特に役職には就いていないし、予算についての話し合いなら参加する必要も無いはずなのに・・・)
先輩達との約束の時間にはまだ余裕がある…。湧き上がる疑問と好奇心を抑えられず、部室棟の裏へと回り、開け放たれた下窓の傍で聞き耳を立てることにした。
「でも、本当にいいのかい?」
「そうだよ。お前、あんなにYにご執心だったのにさ。」
「まあ…Yみたいな子を近くに置くと色々都合がいいんですよ。ほら、よく合コンの時に自分よりブスな子集めて引き立て役にする女っているじゃないですか?
あんなの、私に言わせれば二流のすることですねー。真ん中よりちょっと上くらいが一番モテるものなんですよ。」
「なるほど…引き立て役ならぬ、引き下げ役ってトコか。」
「ちょっとぉ~~!!間違ってはないけど、その言い方は酷くないですか~?
それに…Yってもの凄い美人な上にあんまり喋らないから、近寄り難いじゃないですかぁ。だから、親しみやすさって意味では引き立て役でもあるんですよねぇ。
後は、Yとお近づきになるためにアタシのところに相談に来た男を逆に捕まえたりとかぁ…あの子って色々と便利なんですよねぇ~。」
「全く…女ってのはつくづく恐ろしいね。Aと居ると色々勉強になるよ。」
「リーダーほどじゃありませんよー。そっちこそ、一体これまで何人の女の子を泣かせてきたんですかぁ~?」
「想像にお任せするよ。それに…女性関係で言えばSには敵わないさ。今って4股だっけ、S?」
「5股だよ。ほら、こないだの合宿の時に増えた…」
「ああ、あの――O君の彼女か。しかし、何も知らずに…O君も可哀想なものだね。」
「馬鹿言え、むしろ感謝して欲しいくらいだぜ。男ならナヨナヨしてねえで自分から行けって言ったのによお…アイツ、いつまで経っても行きやしねぇ。で、結局俺が先に行って、女の方けしかけて、ようやく告白だ…。あんなんじゃ誰にも相手されねえって。遊んで貰ってるだけ有難く思えってんだ。」
「確かに、受け身が許されるのはスペックの高い人間だけだよね。例えば…僕、みたいな?」
「キャハハッ!!何それ~~!
リーダーが言っても全然冗談に聞こえないんですけど~~。」
「全くだぜ…。そういうのは冗談じゃなくて嫌味って言うんだよ!」
「そうか…ジョークっていうのも、やっぱり難しいな。」
「実際、リーダーは受け身のままでいいですよー。という訳でぇ~、今夜Mくんとの食事が終わったらウチ来ませんかぁ、リーダー?」
「う~ん、確かにここ一週間くらいご無沙汰だし…この際、Aでもいいか。初めてのYちゃんの前で、あんまりギラついてるところも見せたくないしね。」
「やったぁ!」
「いや…この際ってトコにツッコめよ!」
「キャハハハ~~!!」
(・・・・・・。
何なんだ……この吐き気を催す会話は。)
信じられなかった――A先輩はともかく…あの気のいいS先輩や、真面目で温厚なリーダーまで…。
O君が僕に、人生で初めての彼女が出来たと報告してくれたあの時・・・彼は本当に嬉しそうに話してくれた。S先輩やリーダーも、彼の事を心から祝福しているように見えた…。それなのに、こんな…。
(いや...それよりも、今はY先輩だ。)
途中からしか聞いてないから全容は分からないが、何かY先輩に良くない事が起きようとしている…。
全身の汗が止まらず、普通の汗だか冷や汗だかも分からない…。こんなに暑いのに鳥肌も立っている。
それでも...僕の体はこの場から動こうとはせず、一度覗き込んでしまった深淵から目が離せずにいた…。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる