水晶の夜物語

あんのーん

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#6 玻璃の窓

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 翌日。ヨウは再び祭殿にいた。
 一夜限りの祭が終わり、男達は朝から鉱山へと出て行った。祭殿を片付けるのは女や子供たちの役目だった。
 ひとりすることもないヨウはイハサヤの家にいても落ち着かず、なにか手伝えることでもないかと出てきたのだが、その頃には片付けもあらかた終わっていたようで、三々五々帰宅する女たちとすれ違った。
「あんた、昨夜はとても良かったよ」
 と、声をかけてきたのはハナだ。
「ありがとうございます……」
 と言いかけたヨウのそばに素早くやってくると、ハナは小さく囁いた。
「スアンちゃんはまだお御堂にいるよ、迎えに行っておあげ」

 祭殿は村の奥まったところにあった。たいそう古びているが石造りのしっかりした造りで、その窓にはこの辺りではめったに見かけない玻璃が嵌め込まれている。窓はところどころ破れて玻璃も欠けたり割れたりしていたが、他の家々と同様丁寧に修繕してあって、往時にはさぞや立派であったろうことが容易に想像できた。
 祭殿の辺りは、かつては集落の中心であったらしい。その先にもまだ家はあったが、今は朽ちて倒れかけたり、人気ひとけのないものばかりだった。
 階段を上ったところで扉が開き、スアンが姿を見せた。
「あっ、おじさん……!」
 スアンは驚いたような声を上げたが、すぐに笑顔になり
「どうしたの、こんなところへ」
 と、訊ねた。
「もしかして、迎えにきてくれたの……?」
「いえ」
 ヨウはばつの悪そうな様子で答えた。
「その、なにかお手伝いできることがあれば、と思ったんですが……、もう片付けはおしまいのようで」
「残念、もう終わっちゃったわ。おばさんたちもお昼には鉱山に行かなきゃだから」
 そう言いながら扉をヨウのために押し開け、スアンが続けた。
「どうぞ、せっかくここまで来たんだもの。お参りしていって」
 と促されて、ヨウは扉のなかに入った。
 窓からさんさんと光が降り注ぎ、内は石造りの建物とも思えぬ明るさだ。椅子などがなく広間のようになっているのは常からのようだ。 陽の光が玻璃のひび割れに虹色に反射し、床や壁のそこかしこがきらきらと輝いていた。
「立派でしょう、明るくて綺麗で。これだけの玻璃、どこにもないのよ」
 スアンは誇らしげに言った。が、目の前の男が盲人であることに思い至り、
「……ごめんなさい」
 と、口ごもった。
「いえ」
 ヨウはそう言うと笑って続けた。
「嬢ちゃんはこのお社が本当にお好きなんですねえ。嬢ちゃんの口ぶりで、どんだけ大事に思っているかわかる。昨夜の祭もみなさんたいそう高揚していらした。このお社は、この村の誇りなんですね」
「そうなの」
 スアンは花がほころぶような笑顔になった。
「このお御堂はお祖父ちゃん達が建てたのよ。ひいお祖父ちゃんの代から一生懸命働いて、お金を作って。今建てようと思ったって、とうてい建てられやしない。街の人にだって無理よ」
 スアンの頬は紅潮してかがやき、その声には熱がこもっている。
「このお御堂は村の宝よ。もしかしたらおじさんは、ここに入った最初の『余所の人』かもしれないわ」
「それは、光栄なことで……」
 スアンは心なしか淋しげに応えた。
「だって余所の人がこの村に来ることなんて、めったにないもの」
 それを聞き、ヨウはやたらにものものしかった集落の門番を思い出した。
 この集落が近隣とあまり上手くいっていないことは、すでにイハサヤから聞いている。目の前の少女を助けるためだったとはいえ、自分のしたことは悪手だったかもしれない……と、ヨウはかすかに思った。
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