蘇生勇者と悠久の魔法使い

杏子餡

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雪の大地と氷の剣士

第54話

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 北の町ダリオに到着した一行は、直ぐにルサ魔導列車の駅へと向かう。

『ルサ魔導鉄道をご利用有難う御座いますモン。ルサ魔導鉄道行き、アールヴ行きで御座いますモン。間も無く発車しますモン』

 南の町ルンドルと同じ造りの駅だが、ルンドルはヒューマンの客が多かったのに比べ北の町ダリオではエルフが多く見える。

「北はエルフ族の領地なのか?」

 時間帯で人が多いのか席は全て埋まっていた為、イサム達は扉でそのまま待つ事にしていた。列車の発車を待つイサムが、扉の前でメルに話す。

「そうです。南はヒューマン族でしたが、北はエルフ族の領地になります」
「肌の色が褐色のエルフはダークエルフで間違いないな」
「よくご存じですね、北のエルフが治める国【アールヴ】はエルフとダークエルフが一つの国を二種族が治めている少し変わった国ですね」
「へー良くケンカしないな。ダークと言ってるけど闇とは関係ないのか?」

 イサムのファンタジーイメージでは、エルフとダークエルフは仲が悪い。それが同じ国を治めているのがこの世界では当たり前なのだろうと無理やり納得する。

「闇とは繋がり無いですが、争いに関しては…やはり、数百年に一度は争う事があるそうです。エルフ族はとても傲慢な種族です。肌の色が違うと言うだけでお互いを嫌悪する時期もあるそうです」
「争うのかよ!」
「それで今はどうなのよ、その中に入るのは勘弁してほしいわ」

 エリュオンが今の国の情勢をメルに聞く。

「私も詳しくは分からないけど、今のところは落ち着いてると聞いているわ。ただ…」
「ただ?」

 メルの言葉が詰まる。それを補足する様にノルが答える。

「この種族は長命種ですが、それが悪い影響を及ぼす場合もあります。もし前の争いからの不満が蓄積していれば、また争いが起こる可能性もありますね」
「ちなみに前の争いはどれ位前なんだ?」
「一千年前です。なので、いつ争い起こるかは誰も分からないですね」
「……」

 これから緊迫している国の領地に行くと考えたイサム達も不安な気持ちになったその時だった。

「すみませーん! 乗りますー! まってー!」

 イサム達が発車を待っている扉に駆け込もうと一人のダークエルフが走って来る。しかし発車時間が来た事で扉が閉じようとした瞬間イサムが扉を押さえようと体を出した。

 ブシュ―――ッ!

「今のうちに俺の股の下から入れ!」
「あっありがとうございます!」

 扉に挟まれたイサムの股からダーフエルフの女性が列車の中に入る。それを確認してイサムが扉から中に入ろうとした、列車に体が入ったまでは良かったが、首が扉に引っかかり頭が外に出たまま発車してしまった。

「え! えええええ! マジで――――――――!」
「何やってんのよイサム!」

 周囲のエルフの乗客達からもクスクスと笑い声が聞こえる。メルやテテル、エリュオンも恥ずかしくて顔と耳が赤くなっている、ノルは無表情でイサムに話しかける。

「イサム様、無理やり開けると列車が急停車してしまうので、このまま次の駅までお待ち下さい」
「―――――――――――」

 顔の向きが外で声が流れて行くので、タチュラがイサムの代わりに声を聞いて話す。

「彼女が無事に乗車出来て良かった……だそうですわ」
「あ…いえ…すみません…ありがとうございます…」

 申し訳なく頭を下げ話すダークエルフの女性、銀髪で軽装だが腰には細い剣を携えている。イサムは手を振り大丈夫だと答えているのだろう。ノルだけはその装備と細い剣の柄に施されている装飾を観察している。

「そこが優しい所なんだろうけど、ぜんぜん格好良くないわ…」
「同意見ですね…」
「はい…」

 エリュオンとメルとテテルが、遠い目をしてイサムが挟まれている扉の窓から外を眺めている。駅に着くまでの間、ダークエルフの女性と会話を始めたメル。

「そんなに急いでどちらに向かう所だったのです?」
「…いえ…家に帰るだけです……」
「そう? それにしては急いでいた様に見えたけど?」
「そっそんな事ないです……」

 明らかに話したがらないダークエルフの女性にメルもこれ以上話を聞くのを止めた。一つ目の駅でイサムの首が解放され、しこたま駅員に怒られた後にやっと面と向かってダークエルフの女性が頭を下げた。

「本当にご迷惑をおかけしました」
「いやいや、勝手に首を挟んだのは俺だから気にしないでくれ」
「痛かったんじゃ……」
「まぁ鍛えてるから…ははは…」
「そうなんですね…見た目にはそう見えなくて…あっごめんなさい!」
「いや…気にしないでくれ…そんなに強くないし…まぁこの中じゃ俺が一番弱いな」

 そう言われ、ダークエルフの女性はノルたちを見る。彼女達もそれを聞いて頷いている。

「仲が宜しいんですね、どの様なご関係なのですか? 何処かの国の商人にも見えますが…」
「まぁそんな所です。主は他に居りますが、代理でこの男性の従者をしております」
「私どもはこの方の従者で御座います」
「私は従者じゃないわ。こっ恋人みたいなものかしら」

 エリュオンの言葉にメルとテテルとタチュラが即座に反応する。

「それは違うわね」
「違いますね」
「みたいなですから、恋人ではないですわ」
「そこは話の流れで良いじゃない!」

 イサムも列車の中で騒ぐとうるさいと四人に注意する。それを見てダークエルフの女性もどうして良いか分からず苦笑している。

「悪いな、いつもこんな感じなんだ。俺はイサムだ、何処まで行くのか知らないが短い旅の気分転換にはなるだろ?」
「ふふふ、そうですね。私は【ルイナ】と言います」
「そうか、ルイナ宜しくな」

 イサムは気さくに手を差し出して、ダークエルフの女性ルイナと握手する。その後、他愛のない話をしながら数駅が過ぎてイサム達の目的地、ジヴァ山脈の麓の町に到着する。

「じゃぁ俺らはここで降りる。短い間だったが楽しかった」
「私もです。皆さんの旅の無事を願っております」
「じゃぁまたねルイナ!」
「またお会い出来る事を楽しみにしています」
「ルイナさんもお気を付けて!」
「では失礼します」

 列車からイサム達が降りると、扉が閉まる。笑顔だが悲しそうな顔をしているルイナを見て、ノルがポツリと呟く。

「もしかしたら、エルフとダークエルフの争いが始まる前かもしれませんね」
「ん? なんでそう思うんだ?」
「彼女のあの笑顔は、次に会えないと言う顔です。それにあの剣の装飾はどこかで見た事があります」
「私も気付きました。ですが、今はミケット達が優先です」
「そうか…でもこれが解決しても、エルフの国で争いが起こるなら行く事は出来ないよな…」
「そうですね…こればかりは国の争いなので…」

 ノルの言葉にイサムとメルが話をしながら、駅を抜けて装備品と購入する為に防具屋へ向かう。

「流石に雪山の麓の町だな、アウトドアな装備が目白押しだ」
「アウトドア?」
「山を登ったりする装備の事だな。とにかく山を舐めると命を落とすと言うのは常識だ、装備はしっかり整えよう」
「わかったわ! これなんか可愛くない?」
「いや可愛いとかは置いといてだな…そう言えばタチュラの防寒装備ってどれなんだ?」
「妾は、そうですね…シム族用は売ってないので、基本はイサム様の懐におりますわ」
「イサム! もう保管していいわよ。雪山じゃ糸も出せないでしょ」

 エリュオンの言葉にカチンときたタチュラは、片足をエリュオンに向けながら反論する。

「そんな事はありませんわ! 私の糸は、炎には弱いですが氷には強いのです!」
「へー! それなら今回はタチュラの出番も多いかもね!」
「むきー! イフリ山で活躍した貴方には負けません! ご主人様! 保管などしないで下さいませ!」
「分かったから喧嘩するなよ。今回はミケットとマコチーを助ける事が一番なんだ、喧嘩して助けられなかったら、二人とも保管して絶対出さないぞ!」
「それは困るわ! た…タチュラ今回は連携して戦うわよ!」
「もっ勿論ですわ! エリュオンと力を合わせてミケットを救いますわよ!」

 はぁとため息とつきながら、各自装備を整える。時間的には既に夕方を過ぎており、今から山に登れば灯り等で察知され危険だとノルが判断する。マク族だけではなく、獣なども徘徊しており臭いで襲われる危険が増えるのと吹雪けば位置が分からなくなり遭難の可能性もあると言う理由だ。

「なら早朝直ぐに出よう」
「ええ、急ぎたいのは分かりますがここは全員の安全も大事です」
「イサム様のマップが役に立つと思います、明日は最速で向かいましょう」
「そうだな! 獣をよけながら行けば無駄な戦闘は避けられるな」

 イサム一行は取り合えずの宿を取り、マク族と戦闘になった場合の打ち合わせを始める。

「そのマク族ってのは、どれ位強いんだ?」
「強さは個体差があるでしょう、素早く知能のあるトロールと思ってくれれば良いと思います」
「トロールサイズでトロくない獣人か…厄介だな…」
「イサムつまらないわ…大丈夫よ。闇に比べたら雑魚よ雑魚」
「そうですね、問題はそのネルタクでしたっけ? その闇の子が居た場合ですね」
「もしネルタクが居たら、私が相手をするわ。誰も手を出さないで」

 エリュオンの目に力が入る。

「分かったわ、もし居たらエリュオンに引き付けてもらって私達はミケット達を救いましょう」
「それで、マク族は居たら瞬殺でよろしいですか?」

 テテルがさらりと怖い事を言って来る。しかし、周りはそれに対して反論する者は居ない。

「殺して蘇生ってのは嫌だが、仲間が捕まっている以上はまず救出が先だな。ただ戦意を喪失させる戦いが出来たら頼む」
「分かりました。状況を見て判断します」
「よし、じゃぁみんな一先ず休んでくれ。必ずミケット達を救おう」

 全員が頷いた後、部屋に戻り英気を養う。一人部屋にしてもらったイサムは、夜遅くなるまで剣の素振りを永遠と続けていた。
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