ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺はスローライフを目指す。最強?無双?そんなものに興味無いです〜

くろひつじ

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87話「それまでの間、このひと時を楽しむとしよう」

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 喫茶店を出た後、後は若い二人に任せると言ってネーヴェさんは店に帰って行った。
 年齢で言えばネーヴェさんの方が年下だと思うんだけど、彼女の場合は精神年齢が俺達より高いからなぁ。
 特に俺は恋愛経験なんて全くないし。
 その辺りを考慮してくれたのかもしれないが、発情モードのジュレと二人きりなのは正直勘弁してもらいたい。

「あー……とりあえず、帰るか」
「折角なのでもう少し一緒に歩きませんか? 良い場所を知ってるんです」
「良い場所?」
「フリドールの西側に人気の観光スポットがあるんですよ」

 観光スポットか。そういう所には仕事以外で行ったこと無かったな。
 丁度良い機会だし、ジュレに案内してもらうか。

「分かった。吹雪も弱まってきたし、行ってみるか」
「はい。是非ともそうしましょう」

 言うが早いか、すぐさま腕に抱き着かれてしまう。
 もの凄い存在感のある胸に腕が埋まってしまい、正直なところとても恥ずかしい。
 しかし振りほどく程でもないし、こうやって愛情表現してくれるのは嬉しくも思う訳で。
 若干ぎこちなく歩きながらも、温かな体温を感じながら目的地に向かうことにした。

 ※

「着きました。前来た時と変わりが無くて良かったです」

 ジュレが微笑みながら告げる。
 そこは、一面の花畑だった。
 ふわふわとした雪のような花。
 氷の結晶のような青い花。
 淡い氷柱のような花。
 どれも冬を思わせる様々な花が、これでもかと咲き乱れている。
 確かにこれは凄い光景だな。

「私、この場所が一番好きなんですよ。何だか故郷に帰って来たような気持ちになります」
「故郷か」

 なるほど、確かにこの場所はジュレに良く似合っている。
 どこかのお姫様のような儚く可憐な美女が花畑に立っている光景は、さながら一枚の絵画のようだ。
 花の精霊のようで、冬の妖精のようで、吟遊詩人に唄われる女神のようで。
 今まで世界中の美術品を見てきたが、これほど美しいものは無いのではないだろうかと思ってしまった。
 しばし見惚れてしまい、ふと我に返る。

「じゃあ次は俺の故郷を案内しなきゃな」
「ライさんのですか?」
「あぁ、俺が育った町だよ。王都に戻ったらそのまま向かおうと思ってる」

 特に名所もない小さな町。
 シスター・ナリアに拾われた、俺を育ててくれた場所だ。
 俺の生まれたところなんて知らないけど、俺の故郷と言えばやはりあの町、そしてあの教会だろう。
 古びた造りの教会は隙間風も多く雨漏りもしていたけど、それでも何物にも代えられない、俺の帰るべき場所だ。
 最終的な目的地では無いけれど、一度顔を出しておきたい。
 正確には、今の仲間たちをシスター・ナリアに合わせておきたいと思っている。
 今の俺は幸せだと、育ててくれた彼女に報告するためにも。

「分かりました。もちろんその時はみんなで、ですね」
「そうだな。みんなで行こう」

 にっこりと微笑むジュレに自然と微笑みを返す。
 すると彼女は悪戯を思いついたように笑みの質を変え、すっと顔を近付けてきた。
 甘い香り、触れる吐息。宿での一件を思い出し、つい鼓動が早くなる。
 しかしジュレは俺の胸にそっと手を重ねると、ジュレはそのまま俺の耳元で囁いた。

「でも今は、私だけを見てくださいね」
「……そうだな。今はお前だけを見てるよ」
「ふふ。二人だけの時間は貴重ですから。存分に堪能させていただきます」

 薄桃色に頬を上気させて、そっと俺の手を取り、指を絡めてくる。
 俺に応えて優しく手を握ると、ジュレはガラス細工のように綺麗な笑顔を浮かべて。

「ねぇライさん……ここには他に、誰もいませんよ?」

 そう言うと、顔を上げてそっと目を閉じた。
 ……おい。いや、ここでするのか?
 確かに今は居ないかもしれないけど、いつ人が来るか分からないような場所だぞ?

 数秒程悩み、しかしその可愛らしいお願いを断ることも出来ず。
 我ながら情けないことに、非常にゆっくりと。
 愛しい彼女に唇を重ねた。

 そして数秒後。
 散歩目的で花畑に来ていた親子に現場をばっちり目撃されてしまい、二人揃って顔を真っ赤にしながらその場を後にすることになった。

 ※

 ジュレと一緒にフリドールの街を巡ると、よく知っている街にも関わらず新たな発見が沢山あった。
 例えば、他の街でもよく見かける簡単な魔導具ですら新鮮に感じ、二人揃って笑いながらそれを見たり。
 露店で買った串焼きを食べながら初めて出会った時のことを語り合ったり。
 街中の建物の煙突から上がる白い煙をのんびりと眺めたり。
 フリドールの特産品でもある革製品店で揃いの手袋を購入したり。
 特筆するようなことでもない時間。その何でもない時間の一つ一つが、とても尊いものに思えて。
 愛しい人と居るだけでこんなにも世界は楽しいものなのかと、自分の経験の無さについ苦笑を漏らしてしまった。

「ライさん?」
「あぁ、すまん。ただ、幸せだなと思っただけだ」
「……はい。私も、幸せです」

 絡み合った指。重ねる言葉。視界に映る彼女の姿。
 心ってものは、人間ってものは。
 やはり暖かいのだなと、改めてそう思えた。

 宿までの道のりは短い。二人きりの時間もそろそろ終わりが近づいている。
 けれど、もう少しだけ時間は残されている事だし。
 それまでの間、このひと時を楽しむとしよう。
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