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第伍話:泡沫の逃避と龍の逆鱗
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空はまだ、藍色に包まれていた。
夜明け前。東の端が、ほのかに白み始めた頃。
瑠璃は、珀のぬくもりをそっと置いて、寝台から抜け出した。
昨夜の余韻が、いまだ甘い熱となって全身に灯っている。夢のような時間だった。これまで生きてきた中で、もっとも幸せな。
こんなにも醜い身体を愛してくれた。美しいと、言ってくれた。
けれど、これ以上彼の優しさに甘んじるわけにはいかない。
彼は龍神。この地を護る神なのだ。いずれ朽ち果てる自分のような存在に、一時でも縛りつけておくべきではない。
「……っ!」
突然、目の前が暗転した。
頭を殴られたような感覚。立ち上がっただけで、肺がちりちりと焼けるように痛んだ。背中も痛い。心臓も。
身体が、悲鳴を上げている。
心身を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き出すと、瑠璃は静かに身支度を始めた。
白い小袖に身を包み、深々と一礼をして、社をあとにする。振り返ることはしなかった。振り返れば、きっと離れがたくなってしまうから。彼のぬくもりを、求めてしまうから。
夜露の滴る野草を踏みしめ、歩みを進める。
外は静寂。そんななか、滝の音だけが、ひときわ鮮明に響いていた。
まだ星のまたたく空の下。一歩、また一歩と、あてもなく歩く。向かう先など、どこでもよかった。ただ、誰の目にも触れない場所へ行きたかった。
山を下り、白い鳥居を出たところで、脇道へと逸れる。途中、何度も立ち止まり、浅い呼吸を繰り返しながら、ふらつくように進んだ。
今ここで歩みを止めてしまえば、獣たちの餌くらいにはなれるだろうか。とはいえ、村人たちに自分の屍を見せるのは、少々気が引けた。
どこかひっそりと消えられる場所を。
そんな儚い願いを抱きつつ、獣道へと入ったときだった。
不意に、瑠璃の視界に飛び込んできた、見慣れた顔。
「……瑠璃?」
——村長だ。
狩りの最中だろうか。その手には、油断なく槍が握られている。
目を疑うような光景、だったのだろう。彼は、信じられないとでもいうように、その場でしばらく唖然としていた。
「おぬし……生きていたのか」
力ない嗄声。明らかに動揺している。……当然だ。村のために命を賭したはずの娘が、こうして目の前に現れたのだから。
贄の生存。それはすなわち、村の衰退を意味する。
「まさか、儀式をせずに逃げてきたのか?」
「……いいえ。滝壺に身を沈めたわたしを、龍神様は助けてくださいました」
「龍神様が……?」
「はい。贄など、必要ないと」
呼吸の乱れを隠しながら、瑠璃は凛然とこう告げた。
正直に話す必要などなかったのかもしれない。そもそもこれを口にしたところで、長が信じてくれるという保証もない。
ただ、彼が——珀が、まるで命を犠牲にすることを渇望しているかのような、愚かな信仰に従いたくなかっただけだ。
彼は優しい龍だ。けっして暴虐な護神などではない。村の人間たちとは、違う。
次に長の口から吐き捨てられた、まさにそれを裏付けるかのような放言に、瑠璃の胸は劈かれた。
「必要ない、か。……穢らわしいゆえ、やはり龍神様はおぬしをお受けになられなかったのだな。患ってさえいなければ、母親に似て見目麗しかったものを」
「……っ」
「おぬしでは役不足だった。龍神様のお怒りを買う前に、今ここでおぬしを始末し、新たな娘を贄として捧げねば……!」
そう口にした長の目は、完全に狂気の淵へと堕ちていた。
もはや妄信。考えることを放棄し、悪しき因習に囚われた、異常なまでの執着。
——狂気の沙汰としか思えん。
あのときの珀の言葉が、瑠璃の脳裡に生々しく蘇る。
「骨は拾ってやれんが、冬眠前の熊の餌くらいにはなれるだろう」
しだいに空が明るさを帯びていく中。
殺意を孕んだ槍の切っ先が、真っ直ぐ瑠璃へと向けられた。ざりっと、瑠璃が一歩後ずされば、長は二歩近づいてきた。
どんな言葉を投げたところで、おそらく長の耳には届かない。それに、瑠璃の身体は、もう限界だった。
遅かれ早かれ、自分の命は終わりを迎える。だが、よもやこんな最期だとは。
珀さま——。
心の中で、愛おしい彼の名を呼ぶ。
彼のおかげで、ふたたび世界が色づいた。両親以外のぬくもりなど……愛など知らずに死んでいくのだと……そう、思っていたのに。
この気持ちだけ、持って逝こう。
瑠璃は、静かに目を閉じた。
「悪く思うな……!」
そのときだった。
ォ゛オ゛ォ゛ォォォ……
凄まじい咆哮が、天を揺るがした。
それまで晴れていた空はたちまち黒雲で覆い尽くされ、篠突く雨が大地へと降り注ぐ。
「な、なんだ……!?」
闇を切り裂く一閃の稲妻。白い光が瞬時に辺りを支配するやいなや、雲の切れ間から巨大な龍が姿を現した。
嵐の中でもわかる。美しく輝く白銀の鱗に、琥珀色の双眸。
間違いない。あの龍は——。
「珀、さま……」
珀は、長い尾を優雅に波打たせ、その体躯を瑠璃のかたわらへ降ろすと、鋭い眼光で村長を睨みつけた。
「ひぃっ!」
骨の髄から麻痺させるような、圧倒的な怒り。
あまりの恐怖に顔を歪めた村長は、槍を落としてその場にへたりと尻餅をついた。
「貴様、よくも俺のつがいを……」
深淵から沸き上がるような唸り声が、地鳴りを誘う。
開いた顎から覗く、鋼のように冷徹な牙。力を込めた鋭利な爪が、ぬかるんだ地面を容赦なく抉った。
「お、お許しください龍神様っ!」
地面に身を投げ出した村長は、額を泥に擦りつけながら、両手を突き出し何度も頭を下げた。
「わたくしは、代々村に伝わる掟に従ったまででございます! この娘は、長らく病に苦しみ、村の者たちも気を揉んでおりました。龍神様にその身をお返しし、誉ある最期をと……」
「黙れ、痴れ者!」
「ひぃぃぃ……っ!」
必死の命乞いと、もっともらしい言い訳に、尾をしならせ威嚇する。村長の矮小な弁明は、珀の逆鱗に触れるばかりだった。
長きに渡る嫌悪と憎悪。珀にとって村の長とは、愚かな掟を墨守し、無辜の娘を弄ぶ、忌むべき存在でしかない。
「貴様らが勝手に作り上げた歪んだ信仰に俺を巻き込むな。俺は一度たりとも娘を寄越せなどと言った覚えはない」
「そ、そんな……」
思いもよらない言葉だったのだろう。珀の口から語られた事実に、長は悄然と肩を落とした。
長年信じてきたものが根底から覆る混乱と絶望。
すべてが、音を立てて崩れ落ちてゆく。
「わたくしどもは、龍神様の御心を鎮め、村を守るために……」
「貴様らの守りたいものなど、己の瑣末な権力と刹那の安寧だけだろう。真にこの地を護ってきたのは、貴様らではない」
「で、では、二百年以上前に一度、わたくしどもの村をお沈めになったのは……あれは、娘が村に戻ってきたせいでは——」
「……っ!!」
ドォ・ン
村長が言い終えるか否かのうちに、珀はその尾を勢いよく薙ぎ払った。
風鳴りにも似た轟音。吹き飛ばされた老体は枯葉のように宙に舞い、近くの木へと叩きつけられた。
「がっ、ぁ……」
幹をずるずると滑り落ち、ぬかるんだ地面へと倒れ込む。
苦悶の呻き声を上げるそのかたわらには、折れた槍が無残な姿を晒していた。
「二度とその娘のことを口にするなっ!!」
あの日の悪夢が、ふたたび珀の心を締めつける。
瑠璃と同じく村の犠牲となり、それでも村に帰れることを喜んだ娘。そんな当然の希望さえも砕かれ、無残にも命を奪われた娘。
怒り、悲しみ、そして後悔——。村長の言葉は、珀のけっして癒えることのない傷を抉り返した。
「……珀、さま」
ぴくっと、珀の体躯が、かすかに振れた。
か細い声。惑いと安堵が入り混じった、愛しいその小さな響きが聞こえた瞬間、峻厳だった珀の相貌が和らいだ。
瞳に滲むのは、怒りの残滓ではない。何よりも大切な存在を前にした、深い愛情の色。
雨が、止んだ。
苛烈な情動、その奔流に呑み込まれそうになっていた珀を、瑠璃が呼び戻したのだ。
珀は、そっと慈しむように首を伸ばすと、頬ずりをして瑠璃に問いかけた。
「怪我は?」
「大丈夫です。……珀さまが、来てくださったから」
瑠璃は、龍の貌をしたその気高い玉顔に、自身の上体を寄せた。
珀の目元に、今にも泣き出しそうな顔をうずめる。珀の纏う気色、そこに宿るぬくもりが、強張った瑠璃の心を解きほぐしていった。
死ぬことは、怖くなかったはずなのに。
彼が隣にいるだけで、こんなにも心が満ちていく。
「……珀さま……あの、わたし……っ」
彼に訊きたいことが、謝りたいことが、たくさんある。伝えたいことが、たくさん。
「瑠璃」
「……っ」
「帰ろう」
珀は、優しくそう告げると、言葉を詰まらせた瑠璃を自身の背に乗せた。そうして地上を離れると、天高く舞い上がっていく。
雲間から零れる朝陽が、濡れた大地を黄金色に染め上げる。
白銀の龍が空を往く。大切なつがいを、背に抱いて。
その姿は、夜明けの空に差す光そのものだった。
夜明け前。東の端が、ほのかに白み始めた頃。
瑠璃は、珀のぬくもりをそっと置いて、寝台から抜け出した。
昨夜の余韻が、いまだ甘い熱となって全身に灯っている。夢のような時間だった。これまで生きてきた中で、もっとも幸せな。
こんなにも醜い身体を愛してくれた。美しいと、言ってくれた。
けれど、これ以上彼の優しさに甘んじるわけにはいかない。
彼は龍神。この地を護る神なのだ。いずれ朽ち果てる自分のような存在に、一時でも縛りつけておくべきではない。
「……っ!」
突然、目の前が暗転した。
頭を殴られたような感覚。立ち上がっただけで、肺がちりちりと焼けるように痛んだ。背中も痛い。心臓も。
身体が、悲鳴を上げている。
心身を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き出すと、瑠璃は静かに身支度を始めた。
白い小袖に身を包み、深々と一礼をして、社をあとにする。振り返ることはしなかった。振り返れば、きっと離れがたくなってしまうから。彼のぬくもりを、求めてしまうから。
夜露の滴る野草を踏みしめ、歩みを進める。
外は静寂。そんななか、滝の音だけが、ひときわ鮮明に響いていた。
まだ星のまたたく空の下。一歩、また一歩と、あてもなく歩く。向かう先など、どこでもよかった。ただ、誰の目にも触れない場所へ行きたかった。
山を下り、白い鳥居を出たところで、脇道へと逸れる。途中、何度も立ち止まり、浅い呼吸を繰り返しながら、ふらつくように進んだ。
今ここで歩みを止めてしまえば、獣たちの餌くらいにはなれるだろうか。とはいえ、村人たちに自分の屍を見せるのは、少々気が引けた。
どこかひっそりと消えられる場所を。
そんな儚い願いを抱きつつ、獣道へと入ったときだった。
不意に、瑠璃の視界に飛び込んできた、見慣れた顔。
「……瑠璃?」
——村長だ。
狩りの最中だろうか。その手には、油断なく槍が握られている。
目を疑うような光景、だったのだろう。彼は、信じられないとでもいうように、その場でしばらく唖然としていた。
「おぬし……生きていたのか」
力ない嗄声。明らかに動揺している。……当然だ。村のために命を賭したはずの娘が、こうして目の前に現れたのだから。
贄の生存。それはすなわち、村の衰退を意味する。
「まさか、儀式をせずに逃げてきたのか?」
「……いいえ。滝壺に身を沈めたわたしを、龍神様は助けてくださいました」
「龍神様が……?」
「はい。贄など、必要ないと」
呼吸の乱れを隠しながら、瑠璃は凛然とこう告げた。
正直に話す必要などなかったのかもしれない。そもそもこれを口にしたところで、長が信じてくれるという保証もない。
ただ、彼が——珀が、まるで命を犠牲にすることを渇望しているかのような、愚かな信仰に従いたくなかっただけだ。
彼は優しい龍だ。けっして暴虐な護神などではない。村の人間たちとは、違う。
次に長の口から吐き捨てられた、まさにそれを裏付けるかのような放言に、瑠璃の胸は劈かれた。
「必要ない、か。……穢らわしいゆえ、やはり龍神様はおぬしをお受けになられなかったのだな。患ってさえいなければ、母親に似て見目麗しかったものを」
「……っ」
「おぬしでは役不足だった。龍神様のお怒りを買う前に、今ここでおぬしを始末し、新たな娘を贄として捧げねば……!」
そう口にした長の目は、完全に狂気の淵へと堕ちていた。
もはや妄信。考えることを放棄し、悪しき因習に囚われた、異常なまでの執着。
——狂気の沙汰としか思えん。
あのときの珀の言葉が、瑠璃の脳裡に生々しく蘇る。
「骨は拾ってやれんが、冬眠前の熊の餌くらいにはなれるだろう」
しだいに空が明るさを帯びていく中。
殺意を孕んだ槍の切っ先が、真っ直ぐ瑠璃へと向けられた。ざりっと、瑠璃が一歩後ずされば、長は二歩近づいてきた。
どんな言葉を投げたところで、おそらく長の耳には届かない。それに、瑠璃の身体は、もう限界だった。
遅かれ早かれ、自分の命は終わりを迎える。だが、よもやこんな最期だとは。
珀さま——。
心の中で、愛おしい彼の名を呼ぶ。
彼のおかげで、ふたたび世界が色づいた。両親以外のぬくもりなど……愛など知らずに死んでいくのだと……そう、思っていたのに。
この気持ちだけ、持って逝こう。
瑠璃は、静かに目を閉じた。
「悪く思うな……!」
そのときだった。
ォ゛オ゛ォ゛ォォォ……
凄まじい咆哮が、天を揺るがした。
それまで晴れていた空はたちまち黒雲で覆い尽くされ、篠突く雨が大地へと降り注ぐ。
「な、なんだ……!?」
闇を切り裂く一閃の稲妻。白い光が瞬時に辺りを支配するやいなや、雲の切れ間から巨大な龍が姿を現した。
嵐の中でもわかる。美しく輝く白銀の鱗に、琥珀色の双眸。
間違いない。あの龍は——。
「珀、さま……」
珀は、長い尾を優雅に波打たせ、その体躯を瑠璃のかたわらへ降ろすと、鋭い眼光で村長を睨みつけた。
「ひぃっ!」
骨の髄から麻痺させるような、圧倒的な怒り。
あまりの恐怖に顔を歪めた村長は、槍を落としてその場にへたりと尻餅をついた。
「貴様、よくも俺のつがいを……」
深淵から沸き上がるような唸り声が、地鳴りを誘う。
開いた顎から覗く、鋼のように冷徹な牙。力を込めた鋭利な爪が、ぬかるんだ地面を容赦なく抉った。
「お、お許しください龍神様っ!」
地面に身を投げ出した村長は、額を泥に擦りつけながら、両手を突き出し何度も頭を下げた。
「わたくしは、代々村に伝わる掟に従ったまででございます! この娘は、長らく病に苦しみ、村の者たちも気を揉んでおりました。龍神様にその身をお返しし、誉ある最期をと……」
「黙れ、痴れ者!」
「ひぃぃぃ……っ!」
必死の命乞いと、もっともらしい言い訳に、尾をしならせ威嚇する。村長の矮小な弁明は、珀の逆鱗に触れるばかりだった。
長きに渡る嫌悪と憎悪。珀にとって村の長とは、愚かな掟を墨守し、無辜の娘を弄ぶ、忌むべき存在でしかない。
「貴様らが勝手に作り上げた歪んだ信仰に俺を巻き込むな。俺は一度たりとも娘を寄越せなどと言った覚えはない」
「そ、そんな……」
思いもよらない言葉だったのだろう。珀の口から語られた事実に、長は悄然と肩を落とした。
長年信じてきたものが根底から覆る混乱と絶望。
すべてが、音を立てて崩れ落ちてゆく。
「わたくしどもは、龍神様の御心を鎮め、村を守るために……」
「貴様らの守りたいものなど、己の瑣末な権力と刹那の安寧だけだろう。真にこの地を護ってきたのは、貴様らではない」
「で、では、二百年以上前に一度、わたくしどもの村をお沈めになったのは……あれは、娘が村に戻ってきたせいでは——」
「……っ!!」
ドォ・ン
村長が言い終えるか否かのうちに、珀はその尾を勢いよく薙ぎ払った。
風鳴りにも似た轟音。吹き飛ばされた老体は枯葉のように宙に舞い、近くの木へと叩きつけられた。
「がっ、ぁ……」
幹をずるずると滑り落ち、ぬかるんだ地面へと倒れ込む。
苦悶の呻き声を上げるそのかたわらには、折れた槍が無残な姿を晒していた。
「二度とその娘のことを口にするなっ!!」
あの日の悪夢が、ふたたび珀の心を締めつける。
瑠璃と同じく村の犠牲となり、それでも村に帰れることを喜んだ娘。そんな当然の希望さえも砕かれ、無残にも命を奪われた娘。
怒り、悲しみ、そして後悔——。村長の言葉は、珀のけっして癒えることのない傷を抉り返した。
「……珀、さま」
ぴくっと、珀の体躯が、かすかに振れた。
か細い声。惑いと安堵が入り混じった、愛しいその小さな響きが聞こえた瞬間、峻厳だった珀の相貌が和らいだ。
瞳に滲むのは、怒りの残滓ではない。何よりも大切な存在を前にした、深い愛情の色。
雨が、止んだ。
苛烈な情動、その奔流に呑み込まれそうになっていた珀を、瑠璃が呼び戻したのだ。
珀は、そっと慈しむように首を伸ばすと、頬ずりをして瑠璃に問いかけた。
「怪我は?」
「大丈夫です。……珀さまが、来てくださったから」
瑠璃は、龍の貌をしたその気高い玉顔に、自身の上体を寄せた。
珀の目元に、今にも泣き出しそうな顔をうずめる。珀の纏う気色、そこに宿るぬくもりが、強張った瑠璃の心を解きほぐしていった。
死ぬことは、怖くなかったはずなのに。
彼が隣にいるだけで、こんなにも心が満ちていく。
「……珀さま……あの、わたし……っ」
彼に訊きたいことが、謝りたいことが、たくさんある。伝えたいことが、たくさん。
「瑠璃」
「……っ」
「帰ろう」
珀は、優しくそう告げると、言葉を詰まらせた瑠璃を自身の背に乗せた。そうして地上を離れると、天高く舞い上がっていく。
雲間から零れる朝陽が、濡れた大地を黄金色に染め上げる。
白銀の龍が空を往く。大切なつがいを、背に抱いて。
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