BEST TIME

yon

文字の大きさ
上 下
23 / 34

第23話

しおりを挟む


青川優side





俺が歩いて帰っている時だった。


今日も頑張ったよな、とか 鈴に後で電話しようとか

地面のブロックの色違いを踏んで、俯きながら考えていたんだ。



そしたら、前から街の中で光る女が歩いてきた。

本当に光ってるわけではないのだが、平凡な街の中でなら光って見える鉱石のようだ。


だが、鈍い光だった。



石ころは俺に気付くと駆け寄ってきた。


「優… ひさしぶり。」


「…。」


佐原かな  前の彼女だった。



「ねぇ、偶然ついでに少しお話ししましょう。」


誘うような瞳。闇より深いアイライン。ピンクに輝くグロス。

細い足に、整った顔。


可愛いさ、だが中身もいい女かどうかはなかなか見抜けない。


俺は見抜いて、すぐに離れた。


なのに、こうして付きまとってきた。


うんざりだ。




「俺とお前の間に話すことなんてあるのか?」




大袈裟に悲しそうにすると、

「やめてよ…そんな言い方しないで?…鈴ちゃんにもそんな態度なの?」


やはり、鈴のことについてか。


どうせ、待ち伏せでもしていたのだろう。


鈴のことを聞いてどうするつもりなのか、バラすつもりか、危害を加える気なのか。


鈴に何かあってはいけない…。



腹の底がふつふつと煮えてくる。



「別に、友達だからな。普通の態度さ。まあ、お前よりは可愛いから可愛いがってはいるさ。」



彼女はキッとこちらを睨むと、


「うそよ!あの子、優のことが好きかって聞いたら赤くなって俯いたもの!私より可愛い?絶対に私の方が…!」



彼女はとてもセンチメンタルだ。

少しでも不安を持つと感情的になって怒鳴り散らす。


その言葉に思いやりなんてない。自分の気持ちしか見えていない。


その心は俺にとって憎むべきものだった。




?人を思いやれないやつなんて嫌いだ?



そう言って彼女に別れを告げたはずだ。



何も学習していなくて呆れる。






俺は避けて通ろうとしたら、彼女は抱きついて来た。




「ねぇ、好きなの…。戻ってきて、お願い…。」


そんな言葉を何度 他の男に囁いたんだろうな、


そう思いながら、また進もうとしたら





彼女は背伸びし




こんな街中で




俺に口づけをした。





それからはあまり覚えていない。





しばらく放心して、かなに呼びかけられた声がぼんやり聞こえる。




俺はそれから走ったような気がする。




家に帰って、鈴への罪悪感。口の表面に残ったグロス。



すべて、水で洗い流した。
しおりを挟む

処理中です...