水晶の夜物語

あんのーん

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#7 神隠しの道

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 その帰り道である。
 祭殿では明るい笑顔を見せていたスアンだったが外に出るとすっかり無口になり、すれ違う人もないのにうつむいて足どりも心許ない様子だった。
 ヨウはスアンの少し後を黙って歩いていたが、何ごとかに気づいたかのようにスアンが立ち止まり、
「あ……」
 と小さな声を上げた。
 目の前は辻だった。真ん中に大きな石が置かれている。その向こうは集落の中の道とも思えぬ荒れようで、長く往来が絶えていることが伺えた。周囲をよく見ると、辻の三隅に細縄を縛った小さな留石が転がっていた。
「ごめんなさい、こっちに来るつもりじゃなかったのに」
 スアンはそう言うと、ヨウの手を引いて今来た道を引き返そうとした。
「ここは……」
 ヨウの頰も緊張していた。杖を握る指にも力がこもっている。
「古い街道よ。村の外れを抜けて、一方は街へ、もう一方は峠へと続いてたんだって……昔は……」
 なぜかスアンは最後の言葉を言い淀んだ。
「この道……ずっと昔、この村ができる前からあって、その頃には往来も多くて賑わったそうなんだけど……、新しい道ができてからはさびれて──行方知れずになる人もあったらしくて──お父さんが絶対近づいちゃだめだって……。
ここ、『神隠しの道』と呼ばれているの」
「神隠し……」
「ねえ」
 と、スアンはかすかに怯えを含んだ表情でヨウに問いかけた。
「でもそんなこと、本当にあるのかな。ただ、道を歩いているだけで、ひとが消えてしまうなんて……道が荒れてるから、途中で迷っちゃうのかな……」
「嬢ちゃん」
 ヨウは静かに答えた。
「親父さまの言うとおり、ここには近づかない方がいい……嬢ちゃんも、お気をつけるんですよ」
「…………」
 ヨウを見つめスアンは何か言いたげに口を開いたが、言葉にはならなかった。
 ふたりは踵を返し、無言のまま今来た道を歩きはじめた。

 夜。みなが寝静まった後、こっそりと寝床を抜けだしたヨウがやってきたのは件の辻だった。
 灯りもなく暗い三日月の光でに辻はほとんど闇に塗りつぶされていたが、もとよりヨウにはどうでもいいことだ。
 夜だというのに風もなく、その辺りだけ空気がこごっているようだった。
「こんなところに……」
 ヨウは我知らず呟いた。杖を握りしめ、顔を上げてまっすぐ闇の方を向いている。そのさまは布で覆われた目で辻の闇を見すかすようである。
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