愛について歌うきみと

輪道響輝

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第二章 代償と揺らぎ

耀きに包まれながら

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 目を覚ますと、そこにはヘルブラム殿下とフリーナ陛下、それから義父上とアルバ兄様とアムール様。いつもの面々が揃っていた。今回はそれにプラスして、知らない人が一人……

「リドル君……大丈夫?」

 心配そうにヘルブラム殿下に見つめられて、やはりなぜか鼓動が早くなる。………可愛い……
 それよりあの人は誰だろう?
 首を傾げているとその様子に気づいたフリーナ陛下が紹介してくれた。
 どうやらこの方はウィリアム王配殿下。つまり陛下の夫という事だ。ちなみに後で聞いたのだが王族としては珍しい恋愛結婚だったそう。
 王配殿下はとても優しく、それでいて物腰の柔らかい人だった。

 そのあとはひたすら質問漬けにされた。どうやら1度目を覚まし、そこから行方知れずになっていたそうだ。見つかったのは、聖なる泉の上。
 魔力の膜の中にヘルブラム殿下と一緒にいたらしい。よく覚えていないので、何とも言えない。
 それはヘルブラム殿下も同じらしく、みんなで首を傾げる自体となった。そして陛下が神妙な顔をしながら部屋を変えようといい、病床から応接室へと場所を変え、使用人が全員部屋を出た事を確認したら鍵をかけた。
 その次に、防音魔法をかけた後誓約魔法を使い、今から話すことを外に漏らさないようにと言われた。頷いたら次に出てきた言葉は、考えもしなかった未来の話。

 かつて存在したと言われている大魔術師フレミネにはこんな遺言があったと言われている。
「第18代目ヴィーナス王が君臨する時終焉が厄災を巻き起こし、ヴィーナス王国を初めとし、サントラル大陸を崩壊させ、世界にアビスが充満する。」
 それは、もうすぐそこまで来ている。フリーナ陛下で17代目。次の代で終焉がやってくる。そして、ヘルブラム殿下が高等部を卒業する頃には誰を立太子させるかも決めておかなければいけない。
 のろのろとしている場合ではないのだ。であれば、いち早く対策を立てなければいけない。

 しかし、この国にアビスを浄化させられる力を持つのは僕と、アビスガード家の人だけ。だから、終焉を討伐するには人数が少なすぎる。それにこれを国際会議で出したところ、ヴィーナス王国が自分達で解決すべきとはねられたらしい。それが今こうして悩んでいる原因なのだ。
 立太子を遅らせているのもそのためだそう。確かに18代目にならない限りは終焉が来ない可能性もあるから意味はないと思いつつ遅らせているらしい。

 そして重要なのが僕の属性とその魔力量らしい。魔力量はこの王国だけでなく、サントラル大陸でダントツ1番多いらしい。そしてこの属性に似た能力が最近見つかったらしい。かつて居たキルア派の大教祖であるバアル・ゼブル様は全ての魔法が扱えてアビスの浄化もできたらしい。それは僕も同じだが、バアル・ゼブル様は神の魔法までも使えたらしい。そこが唯一の違いだ。

 それから体が大きくなれば魔力量が増えて、神の魔法も使えるかもしれないらしい。でも神の魔法と言っても様々だそう。バアル・ゼブル様は主に生命に纏わる魔法を得意としたらしい。

 ◆◇◆

 その後は普通にお茶会のような感じになり、メイドさんが陛下お手製のタルトタタンとブリオッシュを持ってきてくれた。
 タルトタタンはりんごの甘みと香ばしいタルト生地がよく合っていて紅茶がすごく進んだ。ブリオッシュもバターがよく効いていて、あまじょっぱい味にふわふわの食感が混ざり合い、とても美味しかった。

 僕もまた今度お菓子作りとかしてみようかな?なんてヘルブラム殿下と話していると、陛下がいつでもキッチンを使っていいと言ってくれた。

 陛下はよくお菓子を作るそうで、いちばん得意なのはスコーンだそうだ。逆に王配殿下はお菓子作りがすこぶる苦手だそうだ。以前シュー・ア・ラ・クレームを作った際に、オーブンの時間と温度を間違えてシューが爆発したらしい。

 王族の皆様によるスイーツトークは面白すぎてずっと笑ってしまった。サンプーチャンと呼ばれる他国のお菓子に挑戦した話や、ヘルブラム殿下がクッキーを作った時の話など、色々な珍事件があってとても面白かった。
 本来なら王族がお菓子作りをするのは珍しいんだけど、先々代より前からお菓子作りがストレス解消法として王族に定着しているそうだ。

 そんなこんなで話し込んでいるうちに何故かみんなでお菓子作りをする事になった。国の危機とか話していた雰囲気は何処かに飛んでいき、みんなでワイワイお菓子作りを始めた。
 何を作ろうかと考えていると、いい感じのものが浮かんできた。以前、ライが言っていたどら焼き?と呼ばれるお菓子を作ってみようと思う。

 まず、卵と砂糖を泡立てて、はちみつを入れてふわっとするまで混ぜる。小麦粉を入れて、さらに混ぜる。確かこの時に、練りすぎないようにだったかな?
 粉気がなくなると次は休ませる。
 その間に、あんこと呼ばれる……クリーム?なんだろ?
 を作る。あずきをってあれ?あずきってなに?
 よし!聞いてみよう!

「あの……ヘルブラム殿下、あずきってなにか分かりますか?」

 すると殿下は頭を傾けた。どうやら殿下も分からないらしい。うーんとしていると、義父上にどうしたのかと聞かれ、あずきがなにかと聞くと他国で栽培されている豆らしい。そしてあずきを使いたい旨を伝えると、陛下に確認しに行った。どうやらここには無いらしく、わざわざアビスガード邸まで取りに行ってくださる事になり、申し訳なく思いつつ甘えさせてもらうことにした。

 しばらくして、あずきが届くとさっそくあんこ作りに取り掛かった。あずきを洗い、色々としていくと、何とかできた。
 あずきを待っている間に完成させた生地を焼き、あんこを挟むと少し形は歪だが、どら焼きが完成した。

 ほかの人たちも完成したらしく、 お茶会の席に着くと、ぞろぞろとでてきた。
 陛下はスコーンを、王配殿下はモンブラン、ヘルブラム殿下はマカロン、アルバ兄様はプディング、アムール様はクッキー、義父上は、みたらしだんご?ともなか?という物を作っていた。義父上のふたつのスイーツはライが言っていたほかのレシピだった。
 ついでにと緑色のお茶も出された。このお茶は甘くなく、少し苦味があってもなかやどら焼き、みたらしだんごによく合っていて、美味しかった。だけどほかのお菓子には余り合わなかった印象だ。このお茶はぎょくろ?と言うらしくりょくちゃと言う他国のお茶の中でも最高級のものらしい。

 この3つのスイーツは陛下が大変気に入り、レシピを聞かれ、教えた後、大抵のお茶会で出るようになった。

 ちなみに陛下のスコーンは得意と言うだけあり、凄く美味しかった。
 ◆◇◆

 お茶会も終わり、部屋に戻る頃にはすっかり暗くなっていて、ヘルブラム殿下と色々話しているうちに、段々と眠たくなり、殿下の部屋で寝てしまった。
  
 起きた時に殿下の寝顔が隣にあったのを見て前もこんな事があったなと、一人感傷に浸っていると、またもやゾファン殿下にからかわれた。本当にそういう関係ではないので勘弁して欲しい。殿下の伴侶とか烏滸おこがましすぎる。うん!僕じゃ釣り合わない!

 そう言えばゾファン殿下は恋人とかいないのかな?と思いついつい聞いてしまったら、どうやら婚約者がいるらしい。ヘルブラム殿下曰く、好きすぎて四六時中婚約相手を考えているらしい。それから学園にいる間、ずっと口説いていたらしい。
 その後はひたすら惚気話をされた。もうおなかいっぱい。

 少し憧れるな………好きな人が出来て、両思いになって、婚約して、結婚してって凄くキラキラしているように感じる。

 愛と言えば昔、ライが聞かせてくれた、ブラスバンドの曲にあった、「ル・シャン・ドゥ・ラムール・エ・ドゥ・ラ・プリエール」と言う曲があったな………作曲者を聞いたら誤魔化されたけど、愛と祈りの歌と言う意味を持つ題名にしっくりきた。
 壮大な音に時折はいる繊細な旋律が愛を感じさせ、まるで戦いの中で愛人に思い馳せるようなそんな曲。

 オーケストラに少し似た編成をしており、管楽器と打楽器にハープとコントラバスを使った不思議な編成。
 確か吹奏楽だったかな、吹奏楽の曲には色んな曲があって、風紋やトイズ・パレードなんて言う曲もあった。

 ライは色んな曲を知っていた。誰も知らない様な、不思議な曲。僕が好きだったのは「ピアノソナタ第八番悲愴第二楽章」。美しい旋律に悲しみと愛が同居しているかのような、慈しむ様な綺麗な音色。
 やはり作曲者は分からないけど、曲の背景はこの曲が生み出されたのに納得出来てしまう様なものだった。
 作曲者が聴力を失い、それでも曲を作り続けたという。この曲は耳が聞こえなくなった位の時期に描かれたらしい。

 思い出すとやはり弾きたくなる。

「確かここら辺に楽譜を置いておいたはず………」

 引き出しを見ると涙の跡でぐちゃぐちゃになった楽譜が大量にあった。
 ライが死んで、それを受け入れられなくて、ただひたすらに楽譜ライの手紙を握りしめて泣き続けた時をふと思い出す。あの時はすごく苦しかった。今も生ぬるいまま変われないでいる。

 目から流れ出た塩水を拭いながら、鍵盤と向き合うと自然と指が動く。ポロンと空気を弦が揺らすと、曲にするりと入り込めた。弾く度に涙が溢れ出てきて、苦しくて、でも暖かくて、少しの幸せを感じた。

 僕の音色は拙くて、いい音とはとても言えないけど、この旋律が寄り添ってくれるようで、心が和らぐ。
 すると涙が止まらなくて、まだ立ち直れてないんだなと実感した。雫が鍵盤を、指を濡らす度に、想いが這い出してくる。
 笑顔でいると決めても、ライの死と、フレイム家の解散が足を掴んで花開く暖かくて柔らかい場所に行くのを許さない。きっと僕は幸せになっては行けないんだ。だから、この罪を背負ったまま、生という罰を受け続ける。

 ◇◆◇(sideヘルブラム)

 繊細な旋律が響く。音色がこれはリドル君の物だと告げるようで笑みが零れそうになる。兄上の惚気話を聞いた後に、懐かしい物を探すような顔をして、部屋から出ていった、後少し時間がたった後
 でもなぜだろう。
 この音色を作るのは悲しみと苦しみ、それから呪いのようで、心が苦しくなる。もしかするとやはりリドル君は立ち直れていないのかもしれない。
 リドル君の悲しみに溢れた脈が、耳に届く度に胸が締め付けられる。

 生きるのはリドル君の中でどれほど辛いんだろう。
 ふとあの時手を離してあげられれば、リドル君は楽になれていたのかなと頭をよぎるのを払拭していると、曲が終わり静かになった。その静寂が辛い。
 どこまで行っても彼を救える者は誰もいない様で、僕にもブライト君にもアムール君にもできない。どうして僕ではダメなんだろう。

 リドル君の気持ちは痛いほど解るけど、解るだけでは何も出来ない。器用なブライト君ならきっと彼の心をほぐしてあげることが出来るのに………悔しいな。
 どら焼きを作るリドル君は本当に楽しそうだった。ブライト君が虹を渡ってからこれまでで一番の笑顔だった。心から笑うようなそんな笑顔。僕にはさせてあげられない笑顔。その笑顔が見たくて、手を伸ばして、でも見ることはできない。

 心から笑えなくなった君をどうやって笑顔にしよう?
 その辛い愛のうたは、どうしたら幸せな結末を迎えられる?分からない。わかるはずもないんだ。

 今、彼にとっての救済は死以外の何物でもない。
 きっとあの時の僕のことばは呪いなのだろう。
 彼にとっていちばん辛い生と言う地獄に縛り付ける呪い。

 僕は、どうすればいいんだろう。

 彼を救うのは愛でも、友情でも、音楽でも、物語でもない。救いたいのに、君と離れたくなくて、その手を離せない。辛いって、苦しいって叫ぶ君を見ていることしか出来ない。ならせめて、その傷だらけの心に寄り添いたい。

 それまで読んでいた本を閉じ、時間を見て、リドル君の部屋へ向かう。その悲しい旋律に治癒魔法を掛けれるように、君のことを救えるように、君を………愛せるように。
 そして扉を開くと真珠の様な涙を流しながら笑みを浮かべる君がいる。少しでいい、寄り添い、これからの道を歩きたい。そう思って声をかける。

「リドル君、そろそろご飯の準備が出来るそうだ。」

 そう言うとその頬に流れるキラキラと光る宝石を拭い、辺り一面に花が咲くような笑顔を向けて手を取る。

いつか、君のその悲しいくて苦しい笑顔が本物の笑顔になりますように。そう願い、二人で部屋を出た。
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