【R18】月華の夜、龍と贄はつがいとなりて

琴音 結月

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第肆話:月華の契り

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 両親の納骨を済ませた、雪深い冬の朝のことだった。
 突として目の端に現れた、小さな黒子ほくろのような斑点。さほど気にも留めなかったが、数日後、それが少し大きくなっていることに気づいた。
 引き攣った感触。目元を、頬を、首筋を、まるで蔦が這うように広がる黒い痣。
「これは死斑病。……残念じゃが、治る見込みは、ない」
 村医者のこの宣告は、幼い瑠璃の心に重く圧しかかった。
 瑠璃の世界から、色が消えた。
 空はいつも灰色で、真白い雪景色でさえも、くすんで見えた。
 春が来て、夏が過ぎ、そしてふたたび冬が訪れた。そのあいだも、瑠璃の痣は確実に広がっていった。
 里親を転々とする日々。いつしか瑠璃は、心をとざした。
 大好きだった両親はいない。たとえ自分が死のうとも、悼んでくれる者など誰もいない。
 もう、どうでもいい。
 そうして月日は流れ、瑠璃が十五を迎えた、ある秋の日。
 瑠璃は、村長むらおさの屋敷へ呼び出された。
 そこで長から、寄合の場で次の捧身に選ばれたことと、その年が来るまで屋敷でかしずくことを告げられた。
 まさに青天の霹靂。
 儀礼的に伺いを立ててくれたが、瑠璃は迷わず引き受けた。
 以前の自分ならば、多少なりとも動揺していただろう。だが、あのときの自分は、驚くほど落ち着いていた。
 どうせ長くは生きられないのだ。最後にこの醜い身体の使い道があるのなら、それはそれで悪くないと思えた。

 よかった。ここへ来て。
 彼に——珀さまに、出逢えて、本当に。


 ◇ ◆ ◇


 静かな夜だった。
 辺りが深い眠りについた世界で、黄金色の満月だけが、ひときわ明るく輝いていた。
 沁み入るように冷たい夜気。すべてを浄化せんと降り注ぐ清冽な光が、冴え冴えと社を照らし出す。
 瑠璃が珀の元へ来て、ちょうどひと月が経過したこの日。
 珀は、一日じゅう瑠璃のそばにいた。
 社の奥。神聖な主殿に構えられた、寝台の上。
 乾いた咳が、痛々しく響く。珀の腕に抱かれた瑠璃の顔は蒼白とし、その華奢な身体はますます痩せ細っていた。
「……つらいか?」
「いいえ。……珀さまのおかげで、大丈夫、です」
 弱々しく、されど確かな微笑み。
 ひと月前に比べ、瑠璃の病状は明らかに進行していた。黒い痣は胸から背中へと広がり、珀に術を施してもらう回数が増えた。
 食事量が減った。運動量も減った。それでも、珀がそばにいてくれることで、村にいたときからは想像もできないほど穏やかな日々を過ごせていた。
「ここに……珀さまの元に来て、本当によかった」
 そう言うと、瑠璃は潤んだその瞳を珀に向けた。
 珀に対する畏敬の念は変わらない。しかし、彼の言葉や優しさに触れるたび、凍てついた心にあたたかい気持ちが灯るのを感じた。
 両親が死んで、ひとりになった。死斑病に罹り、里親を転々としながら、孤独を受けいれた。珀は、そんな自分を肯定してくれた、たったひとりの存在なのだ。
「……珀さま」
「ん?」
「もっと近づいても、よろしいですか……?」
「……ああ」
 力なく伸ばされた腕。その小さな仕草に、珀は胸の締めつけられる思いがした。
 愚かな村人の、哀れな犠牲者。
 何十というこれまでの少女たちにも、ある種特別な想いは寄せていた。死なせたくないと、生きていてほしいと。
 だが、瑠璃に対するそれは、どこか違っていた。
 単なる憐憫ではない。安易な同情でもない。
 飾り気のない純真な心。その凛とした強さに触れるたび、言葉では表しきれない想いが胸に去来した。
 長い時を生きてきたが、こんなにも強大で絶対的な感情は、初めてだ。
 身体の底から滾るような独占欲——たとえ自然の摂理に背くことになろうとも、この娘を喪いたくはない。
 珀は、瑠璃の身体を引き寄せると、その腕に閉じ込めるように抱き締めた。瑠璃のぬくもりが、ひとつひとつはっきりと伝わってくる。
 瑠璃もまた、珀のぬくもりを求めるように、彼の広い背中にそっと手を添えた。
 静謐な空間。
 聞こえるのは、互いの鼓動だけ。
「……?」
 すると、腕の中の瑠璃が、かすかに震え始めた。
 身体がつらいのだろうか。そう考えた珀は、瑠璃を抱き締める力を緩め、寝台に寝かせようとした。
 しかし、瑠璃はそれを拒むように、珀の背中に回した腕をほどこうとはしなかった。震える腕に、身体に、懸命に力を込める。
「瑠璃……?」
「……った……」
「え?」
「……もっと、生きたかった……っ」
 喉の奥から絞り出すような、悲鳴にも似た叫び。
 瑠璃の言葉が珀の胸を貫いたその瞬間、珀は寝台に瑠璃の身体を横たえると、その上に覆い被さった。
 深い金眼の中心に走った、明らかに人間のものとは異なる縦長の瞳孔。その奥に揺らめく、情欲のほのお
 たった今、龍の葛藤は潰えた。
「……珀さ、ま……っ」
 瑠璃の額に、そっと唇を落とす。次に目元、そして頬から首筋にかけて、慈しむように痣を辿っていく。
 はじめは緊張から強張っていた瑠璃だったが、珀のやわらかなぬくもりに甘えるように、しだいにその身を委ねていった。
「んぅっ」
 抑えきれずに、まろび出た吐息。甘く湿ったそれを味わおうと、珀は瑠璃の唇に自身のそれを重ね合わせた。
「ふぁ、あっ」
 くちゅっと、熱を帯びた舌が絡まり合う。頭の中が蕩けてしまいそうなほど、甘美な交錯。
 気遣うように、躊躇うように、珀は瑠璃の着物へと手を伸ばした。腰紐に指をかけ、渇いた視線を投げかける。
「瑠璃」
 焦燥を孕んだ疼きが、珀の下腹をねじり上げた。
「お前の奥に、触れたい」
 低く掠れたこの囁きに、瑠璃は無言で肯いた。彼の袖をきゅっと握り締め、その身を差し出す。
 迷いがなかったわけではない。貧相で醜い肢体を、彼にさらけ出すのは怖い。けれど、感覚が、意識があるうちに、全身で彼のことを感じたいと思った。残された時間を、彼との記憶で静かに結びたい。
 寝台に、月光が差し込む。
 揺れる燭台の炎が、ふたりの裸体を茫と浮かび上がらせる。
「きゃっ……!」
 珀は、瑠璃の両腿を裏側から優しく掴むと、体を折り畳むようにしてゆっくりと持ち上げた。
 ほんのりと熟れた花芽。透明な蜜を湛えたそこを舌先で転がせば、瑠璃の身体がびくんと跳ねた。
「んぁっ……!」
 とめどなく溢れ出る蜜が、珀の口元をじっとりと濡らす。妖艶な香気に刺激された半身が、急速に膨張していった。
 その光景に、瑠璃は思わず息を呑んだ。
 勃然と反り返った珀の雄。艶かしさと獰猛さを兼ね備えたそれは、まるで研ぎ澄まされた刀身のようにしなやかだった。
 この先は、処女である瑠璃にとって未知の領域。だが、正解は識っている。
 ふたりの半身は、さながら磁石のように自然と引かれ合った。
れるぞ」
 珀は、深く息を吸い込むと、その尖端を瑠璃の膣口へと押し当てた。くちっと花弁の開く音がすれば、まもなく頭部が吞み込まれた。
 かすかな抵抗を感じながら、ゆっくりと……本当にゆっくりと、潤んだ隘路を押し開いていく。
「……っ!」
 得も言われぬ圧迫感。瑠璃の喉奥で、小さな悲鳴が上がる。
 裂かれた痛みについ顔を歪めた瑠璃に対し、動きを止めた珀が心配そうに眉をひそめた。
「痛いか? 今、術を——」
 破瓜の痛みを鎮めようと珀が手をかざすも、瑠璃は毅然と首を横に振ってそれを断った。
「……この痛みは、ちゃんと、感じたいです」
 瑠璃の言葉が、眼差しが、珀の胸を締めつける。
 返す言葉が見つからない。目の前のこの娘が、愛おしくてたまらない。
 珀は、緩やかに腰を動かしながら、瑠璃の白い柔肌に舌を這わせていった。首筋を、乳首を、啄むように愛撫する。
 そうして数回抽送を繰り返すと、極限まで硬度の高まった屹立を、膣の一番奥へ挿し込んだ。
「……っ、馴染んできたな。痛みはないか?」
「は、ぁ……、だ、大丈夫、です……っ」
 か細い呼吸を乱しながら、瑠璃が答える。
 珀を感じたい。ぬくもりも、痛みも、悦びも、この身にしかと刻み込みたい。その一心で、瑠璃は珀のすべてを受けいれた。
 しだいに加速する腰つき。珀の陰茎が瑠璃の奥を激しく掻き回せば、粘膜の擦れ合う音がふたりの耳朶を濡らした。
「あっ、はっ、んぁ……っ」
 瑠璃は、珀の背中に爪を立ててしがみつき、必死にその動きに身を委ねた。全身が痺れるような快感に、思考が白く染め上げられていく。
 珀は、深く繋がったままの瑠璃を抱きかかえると、自身の腿の上にそっと据えた。
 向き合い、求め合う。
 瑠璃の腰が上下するたび、肉と肉の打ち合う音が空気を震わせた。
「……瑠璃」
 傾いだ体勢の瑠璃を覗き込むように、切なさを孕んだ声で珀が呼ぶ。
 視線が重なる。互いに焦がれた目と目が交わる。
 珀は、その玉顔に深い愛情を滲ませながら、瑠璃の耳元でこう囁いた。
「お前は、何よりも美しい」
「……っ!!」
 ずん、と。
 珀の陰茎が、瑠璃の最奥を突き穿った。
 瑠璃の眼前で光が閃く。濃厚な劣情が、どくどくと迸る。
 最後の一滴が注ぎ込まれたその瞬間、戻り流れた白濁の雫が、ふたりの腿をとろりと濡らした。
 珀の指が、汗ばんだ瑠璃の頬を、優しく撫でる。指先から伝わるかすかな振動が、この壮絶な昂揚の余韻を物語っていた。
 瑠璃の瞳から零れ落ちる、一縷の涙。

 灰色だった世界に、今。
 鮮やかな色彩が、蘇った。
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