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2章
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その日の昼休みは彦瀬も瑞恵も委員会の緊急招集があるということで、夜叉は珍しく1人で屋上へ向かった。
阿修羅は昼休みにはいつも消える。学校の外に出て鍛錬しているらしい。
「桜木さん!」
日数が経って聞きなれた声に振り向くと、学食が入っているらしい紙袋を持っている人物が走ってきた。学校でのロケを見に行ったという強者。
「翠河さん?」
「一緒にお昼食べよう? 気になって追いかけてきちゃった」
「いいよ」
そして2人で屋上に上がり、それぞれ食事を広げた。夜叉は今日も和馬の手作り弁当だ。
「和馬って料理うまいよね。1年生の時もよく皆で弁当を見せてもらっていたんだ」
「あ。和馬と同じクラスだったんだ」
「そうそう」
やはりと言うべきか和馬は誰からも苗字ではなく名前で呼び捨てされているらしい。
そのことで話題が広がることはなく、夜叉はひそかに気になっていたロケ当日のことを詳しく聞こうとした。
「本当にあの日は芸能人ぽい人はいなかったの?」
「うん。皆地味ーな格好してたし特別スタイルがいい人はいなかったよ」
「ふ~ん。もしかしたら翠河さんみたいな人対策で変装していたのかもよ」
「やりすぎじゃない? でもそれもありえるかな…」
翠河には始終弁当の中身をうらやましそうにのぞかれたので、ほしいものがあればどうぞと彼女のものと交換した。
彼女の学食は味噌カツサンドとおかずの入ったパック。夜叉はそこからきんぴらごぼうをつまんだ。学食もやっぱりおいしいなと、2年生になってからは初めての学食の味をしみじみと味わう。
「あー! みゆりんのコンサート決まった!」
「みゆりん?」
スマホを眺めている翠河が嬉しそうにはねた。
「みゆりんは年齢非公開の歌手だよ。もしかしたら私たちと同じくらいかもしんない。すっごく歌がうまいんだよ」
「歌手だから普通じゃない?」
「ま、そうだけどさ…みゆりんは群を抜いてる感あるもん」
「美百合、ねぇ…」
翠河が見せる画面には、純白の髪に紫の薔薇を一輪差した白いドレスの少女が1人。琥珀のような色をした切れ長の目は彼女をキリッとした印象に見せている。一瞬ホワイトタイガーみたいだなと思ってしまったがそれは黙った。
「今1番注目されている歌手だよ。相田光守も絶賛してるって」
「みっつんも? すごいね」
好きな歌手が出てきてやっと会話に身が入った。翠河は特に気づいていないようで「苗字じゃなくて名前でいいよ」と話した。その代わり自分も皆みたいに「やーちゃん」と呼びたいと。
「いいよ。ところでやまめちゃんは小説書くのが好きなの? さっき先生にアイアンクローされてたよね」
「ぐっ…」
「…おい」
突然頭上から声が降ってきて見上げると、神崎が教科書を持って目を細めていた。
翠河────やまめの手元には教科書の上に広げられた、授業に関係なさそうなリングノート。事実、関係ない。
彼女は凍り付いて手元を隠すことを忘れた。
「げっ。先生…」
「お前は何しとんじゃ」
「ネット小説書いてます!」
やまめの夢、それは小説家になってネットで食べて行けるようになること。
おもしろいクラスメイトに囲まれて日々ネタを拾いながら執筆活動をしている。基本的に恋愛成分多め。
国語の授業は頭半分で受けても赤点を取ることは無い。おそらく普段から文字を書いているからだろう。だから国語の授業や自習ではネット小説を書くために費やしている。
今日も国語の授業ではペンを走らせていたわけなのだが。
「何バカ正直に答えてんだ。怒られたいのかよ。っつーか授業ちゃんと聞けや」
「文系だからいいんでs…ぎゃあー!」
神崎の手がやまめの後頭部を掴んでめりこませる。国語教師にしては握力が強いように思えた。
脳みその中身が引きずり出されそう、と思った時には開放されたがデコピンをくらわされた。
「余裕ぶっこいてんなら今度のテスト、翠河だけ激ムズにするかんな」
「いったー…やれるもんならやってみろ! この暴力教師~PTAに訴えてやろーか!」
「お前こそやれるもんならやってみやがれ」
涙目のやまめを背に神崎は教卓に戻り、帳簿にさらさらとメモした。
「さってと。翠河の成績は今学期は1にしておくか」
「えぇっ!?」
「当たり前だ。授業中にしていいことと悪いことぐらいあるわ」
「ネット小説か~。スマホでは書かないの? アナログ派?」
「授業中のスマホは危険すぎて使えない」
「没収されるもんね…ところで2人って仲良さそうね」
天気がいいね、くらいの軽いノリで声をかけたらやまめは跳ね上がって目を丸くさせた。
「え!? どこが?」
「なんか打ち解けた感があって。去年も担任だったの?」
「うん。去年からずっとあんな感じ」
「ふ~ん」
阿修羅は昼休みにはいつも消える。学校の外に出て鍛錬しているらしい。
「桜木さん!」
日数が経って聞きなれた声に振り向くと、学食が入っているらしい紙袋を持っている人物が走ってきた。学校でのロケを見に行ったという強者。
「翠河さん?」
「一緒にお昼食べよう? 気になって追いかけてきちゃった」
「いいよ」
そして2人で屋上に上がり、それぞれ食事を広げた。夜叉は今日も和馬の手作り弁当だ。
「和馬って料理うまいよね。1年生の時もよく皆で弁当を見せてもらっていたんだ」
「あ。和馬と同じクラスだったんだ」
「そうそう」
やはりと言うべきか和馬は誰からも苗字ではなく名前で呼び捨てされているらしい。
そのことで話題が広がることはなく、夜叉はひそかに気になっていたロケ当日のことを詳しく聞こうとした。
「本当にあの日は芸能人ぽい人はいなかったの?」
「うん。皆地味ーな格好してたし特別スタイルがいい人はいなかったよ」
「ふ~ん。もしかしたら翠河さんみたいな人対策で変装していたのかもよ」
「やりすぎじゃない? でもそれもありえるかな…」
翠河には始終弁当の中身をうらやましそうにのぞかれたので、ほしいものがあればどうぞと彼女のものと交換した。
彼女の学食は味噌カツサンドとおかずの入ったパック。夜叉はそこからきんぴらごぼうをつまんだ。学食もやっぱりおいしいなと、2年生になってからは初めての学食の味をしみじみと味わう。
「あー! みゆりんのコンサート決まった!」
「みゆりん?」
スマホを眺めている翠河が嬉しそうにはねた。
「みゆりんは年齢非公開の歌手だよ。もしかしたら私たちと同じくらいかもしんない。すっごく歌がうまいんだよ」
「歌手だから普通じゃない?」
「ま、そうだけどさ…みゆりんは群を抜いてる感あるもん」
「美百合、ねぇ…」
翠河が見せる画面には、純白の髪に紫の薔薇を一輪差した白いドレスの少女が1人。琥珀のような色をした切れ長の目は彼女をキリッとした印象に見せている。一瞬ホワイトタイガーみたいだなと思ってしまったがそれは黙った。
「今1番注目されている歌手だよ。相田光守も絶賛してるって」
「みっつんも? すごいね」
好きな歌手が出てきてやっと会話に身が入った。翠河は特に気づいていないようで「苗字じゃなくて名前でいいよ」と話した。その代わり自分も皆みたいに「やーちゃん」と呼びたいと。
「いいよ。ところでやまめちゃんは小説書くのが好きなの? さっき先生にアイアンクローされてたよね」
「ぐっ…」
「…おい」
突然頭上から声が降ってきて見上げると、神崎が教科書を持って目を細めていた。
翠河────やまめの手元には教科書の上に広げられた、授業に関係なさそうなリングノート。事実、関係ない。
彼女は凍り付いて手元を隠すことを忘れた。
「げっ。先生…」
「お前は何しとんじゃ」
「ネット小説書いてます!」
やまめの夢、それは小説家になってネットで食べて行けるようになること。
おもしろいクラスメイトに囲まれて日々ネタを拾いながら執筆活動をしている。基本的に恋愛成分多め。
国語の授業は頭半分で受けても赤点を取ることは無い。おそらく普段から文字を書いているからだろう。だから国語の授業や自習ではネット小説を書くために費やしている。
今日も国語の授業ではペンを走らせていたわけなのだが。
「何バカ正直に答えてんだ。怒られたいのかよ。っつーか授業ちゃんと聞けや」
「文系だからいいんでs…ぎゃあー!」
神崎の手がやまめの後頭部を掴んでめりこませる。国語教師にしては握力が強いように思えた。
脳みその中身が引きずり出されそう、と思った時には開放されたがデコピンをくらわされた。
「余裕ぶっこいてんなら今度のテスト、翠河だけ激ムズにするかんな」
「いったー…やれるもんならやってみろ! この暴力教師~PTAに訴えてやろーか!」
「お前こそやれるもんならやってみやがれ」
涙目のやまめを背に神崎は教卓に戻り、帳簿にさらさらとメモした。
「さってと。翠河の成績は今学期は1にしておくか」
「えぇっ!?」
「当たり前だ。授業中にしていいことと悪いことぐらいあるわ」
「ネット小説か~。スマホでは書かないの? アナログ派?」
「授業中のスマホは危険すぎて使えない」
「没収されるもんね…ところで2人って仲良さそうね」
天気がいいね、くらいの軽いノリで声をかけたらやまめは跳ね上がって目を丸くさせた。
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