水晶の夜物語

あんのーん

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#2 水晶谷2

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 小半時の後、ふたりは谷間たにあいの集落の、周囲のさびれた様子には不釣り合いな、頑丈そうな門の前にいた。
「おまえイハサヤのとこのスアンだろう? どうしたんだ、……そのなりは……」
  門番が少女──スアン──のひどいありさまを見咎めて言った。それからヨウを見やり、あからさまに警戒した様子で
「誰だあんた」
 と、声を荒げた。
「なんでもないの、この人が助けてくれたの」
 スアンは門番の視線を避けるように俯いたまま、消え入りそうな声で答えた。
「なんでもないってこたないだろう、おまえ、まさか──」
 門番の言葉を最後まで聞かず、スアンが続けた。
「だからこの人も通して……。お父さんにお礼言ってもらわないと」

 門の中では背の低い、簡素な家々が続いていた。石造りの家、木と土で作られた家。それらが交ざりあった家もある。いずれも古いもので、不具合を修繕して長く住んでいる様子が見てとれた。
 通りに人影はなかったが、やがて一軒の家から顔を出した中年の女がスアンに気づき、走り寄ってきた。
「スアンちゃん……! あんたいったいどうしたの」
 それからヨウを見、スアンを庇うようにすると気色ばんで言った。
「あんた誰だね?」
「ハナおばさん……」
 見知った女に声をかけられ気が緩んだのか、スアンは涙声だ。
「山で襲われて……、このひとが助けてくれたの……」
「おいで、その格好をなんとかしないと」
 ハナはスアンの肩を抱きかかえ、今出てきた家に踵を返した。それから思いついたようにヨウを振り返り、続けた。
「あんたもおいで、そこに突っ立ってられちゃひと目につく」
 戸口を入るとスアンと女は家の奥へと消え、ヨウは土間に座ってふたりが戻ってくるのを待った。
 旅芸人であるヨウは常に「余所者」であり、異様な風体も相まって行く先々で見咎められ、誰何されることには慣れていたが、それにしてもこの集落の人々の警戒は強いようだ。
 門番と女がスアンを知っていたということは、この集落はあまり大きくはなさそうだ……とヨウは思った。そのせいだろう、人々の絆は強い。スアンの様子を見れば、子供がおとなを信頼しているのもわかった。
 どれくらい待っただろう、ようやくスアンが女と現れた。破れた服は着替え、顔や手足の泥もきれいに洗い落とされていた。
「あんた、そんなとこで……。 上がり框そこに腰掛けていればよかったのに」
 女はヨウを見て言った。
「いえ……」
 ヨウは曖昧に答えた。だが女は、もうヨウからスアンに目を移していた。
「父さんもそろそろ帰ってる頃だろう、おばさんもついていってあげるからね」
 そう言うとスアンを促し、戸口を出た。ヨウもそれに続いた。
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