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2章
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戯人族の間、青龍の自室。
藤色の着流しを着た阿修羅が彼に謁見していた。
新年度が始まって数週間。阿修羅は人間界での報告をした。
「例のヤツが留年していました」
「例の…」
「影内朝来です」
「留年って、また響高の3年生ってことか」
「彼の希望でそうなったらしいです。ケンカグループを統率していただけあって新3年生に恐れられているとか」
「そのグループって今は解散してるんだっけ」
2人して黙りこんだ。留年するとは思いつかなかった。
「それでも日中は学校にいるのなら夜叉に接触する機会はこれまで通りってことだね? 卒業するよりかはマシか…」
「それは…まぁ」
「なんだか気に食わなさそうだね」
「えぇ…」
朝来の話を夜叉にも報告した時、彼女は恐れるどころか「そうなんだ」と興味深そうに身を乗り出した。その表情はむしろ嬉しそうにも見えた。頭上で舞花は苦い顔をしていた。
なぜ彼女があんな態度を。仮にも彼女は朝来に自分の父親が殺されているというのに。会ったことがないから自覚がないだけだろうか。
父親の朱雀は考えていることはなんでも話す男で隠し事がないように見えたが、娘の夜叉は多くを語りたがらない。
「ヤツは悪魔と考えられているしね。夜叉が誘惑されていないとは言い切れないだろう」
「次期頭領になられる方だというのに…」
「それはお前もだろう、阿修羅。候補は1人じゃないさ」
阿修羅は顔を背けて押し黙った。彼には夜叉を差し置いて次期頭領になろうとは思っていない。亡くなった朱雀に顔向けできなくなる。最も彼が、自分の娘が頭領を継いでほしいと思っているかは分からないし聞いたこともない。
「そんなに遠慮するならどうだい、この際夜叉と夫婦となって2人で頭領になるというのは」
「青龍様!?」
「私たち頭領につがいはいないが、ここで新しい形態を誕生させるのもありじゃないかな。朱雀は特にお前に夜叉のことを頼んでいたからね。あながち本望かもしれない」
夜叉と自分が夫婦に。そうしたら鬼子母神と毘沙門天のように夜叉と共にいられる。
頭領ともなればあの2人のように人間界を飛び回ることはしょっちゅうではない。なんなら人間のように子どもをもうけて2人で育てることだって。
「…悪くありませんね」
「かなりいい、の間違いだろう」
青龍は阿修羅の頭のお団子から伸びる髪が、ピョコピョコと跳ねているのを見逃さなかった。
阿修羅が夜叉を守っているのは朱雀との約束だけではないのだ。
「とりあえず、人間界でのことをこれからも頼むよ。何かあれば連絡しなさい」
「かしこまりました」
阿修羅は一礼して部屋を出た。
和馬はキッチンで夕飯の準備をしていた。今日は鶏肉の塩麴漬けらしい。
夜叉はダイニングテーブルで肘をついてスマホをさわっていた。
「札幌、函館、小樽、美瑛、富良野…北海道は観光地がいっぱいだねぇ」
「北海道は広いもん。自然豊かだしなー」
「蝦夷にありんすか…わっちは知らぬ土地。楽しみでございんす」
鶏肉と一緒に炒めるらしい長ネギを切る音に紛れて、夜叉は小さく答えた。
「ねー。飛行機にも乗るんだよ。自由散策もあるから行きたい所にふら~と行けるかも」
舞花が花魁だった頃には叶わなかった、籠の外の世界を飛び回ること。霊体なら夜叉たちから離れてもっと自由にいろんな所へ行き来できるかもしれない。
「さくら? なんか言った?」
「ううん」
フライパンに油を敷いた和馬が振り向いたが、夜叉は首を振った。
「ま、修学旅行の細かい行程が早く出るといいな~って。その内下調べが始まるかな」
「班決めとか部屋割りとか…さくらはやっぱり彦ちゃんとか瑞恵ちゃんと?」
「そうね。後は阿修羅かな…阿修羅…」
(そういえば阿修羅って…)
2つにまとめた髪を白いリボンで結び、制服をきっちりと着てスカートは短すぎず長くなく。お上品に体の前でバグを両手で持つ。彼は他の女子と比べても女子らしく私服も可愛らしい物が多い。しかしれっきとした男だ。
修学旅行はホテルでの宿泊出ない限り大浴場でまとめて入浴する。ということはつまり。
(…性別バレるやん)
自分のことではないのに冷や汗が吹き出した。旅先で発覚する真実────内容が内容なだけあって大ごとになりかねない。
藤色の着流しを着た阿修羅が彼に謁見していた。
新年度が始まって数週間。阿修羅は人間界での報告をした。
「例のヤツが留年していました」
「例の…」
「影内朝来です」
「留年って、また響高の3年生ってことか」
「彼の希望でそうなったらしいです。ケンカグループを統率していただけあって新3年生に恐れられているとか」
「そのグループって今は解散してるんだっけ」
2人して黙りこんだ。留年するとは思いつかなかった。
「それでも日中は学校にいるのなら夜叉に接触する機会はこれまで通りってことだね? 卒業するよりかはマシか…」
「それは…まぁ」
「なんだか気に食わなさそうだね」
「えぇ…」
朝来の話を夜叉にも報告した時、彼女は恐れるどころか「そうなんだ」と興味深そうに身を乗り出した。その表情はむしろ嬉しそうにも見えた。頭上で舞花は苦い顔をしていた。
なぜ彼女があんな態度を。仮にも彼女は朝来に自分の父親が殺されているというのに。会ったことがないから自覚がないだけだろうか。
父親の朱雀は考えていることはなんでも話す男で隠し事がないように見えたが、娘の夜叉は多くを語りたがらない。
「ヤツは悪魔と考えられているしね。夜叉が誘惑されていないとは言い切れないだろう」
「次期頭領になられる方だというのに…」
「それはお前もだろう、阿修羅。候補は1人じゃないさ」
阿修羅は顔を背けて押し黙った。彼には夜叉を差し置いて次期頭領になろうとは思っていない。亡くなった朱雀に顔向けできなくなる。最も彼が、自分の娘が頭領を継いでほしいと思っているかは分からないし聞いたこともない。
「そんなに遠慮するならどうだい、この際夜叉と夫婦となって2人で頭領になるというのは」
「青龍様!?」
「私たち頭領につがいはいないが、ここで新しい形態を誕生させるのもありじゃないかな。朱雀は特にお前に夜叉のことを頼んでいたからね。あながち本望かもしれない」
夜叉と自分が夫婦に。そうしたら鬼子母神と毘沙門天のように夜叉と共にいられる。
頭領ともなればあの2人のように人間界を飛び回ることはしょっちゅうではない。なんなら人間のように子どもをもうけて2人で育てることだって。
「…悪くありませんね」
「かなりいい、の間違いだろう」
青龍は阿修羅の頭のお団子から伸びる髪が、ピョコピョコと跳ねているのを見逃さなかった。
阿修羅が夜叉を守っているのは朱雀との約束だけではないのだ。
「とりあえず、人間界でのことをこれからも頼むよ。何かあれば連絡しなさい」
「かしこまりました」
阿修羅は一礼して部屋を出た。
和馬はキッチンで夕飯の準備をしていた。今日は鶏肉の塩麴漬けらしい。
夜叉はダイニングテーブルで肘をついてスマホをさわっていた。
「札幌、函館、小樽、美瑛、富良野…北海道は観光地がいっぱいだねぇ」
「北海道は広いもん。自然豊かだしなー」
「蝦夷にありんすか…わっちは知らぬ土地。楽しみでございんす」
鶏肉と一緒に炒めるらしい長ネギを切る音に紛れて、夜叉は小さく答えた。
「ねー。飛行機にも乗るんだよ。自由散策もあるから行きたい所にふら~と行けるかも」
舞花が花魁だった頃には叶わなかった、籠の外の世界を飛び回ること。霊体なら夜叉たちから離れてもっと自由にいろんな所へ行き来できるかもしれない。
「さくら? なんか言った?」
「ううん」
フライパンに油を敷いた和馬が振り向いたが、夜叉は首を振った。
「ま、修学旅行の細かい行程が早く出るといいな~って。その内下調べが始まるかな」
「班決めとか部屋割りとか…さくらはやっぱり彦ちゃんとか瑞恵ちゃんと?」
「そうね。後は阿修羅かな…阿修羅…」
(そういえば阿修羅って…)
2つにまとめた髪を白いリボンで結び、制服をきっちりと着てスカートは短すぎず長くなく。お上品に体の前でバグを両手で持つ。彼は他の女子と比べても女子らしく私服も可愛らしい物が多い。しかしれっきとした男だ。
修学旅行はホテルでの宿泊出ない限り大浴場でまとめて入浴する。ということはつまり。
(…性別バレるやん)
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