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2-1 山と神隠し side A
4 共に食らう
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「気を取り直して」
しゅんと落とした肩をがばりと上げて、弘は説明を続ける。
「日本神話――まあ記紀のどちらを引くかはありますけど、今回の概要はさほど変わりませんね――には泉之竈喰という言葉が登場します。この言葉の意味としては黄泉、つまり死後の世界の竈――昔は竃とも言いましたので『へ』の部分ですね――で調理されたものを喰らった、食べたという意味になります」
「問題は、その言葉が出る箇所だね」
ロビンの言葉に弘は一つ頷いた。
「この言葉が現れるのは、日本における数多の神を生んだ夫婦神、伊邪那岐と伊邪那美の訣別……あー、別れる段の直前です」
弘が武にわかる言葉を選び直したのを、無言でロビンがうんうんと頷いている。
「この言葉が出てくる時点で、伊邪那美は亡くなっています。伊邪那岐はそれを迎えに死後の世界である黄泉の国に行くのですが、それを受けた伊邪那美は『既に泉之竈喰をしてしまったので』と、この迎えを無条件には受け入れないのです」
「……つまり、食べちゃったから?」
その前の説明と合わせれば、自然とそうなる。
弘はこくりと頷く。
「その通りです。似たような話としてはさっきロビンが言った通り、ギリシャ神話で死後の世界を管理する神ハーデースが、一目惚れした女神コレーを攫ってしまった話の中で、コレーは死後の世界の柘榴を数粒食べてしまっていたので完全に地上に戻る事はできず、コレーは一年の十二ヶ月の内、食べた柘榴の粒と同じ数だけの月を死後の世界で、ハーデースの妻、ペルセポネーとして過ごすこととなりました。このコレー自身とその母親である女神デーメーテールは共に豊穣の女神とされるので、これによって不毛なる季節――まあ一般に冬が産まれたという起源を語る神話……と言われます」
「同じようにアイルランドの妖精の伝承では、妖精の国に連れて行かれたら、そこで出されたものは戻れなくなるので、食べてはならないとされるわけだ。とはいえ、ここまで顕著に共有する世界を同じくするとされるのはこれらぐらいだね」
ロビンの言葉に、弘もそうですね、と同意を口にする。
武としては難しい。難しいがちょっとひっかかる。
「なあ、ロビンの言い分だと、はっきり言わないってのはあるの? ひろねーちゃん」
ロビンが眉間にしわを寄せた。元々の目つきも相まって、なかなかの険しい顔である。たぶん、自分だけ何故呼び捨てなのだというだけだろうけど。
一方、弘は一層顔を輝かせた。
「そうですね。新嘗祭の共食……うーん、新嘗祭って小学生の歴史に出ましたっけ? 高校の日本史で見た記憶はあるんですけど」
「ボクに訊かれても知らないんだけど」
そりゃあ、ロビンが知る由もなかろう。
弘がこちらに目を向けて来たので、武は知らないという意味で首を横に振った。
「新嘗祭は簡単に言えば、今年もこれだけの収穫がありました、と感謝を捧げる祭り、と一般的には言われます。時期的にもその年の収穫が行われた後。この祭りを実際に執り行うのは時の天皇です。特に即位後初めての新嘗祭は大嘗祭として大々的に行われますので、なんかそんな言葉聞いたかもーみたいなのありません?」
大人ならともかく、武はただの一般的小学生男子である。
やや奇特なタイプでない限り、そんなことを覚えていたりはしない。
「知らない」
「……まあ、一般的にはそうでしょう、うん。大事なのはその内容の一つ、天皇によるしんせんのきょうしょくです」
「……新鮮な給食?」
再び、弘ががっくりと肩を落とし、ロビンはやや生温い目をしながらそれを見ていた。
しゅんと落とした肩をがばりと上げて、弘は説明を続ける。
「日本神話――まあ記紀のどちらを引くかはありますけど、今回の概要はさほど変わりませんね――には泉之竈喰という言葉が登場します。この言葉の意味としては黄泉、つまり死後の世界の竈――昔は竃とも言いましたので『へ』の部分ですね――で調理されたものを喰らった、食べたという意味になります」
「問題は、その言葉が出る箇所だね」
ロビンの言葉に弘は一つ頷いた。
「この言葉が現れるのは、日本における数多の神を生んだ夫婦神、伊邪那岐と伊邪那美の訣別……あー、別れる段の直前です」
弘が武にわかる言葉を選び直したのを、無言でロビンがうんうんと頷いている。
「この言葉が出てくる時点で、伊邪那美は亡くなっています。伊邪那岐はそれを迎えに死後の世界である黄泉の国に行くのですが、それを受けた伊邪那美は『既に泉之竈喰をしてしまったので』と、この迎えを無条件には受け入れないのです」
「……つまり、食べちゃったから?」
その前の説明と合わせれば、自然とそうなる。
弘はこくりと頷く。
「その通りです。似たような話としてはさっきロビンが言った通り、ギリシャ神話で死後の世界を管理する神ハーデースが、一目惚れした女神コレーを攫ってしまった話の中で、コレーは死後の世界の柘榴を数粒食べてしまっていたので完全に地上に戻る事はできず、コレーは一年の十二ヶ月の内、食べた柘榴の粒と同じ数だけの月を死後の世界で、ハーデースの妻、ペルセポネーとして過ごすこととなりました。このコレー自身とその母親である女神デーメーテールは共に豊穣の女神とされるので、これによって不毛なる季節――まあ一般に冬が産まれたという起源を語る神話……と言われます」
「同じようにアイルランドの妖精の伝承では、妖精の国に連れて行かれたら、そこで出されたものは戻れなくなるので、食べてはならないとされるわけだ。とはいえ、ここまで顕著に共有する世界を同じくするとされるのはこれらぐらいだね」
ロビンの言葉に、弘もそうですね、と同意を口にする。
武としては難しい。難しいがちょっとひっかかる。
「なあ、ロビンの言い分だと、はっきり言わないってのはあるの? ひろねーちゃん」
ロビンが眉間にしわを寄せた。元々の目つきも相まって、なかなかの険しい顔である。たぶん、自分だけ何故呼び捨てなのだというだけだろうけど。
一方、弘は一層顔を輝かせた。
「そうですね。新嘗祭の共食……うーん、新嘗祭って小学生の歴史に出ましたっけ? 高校の日本史で見た記憶はあるんですけど」
「ボクに訊かれても知らないんだけど」
そりゃあ、ロビンが知る由もなかろう。
弘がこちらに目を向けて来たので、武は知らないという意味で首を横に振った。
「新嘗祭は簡単に言えば、今年もこれだけの収穫がありました、と感謝を捧げる祭り、と一般的には言われます。時期的にもその年の収穫が行われた後。この祭りを実際に執り行うのは時の天皇です。特に即位後初めての新嘗祭は大嘗祭として大々的に行われますので、なんかそんな言葉聞いたかもーみたいなのありません?」
大人ならともかく、武はただの一般的小学生男子である。
やや奇特なタイプでない限り、そんなことを覚えていたりはしない。
「知らない」
「……まあ、一般的にはそうでしょう、うん。大事なのはその内容の一つ、天皇によるしんせんのきょうしょくです」
「……新鮮な給食?」
再び、弘ががっくりと肩を落とし、ロビンはやや生温い目をしながらそれを見ていた。
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