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雪の大地と氷の剣士
第55話
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翌朝早くのイサム達はジヴァ山脈の麓の町から出発する。天候は穏やかだったが、遠くに見え山々にかかる雲が先行きを不安にさせた。
「行こう、あいつらが心配だ」
仲間達は頷き、歩を進め始める。先頭にノルとメル、そしてイサムとエリュオンが続き後方にテテルがいる。タチュラはイサムが念のためと羽織った防寒具のフードの中にいる。
小雪が降る中を進み始めて、一時間程歩き小上がりの丘に迫った時にイサムが全員を止める。
「待ってくれ、大きな生き物がいる。この先の丘を登れば見えるはずだ」
イサムが指さした丘を警戒しながらノルが登り様子を確認すると、小声ででイサムを呼ぶ。
「イサム様ちょっと来て下さい。他の者は待機です」
「分かった」
イサムはそれだけ答え丘を登る。ノルの話し方から見て騒ぐと何やら問題があるのだろうと感じた他の仲間達も頷く。
「見て下さい」
ノルが指さした場所の丘を登り見下ろすと、大きな茶色の体毛に覆われた象に似た生き物が血だらけで倒れていた。格好を見ると戦士風の鎧を着ているが、鞘から剣が抜かれていない。
「誰かにやられたのか? 虫の息だな…」
「ええ…あれはこの山に住むウゾ族の亜種です。戦った形跡がないですが、助からないでしょう。この場合無視もできますが、死体の匂いに釣られ魔物が肉を喰らいに来る可能性があります」
よく見ると腹部は大きく損傷しており、その瞳にはもう既に色が失われつつあった。イサムに無視出来ると尋ねたノルだったが、無視しないと分かっていて聞いたのだろう。
「ちょっと周りを確認する」
イサムはマップをさらに拡大し周囲に生き物がいないか確認する。
「少し離れた場所に、遠ざかる三つの反応があるな。多分こいつらが攻撃を仕掛けたので間違いないな」
「気付かれそうですか?」
「いや大丈夫だろう。ちなみにこの種族は大人しいのか? いきなり攻撃されたら困る」
「大丈夫です。ウゾ族は温厚な種族で、無闇に他者を襲うことはありません」
それを聞いたイサムはマップを確認すると、既にウゾ族は灰色マークになり事切れていた。
「亡くなったな……下に降りよう」
他の仲間達に事情を伝えて、ウゾ族の元に向かう。死体を調べたノルが疑問に思い、イサム達に説明する。
「この爪痕は、マク族に似ていますね。でも、妙です彼等が殺したなら食べるか持ち帰るかなのですが…」
「ですが食べた後は無いですね。それに部位を持ち去っても無いです」
「でも、複数回攻撃した様な感じじゃ無いわね。一撃で削がれてるみたい」
エリュオンの話にイサムも横たわった巨大な象の様な種族を見ながら手を合わせた。そして【蘇生】を始める。
ウゾ族は光に包まれて傷口がみるみる消えていく、それが塞がると同時に目を開ける。大きな体格の割にはつぶらな瞳を数回瞬き、上半身を起こす。
「俺は…やられたのか…」
「大丈夫か?」
まだぼーっとしているウゾ族にイサムは話しかけた。茶色の大きな耳と鼻を動かし、イサムを見るとようやく意識が覚醒し始めたのか目を大きく見開いて話し出した。
「…ヒューマンか…おまえ達が助けてくれたのか? 迷惑かけたな…」
如何やら死んでいたとは気付いていない様なので、周りもそれに合わせる。
「マク族にやられた様だけど、貴方に食べられた形跡は無かったです。事情を話してくれないでしょうか?」
ノルを見たウゾ族は頷き口を開く。
「俺は、この山のウゾ族の村に住む【パオ】だ。マク族が行きなり攻撃して来たんだ、いや攻撃して来たのは一人だな、新しい力を試すとか言ってた…普段なら絶対油断などしない…俺もウゾ族の戦士として、鍛錬を日々欠いた事など無いし、隙もなかったからな…だが攻撃が見えなかった…」
ウゾ族のパオは体を起こして立ち上がる、その大きさは三メートル程だろう。ブルブルと体を動かし積もった雪を落とす。
「きゃっ!」
「おっと」
積もった雪が一番小さなテテルの頭上に大きく降り注ぐ、それを近くに居たイサムが庇う様に大量の雪を浴びる。
「ああ…すまないな。フェアリー族が居るのは気が付かなかった」
「大丈夫だ、気にするな」
冷たさを感じないイサムが体に付いた雪を払い、ついでにテテルの頭の雪も落としてやる。
「あっありがとうございます」
フェアリー用の防寒着は羽根を出せる仕様になっているので、背中の羽根をパタパタと動かし照れている。
「大丈夫か? テテル?」
「はい、大丈夫です」
イサムはテテルを確認して、パオに尋ねる。
「何か他にマク族は言ってたか?」
「いや……そう言えば、自由に殺しが出来ないのは腹が立つとか、女が喰いたいと言ってたな」
それを聞いてイサム達も目的を思い出し行動を開始しようとノルが言う。
「では、先を急ぎましょうか」
「ああ、そうだな。パオ、あんたも気を付けて帰れよ」
先を急ぐイサム達が移動を開始しようした時、パオも同行すると言って来る。
「助けられて終わりなど、俺の信念に反する。お前らに協力したいが、この山に来たのは理由があるのだろう? 遊びや観光で来る場所ではないからな」
それを聞いたノルが断りを入れる。
「それはお断りします。これから向かう場所はマク族の村です、一撃でやられた貴方がまたやられる可能性が高いです」
「なんだと! 俺もウゾ族の戦士としての誇りがある! 戦って死ぬなら本望だ!」
「誇りでは敵には勝てません、私達は仲間を助けに行くのです。死なれても困ります」
「ぐぬぬぬぬ!」
パオはヒューマンのしかも小さな女性に言われて腹が立っている様だが、周りも同意見なので何も言わない。それよりも早く移動したいので立ち止まる事無く話している。
「で…では、そこまで案内しよう! お前達が強いと言うのなら、戦士としてもその戦いを見てみたいのだ!」
「案内は不要です。勝手に着いて来るなら構いませんが、私達は先を急ぎます」
「悪いなパオ、本当に仲間の命が掛かってるんだ」
冷たい言い方かもしれないが、足手まといになるとノルは判断しての言葉だと分かっているのでイサムもそれに同意して歩みを進める。
体格差があり歩幅の大きなパオが必死に着いて来るほどの移動速度でノル達は移動している。徐々に引き離されていくのが分かっているが、無視して先を急いだ。道中敵も魔物もおらず、イサム達はスムーズに進んでいるが、それが怪しいと皆気付いて警戒を怠らない。
「あとどれぐらいで着くんだ?」
「そうですね、三十分ほどでしょうか」
「そろそろだな、マップで確認はしているが敵が全く居ないのが逆に怪しすぎだな」
「恐らく向こうが気が付いているからでしょうね」
「無駄な戦いを避けて、村で勝負しようって事か」
ノルは頷き更に歩を進めると、高台から村を見下ろせる場所まで来る。
「あそこか…外からは見えないがウジャウジャ居るな」
マップで確認すると、赤丸が家の中に大勢ひしめき合っている。だが、その中にミケットを表す水色が表示されていないのが気になる。
「ミケットとマコチーが見当たらない。闇の何かで隠蔽しているのかもな」
「で、どうするの? 正面突破でも問題ないけど」
「二人の安否の確認をしたいけど、どうします? 捕まえて口を割らせても良いとは思いますが」
「いや待て! だれか村の入口に出て来た。青い髪の女だ!」
「ネルタク! やっぱり居たのね!」
高台の上から見下ろすエリュオンに紺青色の髪の女性が見上げ大剣を抜く。
『居るのは分かっているぞ! 出てこいエリュオリナ!』
「どうやら私をご指名みたいだわ、言った通り手出し無用よ!」
「分かった、気を付けろよ! 俺らはミケット達を救出する」
イサム達は隠れていた高台から駆け降りる。既にエリュオンは抜刀しており、いつでも戦える状態にしている。村の前まで来ると、灰色の体毛をした大型の獣人マク族達が家の中からワラワラと出て来る。
「ルルル、【スズラン】を送って」
『はいは―い! 待ってました―!』
「【シイラ】来なさい」
「【オオスズメバチ】来てください!」
ノルの目の前に現れる二つの魔法陣から緑色の柄が現れる、そのまま引き出すと大きく湾曲した刀身に四つの白い鈴が描かれている一メートル程の武器が二本出て来る。その隣ではメルが一つの魔法陣から銀色の柄を引き出すと、二メートル程の先端が幅広い刀身の緑と金色で二色に分かれている大剣が出て来る。
テテルの場合だけ小さな魔法陣が十現れて、その中から頭が橙色で胸が黒色の腹部は橙と黒の縞模様の空飛ぶ虫が現れる。その大きさは1匹が五十センチ程である。
「おいテテル! スズメバチじゃないか! しかもデカい!」
「大丈夫です、この子達は私の指示のみ従います」
そう話しながら、最後に長い針の様な武器と蜂の頭を模したヘルメットが出て来て躊躇なくテテルは被る。十匹の蜂たちはテテルの周りをホバリングしながら待機している。
「いや…テテルは可愛いが……蜂が怖い!」
「ミケットを捕まえた罰をあいつらに与えます!」
ピコピコとテテルが被った蜂ヘルメットの触覚が動き、テテルが針を前出すと蜂達が進軍を始めた。それを見て、ノルとメルも移動を始める。
「では行きましょうか!」
「はい!」
「いくぞ!」
イサムも剣を取り出しその後に続く、その頃エリュオンは紺青色の髪の女性と対峙していた。
「久しぶりねネルタク! 貴方が生きているとは思わなかったわ!」
『は! 裏切り者のエリュオリナ…いや今はエリュオンだったね! 僕たちを見捨てた罪を償ってもらうよ!』
「何を聞いていたか知らないけど、全てメテラスが仕組んだ事よ!」
『嘘をつけ! 兄はお前に騙されたと言っていた! お前が僕たちの家族を殺したんだ!』
「はぁ…言っても分からない様ね…仕方が無いわ! 一先ずはこれで話をつけましょう!」
『一族の恨みを今こそ晴らしてやる!』
エリュオンとネルタクが走り出し互いの剣が衝突する。その瞬間、大量の蒸気がぶつかった場所から噴き出す。火属性の剣と氷属性の剣がぶつかった為に、その温度差から空気中の水分が蒸気に変わっているのだろう。互いに打ち合う度に噴き出す蒸気に危険を感じるのか、周りは誰も近付こうとしない。
「どうしたのネルタク! 腕が落ちたんじゃない?」
『黙れ! お前に何が分かる! あの日の惨劇を見ていないお前に何が!』
「見ていないわ! メテラスに騙されて外に強制的に飛ばされたもの! でもあの日に私も死んだのよ!」
『そんな事信じる訳ないだろう! 皆死んでしまった! 僕は必死に探したんだお前を! でもどこにも居なかった!』
「教えて! あの日、中では何があったの? 何故貴方が闇として存在しているの!?」
激しくぶつかる赤と青の剣に火花と蒸気がただ飛び散り二人を包む。ネルタクは悲しげな表情のままエリュオンに語り掛ける。
『良いだろう、僕たちはあの日から少しだけ生きたんだ…死への恐怖と闘いながら、それでも確実に死ぬ数日間をお前に教えてやろう!』
互いの剣がぶつかり顔が近づく、そしてあの日をネルタクは話し始めた。
「行こう、あいつらが心配だ」
仲間達は頷き、歩を進め始める。先頭にノルとメル、そしてイサムとエリュオンが続き後方にテテルがいる。タチュラはイサムが念のためと羽織った防寒具のフードの中にいる。
小雪が降る中を進み始めて、一時間程歩き小上がりの丘に迫った時にイサムが全員を止める。
「待ってくれ、大きな生き物がいる。この先の丘を登れば見えるはずだ」
イサムが指さした丘を警戒しながらノルが登り様子を確認すると、小声ででイサムを呼ぶ。
「イサム様ちょっと来て下さい。他の者は待機です」
「分かった」
イサムはそれだけ答え丘を登る。ノルの話し方から見て騒ぐと何やら問題があるのだろうと感じた他の仲間達も頷く。
「見て下さい」
ノルが指さした場所の丘を登り見下ろすと、大きな茶色の体毛に覆われた象に似た生き物が血だらけで倒れていた。格好を見ると戦士風の鎧を着ているが、鞘から剣が抜かれていない。
「誰かにやられたのか? 虫の息だな…」
「ええ…あれはこの山に住むウゾ族の亜種です。戦った形跡がないですが、助からないでしょう。この場合無視もできますが、死体の匂いに釣られ魔物が肉を喰らいに来る可能性があります」
よく見ると腹部は大きく損傷しており、その瞳にはもう既に色が失われつつあった。イサムに無視出来ると尋ねたノルだったが、無視しないと分かっていて聞いたのだろう。
「ちょっと周りを確認する」
イサムはマップをさらに拡大し周囲に生き物がいないか確認する。
「少し離れた場所に、遠ざかる三つの反応があるな。多分こいつらが攻撃を仕掛けたので間違いないな」
「気付かれそうですか?」
「いや大丈夫だろう。ちなみにこの種族は大人しいのか? いきなり攻撃されたら困る」
「大丈夫です。ウゾ族は温厚な種族で、無闇に他者を襲うことはありません」
それを聞いたイサムはマップを確認すると、既にウゾ族は灰色マークになり事切れていた。
「亡くなったな……下に降りよう」
他の仲間達に事情を伝えて、ウゾ族の元に向かう。死体を調べたノルが疑問に思い、イサム達に説明する。
「この爪痕は、マク族に似ていますね。でも、妙です彼等が殺したなら食べるか持ち帰るかなのですが…」
「ですが食べた後は無いですね。それに部位を持ち去っても無いです」
「でも、複数回攻撃した様な感じじゃ無いわね。一撃で削がれてるみたい」
エリュオンの話にイサムも横たわった巨大な象の様な種族を見ながら手を合わせた。そして【蘇生】を始める。
ウゾ族は光に包まれて傷口がみるみる消えていく、それが塞がると同時に目を開ける。大きな体格の割にはつぶらな瞳を数回瞬き、上半身を起こす。
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「大丈夫か?」
まだぼーっとしているウゾ族にイサムは話しかけた。茶色の大きな耳と鼻を動かし、イサムを見るとようやく意識が覚醒し始めたのか目を大きく見開いて話し出した。
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「マク族にやられた様だけど、貴方に食べられた形跡は無かったです。事情を話してくれないでしょうか?」
ノルを見たウゾ族は頷き口を開く。
「俺は、この山のウゾ族の村に住む【パオ】だ。マク族が行きなり攻撃して来たんだ、いや攻撃して来たのは一人だな、新しい力を試すとか言ってた…普段なら絶対油断などしない…俺もウゾ族の戦士として、鍛錬を日々欠いた事など無いし、隙もなかったからな…だが攻撃が見えなかった…」
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「きゃっ!」
「おっと」
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「ああ…すまないな。フェアリー族が居るのは気が付かなかった」
「大丈夫だ、気にするな」
冷たさを感じないイサムが体に付いた雪を払い、ついでにテテルの頭の雪も落としてやる。
「あっありがとうございます」
フェアリー用の防寒着は羽根を出せる仕様になっているので、背中の羽根をパタパタと動かし照れている。
「大丈夫か? テテル?」
「はい、大丈夫です」
イサムはテテルを確認して、パオに尋ねる。
「何か他にマク族は言ってたか?」
「いや……そう言えば、自由に殺しが出来ないのは腹が立つとか、女が喰いたいと言ってたな」
それを聞いてイサム達も目的を思い出し行動を開始しようとノルが言う。
「では、先を急ぎましょうか」
「ああ、そうだな。パオ、あんたも気を付けて帰れよ」
先を急ぐイサム達が移動を開始しようした時、パオも同行すると言って来る。
「助けられて終わりなど、俺の信念に反する。お前らに協力したいが、この山に来たのは理由があるのだろう? 遊びや観光で来る場所ではないからな」
それを聞いたノルが断りを入れる。
「それはお断りします。これから向かう場所はマク族の村です、一撃でやられた貴方がまたやられる可能性が高いです」
「なんだと! 俺もウゾ族の戦士としての誇りがある! 戦って死ぬなら本望だ!」
「誇りでは敵には勝てません、私達は仲間を助けに行くのです。死なれても困ります」
「ぐぬぬぬぬ!」
パオはヒューマンのしかも小さな女性に言われて腹が立っている様だが、周りも同意見なので何も言わない。それよりも早く移動したいので立ち止まる事無く話している。
「で…では、そこまで案内しよう! お前達が強いと言うのなら、戦士としてもその戦いを見てみたいのだ!」
「案内は不要です。勝手に着いて来るなら構いませんが、私達は先を急ぎます」
「悪いなパオ、本当に仲間の命が掛かってるんだ」
冷たい言い方かもしれないが、足手まといになるとノルは判断しての言葉だと分かっているのでイサムもそれに同意して歩みを進める。
体格差があり歩幅の大きなパオが必死に着いて来るほどの移動速度でノル達は移動している。徐々に引き離されていくのが分かっているが、無視して先を急いだ。道中敵も魔物もおらず、イサム達はスムーズに進んでいるが、それが怪しいと皆気付いて警戒を怠らない。
「あとどれぐらいで着くんだ?」
「そうですね、三十分ほどでしょうか」
「そろそろだな、マップで確認はしているが敵が全く居ないのが逆に怪しすぎだな」
「恐らく向こうが気が付いているからでしょうね」
「無駄な戦いを避けて、村で勝負しようって事か」
ノルは頷き更に歩を進めると、高台から村を見下ろせる場所まで来る。
「あそこか…外からは見えないがウジャウジャ居るな」
マップで確認すると、赤丸が家の中に大勢ひしめき合っている。だが、その中にミケットを表す水色が表示されていないのが気になる。
「ミケットとマコチーが見当たらない。闇の何かで隠蔽しているのかもな」
「で、どうするの? 正面突破でも問題ないけど」
「二人の安否の確認をしたいけど、どうします? 捕まえて口を割らせても良いとは思いますが」
「いや待て! だれか村の入口に出て来た。青い髪の女だ!」
「ネルタク! やっぱり居たのね!」
高台の上から見下ろすエリュオンに紺青色の髪の女性が見上げ大剣を抜く。
『居るのは分かっているぞ! 出てこいエリュオリナ!』
「どうやら私をご指名みたいだわ、言った通り手出し無用よ!」
「分かった、気を付けろよ! 俺らはミケット達を救出する」
イサム達は隠れていた高台から駆け降りる。既にエリュオンは抜刀しており、いつでも戦える状態にしている。村の前まで来ると、灰色の体毛をした大型の獣人マク族達が家の中からワラワラと出て来る。
「ルルル、【スズラン】を送って」
『はいは―い! 待ってました―!』
「【シイラ】来なさい」
「【オオスズメバチ】来てください!」
ノルの目の前に現れる二つの魔法陣から緑色の柄が現れる、そのまま引き出すと大きく湾曲した刀身に四つの白い鈴が描かれている一メートル程の武器が二本出て来る。その隣ではメルが一つの魔法陣から銀色の柄を引き出すと、二メートル程の先端が幅広い刀身の緑と金色で二色に分かれている大剣が出て来る。
テテルの場合だけ小さな魔法陣が十現れて、その中から頭が橙色で胸が黒色の腹部は橙と黒の縞模様の空飛ぶ虫が現れる。その大きさは1匹が五十センチ程である。
「おいテテル! スズメバチじゃないか! しかもデカい!」
「大丈夫です、この子達は私の指示のみ従います」
そう話しながら、最後に長い針の様な武器と蜂の頭を模したヘルメットが出て来て躊躇なくテテルは被る。十匹の蜂たちはテテルの周りをホバリングしながら待機している。
「いや…テテルは可愛いが……蜂が怖い!」
「ミケットを捕まえた罰をあいつらに与えます!」
ピコピコとテテルが被った蜂ヘルメットの触覚が動き、テテルが針を前出すと蜂達が進軍を始めた。それを見て、ノルとメルも移動を始める。
「では行きましょうか!」
「はい!」
「いくぞ!」
イサムも剣を取り出しその後に続く、その頃エリュオンは紺青色の髪の女性と対峙していた。
「久しぶりねネルタク! 貴方が生きているとは思わなかったわ!」
『は! 裏切り者のエリュオリナ…いや今はエリュオンだったね! 僕たちを見捨てた罪を償ってもらうよ!』
「何を聞いていたか知らないけど、全てメテラスが仕組んだ事よ!」
『嘘をつけ! 兄はお前に騙されたと言っていた! お前が僕たちの家族を殺したんだ!』
「はぁ…言っても分からない様ね…仕方が無いわ! 一先ずはこれで話をつけましょう!」
『一族の恨みを今こそ晴らしてやる!』
エリュオンとネルタクが走り出し互いの剣が衝突する。その瞬間、大量の蒸気がぶつかった場所から噴き出す。火属性の剣と氷属性の剣がぶつかった為に、その温度差から空気中の水分が蒸気に変わっているのだろう。互いに打ち合う度に噴き出す蒸気に危険を感じるのか、周りは誰も近付こうとしない。
「どうしたのネルタク! 腕が落ちたんじゃない?」
『黙れ! お前に何が分かる! あの日の惨劇を見ていないお前に何が!』
「見ていないわ! メテラスに騙されて外に強制的に飛ばされたもの! でもあの日に私も死んだのよ!」
『そんな事信じる訳ないだろう! 皆死んでしまった! 僕は必死に探したんだお前を! でもどこにも居なかった!』
「教えて! あの日、中では何があったの? 何故貴方が闇として存在しているの!?」
激しくぶつかる赤と青の剣に火花と蒸気がただ飛び散り二人を包む。ネルタクは悲しげな表情のままエリュオンに語り掛ける。
『良いだろう、僕たちはあの日から少しだけ生きたんだ…死への恐怖と闘いながら、それでも確実に死ぬ数日間をお前に教えてやろう!』
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