怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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7-2 わたしはあなたの side B

4 退去

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「そしてそれをよりエゴイスティックに、意思を反映するための科学と言い切ったのが、稀代きたいのオカルティスト、アレイスター・クロウリー。ま、あそこまでいくとちょっと悪性が目立つけど」

ようやく、紀美きみの言葉がそこで一度途切れた。
長いし、世界史の内容がだいぶ混じっていたような気がする。
和音わとは相変わらず口を開けたままだし、珠紀たまきの眉間にはちょっとしたしわが出来ている。

「コティングリー妖精事件とかも丁度あの頃ではあるけど、まあ今回はそういった時代だった事の証左以上でもないか。とりあえず、西洋において正当をうたう哲学から分派した魔術は、魔術を使う当人においては、神の威光のもとに世界を腑分けして、任意の部分をつかさどる存在を局所的に賦活ふかつさせるものだった。これは惑星の護符も、グラシャ・ラボラスのような召喚術においても考え方は同じだ」

ここまでが前提ね、と紀美きみが言う。
流石さすがに話の配分が下手、というだけで済む長さでもない気がする。
織歌おりかがロビンとひろの様子をうかがえば、二人とも遠い目のまま、ひっそりと貝のように沈黙している。

「さて、今回のような召喚術の場合、基本となる手順は変わらない。召喚のための準備、召喚の実施、召喚対象への命令、そして召喚対象の退去、だ。これがちゃんと全て行われてるか確認するために、ロビンが退去を聞いてたんだよ」
「……まるで、コックリさんみたいですね?」

織歌おりかはさんだ言葉に、和音わとの口が閉じ、珠紀たまきの眉間のしわが消えた。どうやら理解できたらしい。
紀美きみがにっこりと笑う。

「そうだね。コックリさんを始めとしたテーブルターニング自体が西洋を介して入ってきた中国の占いって言う可能性もあるんだけど、それは置いといて、コックリさんと似てるのはそうだし、分かりやすいかな?」

紀美きみの確認に、和音わと珠紀たまきがそれぞれうなずいた。

「ただ、こうした作法は、聖書の特定の詩篇を唱えたり、必要な印章を用意したりと、似たりよったりではあるけれど、どの魔導書グリモワールを参照したかによって、細部、特に呪文が異なる。そして、『The Lesserソロモンの key of Solomon小さな鍵』における退去呪文は厄介な部類だ」
「厄介?」

織歌おりかが聞き返すと、紀美きみが少しばかり憂鬱ゆううつそうな表情を浮かべて口を開く。

なんじ、我が問い、我が要求によく答え、確かなるそなえをもって我が召喚に応じたまえり。よって、我は、なんじが人にも獣にも危害を加えずして、傷つけずにあるべき場所へと退しりぞくことをゆるたてまつらん。さらば、なんじ退しりぞけ。しかる後、我が口による聖なる魔術の儀式のはらい、および召喚による呼びかけにこたえるためにそなえよ。我はなんじすみやかなる平和的撤退てったいを命ず。そして、我となんじとの間に、神の平和の永久とこしなえに続くを望まん、かくの如くにあれかしAmen……まあ、私訳だから珠紀たまきちゃんが唱えたのと、言葉は違うだろうけれど、意味は違わないはず。厄介な点は再召喚の可能性が前提とされていることだ」
「召喚が終わったから、はい、サヨナラってワケじゃなくて、本来の意味での専用電話回線hotlineを通した上で、一度電話を切るような形ってコトだね」

そこでロビンが初めて口をはさんだので、織歌おりかは大前提の説明が終わったことを察した。
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