蘇生勇者と悠久の魔法使い

杏子餡

文字の大きさ
45 / 125
イフリ山とエリュオンの覚醒

第35話

しおりを挟む
「お待たせしました。お暇だったですか?」

 メルがぼんやりしているイサムを見ながら話しかけた、イサムの隣にエリュオンがぴょんと座りその肩に乗っていたタチュラがイサムへと移動する。

「いや、それほどじゃなかったよ」
「タチュラ! そこが定位置みたいな移動しないでよ!」
「妾はここが一番落ち着くのですわ」
「・・・それで、どうだったんだ? 武器召喚と念話は使えそうなのか?」

 そこにルルルがやってきてメルとテテルに何やら手渡す。

「これで武器召喚と念話は使えます。ですが、残念ながらエリュオンちゃんとタチュラは武器召喚は使えなかったわ」
  
 本当に残念そうな顔をしてルルルが言う。エリュオンは首を横に振り、ルルルに気にしないでと伝える。

「別に武器が無いわけでも無いし、大丈夫よ! ありがとうルルル」

 その言葉を聞き、ルルルはしゅぱっと座っていたエリュオンを両手で持ち上げぎゅっと抱きしめる。

「ぎゅぅくっくるしい! で、で、念話は使えるの!?」

 苦しいながらも、ルルルに念話の話を聞く。

「あっごめんなさい・・詳しく説明するわ。メル様とテテルに渡したのはイヤーカフス型の装置です。これで武器召喚と念話が使えます。武器召喚に関しては直接呼び出せるようになっています。」
「それは便利ね、念話も通常通りなの?」
「そうです、ですがもう一度登録しなおさないと駄目みたいです」
「わかったわ、ありがとう」
「ありがとうございます。ルルル様!」

 ルルルに感謝を告げるメルとテテルだったが、ルルルは嬉しい顔をしていない。それに気付いたイサムが尋ねる。

「ん、どうしたんだルルル? 良くない事があるのか?」
「オートマトンの表情を良く読めるわね・・・そうなのよ・・・エリュオンちゃんとタチュラは武器召喚は使えないって言ったけど、念話も所有者が同じコアのみしか使えないのよ!」

 ルルルはエリュオンを抱きしめたまま顔をくっ付けグリグリと頬ずりしている。

「これでやっとエリュオンちゃんと念話出来ると思ったのに・・・・・」

 ゾゾーっとエリュオンの赤黒い髪が逆立った気がした。

「そうか・・・まぁ俺は連絡が出来るようになったから良かったよ、ありがとうルルル」
「それじゃぁ意味無いのよぅー! ううう・・・・」

 涙は出ないが泣く振りをするルルルにエリュオンも仕方ないと頭を撫でる。そこえロロルーシェからイサムへチャットが入る。

『ルルルの方は無事終わったか? 終わったら直ぐに戻ってきて欲しい。また強い闇の波動を感じた』
「わかった、今丁度終わった所だ。直ぐに戻る」
『では待っているぞ』

 ロロルーシェはチャットを切り、イサムは他のメンバーに伝える。

「また強い闇を感じたらしい、ルルルが良いならもう上に戻るが大丈夫か?」
「ええ・・大丈夫よ・・・メル様とテテルはいきなり実践で武器召喚は試して大丈夫ですが、不具合がありましたらまた修正致します」
「わかったわ」
「了解しました」
「それとイサム、貴方の使っているメニューでショートカット出来る機能を追加したわ。項目を開かずに直接実行可能のはずだから、後で確認してね」
「マジで?  それは助かる!」

 名残惜しそうにルルルは伝えると、エリュオンをゆっくりと降ろして頭を撫でる。

「エリュオンちゃん、また遊びに来てね」
「う・・うん。また来るよルルル・・・」

 いつも強気なエリュオンも、どうやらルルルの強引さは苦手らしい。イサムは苦笑しながら昇降機へと向う。その後、ロロルーシェの家へと戻ったイサム達はノルの出迎えで直ぐに中に入る。中には既にリリィとリリルカが座っていた。

「急かして悪かったな、だが今回の強い闇の波動を感じた場所が、ちょっと厄介でな。これを見てくれ」

 ロロルーシェは、テーブルの上に大きな地図を広げる。そこには、ロロの大迷宮を中心に様々な町や城などが書かれており、大陸の広さを感じる。

「まずは、今いるこの場所がこの大陸の中心、ロロの大迷宮だ。そこから下にあるのがルンドルだな、今回向って欲しい所は西にある」

 ロロルーシェは迷宮を指差しそこから左へと動かす。西の町を過ぎそのまま幾つかの村等を越えた先に大きな山脈があるようだ。

「西の町から遥か先にある山脈の一際大きな山『イフリ山』で強い闇を感じた。恐らく罠の可能性が強いな」
「罠? 俺らを誘き寄せてる可能性があるのか?」
「そうだ、今大陸中から小さな闇を感じるがイフリ山で強い闇を感じることは無かった。だが、狙った様に強く波動を出して威嚇している。そしてその威嚇場所が、イフリ山の精霊『イフリト』が加護している村だ」
「精霊? 精霊もいるのか・・」

 イサムはロロルーシェやリリルカが普通に魔法を使っているので、精霊の存在を考えていなかったようだ。
「勿論居るさ、私やリリィとリリルカは精霊の力を借りずに魔法を使う事が出来るからな。まぁ居ないと思うのも当たり前か」
「それって凄い事なんだよな?」
「そうだ、だから問題があってな。私は特に精霊と仲が悪い、イフリトとはかなりな」
「なんだよそれ・・・喧嘩したとか?」

 イサムは冗談を言うようにロロルーシェに聞いたが、冗談では無かったらしい。

「はははは、その通りだ。この大陸に来た時に、やたらとちょっかい掛けてくるもんでな、アイツの体半分消し飛ばしやったら数千年動けなくなってあの山が出来たらしいぞ」
「らしいぞじゃないだろ・・・・ どうやったら山が出来る喧嘩するんだよ・・・」
「やったもんは仕方が無いだろう、だから今回はイサムにお願いしたいんだよ」
「おいおい、山作る奴とどうやって戦うんだよ」

 そこでリリルカが手を上げる。

「あのね・・・私が契約をしにいこうかと・・・」
「け・・契約? 意味が分からない。闇を倒して、イフリトと仲良くなろうって事?」
「まぁそんな感じだな」
「まじか・・・そんなに簡単にいくのかよ・・・」

 イサムの想像を遥かに超えている為、まったく理解できない。

「簡単ではないだろうが、リリルカに契約して貰わないと周辺の地域が消し炭になるだろうな」
「勘弁してくれ・・・・断れないイベントかよ・・・・で、誰が他に行くの?」

 少しやけ気味でロロルーシェに尋ねる。

「私とリリィは無理だな、リリルカの契約を邪魔してしまう」
「だろうな・・リリィも似たようなものかな?」
「そうだ、精霊を頼らない奴は嫌われるな」
「でも、リリルカは良いのか?」

 精霊に嫌われるなら、リリルカもじゃないかと尋ねる。

「リリルカは、地の精霊『タイタ』と契約しているからな。イフリトを抑えるには有効だ」
「抑える? もしかして戦って力を示せって事?」
「はははは、良く分かったな」
「・・・・・・・」

 イサムは言葉が出ない。ゲームイベントのような事がリアルで起こると、これ程のストレスになるとは思いもしなかった。

「一応・・・ミケットにもチャット入れとくか・・・いくかもしれないし・・・」

 とりあえず仲間を増やして攻略しようとしたイサムだったが。

『念話が出来るようになったのニャン。でもミケ暑いところは苦手だから、引き続きこっちでお手伝いするニャン』
「そ・・・そうか・・頑張れよ!」

 イサムは、ミケットとの会話を終えた。そして更にタチュラが言う。

「ご主人様、私も火は苦手でございます。出来ましたら、保管にてお運び致しますようお願い致します」
「そ・・そうか・・・・それはしょうがないな・・・」
「私もロロ様のお手伝いがございます」

 ノルもそう答える。そして、周りを見るとどうやらイフリ山へ向かうのは、イサムとメルとテテルとリリルカ、そしてエリュオンのようだ。

「大丈夫よイサム! ちゃちゃっとやっつけちゃいましょ!」

 エリュオンの言葉を聞いて、ショートカットの設定は早めにしておこうとイサムは思った。それから一時間後に各自準備を済ませ、イフリ山へと向うのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...