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第28話
しおりを挟む「お、おかえりなさい…!」
遅かったじゃない。何してたの?
今日はクリスマスなのに、寂しかったのよ。
寒かったのよ。心細くて、この世に1人取り残された気分だった。
息を整えている場合じゃないのよ。早く声をかけてほしい。
私を愛してる証拠をちゃんと私に見せてほしいの…
私はそんな言葉を飲み込み、まだ息を整えて言葉を発する準備をしている青川くんに抱き付いた。
「す、鈴っ?」
青川くんは、驚いた顔をしたがすぐに照れた顔になり、きつく抱きしめ返し、
彼よりずっと背の低い私に身をかがめ口づけをした。
握りしめる彼のトレンチコート。彼はさらに私を深く深く抱きよせる。
布と布が擦れ合う音が心地よい。苦しささえも心地よくなってくる。
唇の温かさずっと触れていたい。唇からどんどん身体が暖められていく。
青川くんの顔が近くてなんだか恥ずかしい。少し長い前髪がくすぐったくて、笑いそうになってしまう。
青川くんは時折、頬を摺り寄せたり首元に顔を埋めたりして甘えるような仕草をした。
私はそっと頭を撫でてあげた。
青川くんも寂しかったのかな…。
しばらくすると青川くんが
「あ、あー そういえばケーキあるんだ 食べよう。」
照れているのか顔を背けながらお皿の準備をする。
私はケーキを箱から出し、ナイフで切り分けた。
真っ白で、赤い赤い いちごののったショートケーキ。サンタとトナカイの砂糖菓子が楽しそうに乗っかっている。
「綺麗なショートケーキ…!」
彼は皿に切り分けたショートケーキをのせながら
「この間 ケーキショップを見に行ったらね、このショートケーキがあって、飾り毛のない綺麗なケーキでいいと思って すぐ予約してしちゃったんだ。チョコとかの方が良かった?」
心配そうに私の顔を覗き込む青川くん。本当に愛しい。
「ううん、このケーキがいいよ。素敵なケーキね。…あ!青川くんにクリスマスプレゼント持ってきたの。」
私は紙袋の中から、袋を取り出した。
彼は輝く眼で袋からプレゼントを取り出した。
それは、深緑と青の毛糸のマフラー。
「お金で買えるものもいいけど、やっぱり手作りも素敵じゃないかな?って思ったの。すごくベタだと思ったけど。ほら、これから寒くなるし…。」
「すごく嬉しい!ありがとう 鈴。実は俺もプレゼント用意したんだ。」
青川くんは、箱を私に渡した。中はネックレスだった。
「しかも、俺とペア。」
そういって口角を上げながらシャツの中にしまってあるネックレスを引っ張った。
青川くんは箱からネックレスを取り出し、私に付けてくれた。
「似合うかな?…素敵…。」
私が胸元のネックレスに眼を奪われていると、
彼が話をし始めた。
「今日遅くなっちゃったよね。ごめん。実は、もうすぐやるライブの打ち合わせが長引いてしまったんだ。これ、VIPチケット。お詫びに今度、東京ドーム。裏、見せてあげるよ。」
そう言って頭をかき照れた顔で私のネックレスを手に取ると
「とっても似合ってる…綺麗だ。」
そうして私を胸へ抱き寄せた。
愛してる…愛してる…。
そんな言葉をたくさん浴びた気がする。
太陽よりも熱い彼の体温に刺激されながら
私は闇の中 彼の背中をしっかり抱きしめた。
大丈夫?と何度も聞かれたけれど
彼とだったら大丈夫な気がした。
私はついに彼の全てを受け入れた。
彼は、本当に1人なんだ。人の温もりを必死に感じようと
愛を求め続けている。
彼の涙を見た気がする。
私を見下ろし、優しく微笑んでくれた。
だから、 恐怖心なんて全くなかった。
そうして燃えるような夜は更けていった。
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