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4章
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「今は昔。竹取の翁と言う者ありけり…」
その日の授業に神崎の国語の授業があり、最近は古典がメインだ。竹取物語は昔話の1つであるかぐや姫のモデルで幼い頃から親しんでいたので、あまり肩肘を張らずに取り組めた。
神崎はホームルームや授業以外で話しているとけだるげな声と表情なのだが、授業になると教室全体に低く響くいい声で朗読したり説明したり指名する。
夜叉はノートに板書したり教科書にカラーペンで線を引いたり書き込んだり、神崎の話すことを全て記録しているんじゃないかという速さで手を動かしている。
正直、竹取物語は中学生の時にも授業でやっているので内容はほとんど頭に残っている。しかし何もせずにボーッとしているわけにもいかないので暇つぶしのようにシャーペンを握っていた。
「んじゃーここを誰かに和訳してもらうかな…うし、やまめ」
「私ー!?」
「今不審な動きをしていたからな…大方また執筆していたんだろ。手元が騒がしくなっとるぞ」
「むぅ…」
クラスメイトの笑い声の中やまめはシャーペンを置いて立ち上がり、しぶしぶ黒板の前に立ってチョークを持ち上げた。
夜叉も一緒になって笑っていた1人だが途中で”ん?”と気づいた。
(やまめちゃんって先生からやまめって呼ばれていたっけ?)
担任になって時間が経つにつれて生徒の呼び方が苗字から名前へ変わることはよくある。彼女もまたその1人なんだろう。特別気に留めることではない、夜叉はやまめが黒板にカツカツとチョークを走らせるのを見ていたが…。
「…先生ギブ。はは…」
「おめーはよぉ…」
やまめはチョークを持つ手を止めて青ざめた顔で半笑いした。神崎は片手で拳を作ってうつむき、先ほどとは違うドスの聴いた低い声を放った。やまめは”ヒィッ”と小さく声を上げて黒板に張り付いた。
「だから授業聞いとけって言ってんだろうが!」
「きゃーごめんなせぇー!」
またクラス内で笑いが起き、やまめは慌てて自分の席に戻って自分の机の上に覆いかぶさった。きっと今日も書いていた小説ノートを取り上げられないように守りに入ったんだろう。
神崎はため息をついて手帳を開き、さらさらと書き込み始めた。
「お前はやっぱり成績1だ。登校禁止日に双眼鏡持参で来やがるし授業聞かねぇし…」
「ごめんて! 古典は苦手なだけだから! 他は授業聞かなくてもいけるから!」
「だったら真面目にやれ」
神崎は非情に手帳を閉じ、何事も無かったように授業を再開した。次に指名された阿修羅は難なく問題を解いて整った文字を黒板に記入し、才色兼備な女子生徒だとクラスメイトは改めて認識した。男の娘とは言え校内で知っているのは夜叉だけなので美少女としてもてはやされている。もっとも、本人には届いていない模様。
結局その日の授業内容はやまめと神崎の漫才が大半を占めた。
帰りのホームルーム後。
和馬のクラスでは早瀬昴がよく目立つ。その彼によく絡まれる和馬もまた、”昴とは一体…?”とクラスメイトに関係を怪しまれている。
そんな昴は今日も今日とて白いギターケースを持って来ており、クラスの女子に囲まれていた。
「ねー次はいつライブするのー?」
「それは教えられないなー」
スマホ片手に目を輝かせるツインテ女子に、昴は曖昧な笑顔で返事をはぐらかせた。
ここで言うライブとは路上ライブのこと。彼は高城駅前や富橋駅で突発的に自身のバンドで路上ライブを行う。バンドメンバーは皆それぞれ他の高校に通っている。全員中学からの同級生だ。
「あたし昴担だから! 次も楽しみにしてる」
「ありがと。がんばるよ」
「もちろんだよ。あと、たまにはリプにいいねとかしてほしいな~…?」
「それはできないね~。それやっちゃったらキリないからね…」
昴はまたしても曖昧な笑みで手を振り、ギターケースを背負ってその場を離れた。
バンドとしても個人としてもSNSのアカウントを何種類か持っており、そんじゃそこらの高校生よりはフォロワーが多い。もちろん1つ投稿する度に反応が多くくるわけだが、その反応に返すことはメンバー内でご法度とした。ファンと個人的な繋がりを持つことも。「冷たいんじゃないか」と言われることもあるがその分、ライブでは最大限の感謝を伝えられるように歌う。投稿内容にも感謝の言葉を添えるようにしたり。
バンドをやっている人間に限った話ではないがファンと繋がってそのことをファンに暴露され、他のファンに幻滅されたり活動生命を実質断たれた者がいる。
自分たちは一時の楽しみのために夢を危険にさらしたくはなかった。その2つは天秤にかけるまでもない。
「俺は皆とは平等に付き合いたいんだ~。バンドメンバーもファンも、皆同じくらい大事」
「「「あたし達がバンドメンバーと同じくらい大事…」」」
昴のファンである女子たちはその響に酔いしれ頬を染めた。
その日の授業に神崎の国語の授業があり、最近は古典がメインだ。竹取物語は昔話の1つであるかぐや姫のモデルで幼い頃から親しんでいたので、あまり肩肘を張らずに取り組めた。
神崎はホームルームや授業以外で話しているとけだるげな声と表情なのだが、授業になると教室全体に低く響くいい声で朗読したり説明したり指名する。
夜叉はノートに板書したり教科書にカラーペンで線を引いたり書き込んだり、神崎の話すことを全て記録しているんじゃないかという速さで手を動かしている。
正直、竹取物語は中学生の時にも授業でやっているので内容はほとんど頭に残っている。しかし何もせずにボーッとしているわけにもいかないので暇つぶしのようにシャーペンを握っていた。
「んじゃーここを誰かに和訳してもらうかな…うし、やまめ」
「私ー!?」
「今不審な動きをしていたからな…大方また執筆していたんだろ。手元が騒がしくなっとるぞ」
「むぅ…」
クラスメイトの笑い声の中やまめはシャーペンを置いて立ち上がり、しぶしぶ黒板の前に立ってチョークを持ち上げた。
夜叉も一緒になって笑っていた1人だが途中で”ん?”と気づいた。
(やまめちゃんって先生からやまめって呼ばれていたっけ?)
担任になって時間が経つにつれて生徒の呼び方が苗字から名前へ変わることはよくある。彼女もまたその1人なんだろう。特別気に留めることではない、夜叉はやまめが黒板にカツカツとチョークを走らせるのを見ていたが…。
「…先生ギブ。はは…」
「おめーはよぉ…」
やまめはチョークを持つ手を止めて青ざめた顔で半笑いした。神崎は片手で拳を作ってうつむき、先ほどとは違うドスの聴いた低い声を放った。やまめは”ヒィッ”と小さく声を上げて黒板に張り付いた。
「だから授業聞いとけって言ってんだろうが!」
「きゃーごめんなせぇー!」
またクラス内で笑いが起き、やまめは慌てて自分の席に戻って自分の机の上に覆いかぶさった。きっと今日も書いていた小説ノートを取り上げられないように守りに入ったんだろう。
神崎はため息をついて手帳を開き、さらさらと書き込み始めた。
「お前はやっぱり成績1だ。登校禁止日に双眼鏡持参で来やがるし授業聞かねぇし…」
「ごめんて! 古典は苦手なだけだから! 他は授業聞かなくてもいけるから!」
「だったら真面目にやれ」
神崎は非情に手帳を閉じ、何事も無かったように授業を再開した。次に指名された阿修羅は難なく問題を解いて整った文字を黒板に記入し、才色兼備な女子生徒だとクラスメイトは改めて認識した。男の娘とは言え校内で知っているのは夜叉だけなので美少女としてもてはやされている。もっとも、本人には届いていない模様。
結局その日の授業内容はやまめと神崎の漫才が大半を占めた。
帰りのホームルーム後。
和馬のクラスでは早瀬昴がよく目立つ。その彼によく絡まれる和馬もまた、”昴とは一体…?”とクラスメイトに関係を怪しまれている。
そんな昴は今日も今日とて白いギターケースを持って来ており、クラスの女子に囲まれていた。
「ねー次はいつライブするのー?」
「それは教えられないなー」
スマホ片手に目を輝かせるツインテ女子に、昴は曖昧な笑顔で返事をはぐらかせた。
ここで言うライブとは路上ライブのこと。彼は高城駅前や富橋駅で突発的に自身のバンドで路上ライブを行う。バンドメンバーは皆それぞれ他の高校に通っている。全員中学からの同級生だ。
「あたし昴担だから! 次も楽しみにしてる」
「ありがと。がんばるよ」
「もちろんだよ。あと、たまにはリプにいいねとかしてほしいな~…?」
「それはできないね~。それやっちゃったらキリないからね…」
昴はまたしても曖昧な笑みで手を振り、ギターケースを背負ってその場を離れた。
バンドとしても個人としてもSNSのアカウントを何種類か持っており、そんじゃそこらの高校生よりはフォロワーが多い。もちろん1つ投稿する度に反応が多くくるわけだが、その反応に返すことはメンバー内でご法度とした。ファンと個人的な繋がりを持つことも。「冷たいんじゃないか」と言われることもあるがその分、ライブでは最大限の感謝を伝えられるように歌う。投稿内容にも感謝の言葉を添えるようにしたり。
バンドをやっている人間に限った話ではないがファンと繋がってそのことをファンに暴露され、他のファンに幻滅されたり活動生命を実質断たれた者がいる。
自分たちは一時の楽しみのために夢を危険にさらしたくはなかった。その2つは天秤にかけるまでもない。
「俺は皆とは平等に付き合いたいんだ~。バンドメンバーもファンも、皆同じくらい大事」
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昴のファンである女子たちはその響に酔いしれ頬を染めた。
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