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case0: 裏切り /Side-B #1

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「え~、皆さんは『LGBT』という言葉を知っていますか?」
 担任が黒板にデカデカと縦並びに『L』『G』『B』『T』と順に書いていく。
 その後、4つのアルファベットの横にカタカナで対応する正式名称を書いて、生徒たちの方に向き直る。

「これらは女性の同性愛者である『レズビアン』、男性の同性愛者である『ゲイ』、両性愛者である『バイセクシュアル』、性同一性障害である『トランスジェンダー』の頭文字を取ったもので、主に性的少数派マイノリティの人々を指す言葉として使われています。」
(・・・いや、『LGBT』って言葉を知らない前提で話すんなら『性的マイノリティ』の説明もしたら?)

は私たちとは異なる、特殊な性的指向や性自認を持っていますが…それでも当然私たちと同じ人間であり、尊重されるべき存在であることに変わりはありません。」
(性別云々の話をしてるんだし...一応、『彼ら彼女ら』とか言っといた方がいいんじゃない?
 いちいち細かいだろうけど...一応ね。そういうのうるさい人達も居る訳だしさ。)

「コホン――。ということで…入って来てください。」
(…ということって、どういうことだよ。
 あー...気まず…。もっと軽い感じで呼んでくれればいいのに…。)
 ボク・・・アタシが教室に入ると案の定、周囲がどよめいた。

「今ここに居る"ユイト"君はこの中で言う、『トランスジェンダー』に当たります。」
(ま・・・違うんだけどね。男子として扱われるのが嫌なだけ――。
 でも、この違い…説明するの面倒くさいんだよなあ…。そっちのが判りやすいし。)

「最近では、この『LGBT』のどれにも当てはまらない人も含めて、『LGBTQ』や『LGBTQ+』なんて呼び方をすることもあります。」
(そ、強いて言えばソレ。難しいのは分かるけど…『Q』の説明雑過ぎない?)

「繰り返しになりますが、"ユイト君"もその他のLGBTQの人達も私たちと同じ人間です。」
(もう、人間扱いしてくれるのは分かったから…いい加減その"ユイト君"っての止めてもらえます…先生?)

「くれぐれも好奇の目で見たり、仲間外れにしたりすることの無いよう…今まで通り、皆さん仲良くしてあげてくださいね。」
(あー...もう、本っん当…最悪。
 こんなん腫れ物扱い確定じゃん・・・。
 そんな紹介の仕方されたら、アタシだって迂闊に話し掛けらんないってば…。)


 ホームルームが終了し、見る場所を失ったアタシは窓の外へと視線を逃がす。
 クラスのみんなも、どう接していいか分からず、ただただ困惑している空気感だけがヒシヒシと伝わってくる。
 ――そんな中、足音が一つ、近づいてくるのが解ったのでそちらへと目線を移す。

「ちょっとぉ~~!アタシ、びっくりしちゃったよー。何でもっと早く言ってくれなかったのぉ!!」
 真っ先に腫れ物に触りに来たのは、よく通る明るい声の、存在感の塊のような女生徒だった。
 彼女はクラスの中心人物であり、ボクの...幼馴染だ――。
 
「まあ…何となくね。」
 そんな二人のやり取りを、彼女の取り巻き達をはじめ、クラスの全員が固唾を呑んで見守っている。そんな彼ら彼女らの、異様に緊迫した視線はまるで…爆発物の処理現場にでも立ち合っているかのようだった。

「別に隠さなくても良かったのにさ~。アタシと"ゆっくん"の仲じゃない!」
(・・・そりゃあ、キミだから言えなかったんじゃないか…。だってキミは……)

「...っと……これからは"ゆっくん"って言うのも良くないよね…。
 う~ん、そうだなぁ・・・。
 だったら..."ユイ"で良いよね?消すだけでいいしさ!」

「ユイ・・・。そうだね…。うん、それがいい。」

(ああ――、本っん当に...そのに、これまでどれだけ苦しめられてきたことか……。)


「そっか。じゃっ、これからよろしくね!"ユイ"。」

「うん、ありがとうね……"アケミ"。」
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